1話克也
隣人…一般的には近隣に住む住人を意味する言葉であるが、それだけではない。
例えば、キリスト教の隣人とは、家族以外の近くにいる人を意味する。
フリマなどのイベントでは、何故か良く隣同士にブースを構える人が出てきたりする。
奴も…そういう意味では『隣人』と言えるかもしれない。
奴の名前は克也。かっちゃんと呼んでいる。
しかし、これが本名ではない…らしい。
なんだか知らないが、個人情報を厳重に管理するのが好きな人物なのだ。
と、言うわけで、現実世界でメタバースのような不思議な世界に奴は連れていってくれるのだ。
電脳世界はカラッキシ駄目なアナログ人間なのだが。
克也は、170センチ位の中肉中背の男で、農家のおじさんが来ているような作業ジャンパーを常時着ていた。
が、農家の人…と言うわけでも無いようだ。
まあ、フリマイベントで会うだけなので、日頃、どんな格好をしているかは知らない。
フリマの出展物も奴を語ることはない。
ビックリするようなレトロな米屋のロゴ入りのグラスとか、人形、キッチン用品が、あったと思えば、老若男女の様々な古着を持ってくることもある。
謎の人物なのだ。
その、謎の人物と仲良くなったのは、やはり、フリマの隣人からである。
ある日、道の駅のイベントでフリマビギナーの老婦人に親切にしたことから始まるのだ。
私たちは軽く説明や店番をして世間話をしていただけだが、克也は、積極的に彼女をバックアップし、品物を配置、接客までやってのけた。
文字通り、自分の事をそっちのけ…で。
で、克也のブースの店番を我々がしたりと、その日は過ぎ、イベント修了30分前に、老婦人が私たちに売れ残りの品物を引き取ってくれないか、と、提案してきた。
なんでも、家を引き払い、都会の息子夫婦と同居するのだそうだ。
まあ、フリマやってると、なんでも貰う癖がつくが、プラスチックの衣装箱3個は一瞬、躊躇した。
が、克也は違った。秒で受け取りを決め、我々の取り分の話を始めた。
大きな車に乗ってきたかっちゃんは、一度荷物を預かり、どこかのファミレスで必要なものを分けることになった。
今日、持ち帰れないものは、次のフリマで渡します…と言われ、それから長い腐れ縁が現在まで続いている。