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 僕と雛酉さんのとの接点は高校に入るまでなかった。はじめて雛酉さんを見たのは入学式の時。クラスの女子たちよりはるかに背が高く、艶やかな黒髪をもつ彼女を、僕は気づいたら目で追いかけていた。でもさえない眼鏡くん(B)の僕が、クラス一の美少女と仲良くなれる望みなんてない。雛酉さんはクールでおしとやか、勉強もできて生徒会に入っている。モブの僕とは大違いだ。そんな雛酉さんの秘密を、僕は突然知ってしまったのだ。


「見たのね?」


 誰もいない昼休みの屋上で、雛酉さんは腕組みをして僕をみた。あの事件おぞましい事件で気絶してしまった僕は、気づくと保健室のベッドにいた。昼休みになって目をさました僕の視界には、簡素な保健室の天井と、僕をのぞき込むようにして見ている雛酉さんの大きな瞳があった。

雛酉さんは僕と目を合わせると、


「来なさい」


と言って僕をひっぱり、そのまま誰もいない学校の屋上までつれだした。こんな美少女と手をつないでいるのに、ちっとも嬉しくない。それどころか心臓は別の意味でドキドキしている。僕はきっと見てはいけない重要な秘密を見てしまったんだ。もしかしてこのまま屋上から突き落とされたりして。そんな不安をかかえながら屋上まで登ると、雛酉さんは僕から手を放し、腕組みをしてこう言った。


「見たのね?」

「さ、さあ。なんのことかな?」


 僕はとりあえず言葉をにごした。


「とぼけないで」


 雛酉さんの、美少女の目がいつもより怖い。僕はとんでもないものを見てしまったのだと後悔した。きっとあのおじさんが雛酉さんの正体で、女子高生になりすましてやましいことでも考えているのだろう。あるいは女子高生になりたい純粋な変態だったりして……。とにかく僕はこれ以上、この人に関わってはいけない気がした。僕はただ、退屈な学校生活に華を添える美少女を愛でていたいだけだ。それなのに、こんな面倒ごとに巻き込まれるなんてまっぴらじゃないか。そうだ、向かいの席の坂本さんに乗り換えよう。雛酉さんにはかなわないが、彼女もなかなかの美少女だ。


「見たかもしれないけど、見なかったよ」


 僕は蟹のように横に歩きながら、雛酉さんを避けるように階段へむかった。よしよし、いい感じだ。このまま下の階まで降りて、それから男子トイレにダッシュだ。そうすれば雛酉さんは僕を捕まえきれまい。


「じゃあ僕は午後の予習をしたいから、これで……」


 そう言って屋上のドアに手を掛けて、下の階に戻ろうとする僕を、雛酉さんは抱きよせるようにして捕まえた。


「待って、逃げる気?」


 怖い目をしているが、いい匂いがした。ああ、やっぱり美少女だ。僕は雛酉さんとキスできる距離にいることに一瞬、浮かれてしまった。

 その時だ。まばゆい光線が雛酉さんの額から放たれ、彼女の身体を包みはじめた。


「うわっ!!」


 僕はおもわず目を瞑って、一歩後ろに下がった。雛酉さんが、美少女が発光したのだ。僕はなにかただならぬ出来事の気配を感じとっていた。それはまるで日曜日の朝に放送している、女児向けアニメの変身シーンさながらだった。雛酉さんのシルエットが徐々に膨らみはじめ、次第に筋骨隆々とした姿を形作っていく。


「いや! みないで!」


 激しい光の中で、クールな雛酉さんの恥ずかしそうな悲鳴が聞こえた。みないでと言われても、光がまぶしすぎて何も見えない。次の瞬間、僕は雛酉さんに押し倒され、そのままドアに寄りかかるように倒れこんだ。頭を押さえながら顔を上げると、「変身」が完了した美少女の姿がそこにあった。


「もう最悪! よりによって羽生くんに私の秘密を見られるなんて!」


 野太い声でスカートを押さえ、僕の方をにらみつける。そこには雛酉さんには到底似つかない、50代くらいの禿げたおじさんが立っていた。


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