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洋館の幽霊(前編)

「ねえ、巣鴨っちお願いがあるの!」


 授業が終わり、家に帰ろうと教室を出たところで呼び止められた。

 これはかなり珍しい出来事で内心驚く。


 俺に声を掛けてきたのは同じクラスの女子だ。

 確かギャル山ギャル美とかそんな感じの名前だった。

 赤く染めた綺麗な髪に、美しく整った顔。

 カバンにはド派手なキーホルダーをじゃらじゃらと着けている。

 化粧はしていないようだが、それ以外は名前の通りいわゆるギャルといった風貌だ。


 そんなギャル山ギャル美は、小走りでこちらに近づいてきた。


「私、守山アカネって名前なんだけど、どうか私の話を聞いて! 巣鴨っちの助けが必要なの!」


 俺がぼんやりと見返していたせいか、彼女は名乗ってくれた。

 俺に知られていないと思ったのだろう。

 実際、名前を勘違いする程度の関係でしかないし、彼女がそう思うのも無理はない。

 だが俺は彼女のことをきちんと認識していた。

 学校の外で会ったとしても、彼女であれば同じクラスの人だと分かる。

 それ以外のクラスの連中では、向こうから話しかけてきてもちょっと気付かないだろう。

 俺からしてみれば、彼女以外はモブなのだ。

 もちろんその連中からしてみれば、俺こそがモブなのだろうが。


 ギャル山、いや、守山は俺にさらに近づいてくる。

 目と鼻の先と言ってもいい。

 さすがに近すぎて、普段はクールに振舞う俺も思わず照れてしまう。

 守山はそんな至近距離から上目づかいでこちらを見てきた。


「巣鴨っちって、おばけとか得意でしょ? 除霊をお願いしたいんだけど……」


「……除霊、ね」


 嬉しい気持ちが一気にしぼんだ。

 なぜ急に話し掛けてきたのかと不思議には思ったが、そういうことだったのか。


 除霊。


 つまり守山は、噂で俺のことを知ったのだろう。

 特に意外ではない。


 子どもの頃の俺は、幽霊が他の人に見えていないとは思ってもいなかった。

 その認識の違いのせいで、小学校時代はクラスメイトとかなり揉めてしまい、結果的に連中は俺のことを「ウソつきタロウ」などと呼んでくる。

 そんなろくでもない連中の中には、この学校に進学した奴もいるのだ。

 相も変わらず俺の悪口を言いふらしているわけだ。


「あの、私は巣鴨っちのこと信じてるから。除霊、ホントにできるんだよね?」


 守山は慌てたようにあわあわと両手を振っていた。

 まあ内心どう思っていようと、この状況ではそう言うしかないだろう。

 とりあえず、笑顔で頷く。


「まあな。俺に対応できる幽霊か分からないけど、話くらいは聞くから」


 普段の俺であれば、適当に断っただろう。

 学生が噂する幽霊話のほとんどは創作で、そうでなければ勘違い。

 わざわざ俺が動く価値など無い。

 ……そうなのだ。

「除霊」は、多額の報酬があるから仕方なくやっているだけ。


 ただ、今回は例外的に依頼を引き受けようと思っている。

 なんといっても守山からの頼み。


 ……正直に白状すると、俺は守山のことが好きなのだ。

 きっかけはシンプル。

 俺が初めて守山を見たのは、この高校の入学式の時。

 あまりにも美しい彼女に衝撃を受け見惚れていると、彼女も視線に気付いたようでこちらを見てきた。

 そして目があって。


 ――ニコッと笑ってくれた。


 我ながら単純だが、その一撃でやられてしまったのだ。


 それに様子を見た限り、守山は本気で幽霊に怯えているようだ。

 もしかすると、本当に幽霊がイタズラをしているのかもしれない。

 守山からはなにか「特別な力」を感じる。

 その力が幽霊を引き寄せている可能性はある。


 そうでなくても守山くらい美人で性格も良い女性だと、モテない幽霊に恋心を抱かれたりその逆に恨みや僻みの対象になることはありえるのではないだろうか。


 実際、間近で見る彼女は驚くほど美人だ。

 いやホントにスゴイ。

 そりゃ、こんな子が微笑んできたら好きにもなる。


「……っ。へへへ」


 守山がいきなり照れたように笑いだした。


「なんだ? どうかしたか?」


「ううん。なんでもない、なんでもない」


 微笑みを浮かべたまま手を振っている。

 よく分からないが本人がそう言うのだから、気にせず話を進めたほうが良いのだろう。


「じゃあとりあえず、俺の家に来いよ」


「え!?」


 守山の驚いた表情を見て、俺は失言したことを悟った。

 普段、除霊の依頼があるときは依頼人に自宅まで来てもらっているのだ。

 俺の中で「幽霊の話=自宅で相談」という図式が出来上がっていたわけだ。

 しかし守山は当然そんなことを知らない。

 つまり俺は相談を口実に自宅に女性を誘う、卑怯なナンパ男と思われている可能性が高い。

 さすがにそれは心外だ。

 悪あがきかもしれないが、急いで訂正しておこう。


「わ、わるい、ぼんやりして言い間違えた。どこか適当な喫茶店にでも――」


「分かった。巣鴨っちの家に行こっか」


「はいっ!?」


 守山の言葉に、今度は俺が驚いてしまった。


「いやあ……。俺の家はマズイだろ。俺、1人暮らしだし」


「大丈夫だよ。私、巣鴨っちのこと信頼してるから」


 信頼とかそういう話ではない。

 今は学校の廊下で話していて周囲に人がいる。

 守山はモテるだろうし、聞き耳を立てている奴がいてもおかしくない。

 彼女に変な噂が立つと申し訳ないではないか。


「ふふふ、ホントに平気だから。ほら、行こっ!」


「おい、待てよ!」


 駆け出した守山のあとを、慌てて追いかけた。



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