どうも、名前の由来です。
お久しぶりです…。
四月……? まじで…? という気持ちです。
遅くなってすみません…。
そして説明回です、とてもくどい文になってしまった…。
いつもより短め。
割と大切なお話なので…覚えといていただければ…。
伏線として活きるのが何年後になるか分かりませんけど…。
オズワルド。それがお嬢様からいただいた俺の新しい名前だ。とは言っても苗字はないし、教会に正式な申請もまだしていないので、正確はまだ名前のない孤児でしかないのだが。
お嬢様が考えに考え抜いて──その過程は話すと長くなる、というより出た案が愉快すぎて話が進まなくなるので割愛──与えられた名前の由来は、言うまでもなくあの小説だ。
『黒玉の騎士』。
それがお嬢様お気に入りの物語のタイトルだ。平民の識字率はそう高くないこの国でも──多く見積って五割程度らしい──大半の国民があらすじだけでも知っているという、国民的小説と言っても過言ではない、前世で言うところのベストセラーノベル。
若くして辺境伯の爵位を継いだ主人公が、いくつもの戦火を越えて成長していくというのが主だった内容だ。独身主義なのか、彼自身が恋愛する描写はなく、主に戦記じみた内容なので女性には物足りないのではと思わなくはないが、妹と親友の恋路を見守る騎士の図がウケたのか、老若男女問わず人気が高いらしい。……一部の女性には騎士と親友の関係が刺さったのでは、という噂もあるがこれまた割愛。
それはさておき。『黒玉の騎士』がこれほど人気な理由の最たる所以はストーリー性云々より、やはり実在の人物がモデルだということなのだと思う。
なんでも、北の国境を護る辺境伯が実際に“黒玉卿”という異名を持つらしい。オズワルドのように何度も戦いに赴き、国の為──友の為に、その身を粉にしてきた、そんな実話を元に描かれた話だそうだ。
当時──二十数年前を知る人達にとってあの物語は勇敢な一人の少年の記録で、若い者にとっては心躍る英雄譚。──そして、三年前の事件を知る者にとって、敬愛する方々の追憶である。
国民的ベストセラー、『黒玉の騎士』の作者はモルガナイト・カルボーニオ。前国王妃であり、『黒玉の騎士』の登場人物な“妹”のモデルその人である。
そして、そのモルガナイト前王妃はすでに亡くなっている。王城に忍び込んだ盗賊に殺されたらしい。三年前に起きた悲惨な王族殺人事件は当時の王都を大きく揺るがしたそうだ。たまたま体調を崩し、王弟殿下の離宮にいた幼い王女を残し、押し入った賊に鉢合わせてしまった国王と王太子殿下共々殺害されてしまったらしい。刃物で首を掻き切られ、部屋中に血が撒き散っていたしうだ。国中の人々に愛された彼らは、今では小説の中でしか生きていない。……らしい。
どうやらその事件は俺が記憶をなくす前に起きた出来事らしく、伝聞で知っただけの俺には大勢を悲しませた大事件と言われてもピンと来ない。歴史書などで、かの王が如何に優れた王様で、その妻がどれほど素晴らしい王妃だったかは理解したが、あくまで紙上の出来事…他人事のようにしか感じられなかった。
俺は冷たいだろうか、そう思い実際に口にもしたが、先王について教えてくださった旦那様は苦笑をしただけだった。曰く、よく知らない人の死にいちいち感情を動かしていたらキリがないよねぇ、とのこと。そういう旦那様はどこか寂しげに視線を落としていた。いつもは綺麗に撫でつけている髪がやや崩れ、どこか沈んだ顔に影を作っていたのが、いやに記憶に残っている。深くは語らなかったが、きっと旦那様にとっては“よく知らない人”ではなかったのだろう。
それ以来、誰かに先王一家について尋ねるのはやめた。きっと旦那様だけではなく、多くの人にとって、三年前に起きた事件は大きな傷として未だ癒えていない。当時を知らない俺はそれだけ分かっていればいいと思った。
だけど、何故だろうか。知らない彼らと会うことが叶わない、それだけなのに。なんでか。──寂しいと、感じた。
名前のせいだろうか? 由来となったその人は、先王一家の悲報を無念に思っただろう。大切な友と妹、その二人の愛し子を一度に失ったそのとき、彼はきっと何も知らずにいた。いつも通りに領土を守り、いつも通りに隣国を警戒して、いつも通りの日々に飛び込んだであろう知らせに何を思ったのだろう。──その場にいなかったことを悔やんだんじゃないか、と思う。
国を、民を、その生活を。守り続けた騎士は、最も大切なものを手の届かないところで失ってしまった。その気持ちを俺には計り知ることはできない。
でも、かの騎士にとっての先王達は、俺にとってのお嬢様だ。まだ彼らのように深い絆は築けていないかもしれないが、もし彼女を失ってしまったら、きっと俺はだめになってしまう。二度も守りたい人を失いたくはなかった。
“黒玉の騎士”が守ったように、“黒玉卿”が守りたかったように。俺はお嬢様の騎士になりたい。
この名前をもらったとき、そう思った。