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1917年 19

私はただ、話続けた。

アールグレイの薫りに包まれながら。

それは、作者としての敗北を意味していた。

作者…と、言うより、トランプ遊びの『7並べ』の敗北者のように、持ち札を広げてベルフェゴールに解き放つ。


「この話を書くまでは、『新解釈』の内容で終わる予定で、少し、新しい事を足すためにファティマの聖母について調べ直していたのよ…

しかも、連載開始しながら…ね。

で、気がついたわ。

ファティマの予言の子供達と、『トミノの地獄』の子供達の配役が似ていることに…」

「ファティマ=従姉、弟、妹

トミノ=姉、トミノ、妹よね?」

「そう、まあ、ここは入り口よ。嫌な予感に調べたらさ、ファティマの子供達…一番始めに天国へと旅立った弟…フランシスコ、亡くなったのは1919年4月…なのよっ(>_<)

『砂金』は、6月の出版で、一応、あとの方だし、春先の地獄のイメージにぴったりあったのよ…」

私はその時の事を思い出していた。


出版2か月前で、作品が追加できるのかは、謎だけれど、フランスでは、ノストラダムスのように、作詩家は予言者と同じとか何かで読んだし混乱した。


「トミノ…ではなく、フランシスコだけどね。」

「大正時代よ?フランシスコだと、一般人にイメージわかないじゃない?だから、和洋折衷の世界観なんでしょ?それに、記事を見たのではなく、先を予知して書いていたなら、実在する人物はマズイでしょ?」

一応、ドヤリ顔をしてみたけど、予知って…なんだか恥ずかしい。

「まあ、面白いわね。でも、聖母は天国につれて行くと子供達に約束したのよね?」

ベルフェゴール。地獄の悪魔がそう言って笑うとゾクッとくる。

「和洋折衷の世界観なんだって!日本の死生観では、地獄で生前を振り返ってから極楽へと向かうんだもん。」

と、叫んだ。

「日本の地獄…ねぇ…。」

ベルフェゴールは疑わしそうに私を見るけど、私だって、知らないわよ。真実は!

「まあ、いいのよ。ついでに、ダンテを調べていて、『(ふくろ)』の謎も解けたわ。」

私は深いため息をつく。

「西洋の…地獄の世界は、日本語では『嚢』で分けられているのよね?」

ベルフェゴールはクスクス笑う。


そう、日本の『血の池地獄』『針地獄』など、カテゴリーを分けるように、西洋も色々と別れていて、その空間を隔てるのが、どうも『嚢』というものらしい。

もう、なんで、この字を当てたんだろう?

『神曲』と名付けた森鴎外に恨み言を言いたくなったが、彼は題名を付けただけで、翻訳は別の人が担当したらしい。


この辺りで、ダンテとパラサイトと森鴎外が絡んできた事を思い出した。


「そうよっ。西條先生はねっ、ハンサムな大正モダンボーイだったのよ。

家庭のイザコザはあったけど、当時は株で儲けて、革の表紙の自費出版をするくらいだったのよぅ…。

女の人にもモテモテで、プレーボーイだったらしいのよぅ…。」

なんだか、バブル時代を思い出したり、西條先生の童謡に、清廉潔白な歌人を思い浮かべ、幼少の私に語る父のビジョンに涙が出る。


人生の殆どを、父の理想の西條先生と暮らし、泣いて『バラサイト』を完結するまで…正確には、『赤い朱房』と間違いをどやるまで、知らなかった色々が、胸に突き刺さる…


「そうよ。私は間違いだらけの人間ですよぅ…もうっ。知らないわよぅ。」

何もかもぶん投げたくなる。

が、こんな所で完結ボタンを押してしまったら、100円にもなりはしない。


頑張るのよ、私!

全ては無意味な…夢だとしても…たどり着いたその先には、きっと、何かが待っててくれるに違いない。

「まあ、まあ、いいじゃない。間違えられるのって素敵な事よ。

天使なんて、宮仕えで、いちいち、挨拶から、身なりまで、がんじがらめなんだもの。

その点、地獄はいいわよぅ。自堕落できて。」

ベルフェゴールの唇に、一瞬、剛が悪巧みをするときの『ニヤリ』が見えた。

「別に、良いわよ。自堕落出来なくても。」

私は警戒しながらベルフェゴールを見た。

彼女は…こう見えて、デビ7…7つの大罪に名を載せる『怠惰』の大悪魔。

最近じゃ、ラノベにゲームに人気者なのだ。


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