1917年 37
本日はクリスマス。
いつもは自作のストリーテラのキャラとクリスマスをぼやいたりしていたのに…
今年は…全く違っていた。
ポップなクリスマスソングの代わりに流れるのは、映画のテーマソングにもなった…悪魔を称える歌。
そして、私の前には7つの大罪の怠惰を司る悪魔、ベルフェゴールが、ロココ調のピンクのドレスの美少女として座っていた。
「なに、浮かない顔をしてるのよ?」
私と目があったベルフェゴールが不満そうに聞いてきた。
「クリスマスに悪魔と話してるんだもん…テンション下がるわよ。」
私は不気味な黒ミサの合唱をバックに叫ぶ。
ベルフェゴールは、そんな私を楽しそうに観察してる。
「素敵じゃない!歴代の法王の悪しき秘め事を神の御もとに明らかにするのよ?」
ベルフェゴールは、そう言って悪役令嬢の高笑いをあげた。
メフィストは、一瞬の間をつき、プチケーキを入れた皿をテーブルに無言で並べる。
コイツ…何をたくらんでるんだろう?
あまりに静かなメフィストも気にかかる。
もとより、コイツはイタズラ好きなのだ。
7大魔王を前にしたからからって恐縮するような奴ではない。
オールバックの黒髪に20世紀モデルの少し思い感じの燕尾服。
ベルフェゴールの趣味なのか、美しく手入れをされた真珠のような肌にサファイアのような青い瞳。
まさに…悪魔の貴重品って感じだわ。
私は冴え冴えとしたメフィストの瞳に一瞬、悪魔の貴重品の異名を持つサファイアの伝説を思い出していた。
パチン!
扇を激しく閉める音に、ベルフェゴールをみる。
ベルフェゴールは、可愛らしくほほを膨らませ、拗ねた顔を私に向ける。
「酷いわ!使用人に魅とれて私を忘れるなんて!」
はぁ?と、私は驚く。
「見とれてなんてないわよ。それより、話を進めましょう。」
私は終わらない話を思ってため息をつく。
「どうしたの?ワタクシといるのは…つまらないのかしら?」
心配そうに私を見つめるベルフェゴールの可愛らしい顔に、不覚にも癒されてしまう。
「違うわよ…ここから、バチカンも色々闇に包まれてきていて、モヤモヤするのよ。ついでに、ファティマの予言の解説も怪しくなってくるわ。」
私はため息をつく。
思えば…天皇陛下の歴史だってあやふやなのに、カトリックでも無いのにローマ法王の話なんて知るわけもなかったし、調べる気力もなかった。
だから、ピオ12世と書いてあったら、すんなり、そうだと思い込み、そして、受け入れた。
1980年代に流行った話を、しかし、世紀を跨いでも、それで問題はなかった。
が、マラキの予言を調べるうちに、ふと、気になったのだ。
ファティマの聖母はピオ12世を名指ししたりするのだろうか?と。
名指ししたら、バチカンは、次の法王にこの名をつけたりしないはずだ。
案の定、マリアは『次の法王』としか言ってなかった。
ピオ12世と言うのは、解説として書かれてる。
今まで、この親切な解説をそのまま受け入れていた。
が、ネットの時代、手軽に検索をかけてみる。
1917年
ルチア達がファティマの放牧地でマリアを目撃したその時代の法王は、ベネディクトゥウス15世
1922年に離任した。
マリアは言った…悔い改めなければ、次の法王の時代にに酷いことがおこると…
ここで、ピオ12世の出番となるわけだが、法王単体で調べると、ベネディクトゥウス15世の次の法王は、ピオ11世だ。
ここで、頭が混乱して、時間を食ってしまった。
ピオ11世、12世と名前が続いたのと、ファティマの解説本では、聖母の予言の当たりの根拠をピオ12世の就任時の話をしたがるので、混乱するのだ。
ここに来て、また調べると、確かに、ピオ11世が次の法王とされていたが、その後に、ヒトラーの台頭と、謎の光。第二次世界大戦と続く、ピオ12世の法王就任の話と混ざってしまって混乱したのだ。
マリアは、11世の時代に酷くなると言った。
では…予言は外れたのだろうか?
しかし、当時を生きる人たちは、そんな小さい話なんてどうでも良かったに違いない。
第一次世界大戦終戦から、世の中は混乱していたのだ。
そうして、確かに、イタリアは大混乱にあっていた。
確かに、日本人の私からしたら、ヒトラーと語られる法王の方が、エピソードが派手で興味を引く。
が、イタリアが…ローマが混乱を始めるのは、まさに第一次世界大戦後の話なのだ。
次の法王…ピウス11世が就任されたその年、
混乱のイタリアに新たな政権が成立する。
  
その政権の首相の名前が
ベニート・ムッソリーニ
世界史や映画では、ヒトラーの作品より格段に話題にはならない人物であるが、彼に憧れた先にヒトラーがいるのだ。
 




