2、一緒に冒険をするようになった
「それともうひとつ、相沢さん、手を出してみて」
「こう?」
僕は手のひらを上に向けて、陽菜に差し出した。
陽菜が僕の手を取ろうとした。
だが、陽菜の手は僕の手をすり抜けてしまった。
「!?」
「不思議でしょ? 物、植物や動物、魔物には触れられるのに、人間同士だと相手が転移人でも現地人でも関係なくすり抜けちゃうの。なぜか服までね」
「めちゃくちゃリアルな夢、とかじゃないの?」
僕は何度も陽菜の手を触ろうとしてはすり抜けるのを見ながら訊いた。
「どうかなあ。だとしたら、私と相沢さんのどちらかが夢の中の住人ってこと?」
「そうなるのかな?」
「こんなリアルな夢、見たことある?」
「………………ない」
「仮に夢だとしても、ここまでリアルだともう現実と同じじゃない?」
「それもそうだね……。あれ? じゃあ、元の世界に戻るにはどうすればいいの?」
「こっちの世界で眠ったら、元の世界で目覚めようになってる」
「じゃあ、ふたつの世界で生きてるみたいなもんかな」
「かもしれない」
陽菜は何気ないことのようにいう。
もう今さら不思議がる段階ではないのだろう。
「他にも、ていうか一番大事なことかもしれないんだけど……」
一度、この世界に来てしまうと、元の世界で眠りに落ちるたびに、またここで目覚めて一日を過ごさなければならなくなる。
そして、こっちでも元の世界と同様に、眠くなれば腹も減る、喉も乾く、怪我や病気にも悩まされる。
なので、必然的にこっちでもなんらかの仕事をしなきゃならない。
僕たちのような転移人にできる仕事は、冒険者しかなかった。
冒険者ギルドに入会して依頼をこなしたり、魔物を倒して得た魔石を売って、金を稼ぐのだ。
「そういう仕様になってるみたい。ここみたいな店で料理を作ったりウェイトレスをしようとしても、必ず断られるようになってるの」
「ストーリーが決まってるRPGみたいだなあ」
「うん、本当にゲームの世界なのかもしれない」
「じゃあ、冒険者になって魔王を倒すとか、なにか目的を果たせば、もうこっちの世界で目覚めることはなくなるとか……」
「かもしれないけど、それもわからないの。だって、目的がなんなのか探り当てたひとがいないから」
「そっかー」
「だから、相沢さんも嫌でも冒険者にならなきゃいけないの」
「でも……冒険者っていったら、魔物と闘わなきゃいけないんだよね?」
「うん。でも心配しなくても大丈夫。すぐに慣れるから。一度、経験してみるといいわ。早速、行ってみましょう」
「行くって、どこへ?」
「魔物のいる森」
僕は否応なく魔物のいる森へ連れていかれた。
*
さっきいたのとは別の森。
陽菜はそこで実際に魔物と闘うところを見せてくれた。
敵は剣と盾を持った、動く人間の骨。
いわゆるスケルトンってやつだ。
陽菜は神聖魔法でスケルトンを浄化することで倒した。
続いて、眠り蛇と闘猿。
後で教えてもらったことだけど、こいつらはよくコンビを組んでひとを襲う。
陽菜は収納魔法で保管していた剣を取り出し、蛇猿コンビと闘った。
魔法使いといっていたが、剣を持っての闘いも強かった。
まず眠り蛇を一刀両断し、次に闘猿の首を刎ねた。
どちらも斬られた直後に、全身が凍り付いた。
氷結魔法の効果が付与された魔剣だったのだ。
死んだ魔物が光と共に消え、魔石が残った。
「この魔石を手に持って……「吸収」……すると、魔力が自分の中に入る。これを繰り返していけば、レベルアップしていくのよ」
「経験値が溜まっていくみたいなもんかな」
「うん。これは自分で倒した魔物の石じゃないと吸収できないようになってるの。だから……はい」
「え!?」
陽菜は僕に自分が使っていたのとは別の剣を差し出してきた。
「私が手伝うから、相沢さんも魔物と闘ってみて。最初はトドメを刺すだけでいいから」
「ええーっ!?」
本当はやりたくないけど仕方がない。
僕はおそるおそる剣を受け取った。
相手はまたスケルトン。
陽菜が神聖魔法でスケルトンが消えるギリギリまで浄化し、弱ったところを僕が頭蓋骨を断ち割ってトドメを刺した。
スケルトンが光を放ち、魔石を残して消えた。
僕はそれを拾い、
「吸収」
すると、
『レベル二になりました』
脳裏に女性っぽい無機質な声でメッセージが響いた。
「わっ!」
僕は思わず声をあげた。
「レベルアップしたでしょう? レベルが二になる条件は、どれでもいいから魔物を一体、倒すことなの。次からはそこまで簡単じゃないけどね」
「はー、本当にRPGみたいなんだなあ。けど、レベルアップかー、大変だなあ。あんな魔物相手に闘い続けるなんて、僕にできるのかなあ。その前に死にそうなんだけど」
「大丈夫。私が手伝うから」
「え? 手伝うって、藤崎さんが僕と一緒に闘ってくれるってこと?」
「うん」
「いいの? 僕に付きあっても時間の無駄だと思うんだけど」
「高レベルの人間は、来たばかりのひとを助ける義務があるの。私も一年前ここにきた時、カンストしてる女のひとに助けてもらったから」
「そうなんだ。それじゃ……お言葉に甘えさせてもらってもいいかな?」
「うん、喜んで!」
その日から、僕と陽菜は一緒に冒険をするようになった。