1917年 20
ベルフェゴールは、『怠惰』を司る悪魔である。
が、発明好きで、博識のあるベルフェゴール。
実は、この悪魔に甲斐甲斐しく世話をされて、人は自堕落になるなんて説もある。
気を付けよう。
もともと自堕落な私はため息をつく。
さて、話を始めなければ。
それにしても…ベルフェゴールは、何を私に求めてるのだろう?
私は紅茶を飲みながら考える。
まあ、『トミノの地獄』の新解釈の話をしてるのだから、そんな内容に違いないのだろうけど。
「何を無駄に考えてるの?」
ベルフェゴールは、卑怯なほど萌える上目使いで私を見る。
「無駄で悪かったわね。連載開始からの色々を思い出していたのよ。」
可愛らしさに惑わされないよう、大袈裟に憮然とする。
「ふーん。で、何か、思い付いた?」
身を乗り出して聞いてくる、ベルフェゴール。見た目年齢は…15歳くらいか。
一般的な『かわいい』をあざとくついてくる。
「思い付く…と、言うより、思い出す、ね。
前から、ファティマの予言については、調べてみたかったのよ。」
そう、ファティマの予言。オカルト雑誌『みい・ムー』でも、度々、取り上げられてはいたけれど、私は良く分からなかったし、興味がイマイチわかなかった。
小説や、テレビのオカルト好きは、大概、何でも知っていて、どのジャンルにも詳しい。が、実際は、そんな人は稀である。
お酒だって、ワインが好きでも日本酒は駄目な人がいるように、ノストラダムスの予言が好きで調べていても、ファティマの聖母の話も詳しいとは限らない。
私にとって、ファティマの聖母の予言は、あまり、魅力的に見えなかったのだ。
私の記憶では、キリスト教は男が中心の宗教で、予言者は男性だった。
勿論、それは間違いだ。
ジャンヌダルクを含め、聖女と呼ばれた人は沢山いる。
が、小さな私にとって、予言をする聖母は、興味をそそられる存在ではなかった。
私は五島 勉先生の本は、大概、好きだが、この聖母の予言について、書かれた本については、何故か、買う気になれなかった。
「何、難しい顔をしてるのよ?」
ベルフェゴールに言われて、ハッとした。
「ごめん、ちょっと、昔のことを思い出していたのよ。」
「昔?」
「うん。好きな作家さんの本でも、読まない話ってあってさ、私にとっては、ファティマの予言だったのよ。」
私は昔を懐かしむように呟いた。
五島勉先生は、予言の研究家と言うより、本占師みたいな人だった。
聖書、ノストラダムス、ヒトラーなんかのスタンダードなものから、イソップ童話とかの一見関係無さそうな物語からも、人類の未来について感じるものがあった。
イソップ童話の本は買ったのに、何でファティマの話は買わなかったのだろう?
昔の自分の趣味に困惑しながら、私はとうとう、ネットで古本を購入した。
『ファティマ・第3の秘密』である。
 




