[短編]異世界に転移したら元カノもいたのだが
俺、岩波隼には高校一年から高校二年にかけて同級生の彼女が存在した。
その彼女とは、ちょっとした喧嘩で別れた。本当は別れたくなかったがその場のノリで彼女からの別れの提案を了承してしまった。本当はまだ好きなのに・・・。
だがこの時の俺は知らない。別れた元カノと異世界でとんでもない冒険をするとは。
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「文化祭の委員を決めたいと思います。なりたい人は手を挙げてください。」
とある高校の3年2組。
先生の声が教室に響き渡る。
真っ先に手を挙げた女子がいた。名は青山雫。そう、俺の元カノである。
「男子は、なりたい人いませんか?」
このような質問の際に手を挙げる人はあまりいない。めんどくさいからだ。
男子には手を挙げる人がいなかった。もちろん、俺も挙げていない。
「いないようなのでくじ引きで決めます」
男子全員が立って教卓の前に集まってくじを引く。くじを引き、開いてみると、丸が書いてあった。すなわち、男子の文化祭の委員は、俺に決まったということである。
「では、岩波くんと青山さん。よろしくお願いします」
教室内に拍手が起こる。
俺は、この時、嬉しさと戸惑いが入れ混じった。彼女は絶望しているかもしれないが・・・
青山雫。
言葉は少しきつい気もするが、綺麗な黒髪に、綺麗な肌でとても美人だ。おまけにコミュニケーション能力も高く、学校では、めちゃくちゃモテている。
彼女は、こう見えて、オタク知識に明るい。
俺は、世に言う隠キャと言う奴で、人との交流はあまり好きではない。
また、アニメやラノベのことは、一日中語れるぐらいのオタクでもある。
オタク同士、気が合い、雫とよく話すようになり、付き合うまでに至った。
「今回はよろしくな。雫」
「・・・えぇ」
雫は、あまり乗り気ではないらしい。それもそう。別れたばかりの元彼氏と共同作業なんてあまりやりたくはない。
「あぁ、もう!隼、今日の放課後、会議室で進め方、一緒に考えるわよ!わかった?」
「わかった!じゃあ放課後に会議室で」
雫は、やると決めたことは、全力でやるタイプだ。それがビンビン伝わってくる。
今日は部活がない。
6限目の授業が終わりそのまま荷物を背負って会議室に向かう。
向かう途中の廊下、何やら光っている。光に釣られるように近づいてみると、そこには、魔法陣らしきものがあった。
(誰かの落書きかよ〜)
そう思うままに、無意識に魔法陣を踏んでみる。
すると、その魔法陣は徐々に輝きを増していき、やがては視界を全て満たすほどの大きさに拡大した。光によって真っ白に塗りつぶされた廊下が再び色を取り戻す頃、そこに隼の姿はなかった。
こういったことが付近でもう一件起きていたが、この時の俺には知る余地もない。
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左手で両目を庇い、目をしっかりと閉じていた俺は、ちょっとした落下の痛みを感じ、ゆっくり目を開いた。そして辺りをただ見渡す。
(ここ、どこだ?)
周辺には草原が広がっていて、風が草を揺らしている。
そこには女性らしき人が倒れている姿が見えた。俺は立って女性に近づいてみる。
「あれ、雫じゃないか?」
顔を見てすぐわかった。倒れている女性は青山雫なのだと。
「おい、雫!大丈夫か?起きろ!」
「うぅ・・・・、隼!私はなんでこんなところで、え?え?」
彼女は辺りを見渡し混乱しているようだった。
無理もない。いきなり見知らぬところで寝ていたら混乱するのは当たり前だ。
「雫、落ち着け!一回深呼吸するんだ!」
雫は一度深呼吸をし、頭を整理し始めた。
「隼、ここってどこなの?」
「俺にもわからない。ただ気づいたらここにいたんだ」
「そ、そんな・・・」
ここがどこなのかは見当もつかない。ただテレポートしたのか、タイムスリップしたのか、異世界に来たのか。色々な説が俺の頭の中に飛び交う。
「まず移動しよう。街みたいなものがあったらそこで聞けばいいし、とりあえず人を探そう!食料や水も必要だしな」
「そうね、あなたと行動するのはちょっと気が引けるけどしょうがないわね。じゃあ行くわよ!」
まあ、別れたばかりの恋人と生活を共にするのは苦難なのはわかる。
だが、俺は、そうとは思わない。むしろ、よりを戻す絶好の機会だと思う。
しばらく歩いていると、街のようなところが見えてきた。食べ物のいい匂いもしている。
俺たちはその匂いにつられるように街へと足を運んだ。
この街は昔いったことのあるヨーロッパの街並みに似ているような気がした。
街はすごく賑わっていて屋台なんかも並んでいる。
ここなら十分情報を得られるだろう。
「すみません!ここってどこなんですか?」
「おう!ここはミスラル国のハリダテ街さ!兄ちゃん、ここにくるのは初めてか?ここは魚がうまいんだぜ!ぜひ食べていってくれよな!」
これではっきりした。ここは異世界だ!ミスラル国なんて現実にあるはずがないのだ。俺たちは多分、なんらかの形で転移させられてしまったのだろう。
「雫、落ち着いて聞いてくれ。多分ここは異世界だ。」
「異世界ですって!?そんなラノベみたいなことがほんとにあったんだ・・・」
「ああ。こういうところには冒険者ギルドみたいなところがあるはずだ。一度冒険者になってお金を貯めよう。じゃないと飢えて死ぬからな」
雫は、ただただ混乱しているのだろう。心ここに在らずって感じだ。
とにかく今は冒険者になって依頼を受けなければならない。
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「ようこそ!冒険者ギルドへ」
「急にすまない。冒険者登録をしたいのだが」
「はい!かしこまりました。おひとり様でよろしかったでしょうか?」
「いや、二人分で頼む」
「かしこまりました。プレートをお作りするのでお名前、よろしいでしょうか?」
「岩波隼と青山雫で頼む」
「かしこまりました。少々お待ちください」
別れてからもそうだったが、この世界に来てからも、二人でいると、とても気まずい。
(どうにか距離をまた縮める方法はないだろうか・・・)
そう考えているうちに冒険者プレートが完成したようだ。
「冒険者プレートと剣です。無くさないでくださいね!これで冒険者登録完了です。今はFランク冒険者なので低レベルの依頼しか受けられませんがランクが上がればダンジョンに行けたり、高依頼料の依頼も受けられるようになるので頑張ってくださいね!」
「ありがとうございます!」
ダンジョンか・・・。この世界にもあるらしい。強くなったら行くのもありだろう。
まだお昼頃だろうか。日が沈む気配がしない。お金を貯めるには好都合だ。
「雫、早速依頼を受けようと思うが、この依頼掲示板の中で何か受けたい依頼はあるか?」
「とにかく簡単な依頼にしましょ。このスライム狩りなんてどう?レベルも低いしぴったりなんじゃない?」
「スライムか・・・よし!そうしよう」
俺たちが受けた依頼は街の周辺のスライムの50体討伐。なかなかハードだとは思うがなんとかなるだろう。距離を縮められるかも知れないしね。
スライムはモンスターの中でも最弱だが、倒した時にねっとりしていたり、群がったり、と倒すのは簡単だが、後始末が面倒である。なので高レベル冒険者はスライムの相手をすることがないため、街の周りにうじゃうじゃいる。50体倒すのは簡単だがどう倒すかがポイントである。
「よし!じゃあ倒していこう」
二人でなんとか剣で40体ほど倒し終わった頃、俺らはもう身体中ねっとりとしていた。
そう。冒険者なりたての俺らは、剣でただ倒すしかないのだ。
「気持ち悪い!もうやだ〜!」
雫はもう限界らしい。完全に座り込んでいる。スライムはいくら最弱と言っても攻撃力は少ながらずある。このままでは雫が危ない。だが俺も自分を守るのでも精一杯。
(考えろ、考えろ、どうすれば雫を守れる?どうすれば・・・)
俺は思い出した。オタクやラノベ読者ならばわかるであろう異世界定番のもの。
(魔法だ、ここは異世界だぞ!魔法が使えてもおかしくないんじゃないのか?魔法さえ使えれば雫を守れる。試す価値はある。よし!ここは定番の・・・)
俺は左の手のひらをスライムたちに向け、大声で叫んだ。
「ファイヤーボール!」
手のひらに小さな魔法陣が出現し、そこから火の玉のようなものが発射され、辺りのスライムたちを吹き飛ばした。
「雫!大丈夫か?」
「あ・・・うん、大丈夫。てか今の何よ?」
「あれは魔法だよ!」
「魔法ね・・・この世界では使えるのね」
「きっと雫にも使えると思う」
「じゃあやってみようかしら」
雫は、さっきの俺のように左の手のひらを木に向け、叫んだ。
「ファイヤーボール!」
雫の手のひらから発射された火の玉は木にあたり、木は一瞬で燃え尽きた。すごい威力だ。
「私にもできたわ! 魔法使うって変な感じ」
「確かにそうかもな。 まぁとりあえずギルド戻って報酬を受け取るか」
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日は沈み切り、ハリダテ街もすっかり真っ暗になってしまった。この頃、僕たちは街にある宿に来ていた。
「すみません。とりあえず一泊したいのですが」
「かしこまりました。一部屋シングル4000フランです。ツインは6000フランです。
(まずい。スライム狩りの報酬は5300フラン。一部屋シングルしか取れない)
「雫、一緒の部屋でもいいか?」
「なんでよ。二部屋取れないの?」
「無理だよ、金ないし。頼む!」
「わかったわ。一緒の部屋でいいわよ」
この時の雫は、なんだか照れ臭そうな顔をしている様に見えた。気のせいかもしれないが。
どちらにせよ、俺にとってはこれ以上ない距離を縮めるチャンスになったわけだ。
「おやすみ、雫」
「おやすみ、隼」
結局、俺が床、雫がベットで寝ることになった。俺は、何もない天井を見ながらひたすら考え事をしていた。
(スライムだからあんなに綺麗に終わったがこれからの戦いはそうはいかないはず。これからはダンジョンに行ったりもしなければならなくなるだろう。僕と雫だけでは限度というものがある。やはりここは仲間を作るべきか)
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そんなわけで、俺と雫は、理由もわからず異世界に転移させられ、こうして必死に二人で生き残ろうとしているわけだ。
「雫!俺は仲間が必要だと思うんだ」
「急に何?仲間?なんで?」
「二人だと色々なことをやるのに限度がある。だから今は一人でも仲間が欲しい!」
「わかったわよ。で、どうやって集めるわけ?」
「ギルドに掲示板があっただろ?あそこに募集の張り紙を貼ってもらうんだよ」
ギルドには依頼などが貼ってある掲示板がある。そこに貼れば広告効果は絶大だろう。
「すみません。掲示板にこれを貼って欲しいのですが」
「かしこまりました。貼っておきます」
俺は正直不安だ。こんな張り紙だけで仲間など集まるのか?
そう考えながら俺と雫は近くのベンチに腰をかける。
すると金髪の女の子が近づいてきた。耳が少しとんがっている。エルフだろうか?
「すみません。張り紙を見てきました。隼さんですよね。どうかパーティーに入れてもらえないでしょうか」
「君は、エルフかな?」
「はい、ミアといいます。エルフなのでそこそこの魔力は持っていると思いますよ!」
この世界のエルフは色々な種族の中でも最強クラスの魔力を持っているらしい。仲間になってくれたらとても心強いと思う。
だが、何か引っ掛かる。都合よく行き過ぎではないだろうか?
「失礼だけど、君、弱点とかある?」
「あ・・・はい。実は私、魔力は十分にあるけど体力が全然なくて・・・」
俺の思った通りだ!
体力がないなら遠征などには不向きだろう。
まあ許容範囲内ではある。
「ねぇ、隼。体力がないなら使い物にならないじゃない!」
雫の言っていることは間違いではない。
だが今はとにかく仲間が欲しい。
「二人でやれることには限界がある。それに体力がないという短所はエルフの魔力という長所で補える。ここは仲間にしておこう」
「まあ、それもそうね」
「じゃあ、ミア、これからよろしくな!」
「はい!よろしくお願いします!」
「ってことでとりあえず腕試しに行こう!」
この後、俺たちはゴブリンの50体討伐という依頼を受け、街の近くのゴブリンの巣にやってきていた。
「とりあえず、ミア!魔法を使ってみてくれ」
「はい!」
そう言ってミアは腕を上げて魔法を放つ体制に入る。
「炎の神よ、我が心の想いに応え、形となり、目の前のものを蹴散らせ!ファイヤーボール!」
美しく、大きい火の玉が近くのゴブリンたちを蹴散らした。
なんという威力だ。俺の魔法の倍ぐらいの威力がある。さすがエルフと言ったところか。
だがミアはなんだか一発打っただけでとても疲れている様だった。一回でこれほどとは。体力は本当にないらしい。
「すごいな!」
「ありがとうございます!よければ隼さんと雫さんの魔法も見せてもらえませんか?」
「いいぞ! 雫!一緒にミアに魔法を見せてあげないか?」
雫は、ミアがあまり好ましくないのかずっと遠くからこちらの方を眺めていた。
「はぁ、やればいいんでしょ!一回だけよ!」
「ありがとう!じゃあ同時に行くぞ!」
「ファイヤーボール!」
今回はまあまあな威力だったな。
するとミアが驚いている様な顔でこちらに寄ってきた。
「今、無詠唱で魔法を使ったのですか?」
「あぁ。そうだけど・・・」
この世界で、無詠唱で魔法を使ったら何かまずいのだろうか?確かにさっき、ミアはしっかり詠唱していた。もしかして法律とかに違反していたりするのだろうか?
「何か、まずかったか?」
「あ、いえ。そうではなくて」
「じゃあなんなの?」
雫も横から口を挟む。この驚いた顔を見たら何かあると思うのも無理はない。
「これまでで無詠唱で魔法を放った人を私は見たことがありません。聞いたこともありません。多分この世界で使えるのはあなたたちしかいないと思います!すごいです!」
なんてことだ!
俺たちには特殊能力があった!
多分、転移ボーナスか何かでもらったのだろう。雫も少し、いや結構嬉しそうだ。
「まあ、依頼は終わったし、ミアの実力も知れたし、俺と雫の特殊能力も知れたし、今日はもう帰るか!」
「そうね!私、もうクタクタ」
「はい!そうしましょう!」
今日も俺たちは昨日泊まった宿に来ている。またこの問題が俺たちに突き刺さる。
「すまん!また一部屋しかとれない」
「え!また?」
昨日の宿代で残り1300フラン。食事代を抜いたら残り200フラン。今回の依頼の報酬7300フラン。計7500フラン。一部屋シングル4000フラン、ツインが6000フラン。ツインは足りるがギリギリ二部屋の金額には届かなかった。
「ミアは一緒の部屋はダメか?」
「お金が足りないのは仕方ないですから、いいですよ」
「え!ミアは警戒とかしないの?こいつも男なのよ!」
「隼さんは、そんな人には見えないですし」
俺は、雫が、雫と俺が同じ部屋になるというより、ミアと俺が同じ部屋になるという方を嫌がっている様に見えた。あくまで推測だが。
「雫!頼む!今は辛抱してくれ!」
「そこまでいうなら・・・。わかったわ」
「ありがとう! じゃあツインでお願いします!」
結局、今日も俺が床で、二人がベットで寝ることになった。
俺はまた天井を見ながら俺たちの今後について考えていた。
(あ、やべ)
俺は、うっかり雫が寝ているベットに足をぶつけてしまった
「ん?隼?」
「あ、ごめん。起こしちゃったよな」
「寝れないの?」
「今後のこと考えると寝れなくてな」
「ベット、入りなよ。寒いでしょ?言っとくけど反対側向いて寝なさいよね」
「え、わかった」
今の雫がこんなことを言うとは、正直驚いた。異世界ラブコメの主人公にでもなった気分だった。
結局、一睡もすることができなかった。
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「おめでとうございます!冒険者ランクがFからEに上がりましたよ!これでダンジョンにも行けますね!ではこれからも頑張ってください!」
俺たちは今、ギルドに来ていた。
レベルの低い依頼をちょくちょくこなしていた俺たちは、とうとうランクアップしたらしい。これでダンジョンにも行けるようになった。
「早速だがダンジョンに行こうと思う」
「え、もう少し休みましょうよ」
雫は随分と疲れている様子だった。ミアもそうだろう。正直俺も動きたくないくらい疲れている。
「今の俺たちにはある問題がある!金がない!」
「でも依頼受けてるじゃない!」
「だが、依頼の報酬の7割以上が宿に持ってかれる。二部屋取るためにも美味しい飯をもっとたくさん食べるためにも、ダンジョンでモンスターを倒し、効率的にお金を貯めていく必要がある」
ダンジョンには、高価なモンスターがたくさんいる。レベルは高く、強いが、今の俺たちならなんとかなるだろう。つまり低レベルの依頼しか受けられない俺たちにとってこれは、大金を稼ぐ絶好の機会なのだ。
「ミアはどう思う?」
「私は・・・隼さんたちについて行きます!」
「わかったわ。私もいくわよ」
「よし!じゃあ早速行こう」
この世界のダンジョンは地下100階層まで存在し、今は47階層まで解放されている。
20階層までが初級らしいので、俺たちは、20階層でモンスターを狩ることにした。
「ここが20階層か。薄暗くて不気味だな。二人とも、ここからモンスターが溢れ出てくるからな。気を引き締めろ!」
すると、俺たちの目の前に白い虎のようなモンスターが出てきた。
ホワイトタイガーだ。レベル20のモンスターである。
ダンジョンのモンスターはレベルで強さと報酬が示されていて、今の俺らならレベル30はギリギリ倒せるだろう。
「よし。まずはウォーミングアップだ!」
俺と雫が同時に魔法を放つ。
「ウォーターランス!」
そう。あれから俺たちはミアに魔法を教えてもらっていた。おかげで今では15種類ぐらいの魔法を使えるようになった。
俺と雫が放った魔法は、ホワイトタイガーの体を貫通し、ホワイトタイガーは塵となって消えた。すると、音に釣られてきたのかホワイトタイガーが4体こちらに近づいてきた。
ここは仕方ない。こんなに早く使いたくはなかったが、ミアの魔法で一掃してもらおう。
「ミア!頼む!」
「はい! 雷の神よ、我が心の想いに応え、形となり、目の前のものを蹴散らせ!サンダーアロー!」
矢の形となりミアから放たれた魔法は4体のホワイトタイガーを感電させ一掃した。
「よし!ミア、大丈夫か?」
「はい。ちょっと疲れましたが」
ミアには体力トレーニングをしてもらうべきか。いやトレーニングで改善できるようなことなのだろうか。
とにかく今は前に進まねば。
「二人とも、先に進むぞ」
何を何体倒したかは冒険者プレートに印字されるようだ。これをギルドで見せてお金を受け取るらしい。
これは正直ありがたい機能だ。
しばらく進んだところで雫がとあるものを見つけた。
「ねぇ、あれって人じゃない?人が倒れてない?」
本当だ。ダンジョンの道のど真ん中に女の子が倒れている。
「君!大丈夫か?」
女の子の頭の上には猫耳がついていた。間違いない。この子は猫拳族だ。
猫拳族とは、身体強化魔法しか使えないが基礎身体能力がとにかく高く、近距離戦最強とも言われている種族である。
(猫拳族の子がどうしてこんなところで倒れて・・・)
「バァン!!!」
大きい音がした方を見てみると、俺めがけて大きな針のようなものが飛んできた。
「・・・あぶねぇぇ」
俺はそれを間一髪で避けた。
「何よ、あれ・・・」
雫は、少し怯えているようだった。雫が見ている先には、大きな部屋のような場所があり、そこにいたのは、全身に鎧のようなものをまとった巨大ゴーレムだった!
なぜ20階層にゴーレムが?
俺たちは逃げようとしたが、ミアは疲れているし、猫拳族の子は倒れているので、逃げようがない。
俺たちは戦うと決めた。
「ミア、少しでも魔法は使えるか?」
「はい、まだ使えます」
「じゃあミアはこの猫拳族の子を守っておいてくれ。くれぐれも無茶はするなよ」
「はい!あと、あのゴーレムは関節などの鎧があると動かなくなってしまう部分だけは多分鎧がないと思います。そこを集中的に狙ってください!」
「あぁ、ありがとう!行ってくる!」
「お気をつけて」
このゴーレムはレベル40くらいだろうか。どのような攻撃をしてくるか検討もつかない。だがここで引き下がるわけにはいかない。
「雫!まずは様子見だ!とにかく攻撃はかわすんだ!」
「えぇ、わかったわ!」
「ドーーン!」
しばらく戦ってわかったことがある。ゴーレムは物理攻撃しかしてこない。だがこの巨体にしては動きがとても素早い。避けるのだけで精一杯だ。
「雫!このゴーレムには関節のようなところに鎧はない。攻撃するときは、そこを重点的に狙ってくれ!」
「わかったわ!」
「くぅ!攻撃できない。アイスウォール!」
俺たちはただひたすら避けて魔法で壁を作って守るようなことしかできなかった。
ここで俺は前のようにあることを思いついた。
(待てよ、盾の魔法を使いながら攻撃ができるのではないか?前読んだ本の中には二重発動に関しては載っていなかった。試してみる価値はある!)
「スモールシールド!」
試しに盾でゴーレムの物理攻撃を受けてみる。
「ガーーン!」
おっっっも!
一撃一撃がとても重い。だが受け止めながら他の作業をすることは可能だと感じた。
二重魔法展開とでも名付けようか。
俺はここで二重魔法展開を試してみた。
「ガーーン!」
やはり重い。だがこの隙に右肩を狙って・・・
「ファイヤーボール!」
俺の手から飛んでいった火の玉はゴーレムの右肩に当たり、右腕を切り落とすことに成功した。
また、俺はこの時、一度に二つの魔法を使うことに成功した。これで戦いの幅が広がる。とても大きい収穫だ。
だが、ここで、右腕を落とされたゴーレムは、ほとんど無防備な状態のミアたちの方へ走り出した。
まずい!ここからだと追いつけないし守りようがない。雫も同じ状態だった。
今のミアには弱めの遠距離攻撃は防げても、あの重い物理攻撃を防ぐのは無理だ。
魔法で対抗するか?いや、この距離だとコントロールがうまくいかない。最悪ミアたちに当ってしまう可能性も・・・。ピンチすぎて頭が回らない。
「ドーーーン!」
いきなり大きい音がした。
なんと、俺の目の前にゴーレムの左腕が飛んできた。
何事?と思い見てみると、そこには拳を前に突き出し、立ち尽くしている猫拳族の姿が!さすが猫拳族、力はやばい。
「ミア、大丈夫か?」
「えぇ、この方が守ってくれましたから」
「君、ミアを守ってくれてありがとう!名前を教えてくれないか?」
「コハルよ!そんなことより戦いはまだ終わってないよ!」
そうだった!つい安心して戦いから目をはなしてしまった。
両腕を落とされたゴーレムは、自分の腕に向かって走っていく。
(まさか、つけ戻したりできるのか?それは厄介だ!)
「雫!止めてくれ!」
「えぇ、わかったわ!」
「ウォーターハンマー!」
雫が魔法でゴーレムを吹き飛ばすも、あまり効いてはいないようだった。
倒れる気配が全くしない。どうすれば・・・
「私を援護して!」
大声を出して走り出したのは、さっきまで倒れていたコハルだった
「あぁ、わかった」
この一瞬だけで、何をするかはわからなかったが、コハルならやってくれる、そう感じた。
「ボディーアップ!」
はじめてみる魔法だ。体の周りにオーラのようなものをまとっている。
身体強化の魔法か!
「にゃーーーーー!」
コハルはゴーレムの腹を殴った。
ゴガァッ!!!!
地面が震えるほどの激震。
いったいどれだけの威力で殴ったのだろう?
コハルの拳は鎧をまとっているゴーレムの腹を貫通していた。
当然、腹を貫通するほどの一撃に、巨大ゴーレムが耐えられるわけもなく、塵となって消えていった。
「猫拳族、これほどとは・・・・」
「にゃぁぁ・・・・もう、限界・・・」
コハルは疲れ切って、そのまま倒れてしまった。
急いで駆け寄り、声をかけた。
「コハルっ!大丈夫か?」
「にゃぁ・・・疲れたよぉ・・・」
この一言で俺はほっとした。
これで一件落着だ。
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一度ダンジョンを出た所で俺たちはとある居酒屋に寄り道していた。
コハルは、相当お腹を空かせていたらしく俺が持っていたお金を全て使うような勢いで食べていた。
「ぱくぱくぱく、ごくんっ! ぷはー!!!」
持っているお金の7割分くらいを食べてところで、やっと満足してくれた。
「ちょっとは落ち着いたか?」
「うん!助かったよぉ・・・あのまま死んじゃうのかと思ってたもん」
「なんであんなところで倒れてたのよ?」
「ただお腹減ってただけだよ!」
そうだったのか。いや、本当に何もなくてよかった。
「そういえば、自己紹介してなかったな。俺は隼だ。でこっちが雫、俺の元カノだ」
「別に、今言わなくてもいいでしょ!」
「元カノ?」
ミアとコハルが息を合わせるようにいった。
この世界では使わない言葉なのだろう。
「あーっ、元々お付き合いしていたという意味だ」
「へー、二人はお付き合いされていたのですね」
何やらミアから冷たい視線が・・・
「それは置いといて、この子はミア、見ての通りエルフだ」
「よろしくお願いしますね、コハル!」
「私はコハル。見ての通り「猫拳族」だよ♪よろしくね」
「あぁ、よろしく!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「え!じゃあハヤトとシズクは無詠唱と二重に魔法が使えるんだ」
宿に行こうとしたら、コハルもついてくると言い出した。
これからどうするつもりなんだろう?
「コハル。君はこれからどうしたい?」
「私は・・・ハヤトたちのパーティーに入りたい!」
「よし!二人もいいな?」
「私は賛成です!私のことを守ってくれましたし」
「雫はどうだ?」
「私は反対」
「よーし!じゃあ・・・・、え?反対?」
なぜだ?こんなにいい子で強い子なのに。
「なんで?コハルを入れることには利点しか感じないが」
「仲間はミアだけで十分でしょ!それにまた女・・・・・」
「でもコハルを入れたらもっと楽しくなると思うんだ!」
「あっそ、じゃあ楽しんでれば!」
「待って・・・」
どっかへ走っていってしまった・・・。思えばコハルと一緒にいる時の雫はなんというか少し機嫌が悪いように感じた。
「ごめんね、私のせいで・・・」
「いやコハルのせいじゃない。ちょっと話してくる」
この世界での夜に一人は本当に危ない。
そんなことよりも俺の心が雫とは離れたくないといっている。
必ず雫を見つけ出してやる!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
しばらく歩いたところの森で俺は雫を見つけた。
「雫!」
「隼?なんでここに?」
「お前を探してたんだ!」
「なんで・・・・」
雫の目から涙が溢れていた。
「俺にはお前が必要なんだ!」
「なんで!ミアやコハルの方がいいんでしょ!」
「いやそれは違うぞ。俺はいつも1番に雫といたいと思っている。これは嘘じゃない!」
「嘘よ!あんな楽しそうにあの子たちと話して!私のことはどうでも良くなったのよ!」
「違うんだよ」
俺は雫の手を握りしめた。
「俺は雫とだからここまで来れたんだ。頼む、俺を信じてくれ」
ここまで熱く雫と話したのは、告白の時以来だ。あの時も俺から告白した。
「わかったわ。戻ってあげる。コハルがパーティーに入るのも許可してあげる。でも勘違いしないで!隼と一緒にいたいとかそういうのじゃないから!」
「あぁ、それでいい。ありがとう!」
この事件はすぐに終わった。
コハルがパーティーに入ることも許可され、今日から正式にパーティーメンバーになったわけだ。
いやぁ、本当にいい一日だった。
俺たちには剣などの近距離武器はうまく使えず魔法しか使えなかったがコハルが加わったことで近距離も戦えるようになった。これでパーティーの欠点はもうないだろう。
[作者より]
読んでいただきありがとうございます!
「面白い!」 「今後どうなる?」「続き読みたい」」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、自分の正直な感想でいいのでお願いします!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
4月前半から連載版を始めようと思っています。
よろしくお願いいたします。