始まりは終わりから
春、それは始まりの季節。
私は高校一年生となり、新しい高校生活、新しい人間関係、新しい部活動が始まっていた。
「今日も疲れた~」
あくびをしながら夜道を歩いていく。
スマホが示す現在時刻は10:30、塾で授業を受けてから、自習室で宿題をやっていたため時間が遅くなってしまったようだ。
「はぁ~」
ランニングしている若い女性、帰宅するサラリーマン、点滅する青信号、車が走る音、ボタンが鬱陶しく光る自動販売機。
全てが何事もなく普通である。
私は読書が好きだ。読書なんて言葉を使ったがそんな大層なものではない。言うなればライトノベルだ、ラノベは全てが普通であるこの現実世界にいる私をどこか別の場所へと連れ出してくれるのだ。
私は漠然と思う
現実じゃないどこか異世界にでも行きたいなぁ
と。
そう思った刹那、それに呼応したかのように地面が揺れ始めた。
「何、地震!?」
そして揺れたと思えばどこか一点に向かって地面が沈み込み始める。
「っ!!」
目まぐるしく変化していく状況に頭が追い付かない。
そしてその状況を理解したときにはもう遅かった、加速度的に動いていく地面になすすべもなく私も一緒に飲み込まれていった。
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「........ここは?...」
何が起きたか理解し始めた頃には周りの動きが止まっていた。
そして自分が今洞窟のような空間にいることに気づいた。
一見普通の洞窟に見えるが、その空間のただならぬ異質な空気を私は肌で感じる。
後ろを見ても前を見ても出口がありそうな気配がない。
(本当にどうしましょう...)
こんな非現実的なことが起こっているのにも関わらず、妙に私は冷静でいられた、むしろこんな突拍子のない事に興奮しているのかもしれない。
口角が上がる
とりあえず、辺りを探索してみようと考える。
「……!」
刹那、何かが動く物音が耳に入った。
(人がいるのでしょうか?)
考えてみればあの規模の異変で私以外の誰かが巻き込まれていたとしても不思議ではない。
私はその物音がした方に少しずつ近づいてみる。
そして、ちょうど角を曲がったところであった。
人?いや違う。あれは...
私に気づいたやつは、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。
緑色の肌、異様に尖った耳、不揃いの歯、悪い目つき
間違えなく人間ではない。
次の瞬間、やつは私を目掛けて走ってきた、まるで良い餌を見つけたというような醜い表情で。
私はすぐにターンし、来た道を全力で走り始めた
途中で背負っていたリュックも投げ捨てて、また走る
「くっ...」
重そうな棍棒を持ってるくせになかなか早く動く。あまり距離が開かない
(なんとかして巻けないでしょうか...)
私は分岐を上手く使いながら逃げきれないかと図った。
しかしその希望もすぐに打ち砕かれることになる。なぜなら行く先々にやつがいるからだ。
(非常に不味いです...)
落ち着いて考えている暇もなく私の体力はなくなっていく。
そして角を曲がったところであった。
私の視線の先には不幸にもやつがいた、そして後ろからせまるやつの足音。
挟まれた。
(ヤバイヤバイヤバイ)
今考え得るどんな選択をしても変えることのできないこの結末は 死
ついにやつは私の前へと立ちはだかり、手に持っている重そうな棍棒を振り上げる。
私はそこから逃げようとするもその抵抗虚しく、スイングされた棍棒は私の腹部へと打ち込まれた。
「う゛っ.........」
打ち込まれた反動で派手に倒れ後ろの壁へ衝突した。
腹を見てみると、棍棒に悪趣味にもつけられたトゲによってえぐられた傷口から大量の血が流れだす。
(熱い......熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い)
腹部から感じる尋常じゃない熱、痛みを熱だと錯覚しているようだ。
やつは私が悶絶しているのを見届けると、満足したように私の元を去っていった。
一度やつを殴ってやりたい衝動に駆られたが、今の状態では不可能だと分かりすぐに諦めた。
私に残された時間は少ない、流れ出ていく血は死への砂時計ならぬ血時計だ。
なぜ死ぬのは私なのでしょうか?どうしてこんなことが起こったのでしょうか?
いざ死ぬと分かっても、そのような問いしか浮かんでこない。走馬灯というのはお話の中だけだったのでしょうか。
ただ不思議と死は受け入れることが出来た。
別に後悔や思い出などはなく、意識は遠のいていく。
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私、赤井 結月は、ゴブリンによって殺された ?
春、それは始まりの季節。
新たな物語が始まろうとしていた。
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