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第84話 ライアス達vs『竜の息吹』1

 



「くそっ、何がどうなってやがる」


 ライアスが所属していた『竜の息吹』のメンバーの一人、ゴイルは苛立ちを募らせていた。

 ゴイルは先ほど起こった出来事を思い返す。

 いつものように酒を飲んだ帰りにぶつかってきた人物。

 その男は滅多に見られないレベルの美女を引き連れていた。

 若干、年齢が若いというのはあったが、その美しさの前では些細なことだ。


 しかもその美女を引き連れているのは弱そうな男一人。

 ゴイルは少し揺すってやれば、男はすぐに逃げ出すだろうと高を括っていた。


 しかし、実際にはそうならなかった。

 ゴイルは顔に受けた痛みに、これは現実だと思い知らされる。

 いっそ悪い夢であれば夢見の悪さを呪うだけで済んだが、この痛みと血は間違いなく現実であることを告げていた。

 ゴイルは相手にすらされなかった。

 まるで師匠とそれに駄々をこねる子供……

 それくらいの差を感じてしまっていた。

 しかも、去り際の一言……


「あれは間違いなくライアスの野郎だったはずだ……」


 今は居ない男を思い出す。

 たまたまパーティの成績が良くない時から一緒だったから何となく一緒に居たが、成績が上がるにつれて鬱陶しくなっていった存在。

 明らかにお荷物だったはずだ。

 そんな存在が美女を引き連れて……いや、それだけではない。

 ゴイル自身より明らかに強くなっていたのだ。


 もちろんパワーまで負けているとはゴイルも思っていない。

 ただ、技は間違いなく──


「何だってんだ! んな訳ねぇだろ?」


 自分達が追い出した存在が強くなっていたなんて認めたくはない。

 ゴイルは浮かんだ思いを消し去るように酒を流し込んだ。


「どうしたんだ、ゴイル、そんなに荒ぶって」


 荒れていたゴイルの元に同じパーティメンバーのバランが声を掛けた。

 バランはパーティのリーダーで、剣の腕は高い。

 ゴイルもそこを認めていたからこそ、バランをリーダーとしてやってきたが、最近はどうもおかしい。

 ゴイルはここ最近まともに依頼を達成できないのはバランのせいだと思っていた。


「うっせぇな。黙ってろ。お前には関係ねぇだろ」


「そんな言い方は無いだろ?」


「うっせぇんだよ。お前らのせいで俺は怪我を負ったのを忘れちゃいねぇぞ」


「っ、あ、あれは、あの化け物が……」


 最近『竜の息吹』に流れる空気は険悪なものが増えた。

 それもパーティが依頼を達成できていないからだ。

 余裕のあった資金も底を突きかけている。


「そ、それは、ともかくさ。もう酒はやめろよ。そんな余裕は無くなって来てんだから」


「あ? それはお前らがちんたらしてるからじゃねぇか。俺は毎回体張って魔物の動きを止めてやってるのによ」


「それはゴイルが一人で先走るからだろ?」


 お互いがお互いのせいだと思っているためこの会話に進展はない。

 バランも最近自分たちが上手く行っていないことは分かっている。


「ったく、酒も落ち着いて飲めねぇ」


 ゴイルはジョッキに残ったお酒を流し込むと、お金を払って荒々しく酒場を後にする。

 残されたバランは一つため息を吐く。


(このままじゃ、ダメだ。何か、何かチャンスがあれば……)


 バランは神頼みに似た何かをするとゴイルに続いて酒場を後にした。



 ◇◆◇


 ◆バラン視点


 俺は日差しを受けて重い身体を起こす。

 最近はあまりよく眠れて居ない。


 それも最近上手くいかないことばかりだからだ。

 依頼の失敗が続き、その違約金の支払いに追われ、さらに受けられる依頼も減ってしまった。

 正直俺達には軽すぎる依頼しかギルドの連中は任せようとしなくなった。

 そんな依頼で満足できるわけもなく、依頼を受けない日々が続き、結果資金は底を突きかけている。

 一攫千金を夢見て行った大災害の魔物も不作どころか、とんだ返り討ちを受けてしまった。


 俺は腰に下げた巾着から鳴る寂しい金属音に残された資金が僅かだと再確認させられる。


(早くお金を稼がないと……)


 俺は軽く準備を済ませると泊まっていた安宿を出た。


「な、なんだ……騒がしいな」


 そう言えば最近、街が騒がしくなったような気がする。

 俺は近くの通行人を捕まえると何があったか、軽く話を聞く。


「お、おい。なんだってそんなに慌ててるんだ?」


「んあ? 知らねぇんか? また魔物が攻め込んで来たんだとよ。最近、ずっと攻めて来てんだからあんたも知ってんだろ? それでなんだが、俺はポーションを売ってる者でね。この機会に一儲けしようって魂胆さ。見た感じあんたも冒険者だろ? 買って損は無いと思うよ~」


 そう言って通行人は俺の前にポーションを吊り下げる。


「悪いが街のために働く気は無い」


「何言ってんだ? 街のために働いてるのなんて騎士団くらいなもんさ。何でも倒した数に応じて街から報酬が出るみたいでね」


「っ!」


 俺は自分の知らない間に何か重要なイベントが行われていることに気付く。

 どういうことだ?

 今までであれば街のピンチは騎士団が何とかしていたはずだ。


「度重なる魔物の侵攻だからねぇ。騎士団だけでは耐えられないと感じた領主様がついに冒険者に報酬を与える決断をしたんだとさ」


 報酬……!

 報酬の具体的な数は知らないが、もし()()()金なら他の冒険者が動くはずがない。

 詳しいルールなんかは現地で見れば分かるだろう。

 最近、金欠と依頼の少なさに悩まされていた俺にとってはとてつもないチャンスかもしれない。

 そうと分かれば俺はみんなを集めるために動き出した。


「お、おい! ポーション……ったく、これだから冒険者の相手はするもんじゃないね」



 ◇◆◇



「おい、俺はまだ頭が痛いんだが」


「金には代えられないだろ。今回はチャンスなんだ」


「お金ってほんとに貰えるのよね? 最近アンタらといてもお金にならないし」


 俺はマルナのセリフに内心腹を立てる。

 前々から思っていたがマルナは金への執着が凄すぎる。

 少し冒険以外のことで魔法を使ってもらおうとすると金を取るからな。

 それでも魔法の腕は確かだから一緒にやっているが、それが無ければすぐに追い出していたところだ。


「ああ、何せ国からの依頼みたいなもんだからな」


 ほんとは街からの依頼で、別に俺達に依頼が来た訳では無いが、俺は少し誇張して伝える。

 国からの依頼と聞いて、マルナは納得したように口を閉ざした。


「でも、危険なんじゃないの?」


「大丈夫さ、ナージ。今回は俺達以外にも人は居る。良い所だけ持って行けば良いんだよ」


「バランがそう言うなら」


 俺は昔からの幼馴染であるナージを安心させると街の門へと急いだ。


 ◇◆◇



「おいおい、かなり攻め込まれてるじゃねぇかよ」


「ほ、ほんとだ……大丈夫よね?」


 門の外はかなり混戦と言った形になっていた。

 門辺りにもかなり攻め込まれているようで、騎士団がすんでのところで踏ん張っていた。

 それでも騎士団長の指示で危なげなく魔物を狩っているのを見る限り、当分は門が崩壊することは無いだろう。

 そして、そんな中で魔物の首を取り合う集団を見つける。


 冒険者だ。

 俺はそれを見て、これがどんな戦いなのかを理解する。

 敵を倒せば倒すだけ報酬は増えるはずだ。

 ただその判断材料が自己申告なんて訳が無い。

 恐らく持って居る魔物の首の数で判断されるのだろう。

 だから、ああして魔物の首を取り合っている訳だ。


 俺が冒険者達を見て、この戦いの本質を見据えていると近くに居た門番から歓声が聞こえて来た。


「おぉ! あいつらまた魔物を倒したぞ!」


「凄い勢いだ。マジで何者なんだ?」


 暗く士気が下がっている中に聞こえる明るい声はより一層場に響いた。

 誰もがその発言者の視線を追う。

 その先では驚くべき事態が起こっていた。

 一つの集団が魔物を文字通り殲滅していたのだ。

 吹き荒れる魔法は魔物を穿ち、何故か大型の魔物が空に投げ上げられていた。

 時たま魔物が爆発したり、切り刻まれたりしており、明らかに尋常ではない。


 その光景を見て誰もが希望を抱く。


「よ、よし……勝てるぞ!」


「お、俺達もやるしかない!」


 門に張り付いていた兵士たちの士気が瞬く間に高まっているのが分かった。

 終わらない魔物の攻撃に暗い顔をしていた騎士の顔が一つ明るくなる。

 そして、その騎士団を率いているであろう人物からの言葉。

 それを聞いて俺は身体に寒気が走った。





「流石ライアス達だな。何とか騎士団に入って欲しい気持ちもあったが、あれはこんなところで腐る存在じゃ無いか」


(ライアス……?)


 俺はかつて一緒に冒険していた男を思い出す。

 なんでここでライアスが出てくるんだ?


 俺はもう一度先ほどから暴れまわっているパーティに目を向ける。

 遠めなので詳しい外見は分からないが見た感じ女が多い印象だ。

 だが、その中に一人男の服を着た奴がいる。

 そいつは短剣を両手に持って魔物の攻撃をいなしたりしていた。

 身長なんかはライアスと似ている気がするが詳しいことは分からない。


(ま、まぁ、あれがライアスな訳ないよな。それならなんであんな強い奴と組んでるんだって話だし……)


 しかし俺の考えはゴイルの言葉によって切り捨てられる。


「あれはライアスだぜ」


「ゴ、ゴイル? 何を言ってるんだ?」


「この前見たんだよ。あいつが女とつるんでるのをな」


「う、嘘でしょ……ライアスってあのライアスよね……」


 そんなことはあり得ないと直感的に否定したくなったが、俺は少し前の出来事を思い出していた。

 俺が大災害の魔物の素材を持ち帰ろうと森に入った時、ライアスは俺の前に現れた。

 その時にエルフではあるが、化け物のような強さを持っていた奴がいた。

 本能が逃げろと叫ぶほどの恐怖。

 俺はあの化け物のことを思い出し、その恐怖を押さえるように唾を飲み込んだ。


「あの化け物は居ないはずだぜ」


「そ、そうか……」


 ゴイルの言葉にみんながほっと息を吐く。

 まぁ、流石にエルフを連れ込むことはしないか……


(というか、あいつ追い出されてから何をしてたんだ?)


 全く興味が無かったから気にもしていなかったが、そういえば最近街では見かけないなと思っていた。

 そもそもエルフと知り合っている時点でおかしいし、あんなに強い奴と組める技量も無いはずだ。


 俺が考え込んでいるとゴイルが耳打ちしてくる。


「おい。バラン」


「な、なんだよ」


「俺に考えがある」


 ……


「そ、そんなことしたら騎士団に……」


「大丈夫だって。ほら見てみろ。あそこでも奪い合いが起こってるのに何もお咎めが出て無いだろ?」


「そ、そうだが……」


「おい、マルナ。お前は金になるならなんでも良いんだろ?」


「ええ。お金が貰えるならね」


「そら、マルナは良いって言ってんぞ。ナージはどの道お前の言うことを聞くんだ。お前が決めろよ」


 ……


 俺の目の前ではライアスと思われる人物が活躍していた。

 騎士団みんなに期待の視線を向けられ、誰もがその存在に感謝をしていた。

 俺は昔、ライアスがリーダーだった頃のことを思い出す。


『竜の息吹』のパーティが結成した時、リーダーは冒険者の経験があったライアスが務めていた。

 俺も冒険者になりたてだったから素直に言うことを聞いてやっていたが、パーティで褒められていたのはいつもライアスだった。


『おい、ライアスの野郎、初心者纏め上げて成果上げてるみたいだぞ』


『嘘だろ? 俺も少しビギナーと話したことあるが、プライドだけ高かったからなぁ。アレを纏めきるなんてやるじゃねぇか』


 それは依頼先でも同じ状況が起きていた。


『ありがとうねぇ。貴方のお陰で畑が救われたよ。ほら、これは持って帰ってみんなでお食べ』


 感謝されるのもライアス。

 褒められるのもライアス。


 俺はそこでリーダーが褒められるということを知った。

 だからこそ、半年経った日に俺はライアスに言ってリーダーになった。


 リーダーになってからは出来るだけ俺が成果を上げるように努めた。

 その結果、褒められるのは俺になった。

 ライアスの存在もどんどん薄くなっていく。

 それでよかったんだ。


 なのに……


「ライアスって言うんですか。団長が人を欲しがるなんて珍しいですね」


「ああ。あいつは相当やべー奴だぜ」


「団長がそんなに言うなんて……俺、後で握手してもらおうかな」


「おい、喋ってる暇はねぇぞ。騎士団でもねぇあいつらが頑張ってんだ。ここで俺達が踏ん張れなくてどうするんだ? そうだろ?」


「「「おおおぉ!!」」」


 また、ライアスが注目されている。

 感謝されている。

 俺の中で嫉妬に似た感情が膨れ上がっていくのを感じた。




「……分かった。やるぞ」



 ◇◆◇



 ◆ライアス視点



(やっぱりみんな強すぎるよね……)


 みんなには出来るだけ目立たないように力を抑えてくれと言っていたんだけど、無理だったみたいだ。

 ミーちゃんは魔物を投げるし、カナリナは魔法で殲滅するし、プリエラは魔物に触れた瞬間に吸血姫の力を使うことで木っ端微塵にしてるしでほんとにヤバイ。


「ライアス君、みんなすごいね」


「アイリスも十分凄いよ。僕もすごい戦いやすいし、アイリスが居ないと僕が困るな」


 今はアイリスと一緒に魔物を狩っていた。

 アイリスは銀狼族であることもあるのか、身体能力が非常に高い。

 騎士団の人に借りた剣をしっかり使いこなしている。

 今は僕と二人で背中を合わせて戦っている状態だけど、良いペアになっていると思う。

 どちらもお互いの動きを把握しているので綺麗に連携が取れるのだ。


「そ、そうかな? えへへ」


 僕が目の前の四つ足の魔物の攻撃を上手く受け流すと、その眉間にアイリスが剣を突き立てた。

 それ以上、暴れないように僕はすぐさま懐の潜り込み、魔物の首を落とす。


 こうして普通の魔物と戦う機会は久しぶりな気がするけど、かなり戦いやすいな。

 冒険者時代は僕がみんなに合わせる戦い方だったけど、今は僕が無理に合わせなくても感覚で合わせることが出来ている。

 そのお陰か、僕もいつも以上に活躍出来ていた。


 ただ、僕の役割は目の前の魔物を倒すことだけではない。


「ミーちゃん、少し戻ってきてー!」


 僕は状況を見て、ミーちゃんに呼び掛ける。

 少し魔物がミーちゃんに集中しだしていたのだ。

 ミーちゃんも自信がついてきたのか、大胆に行動できるようになってきたのは良いんだけど、まだ視野が狭いところがある。

 だからこそ深追いし過ぎないように僕が手助けをしなければならない。

 みんなが怪我をしてしまうことが一番辛いので、そこの注意は必要だ。


「お兄ちゃん、どう~? ミーも戦えてるかな?」


「うん。十分すぎるぐらいだよ。でも、張り切り過ぎないようにね。危なくなったら戻ってくるんだよ」


「は~い!」


 元気に返事をしてくれるミーちゃん。

 やはり巨人族の血があるのか、戦うこと自体はミーちゃんも好きなようだ。

 好きに暴れて良い今の状況は良いストレス発散の場になっているかもしれない。


 まぁ、そんな訳でミーちゃんは特に気をつけて見ないといけないけど、プリエラとカナリナの安定感はすごい。

 吸血姫の力を制御できるようになってきたプリエラは魔物に合わせた力の調整が出来るようになったため隙が無くなった。

 カナリナは師匠との一件からさらに魔法の研究に力を入れるようになったため、どんな状況にも対応できるようになってきている。

 僕も最低限の注意は払っているけど、大体は彼女達の好きなようにやらせていた。


(まぁ、そのせいで目立っているんだけどね……)


 とはいえ、せっかくの実践の機会だし、ここはみんなの好きにやらせよう。

 彼女達が暴れればそれだけ団長の負担も減るはずだ。


 僕が二人の活躍を確認しているとアイリスが僕の手を引っ張ってきた。


「ラ、ライアス君。向こうから人の集団が……」


「ああ、ついに来たみたいだね……」


 僕達はずっと前線で魔物と戦っていた。

 その結果、僕達が戦っている前線にはかなりの量の魔物の死骸が散乱していた。

 団長曰く、魔物の頭の数で報酬が決まるみたいだから、それを拾いに来たのだろう。

 こうなることは昨日団長から聞いていたので予想出来ていた。

 そしてこれは僕の目的通りの流れだ。


「お兄ちゃん、どうするのー?」


「どうもしないよ。ミーちゃんはこの魔物の頭を集めたい?」


「うーん。あんまり可愛くないからいらないよ?」


「だよね。だから、持って行きたければ持って行ってもらえば良いんだよ」


 正直に言うと、ドリスタさんにお金をいただいたので金銭的な面では困っていない。

 僕として気になるのは彼女達の頑張りが正当に評価されるかどうかだ。

 そこはしっかり団長と話をしたので、問題無いだろう。


 そう、だから僕達は魔物の頭を無理に集める必要は無い。

 それよりも今回の件で優先すべきことは働かない冒険者をどうやって動かすかだ。

 少し言い方は悪いけど、団長は冒険者に対する姿勢が真摯過ぎるのだ。

 冒険者は基本的にお金が無いと動かない。

 少なくともこの街の冒険者はそういう人たちが多く集まっている。


 そして今回の形だと、魔物を倒すよりも倒された魔物の頭を取った方が効率が良い。

 だから、そういう形を取る人がどうしても多くなってくる。

 そんな人を動かすにはどうすれば良いか?


 それは戦うしかない状況に持って行くことだ。

 そういう考えを持った冒険者も流石に魔物に襲われれば、戦わざるを得ない。


「う、うわっ。魔物が攻めてきたぞ!」


「く、くそっ。仕方ない。戦うぞ!」


 だからこそ、僕は団長に行って前線に来たのだ。

 正直、団体で戦うには僕達はかなり先行してしまっている。

 それくらい行き過ぎた前線なので、当然魔物は四方八方から攻めて来る。

 僕達がひっきりなしに戦っているのもそのせいである。


 そんな前線で暴れていれば、そこに転がる死骸に惹かれて来る人は一定数居ると思っていた。

 そして一人来てしまえば、そこにある魔物の死骸を取られまいと後に続く人が出てくるのだ。

 案の定、前線に来てしまった冒険者の数は多い。

 そして前線に来た冒険者には当然、魔物が群がるため戦わざるを得なくなる。

 これで、少しでも実際に戦う戦力を増やすことが出来るだろう。


「よし、もうちょっと前線を上げるよ。ついてきて」


「うん!」


「ミーも頑張るよ~」


 後は魔物が途切れるのが先か、僕達の体力が無くなるのが先かの勝負だ。



 ◇◆◇


 ◆カナリナ視点



 あたしは今、派手に暴れまわっていた。

 魔物を倒すのもそうだけど、わざと目立つように激しい魔法を使うようにしている。

 これであたしたちは目立つはずだ。

 これだけ活躍するあたしたちを見れば間違いなく、あのパーティは接触してくる。

 それをあたしは待っていた。


 どんどん溢れて来る魔物を倒しながら、あたしはライアスの元パーティメンバーがどこにいるかを確認する。

 あたしは少し前にライアスを追い出したパーティのメンバーを見に行った時、その人物に目印をつけた。

 正確にはあたしの魔力を残してきたんだけど、まぁそこはいい。


 そしてその目印が四つともこの辺りに来ているのが分かった。


(やっぱり来たわね……)


 あそこで大柄な男と接触したことであたしたちのことも伝わっているはずだ。

 そうなればライアスのことは絶対に気になるだろう。

 あたしの予想が間違っていなかったことを証明するように目印が動き出した。

 それを見て、あたしも行動を開始する。


 あたしは定期的に視線を送ってくるライアスの方を見る。

 あたしが頑張ったのはライアスが見ているからという理由もある……いや、それが一番かもしれない……


(これだけ活躍してるんだし、後で褒めてくれるわよね……)


 あたしが視線を送っているとライアスが振り向いてくれた。


「っ」


 あたしは胸の高鳴りを押さえるように一度深呼吸するとライアスに一つ頷く。

 これだけであたしの思いは何となく伝わるはずだ。

 何をするかは分かってないだろうけど、単独行動をするよというサインだ。

 ライアスもあたしに合わせて頷いたので行動を開始する。



 ◇◆◇



 ◆マルナ視点



 世の中、お金が全てだ。

 貧しい家で育った私にはお金の大切さが分かる。

 結局、お金さえあれば何でも解決できるのだ。


 ただ、だからと言ってがむしゃらに頑張るのはカッコ悪いと思う。

 だから、私は出来るだけ楽をしてお金を稼げるようにしたい。

 その過程で、他者を陥れようと何も思わない。

 やられる方が悪いのだ。


 私はみんなと離れると、少し森の中に入って騎士団の影になる場所に移動する。

 私の仕事は必要になればここから攻撃を加えること。

 正直に言って私の魔法の腕は高い。

 その辺の魔物なら問題なく狩れるだろう。

 ただ、ゴイルが言ったように人が倒した魔物を横取りした方が効率が良い。

 それならば人に対して攻撃をすることもやぶさかではない。

 褒められた行為では無いが、問題はバレるかどうかだ。

 それがバレないくらいの技量は持ち合わせている。


 私はバラン達が魔物に襲われているのを遠めに眺める。

 あのままでは魔物の死骸まで辿り着けないだろう。


 私は仕方なく水魔法を放って魔物を怯ませる。

 これでバラン達が死骸の山がある場所まで辿り着けるはずだ。


「ん?」


 よく見ればバラン達の他にも死骸に群がっているのが居るな。

 ここで他の人に取られては意味がない。

 私は魔物の死骸に向かっている冒険者に狙いを定める。

 少し怯ませる程度の火力に調整する。

 まぁ、当たっても死ぬことは無いだろう。


「それは私のお金よ」


 私は何の感慨もなく、淡々と魔法を放った。

 感覚で魔法が命中したことを悟る。


(後は他の冒険者も……えっ!)


 他の冒険者に狙いを定めようとしたとき、私に理解不能なことが起きた。

 先ほど冒険者に向けて放った魔法が空中で消え去ったのだ。

 何かに邪魔される要素は無い。

 理解が追い付かない私の元に女の声が聞こえて来た。


「へぇ、案外魔法の腕は良いのね」


「っ! 誰だ!?」


 私が振り返ると、もう少し森の深い所に女が立っていた。

 その女が持つ紅い髪は緑が多い森の中で少し目立っていた。


「答えても誰だか分からないと思うわよ。まぁ、そんなことはどうでも良いの。アンタ、今他の冒険者を狙ったわよね?」


「はっ、何を言うかと思えば。そんな訳無いじゃない。私はただ仲間を守ろうとしただけよ」


「へぇ、そうなんだ。まぁ、聞いておいてなんだけど、その件に関してはあんまり詮索する気は無いの」


 私は目の前の女の意図が掴めず、内心困惑する。

 いったい、何故ここが分かったのか。

 先ほど私の魔法が消えたのはこの女のせいなのか。

 この女は何がしたいのか。

 疑問は募るばかりだ。


 そんな女から唐突な質問が来た。



「アンタ、ライアスって知ってるわよね?」


「っ」


 そう言った瞬間、目の前の女からの威圧が急激に強くなった。

 空間が捻じれていると錯覚するくらい……いや、実際ににじみ出た魔力によって空間が歪んでいた。

 私はその魔力の圧に冷や汗を流す。


「はっ、し、知っていたらと言って何なのかしら?」


「それにこの前、森でライアスに魔法を打ったわよね?」


 ……


 私はこっそり魔法の準備をしていく。

 もう、なんかめんどくさい。

 ちょっと話して帰そうと思ったけど、いちいち煩い。


「あれ? 聞こえているかしら?」



「いちいち煩いのよ。それをやったから何だって言うの?」


 私は勢いに任せて目の前の女に魔法をぶつける。


 これで……


「なっ!」


「悪いわね。アンタの魔法は悪く無いけど、何の努力もしていないアンタにはあたしを倒すことはできないわ」


「っ! うるさいわね!」


 魔法を消された私は意地になって魔法をぶっ放す。

 正直、普通の人に打てば相手の命は保証されないくらいの一撃だ。


 でも……


「なんで……」


「だから、あたしにはアンタの魔法は効かないのよ。ねぇ、もう一回聞くわ」




「アンタ、あたしの仲間を傷つけたわよね?」




 女が纏っていた魔力が女の右手に集まっていく。

 その様を見て、私は目の前の女に適わないことを確信した。

 魔力の扱い方の桁が違う。

 魔力の量も然ることながら、その扱いが尋常じゃない。


 そして、先のセリフからこの女がライアスの仲間だということを私は理解した。

 そうしている間にも右手に練られた魔力はその濃度を増していく。

 本能があれを撃たせてはならないと叫ぶ。


「あ、あれは……そう、指示されたからなの! 私はそんなことしたく無かったけど、パーティのメンバーに脅されて仕方なく──」


「──まさか、そんな嘘が通じるとでも思ってるのかしら?」


「ひっ!」


「そう。それならあたしも誰か知らない人に指示されたから魔法を使おうかしらね」


「あ、あ……わ、分かった! お金、お金をあげるわ! 幾ら? 幾ら欲しいの? パーティのお金は少なくなってるけど、ずっと溜めてたお金があるわ! そこから半分くらい──」


 必死に命乞いをする私の横を何かが通り抜けた。

 多分、目の前の女が軽く魔法を放ったのだろう。


「──ほんとにどうしようも無いわね」


 私は腰を抜かして、何も喋れなくなる。

 ただただ、目の前に佇む女を見るしか出来ない。

 その紅い瞳は明らかな怒りを宿していた。

 そこで、あたしは手を出してはいけない者に手を出していたことを悟る。


 この前、森でライアスに攻撃した時も訳の分からない化け物が出てきた。

 そして、今ではそのことを咎められて、また別の化け物が私を追いこんでいる。


 私はライアスに攻撃したことを深く後悔していた。


「アンタねぇ。どうせライアスを攻撃しなければ良かったとか思ってるんでしょ?」


「っ」


 もう動揺を取り繕うことも出来ない。


「問題はそこじゃないのよ。まぁ、良いわ。そこを正すのはあたしの役目じゃないもの。あたしの願いは一つだけよ」


 そう言って女は私に一歩、また一歩と近づいてきた。


「ひ、ひっ。許して……」


 私の目の前まで来た女は少し屈むと、私に耳打ちする。





「アンタ、次ライアスに手を出したらただじゃ置かないからね」


「は、はいぃ……」



 ◇◆◇



 ◆カナリナ視点



 あたしは目の前で気絶した女を眺める。

 少し怒りが先行してやりすぎてしまったかもしれない。


 こんなとこ、ライアスに見せられたものではない。

 あたしは少し反省すると、他の元パーティメンバーがどこにいるかを確認する。


「結構、ライアスに近いわね」


 ここからどうなるかは分からないけど、この女が冒険者を狙っていた辺りからも、あのパーティは何かやらかすだろう。

 まぁ、それでもプリエラやアイリス、ミーちゃんも居るし万が一のようなことは無いはずだ。

 それにライアスも強い。


「ライアスはどうするのかしら」


 過去、自分を裏切ってきた相手にライアスがどのように対処するのか見届けるためにあたしは気絶した女を担ぐと行動を開始した。





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