1917年 15
ベルフェゴールは、優雅にコーヒーを口にする。
長い黒髪の可愛らしい少女の姿で。
私は何を言えば良いのか、少し混乱していた。
「1917年が大変なのは分かったわ。でも、私の話には関係ないと思うのよ。」
私はため息をつく。
そう、私が物語の分岐の選択を頼んだのは、『パラサイト』についてで、そこにエリザベス女王もジョージ5世も登場しない。
「あら、そうかしら?本文に書いていない色々もあるはずだわ。
私が自ら採決するのよ? ケチらずに差し出しなさい!」
ベルフェゴールは、キリッと私に迫ってくる。
「ケチらずって…私、来年、『パラサイト』の続編を書く予定なのよっ。
営業妨害だわ。」
「営業妨害?それは、書籍化を果たしてから使うことね。大体、この物語も、エントリーされた物語なのよ?ここでショボい完結なんてしてたら、客と…ワタクシを逃す事になりますわよ。」
「ワタクシ…(-_-;)」
私は負けた。
確かに、私は小銭を稼ぎたくて書いている。
だから、いろんな人に読んでもらう必要がある。
サイトが変わっても、読みに行きたいと読者に考えて貰えるように進化しなくてはいけない。
が、しかし、こんな登場人物に絡まれて、みんな未完で放置状態で、信用なんてとっくに無くしている。
もう、神に…ああ、悪魔にでもすがる必要がある…んじゃないだろうか?
「わかったわ…でも、何を書けと言うのよ?
チラリと『パラサイト』を読みにいったけど…あれを読んでもワケわかんないよ。」
深くため息が出る。
完結ボタンは押したけれど、あの話は未完のままだ。
例え短編でも…池上が普通に生きている物語を…設定を投稿してやらなくては…。
困惑する私に、ベルフェゴールは、温かい紅茶を入れてくれた。
アールグレイ…私の好きな紅茶である。
が、このお茶は、ベルガモットの配合や質で、苦く感じたり、鼻についたりする。
ベルフェゴールは、私好みに最良のお茶を差し出していた。
なぜか涙がこぼれだした。そんな気持ちをベルガモットの香りが優しく癒してくれる。
「そうね。だから、2年、応援してくれた読者のために、1つでも、伏線に見える箇所を解説したかったのでしょ?この作品で。」
ベルフェゴールの優しい言葉が胸に染みる。
「そうね…確かに、そんな気持ちになったりもしたわ。」
私は書き始めた時の事を…克也の事を都合よく抜かして美しく思い出した。
「だから、そのように書けばいいのよ。
あの話は、色々な事柄がゴチャゴチャと混ざってわかり辛らかったわ。
そのなかで、『トミノの地獄』の都市伝説をまとめたいと考えたのでしょ?」
ベルフェゴールは、優しく私に囁いた。
それが、とても素直に理解できる説明なので、編集担当とか言う人も、こんな風に作者を導くんじゃないか、と、思わせた。
「うん…確かに、『パラサイト』のあのエンディングでは、『トミノの地獄』について解説が不十分だったわ。
話が、大きくなりすぎて…収拾がつかなくなってきたもの。」
ああ…思い出してきた。
体に血液が回るように、『パラサイト』の物語が頭によみがえる。
あの話には、複数の謎の組織が暗躍していた…多分。
シケイダというセミの画像の謎かけ集団やら、
エジプトのスカラベのヒミツ
そして、森鴎外を巡る作家の…役人や学者の集団…
20世紀初頭、吉江達はヨーロッパに留学し、詩を書いてフラフラとしていただけではなかったはずだ。
彼らは、文化人ではあるが、教師であったり、役人であったりした。
森鴎外には、コレラや都市型の感染から、日本を守る指名があったし、
吉江、近江の2人の先生も、日本の農業や産業に必要な生物や鉱物を見聞きする目的もあったに違いない。
当時、飛び道具の発展に伴って、防弾チョッキの開発も熱を帯びていた。
防弾チョッキの材料として、絹は有効とされていた。
しかし、それを上回る何かを…軍は求めたろうし、それには、動物性の繊維を探していたと思う。
ファーブルの昆虫記の翻訳は、子供達の知的な好奇心を満足させる為だけのものではなかったはずだ。
吉江先生は、養蚕の経験もあるようだし、近江先生は、ファーブル。
そう考えると、この2人の旅の話は、様々な日本の知識人、軍や農産関係の役人にも興味があるものだったに違いない。
本当は…ただ、2019年、西條先生の書かれた詩の…デビュー100年を祝う気持ちだった。
法の変更を知らなかった私は、翌年に西條先生の著作権が切れて、堂々と作品に詩の全文を書けると信じていた。
2020年新しい年の始めに、忘れ去られた作品にこっそり詩を追加する…
ただ、そんな楽しみを思って作り始めたはずだった…
なのに、パンデミックや色々で、小心者の私は、話をおかしな方向に膨らませて…
結局、誰も幸せには出来なかった…
「温かい紅茶を入れ直したわ。
シュークリームを食べて、それからゆっくり話しましょう。」
ベルフェゴールは、ただ優しく私に笑いかけていた。




