章幕「祈るように寄り添うように」
あの時の温もりは失った。
けど、新たに沢山のものを手に入れた。ラーウとの。
失うなら、また何度でも新しく刻めばいいだけだ。
出会って三度目の眠りからは、やっと一人で氷室へと来ることが出来るようになった。
その為に力をつけたから。眠る君に、毎日でも会えるように。
でも――、まだ足りない。
今は主が戻った氷の部屋の台座へとキリアンは近付く。
薄い繭に包まれて眠るラーウ。
見慣れたものより長い、緩やかに広がる髪は漆黒。
それこそがラーウの本来の色だという。
何故か分からないが、目覚めと共に抜け落ちる色。その黒色は力の証。
だからラーウは本当ならば力ある魔女なのかも知れない。
だけど別に、そんな力なんていらない。
( …俺が守るから )
何もかもから。
自分の中の全てを占める存在。今、自分の生きる意義。
繰り返しの中で更に深くなる想い。ここまでの執着がどこから来るのか分からない。
操られているのかもしれない。狂わされているのかもしれない。けど――、
ただ、愛しいと。
夢見るように眠る、大切な少女。
今は隔てられ触れることが出来ないことがもどかしい。
――だから、早く、
「早く起きて、ラーウ」
笑顔を見せて、声を聞かせて、
また俺に触れて、またその温もりを与えて。
凍える部屋で。少年から、今は青年へと成長したエルフは、眠る少女の側へと膝を折る。
祈るように寄り添うように。
ほぼここまでが序章的な感じになってしまった・・・。
次からはやっとラーウがメインかな?




