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 さえない僕だけが知ることになった雛酉さんの秘密。雛酉さんの制服を着た禿げたおっさんは、倒れこんだ僕を睨みつけたあと、その場に泣き崩れた。


「ちょっ! どうしよう……」


 僕は慌てて立ち上がり、気づくとなぜかおじさんをなだめていた。いや自分でも何をやっているかわからない。しかし羞恥にまみれた汚いおじさんの姿なんて僕は見たくもない。一刻も早く泣き止んでもらわなくては。僕はおじさんの背中をさすりながら、このおじさんが雛酉さんとなにか深い関係にある可能性を考えていた。


「混乱させちゃって、ごめんなさい。ちゃんと説明するわね」


 雛酉さんの制服を着たおじさんは、筋肉質の両腕で涙をぬぐいながら、僕の顔をみた。僕は彼の背中をさすりながらハンカチを取り出し、


「あのー、つかいます?」


とさしだした。おじさんは少し黙って、


「ありがとう」


とハンカチを受けとる。

 涙でとけた顔の脂がハンカチにしみこんでいった。あーあ、できることなら雛酉さんにハンカチを貸したかったなあ。僕は遠い目をしながら空を眺めていた。5分くらい経ったとき、また突然、さっきと同じように目の前のおじさんが光始めた。


「え?!」


 僕は両手でまぶしさから逃れるように目を覆った。再び女児向けアニメの変身シーンがはじまる。今度は大きくなったシルエットが縮んでいく感じだ。まばゆい光のあと、小さくなった影から艶やかな黒髪が見えはじめる。


「ひ、雛酉さん?!」


 叫ぶ僕を横目に、雛酉さんはその姿を現した。不思議なことに、さっきまでのおじさんと同じ姿勢をして、僕のハンカチを頬にあてている。赤くなった目と上目遣いのコンボは、なんとも麗しい。


「あっ、ごめん!」


 僕は慌てて彼女から距離をおいた。おじさんだと思って近づきすぎた。美少女の雛酉さんはそんな僕をみて小さく笑う。


「……ううん。こちらこそごめんなさい」


 彼女の目は泣いたあとのように腫れていた。赤くなった白目がなんともいじらしい。雛酉さんはみだれた制服をただすと、埃を払うようなしぐさをしてその場で立ち上がり、僕にハンカチを返した。


「今日の私、とっても変だよね」


 僕はなんと答えていいかわからず黙りこんでしまった。素直に変というべきか。乙女心は複雑でややこしい。すると雛酉さんは諦めたようにうなずいてから、僕を見て尋ねた。


「羽生君ってさ。霊感あるでしょ?」

「えっ、あるけど」


 唐突な質問に僕は呆気にとられた。たしかに僕には霊感がある。幼いころから幽霊とかオーブのようなものが見える。でも僕の霊感は弱い方なのか、見えるだけで幽霊の方から話かかけられたりはしない。これは僕の推測だが、おそらく幽霊側からは僕の姿は見えていないのだ。だから危害を加えられることなんかないし、それで困ったこともない。もちろん怖い幽霊もいるが、僕は生まれてからずっと幽霊が見えるので、気をつけてさえいればなんともない。それに時々、かわいい幽霊だっている。でも僕の霊感と雛酉さんのこの現象、一体何が関係しているのだろうか。


「やっぱりそうなんだ」


 雛酉さんはそう言って納得したように首を縦にふると、


「ねえ羽生くん。もし私が幽霊だって言ったら、どうする?」


と言って、僕の胸元に顔を近づけた。


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