1917年 21
なぜ、トミノは地獄を巡ったのか?
それは、日本の死生観に慣れると混乱する。
なぜなら、親より早く亡くなった子供は、賽の河原で石積みをすると決まっている。
それなのに、無限地獄に落とされたとしたら、親は先に亡くなった…と、私は考えた。
が、ファティマの本を読んだ私はそこで違う可能性を見つけた。
1919年4月に、予言どうり亡くなったフランシスコをイメージして詩を作ったと仮定する。
すると、ファティマの聖母が始めに少年少女に見せたビジョンが思い出される。
ファティマの聖母の予言と言うと、第3の予言と言われた、謎の予言の話が取り上げられるけれど、
聖母が子供達に始めに見せたのは地獄のヴジョンだった。
『地獄は実在するのです!』
と、聖母は子供達に言ったらしいけれど、そんなものを見せられたフランシスコ達は、どんな気持ちだったのだろう…
子供の頃、私も良く近所のバーさんや、親に地獄について脅かされた。
が、大概、そういう話は悪いことをしたときで、
知らない、異世界の優しげな女性から、いきなり言われたら、子供心に混乱するし、もう、その場所にいきたくなくなる気もする。
聖母は、死期の世界に地獄は存在して、このままだと、沢山の人が地獄に落ちると警告する。
が、聖母の話を聞いた、少年少女は天国に行けると保証される。
『トミノの地獄』は、そんなエピソードから、着想を得たのではないか?と、考えた。
すると、トミノ持つ『嚢』は、西洋の地獄をイメージして漢字を選ばれた気もしてくる。
ファティマの子供達の見たヴィジョン…
西條先生は、それをイメージしたのかもしれない。
「地獄のヴィジョンを見せてから、天国に行けるとか、詐欺の手口みたいね。」
ベルフェゴールはコロコロと笑う。
「詐欺って…大体の大人はこのての話で子供を脅すわよ。」
私は昔を思い出して渋い顔になる。
「そうね、悪魔に罪を擦り付けてね。」
ベルフェゴールは皮肉混じりに笑う。
「まあ…それはともかく、聖母は現代の大国の要人でも難しい事を子供達に頼むのよ。」
「ロシアを聖母に奉献しろとか、無茶苦茶言ったのよね。」
ベルフェゴールはギャグでも聞いたみたいに笑うが、私には笑えない…
「確かに、無茶苦茶よね…ほんの数ヵ月前…2月から始まったロシア革命を止めろとか…」
口にしてみて、なんだか、違和感を感じた。
2月革命からはじまる二度目のロシアの革命は、10月革命でおおよそ終わる。
wikipediaによると、それは旧暦の日付で、現在の暦に合わせるには、13日を加算しなければいけないらしい。
いきなりの13の登場、ロシアに対しての強い牽制…
ここに置いて、聖母がドイツについて言及していない事が気になった。
ドイツ革命がなければ、ヒトラーが政権をとれたかは謎だし、第二次世界大戦もおこらなかったかもしれない。
なのに、それについて、具体的にあげなかったのはなぜだろう?
ふと、ジャンヌダルクを調べていた時の事を思い出した。
私はジャンヌダルクが聴いた声にも、何か、胡散臭さを感じていた。
ジャンヌダルクは、大天使ミカエルが、お告げをしたような事を話していたが、当時、イギリスもまた、フランス王家と血筋が同じで、イングランドの領土がフランスの土地にもあった。
そして、イングランドと縁が深い、モンサンミッシェルがあるノルマンディーは、ミカエルの名前のつく教会であり、それを築く為に、沢山の人達が亡くなったりしているのに、片方だけをフランスの守護天使が肩入れするのは違和感があった。
今回のファティマの聖母についても、なぜ、ロシアだけが色々言われるのか…
落ち着いて考えると不思議な気がした。
1917年の時点で、ドイツにも警告を与え、そして、先勝国の振る舞いをたしなめていたなら、第二次世界大戦は、回避できなくとも、もう少し、緩やかなものになったかもしれない…
ここで、ドイツ革命を調べてみる。
1918年11月からとwikipediaには書いてある。
1917年時点で、騒いでいたロシアには警告があり、
当時、予想がつかなかったドイツ革命には、なにも言及しないのはなぜなのだろうか?
ここに来て、エタの沼がゆっくりと近づいてくる予感に包まれた。
 




