表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェルトアーデン交響譚  作者: 乃東生
36/81

3

やはり次の日もカイディルの姿はなく。

そして昨日より更に増して、ラーウの胸のザワつきは酷くなった。


「母さん! わたしやっぱりカイを探しに行く!!」

だから母さんに訴えてみたけど、

「―――はっ!? 馬鹿言うな!」

一蹴された。



「大体何処に探しに行くっていうんだ?

当てもなく探したって徒労に終わるだけだ」

「それはっ………!」

ラーウは口ごもる。けど。

「――じゃあ、教えてよ! どうせ母さんは知ってるんでしょ!」

「だ、か、らー! 待っていれば帰ってくるだろっ……(…多分)」


語尾を不自然に飲み込んだエルダに、ラーウは眉間にシワを寄せる。

「……………今、何かアレだったよね…? 」


けれどエルダもそれ以上に顔をしかめ。

「アレって何だ、アレって!

……――兎も角!例え知ってたとしてもお前には教えられない。みすみす、お前を危ない目に会わせる訳にはいかないからな!」


強く言い切られた言葉に、横で成り行きを見守っていたキリアンは瞬間的に苦い表情となり。

そして魔女自身も、自分の失言に気付いた。

「あ……」


「…そう――…。 ()()()()()()()ようなとこにカイは居るんだ」


「いや、それは……、

―――あっ!待てラーウ!!」


咄嗟に身を翻したラーウを、

止めたのはキリアン。

「ちょっと待って!」と、自分の腕を捕らえるエルフの青年をラーウは睨む。


「離してっ! …キリアンだって本当は全部知ってたんでしょ? ……なのに…っ!」

キリアンがカイディルをよく思っていないのは知っていたけど。それでも――。


危険だと分かっていて、なのに母さんもキリアンも何食わぬ顔で。そしてラーウにそれを教えることもなく。

……いや、だからこそ教えなかったのか。



そんなラーウの憤りなど、でも何の意味も成さないのか、

「……ね、少し落ち着いて。ちゃんと話をしよう?」

キリアンは聞き分けのない子供に向けるような顔をする。その事に、

ラーウは一度ギュッと唇を噛むと。

「………もう、いいよ。二人には頼まない!

わたし一人でも探すから!!」

声を荒げ、自分を捕らえる腕を外そうとする。

「ダメだって……っ、ラーウ!」

そしてそれをさせまいとするキリアン。


どちらも譲らない、そんな膠着状態の、

二人の攻防戦の間に落ちた深いため息。


「……キリアン、もういい。ラーウを連れていってやれ」

「……――は?」

ため息と共に吐き出されたエルダの言葉に、キリアンは何を言ってるんだという顔を向ける。

その思わず緩んだ手に、ラーウは拘束から抜け出ると魔女の元に駆け寄り。


「連れて――って、カイディルのとこ!? ホントに!?」

「その代わりキリアンから離れるな」


エルダは眉間にシワを刻んだまま、目を輝かせ自分の元へ来た娘の額を指先でコツンと小突く。

一瞬身を竦めラーウは自らの額を押さえると、上目遣いに、うん…。と頷き。

直ぐに笑顔に変わり魔女へと飛びつく。

「ありがとう! 母さん!!」


その勢いに、若干体を傾けながらも。

「今泣いたカラスとはよく言ったもんだな」と、エルダは呆れたように言った。 





ラーウは、用意してくる!と、声を弾ませて自分の部屋へと向かった。急ぐ姿はその言葉を撤回されない為か。


後に残された二人。

「…どういうつもりですか?」

不機嫌な顔と声でキリアンは言う。

問われたエルダはテーブルの上に頬杖を付き、横に立つ青年を見上げて。


「暴走されるよりはマシだろ?」

そう言って、逆の手はトントンとテーブルを刻み、「ただ――」と。

「別に会わせる必要もないがな」

気の済むよう付き合ってやれ。と、

告げるエルダに、キリアンは複雑そうに眉根を寄せた。


「貴方はラーウの……、あの男に向ける感情を認めていたんではないんですか?」

決定的な言葉を使うことは避けた弟子に、

しかもその現状を一番望んでいない本人が、それを問うことにエルダは苦笑する。

「確かにラーウが誰を好きになろうが良いと思う。気持ちだけならいくらでも自由だろ」

「…………」


エルダは、何か言いたげなキリアンから視線を外し頬杖を解くと、背もたれへと身を預ける。

「ただあの子が危険な目に会うというなら話は別だ。防げるものならそうしないと。例えラーウの身が不滅であるとしても」


「なら、あの男は見棄てますか」

キリアンは事も無げに言う。

「仕方ないな。馬鹿な行動を起こしたアイツが悪い」

「………ラーウに…、バレたら大変なことになりますよ」

それは自らに対しても。そして魔女は自嘲気味に笑い。

「だろうな…。 だけどそうだとしても、それは大した時間でもない」


そう、まだ何も解決していない。

ラーウはやはりまた繰り返し、全てを忘れる。



「――でも」と、

エルダは再び身を起こすと、机の上で両手を組み顎を乗せる。

「嫌われないに越したことはないだろうな」


それに関してはキリアンも同意なのだろう、無言で小さく頷く。

「まぁ、だからそっちはわたしがちょっと様子を見てくるさ。どうせアイツが向かう場所は分かっている。

――ていうか、寧ろお前達は近づくなよ」

それは、きっと()()()がいるだろうから。

だからお前は適当にラーウと時間を潰せ。と、エルダはキリアンに言う。


「結局は助けるんですか…」

少し不満気なキリアンの口調にエルダは笑う。

「お前、忘れてるのか? 自分自身もそれで助けられたことを」

「それは……っ」

ばつの悪い顔となったキリアンに、エルダは一頻り笑ってから、

「ただ実際――」と続ける。


「助けるかどうかはその場の状況に寄るだろうな。アイツ自身の望みの結果次第では」


「それはどういう……?」

意味なのだと問いかける弟子に、エルダは答えることなく立ち上がると一度伸びをして。

さて。とキリアンを見る。

「全員が森を開けるのもあれだから、ちょっとアルブスを呼んでくる」

ラーウは任せたぞ。と、エルダは言い残して先に部屋を出た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ