1917年 24
イキリ転生者…
ネット系の異世界転生ファンタジーの主人公を批判する言葉である。
細かいことは良く分からないけど、現実世界から異世界に転生して、凄い力を授かった主人公。
数ある作品の中には、主人公が正義の為に暴走して、必要以上の破壊行為をする事がある。
これは、ネット小説系の異世界ものが、ゲームの世界に由来しているのが、原因ではないかと私は考える。
ゲームの場合、カタルシスを最大限に感じるために、攻撃のシーンを派手に演出したりする。
あと、オンラインゲームなどでは、追加の料金を払うことで、協力な武器や魔法が使えるシステムが存在し、その優位性を楽しませ、次の課金に繋げるために、派手な破壊表現がとられたりする。
で、この世界観で作られる物語は、オンラインゲームの破壊行為を彷彿とさせる激しい表現を用いる作者も少なからず存在する。
この場合、ネットで小説をさらし、ゲームの世界観を認識しながら閲覧られてる場合はいいけれど、
一度、書籍やアニメ化などになり、私のようなゲーム音痴の目にも止まるようになると、その派手な表現が、執拗に残虐で、主人公に共感できなくなる場合がある。
共感される時は『キメ台詞』でも、違和感がある読者が台詞を見たら、『イキってる』ように見られてしまうわけだ。
「どうしたの?急に黙っちゃって…」
ベルフェゴールに言われて、ハッとした。
「ああ、ゴメン。イキり転生者なんて、聖書の神様をいうからさ…でも、確かに、そう考えると、別の側面も見えるなって、思ってさ。」
私は話ながら、変に納得していた。
キリスト教の神様は、イエス様だけれど、イエス様を作られた神が存在する。
ヤハウェである。
イエス様の生まれる前、ノアの時代には、人々が悪くなって、それに怒った神様は、ノアの一族と、方舟に乗せた動物以外は、洪水で絶滅させてしまうのだ。
この話は、人間の罪や愚かさを反省させて、神様に従おうと考えさせるエピソードとして昭和では語られた。
そして、私も、信じて疑わなかった…神の愛を…
が、イキり転生者…オンラインゲームの話と重ねると、確かに、人間は神様に似せても別物で、
ゲームの中の村人みたいに、神様からしたら似て非なるものなのかもしれない。
ネットファンタジーやゲームの世界では、ゴブリンは、弱小モンスターで、出会ったら問答無用で潰す存在だ。
が、口伝の昔話のゴブリンは、そんな弱小モンスターではないし、
ゴブリンのエピソードの元に、黄色人種やケルト人などがモデルのエピソードも存在するんじゃないかと私は思う。
そんなイメージを持つ私は、楽しそうにゴブリンを殺して行く表現には抵抗があるけれど、
確かに、神様から見たら、私たちもゲームの脇役のような、どうでもいい存在なのかもしれない…
「別の側面ね…。」
「うん。確かに、聖書の神様、結構、人類に容赦がないよね。」
私は、ノアの方舟のエピソードを思い出しながら、虹の青空を思い浮かべた。
「あら、今頃、気がついたの?あんなに堂々と、大量虐殺しているって、聖書に書いてあるのに。」
ベルフェゴールは、責めるように私を見る。
私は、少し、不機嫌になりながら、虹のエピソードを思い出していた。
「でも…やっぱりおかしいよ…ファティマの予言…」
「いきなり、どうしたの?」
ベルフェゴールがからかうように私を見る。
「いや、ノアの…虹のエピソードを思い出したんだよ。」
そう、聖書の神様は、世界を水で満たして世界を一度、消滅させた。
が、それがあまりにも徹底的にやり過ぎたので、少しは気が引けたのだろうか…
虹をノアに見せると、2度と、ここまでド派手なお仕置きはしないとノアに約束するのだ。
「ああ、虹の話ね。」
ベルフェゴールはつまらなそうにため息をつく。
「うん。でもさ、ノアに虹で人類滅亡はしないって約束したんなら、ファティマの聖母の…第3の予言に人類滅亡の要素がなくなるわよね?
それしたら、神様が約束やぶりをした事になるじゃない!」
私は、叫びながら驚いた。
が、ベルフェゴールは冷たい目で私をにらんで、それから、盛大にため息をついて私を馬鹿にした。
「別に…洪水だけじゃないの?その約束。
ファティマの聖母も、洪水がおこるなんて言わなかったのだろうし。温暖化で灼熱地獄とかは、カウントされないんじゃないの?」
ベルフェゴールは面倒くさそうに答えて、それから、席を立った。
「コーヒー淹れてくるね。」




