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ヴェルトアーデン交響譚  作者: 乃東生
30/81

束の間の 1

ラーウは森の中を行く。

「…どこにいるんだろ?」


探してるのはカイディル。

周りの精霊達に尋ねても、いまいち男の所在は掴めないらしく首を傾げるばかり。



今ラーウ以外の、エルダもキリアンも、アルブスでさえ何か忙しいらしく。

だけど今日は二か月に一度、作った薬を引き取りに行商のおじさんが来る日で。家を出ようとしたエルダにそう言えば、

「あー……」と、完全に忘れていた様子。

「南側の森の出口なら安全か……」

呟いた後、仕方ないと。


「ラーウ代わりに行って来て。

……ああ、そうだ。カイディルに付き合って貰えばいいよ」

そう言って、何故かニヤリと笑う魔女。

「カイに? …いいの?」

「ん? いいんじゃない。アルブスもいないし、丁度良くキリアンも出てしまってることだし」

「そう…?」


何か意味ありげなエルダの笑みと、何でキリアンが出てることが丁度良いのか分からないけど、母さんがいいって言うなら、まぁいいや。と。


何時もなら用事を押し付けられると、不満を口にしたはずのラーウなのに、

「わかった! じゃあカイに声掛けるね」

そう意気揚々と返事を返した。



――で、

カイディルが寝泊まりしている天幕を覗いても姿が見えなかったので、かれこれ一時間は森の中を探して、今に至る。


( ムリ……、まじで分からない… )


肩を落としトボトボ歩く、そんなラーウの目の前へと、

急に籔から飛び出して来た鹿が横切る。


「――わっ!! 何!?」

それは何かに追われ逃げるように。

同時にシュンッと風を切る音。

「―――!!」

目の前の景色を音と共に切り裂いたのは矢。それは鹿の急所を正確に射ち抜いた。

ドウッと倒れもがく鹿。


そしてその鹿を追って籔から現れたカイディル。

「! ラーウ…? どうしたんだこんなところで?」

「び、………っくりした…」

「ああ――、 …すまない」


探してたカイディルをやっと見つけたのは良かったけれど、突然の出来事に目を丸くしたラーウ。

カイディルは微かに眉尻を下げると、まだもがく鹿へと近付き、取り出したナイフで止めを刺した。


カイディルの手で、鮮やかに仕留められた獲物から流れ出る血を何となく眺めていたら、

「大丈夫か?」と、少し気遣うような声。

その声色にラーウはちょっと笑う。


「大丈夫。森に住んでるんだよ、私だって狩りはするし。危ないって言われるから罠が専らだけど。

ああ、そうだ! こっちに川があるから。早く血抜きをしなきゃ」

ラーウはカイディルを促し、一緒に手伝い獲物を川へと運んだ。




「でも、何で急に狩りなんてしてるの?」


手際よく獲物を解体してゆくカイディルを見つめ、ラーウは尋ねる。

その手捌きは実に見事で。

「カイって狩人なの?」

重ねて尋ねれば、カイディルは笑う。


「狩人ではないな。けど、俺は軍隊にいたから。

魔物や害獣の討伐で遠征ばかりで、だから食事は現地調達が基本なんだよ」

だから慣れた。と、話ながらも手を止めることはなく。

「カイは兵士なんだ」と呟けば、何故か少し苦い顔をした。


「じゃあ、食料調達なんだね、それ」

「そうだな」

ラーウの言葉に即答で返したカイディル。

そんな自分の言葉に、ラーウもはたと気付く。


「…………やっぱり、

ご飯持っていくの迷惑だったの、かな…?」



何気なく尋ねようとしたのに、その声は思ったより低くなって。

さすがのカイディルも一度手を止めこちらを見た。


家に来るのは断られ、それならばと、食事の話をした時に、カイディルは仕方なく受け入れてくれたのは分かっていた。だけど。

お礼も言ってくれたし、その後だって時折一緒に食事をしたりもした。キリアンは渋い顔のままだったけど。

けどそれも全部、結局は迷惑なただの押し付けだったのかと、ラーウは唇を噛む。

 

だが慌てたようなカイディルの声。

「――あっ、いや、違うんだ。そうじゃなくて…」

「………?」

はぁ。と小さなため息。

「結局、俺が一番食べているだろ…?」

「ん?」

「なんか悪いなって思って…」

「……はぁ」


基本的にラーウもエルダもキリアンも少食だ。1日2食で充分だし、昼は時折お茶を嗜む程度。人間さえも食べると言われるフェンリルのアルブスに至っては、実は魔石があれば食事など要らなかったりする。

だから、三度の食事を豪快に食べるカイディルは寧ろ、見ていて逆に清々しい。作り甲斐があるってものだ。


しかし、そんなこと気にしたりするのか?

それが何だか可笑しくて。ラーウの顔が思わず緩む。

「だから食料調達?」

「足しになればと」

獲物なんてアルブスに頼めば直ぐに手に入るのに。やはりどこか律儀なカイディル。そんな彼に。何故か心は弾み、自然と笑みが浮かぶ。


「よし! じゃあ、さっさと捌いて家に持って帰ろう! 量も多いし保存用にも仕込まないと!」


急激に気分は浮上し、張りきって腕捲りしたとろこで、ラーウは思い出す。カイディルを探してた本来の用事を。


「カイごめん、忘れてた。家に戻った後で、ちょっと着いてきて欲しいんだけど」と。



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