1917年 28
私は人気ジャンルの作品で五百円当てたいと夢見るウェブ作家だ。
勿論、異世界恋愛の悪役令嬢とか書いて、ブックマーク二桁とれたらいいな…って、妄想したり、設定を考えたりもする。
悪役令嬢と言ったら、バットエンドの回避。
でも、昔の少女漫画から離れられない私には、旨くまとまった話を作れずにいた…
作れてなんていないのに…今、私は歴史的人類滅亡のバットエンドを回避しようと奔走する…そんな話を悪魔に向かって語ろうとしていた。
「本当に…この先が怖いわよ〜終われるんかな(>_<。)
聖母の予言をでっち上げるとしてさ、革命当時のロシアの話とか、戦争のはなしなんかは作れるわよ?
でも、1917年当時、核爆弾や、冷戦、そして、その年に生まれた病弱な少年がアメリカの大統領になって、全世界を巻き込むような核戦争から世界を救う…そんなシナリオは作れないと思うんだよ。」
私は深くため息をつく。
そう、今まで、なんで気がつかなかったのか…
そして、思い付かなかったのか…
ファティマの第3の予言がキューバ危機の事ではないか…と。
そんな話は聞かなかった。
原因はわかる。
1960年代、この予言はそれほど有名ではなかったからだ。
そう、1917年の出現の話を知っていても、1960年に開示される予言については、ローマ法王も知らなかった…ルチアの胸の中にしまわれた秘密だったのだから。
この予言が有名になるのは、ここから20年も先の話で、その時には、既にキューバ危機は歴史の出来事と化して、滅亡予言とオカルトブームの話題としては、イマイチピンと来ない。
もっと、ハッキリ言っちゃうと、売れる本のネタにはならなかった。
人は、未来について知りたがるもので、千年ぶりの特別な世紀末に人の関心は集まっていた。
本を売るには…世紀末の滅亡のテンプレを選ぶ方がいいし、誰もが、一部では、今でも、この第3の予言の謎は解けてないと信じている。
私もその一人だった。
だから、60年代に予言を知らされた法王が失神したエピソードを聞いても、それについて詳しく調べようと考えた事もなかった。
で、この記事を書くために初めて調べてみた。
ルチアが予言の内容を打ち明けた法王について。
正確には分からない。
が、素直に1960年の約束をベースに調べてみた。
1960年の法王を。
ヨハネ23世
法王就任期間は1958年〜1963年。76歳と高齢での選出だった。
就任時は、皆、それほどヨハネ23世に期待はしてなかった。
年齢も年齢だし、適材がいなかった為の繋ぎの法王として見られていたらしい。
本人も、選出には驚いていたそうだ。
が、ファティマの噂が本当なら、就任後、もっと驚く事になる。
後々まで…そう、現在、ネットミームとして流れる…あまりの内容に気絶した法王として。
「一人の尼僧から手紙が送られてきて、その内容に気絶し、公表を止めさせた。
この文だけしか知らなかった私は、その内容に深く興味が湧いた。そして、失礼ながら、法王様を結構なビビリだって考えてたわ。」
私は、ベルフェゴールに叫んだ。
そう、ほんの少しのネットの検索で世界ががらりと変わって見える事もある。
「ビビリ…ふふっ。まあ、金と権力を持てば、人間はビビリになるもんよ。
しかも、天国の鍵まで手にしたら。」
ベルフェゴールは、笑った。
そう、ローマ法王は天国への鍵を持つと言われている。勿論、物理的な鍵ではない。
「いや、ビビルよ〜私の想像が当たっていたらね(T-T)
何と言ってもキューバ危機だよ。」
キューバ危機。
ガチで核の世界戦争になりそうだった事件である。 もし、そんな内容が昔の奇跡の少女だった尼僧から送られてきたら…ビビると思う。うん。卒倒する。
「キューバ危機ねぇ〜ふふっ。あの頃は凄かったわね。でも、力があったわ。
世界が青春って感じで。」
クスクスとベルフェゴールは笑った。
「笑い事じゃないわよ。この聖母、ガチで時代を読んでるわよ。
ここが、歴史の分岐点だもん。
科学が世界を変える。」
「1934年生まれのガガーリンが宇宙に行くのよね?」
ベルフェゴールの皮肉な顔に、山臥との夏の会話を思い出した。
『フラッシュゴードン』が初連載され、物語のトレンドにスペースファンタジーが台頭するのが1930年代。
1917年果たして、人類が宇宙に飛び出し、核爆弾が…一つの爆弾が、街を一瞬で消し飛ばすなんて、想像できたろうか?
「うん。そして、フランスも核実験を始めるんだよ。本当に世界の分岐だったんだ。
この時、次のアメリカの大統領と、キューバ危機について聖母からのメッセージを法王が見たとしたら…」
「その程度の予想なんて、ネットでバンバン投稿されてるじゃん。」
「されてないわよっ。ケネディが大統領に当選するなんて、当時の識者でも予想は難しかったはずだから。」
そう、ケネディとニクソンの票差はそれほど無かった。
「なんで、そんな必死なの?」
ベルフェゴールは、不思議そうに私を見る。
私はため息をつく。
「この筋書きだと、バチカンがファティマのメッセージを隠した理由ができるからよ。
1960年アメリカは世紀の大統領戦真っ只中。
バチカンが、アメリカの最高権力を決める戦いに影響するような発表は出来なかったはずだわ。
そして、新しい時代の光を受けたような、甘いマスクの新大統領の笑顔に、キューバ危機のバットエンドを回避する…飛んでもない役割を自分が手にしてることに、ヨハネ23世はビビったはずよ。」
そう、核兵器による世界戦争の回避なんて、飛んでもない事が回ってきた法王は、歴代にはいないのだ。




