そして、迎える 1
青い蝶は金色の煌めきを上下に振り撒きラーウの先を飛ぶ。
あの怖いくらい綺麗な闇色の男の元を離れれば、辺りを囲む光達の数はまた増えた。むしろ増え続けているようにも感じる。
でもわたしと蝶の周りには何故か近づくいて来ることはなくて。
きっと何かしてくれたのだろうと、ふいに近づいてきた蝶へと手を差しのべ、指先で休憩をする蝶を眺める。
小さく、「ありがとう」と呟いてみるけど、答える声はもちろんなく。ひとしきり休憩した蝶は再び飛び立ち、ラーウはまた後を追う。
蝶の向かう先にカイディルがいると、…いや、正確には断定されていなけども。
( 明らかに光達が集まる方向に向かってない? )
大丈夫だろうか?
思わずそんなことを考え足が止まる。だけど蝶は気にすることなくラーウを置き去りにして。
そして何故か少し方向を変えた。まるで何か見つけたように。
「――え? ちょっとどこ行くの!?」
後を追い掛けたラーウも、同様に見つける。
光達の囲まれて倒れている人の姿を。
( ……まさか……? )
「――――カイっ!?」
慌てて近づくと光の群れは散る。
そして倒れ伏す人物が赤銅色の髪色でないことにホッと息をつき、今度はゆっくりと歩み寄る。
( ………誰、だろ…? 死んでないよね…? )
こんなよくわからない場所で次に出会う人とは。
知っている人だろうか?と覗き込むけれど見覚えのない男性。胸の動きを見るに生きてはいるようだ。
ただあの闇色の男の人には負けるけれど、アルブスや母さんと同じくらい綺麗な人で、
今は瞳が閉じられてはいるけれど、きっとそれは髪の色と同じく黒色だろうとラーウは思った。
そして青く黄金に輝く蝶はと言えば、そんな男を心配するかのようにその周りをヒラヒラと飛んでいる。
「蝶々さん、その人は貴方の知り合い?」
その様子に、ポツリと尋ねてみる。
返るはずがないとわかっていて、でも何となく尋ねた言葉に。
「―――そうだよ」
そう返されて。
ラーウはビクリと肩を揺らし、蝶――、とは逆の、声がした背後を振り返る。
( ………っ!? )
一瞬――、鏡があるのかと思った。
そこに居たのは自分と同じ、白い色彩を纏う少女。
もちろん鏡などではなく、年齢もそう変わらなさそうな、だけどやはり知らない人。その人物は続ける。
「この体でも彼女の想いそのものまではわからなかったけれど、スルトの――、その倒れている彼の想いの深さを知れば、一方通行ではなかったんだと思うんだよね」
蝶と男へと視線を降ろし、肩先で切り揃えた白い髪を揺らしそう話す。
わたしに話をしているのだと思うけれど、意味のわからない内容に無言を返せば、その人はこちらの表情に気づき眉を下げて笑う。
「……ただの独り言だから、気にしないで」
その仕草が何となく見覚えがある気がするけれど。
「……………あの、貴方は…?」
そう尋ねれば、何故かちょっと困った顔をして。
「あー…、うんそうだね…、ノルンって呼んで」
「ノルン?」
名に聞き覚えはない。
「そう。――で、こちらからも聞きたいんだけど、どうして貴方もここにいるの?」
首を傾げるノルンに、連れてラーウも首を傾ける。
( ―――も? )
シンクロした動作のまま口を開く。
「どうしてって……、気づいたらここに居たから…?」
「独り?」
「――ん? ああ、さっきはすごーく綺麗な男の人も居たよ」
「ああ、それはきっとフレイね」と、ノルンは小さく呟き視線を伏せる。
「でも、フレイは何故ラーウを? ……呼び込んだの?
―――彼は、何か言ってた?」
当たり前のように彼女はわたしの名を知っていて。前半はきっと独り言で、後半は視線をこちらへと向けて。
ええっと。と、ラーウは思い出す。
「わたしがわたしを救えみたいな?」
「…………」
「幸せを望むって。何かを犠牲にして捨てても幸せを望むってさ。他にも色々言ってたけども…。
ああ――、そうそう! それは私の罪でエゴだって」
確かに他にも色々言っていたはずなのに。なのに何故その部分を抜粋したのかラーウ自身わからないけれど、ノルンの瞳が微かに見開く。
『お前がその為に何を犠牲にして何を捨てたとしても。それでも私はお前の幸せを望むよ。
……きっと、これは私の罪でエゴだ』
それが正確な言葉。今は離れた魂ではそれを共有してはいないけれど。
「――――そ、う……」
掠れた声が零れ、ノルンが瞳を閉じる。
ラーウは何となく声を掛けることを憚って黙った。
暫くして、ゆっくりと瞳を開けたノルンが言う。
「………ねぇ、ラーウ。 少しお話しよう?」
それにラーウは眉を下げる。
「でもわたし、人を…」
わたしは今、カイディルを探しているのだ。
「――人? ああ、カイディル? ……そう、そうだよね。 ラーウがここにいるってことはそうなるよね」
ノルンは少し寂しそうに笑い言う。
言い放たれた断定の言葉も気になるが、その寂しげな笑み方がラーウは気になった。そして尋ねる。
「……カイを知ってるの?」
「………」
答えることなく笑みは深まる。そして寂しさも深まる、透き通るように光に翳り。
そして気づく、暗闇のはずのこの場でこんなにもハッキリとその表情が見て取れるのは。
二人を囲む空間は今、光達に余すことなく囲まれていて。それは淡くもの悲しげな儚い光。離れるに従って溶け滲み闇に消える。
そしてまた新たに生まれる光は、目の前の少女、ノルンの内より涌き出ていることに、ラーウは気づく。
透明な、ひどく透明な笑みをたたえたまま、ノルンは口を開く。
「ラーウ、この世界はもう終わるわ。
世界は、私達のせいで終わるの」
淡々と告げられた言葉は、ラーウの耳を掠めるだけで上手く形にはならない。
「……………………何、言ってるの?」
ノルンはまた違う、困ったような笑みを浮かべ言う。
「そのままの意味だよ? 私と貴方、二人で世界を壊すの」
「――はっ!? 何でわたしが!? わたしがそんなことするわけないし!」
「でも………、私は貴方よ?」
「――――な、に…?」
ふいにノルンの姿がブレた。
切り替わるように変化した姿は、あまりにも見慣れた姿。それこそ鏡のように。
ラーウより長い波打つ髪、そして幾分か歳を重ねた顔。でもそれはあまりにも自分と同じで。
「………何で……?」
「だから言ったでしょ? 私は貴方だって」
真っ直ぐに見つめ、わたしが笑う。
書き終えました!
1~7+終幕(これはこれから書きます)
チェック入れつつアップしていきます!




