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第5話 走れライアス

本日三話目です。

 

 僕は森をひた走る。


 止まるともう動けなくなるからだ。

 いつもはこんなに速くは走れないし、走らない。

 足をあり余る魔力で強化しているのだ。

 だからこそいつもしている周りへの注意も散漫だ。

 さっきから森の枝とかのせいで身体に無数の傷が出来ている。


 それでも一刻も早くスポットに行かなければ……


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 そう、プリエラのためにパラセートを剥がしたが魔力の少ない場所で剥がしても直ぐに元の宿主に戻ろうとする。

 似たような家があれば、住み慣れた家を選ぶような感覚だ。

 しかも一度寄生した相手にはすぐに寄生できてしまう。


 それなら剥がしたタイミングで殺せば良いじゃないかというもっともな指摘もあるだろうがこれは出来ない。

 魔力暴走で無い時ならまだしも魔力暴走で緻密な動きが出来ないときに高速で動くパラセートは捕獲できない。


 だから僕はパラセートに自分から寄生されに行った。

 パラセートが寄生に時間が掛かるのは寄生される者が抵抗するからであって、受け入れようとすればすぐに寄生することができるのだ。


 タイムリミットは僕の魔力が底を突くまでだ。

 それまでにスポットに辿り着かなければならない。

 スポットに辿り着く前に僕の魔力が無くなればパラセートは魔力を追ってプリエラの所まで戻るだろう。


 僕は木々に躓きながらもスポットのある所まで走る。


 あと少し……

 あと少しでスポットである洞穴が見えて来る。


 グォオオオオオオ!!!!


 スポットの近くまで来たとき地面を揺るがすような咆哮が聞こえて来る。


 くそっ、あと少しだったのに……


 それでも止まることは出来ない。

 僕は走りながら横を見る。


 あれは……ホワイトベアか、流石ゲーニッヒ森林……

 ホワイトベアは白い毛皮を持った熊型の魔物で、かなり強い魔物だ、恐るべきはその大きな体躯から繰り出される無慈悲な一撃。

 大きな魔物が小さき人間を殺すのに小細工は要らない。

 その圧倒的な火力で薙ぎ払えばいいのだから。


 ホワイトベアは鋭い爪で地面を抉りながら僕の方に猛進する。

 その時に弾かれた石が僕の頬を(かす)める。


 くっ!間に合わない!

 ここでホワイトベアと本気でやりあっても勝てないだろう。

 勝敗が着く前に僕の魔力が確実に尽きる

 だがこのまま走り続けてもホワイトベアに飛ばされて動けなくなる、それもマズイ。


 僕は走りながらもホワイトベアに向かって魔法を使う。

 いつもは魔力が少なくて使い道にならない魔法も魔力暴走のときに限り、実戦レベルに持ち込める。

 僕は水の魔法を唱える。

 攻撃性は無くていい、だが出来るだけ大きなものが好ましい。


 僕は大きな水球をイメージしてそれをホワイトベアの進む先に落とす。


 グワァアアアア!!ァァ??


 するとこちらを噛みちぎらんと向かってきていたホワイトベアの動きが止まる。

 大量に水を吸い込ませることで地面がぬかるみ足を取られたのだ。


 この状況下では少しばかりの足止めにしかならないが今はこれで十分だ。


「ラストスパート!!」


 僕は最後の力を振り絞りスポットである洞穴に飛び込む。


 洞穴に入ってすぐパラセートは楽園を見つけましたとばかりに外に出て行く。


「ガハッ!」


 流石に無理をしたつけが回って来たのか、口から血が出て来る。

 多分、魔力を生成する器官がやられたのだろう、数日で治ってくれることを祈るしかない。

 最悪、もう魔法は使えなくなるな。

 頭の方もそろそろ限界だ。魔力暴走を制御するのはそれだけ脳への負担が大きい。

 僕は寝ころびながら自分の身体の状態を確認する。


 内臓は異常な魔力量のせいでボロボロだし、森の中で色んな所を打ったため擦り傷や打ち身も多い。

 身体の状態は最悪だ。


 だが気分はそうでも無い。

 むしろ最高の気分だった。


「はぁ、これで、はぁ、なんとかプリエラは助けられたな」


 ここまで来れば周りの魔力量が大きすぎてプリエラの魔力を嗅ぎ分けることは出来ないだろう。

 それにあのパラセートは(じき)に死ぬ。

 大きすぎる魔力はその身を亡ぼす。

 それは人間も魔物も変わらない。

 だがパラセートは自分が死ぬことが分かっていても本能で魔力を取り入れてしまう。

 そして死んだ魔物はまたスポットの魔力として変換されるわけだ。


 つまりプリエラがこのパラセートにもう一度寄生されることは絶対にない。

 このあと、彼女がどうなるかは分からない、それでも今、僕は彼女を助けることに成功したわけだ。

 もっと上手く助けられる人も居るだろう。

 自分を傷つけずに助けられる人も居るだろう。


 だが今この時、プリエラを救ったのは間違いなく僕なのだ。

 これのなんと嬉しいことか。




 そうか、僕は誰かのために生きるのが好きなのか。

 冒険者ギルドで働いていた時もそうだ。依頼をこなして依頼主に感謝される。パーティの仲間を助けて感謝される。これが嬉しかった。

 楽しいと感じていた。

 最近は感謝されなくなっていたためそのことを忘れてしまっていた。



 それを最後に気付かせてくれたプリエラには感謝しないとな。



 グォオオオオオオ!!!!!!


 すぐ近くから大きな咆哮が聞こえて来る。

 先ほどのホワイトベアが簡易的な沼を抜け出してきたのだろう。


「迎撃しないと……ダメだ。指一本動かない」


 このままでは為す術なくやられてしまう。

 それでも僕の身体は言うことを聞かなかった。


「これはいよいよかな……」


 正直、この後のことを考えていなかった。

 師匠の言葉が蘇る。

『全ての可能性を予見し、その対策を考えろ』

 それが全然できていなかった。


 ホワイトベアの足音が大きくなってくる。

 せめて物陰に隠れないと……


 ダメだ、意識がもたない。


 急激に襲ってきた倦怠感と眠気に僕は意識を手放してしまった。




 ◇◆◇


 人間にホワイトベアと名付けられた魔物は今、自分の餌となるニンゲンを追い詰めているところだった。


 最近、自分より強い魔物に追い立てられてここまで来たのだがここは驚くほどに食料が少ない。

 大体、森にはある程度、餌はあるはずなのにここにはほとんどない。

 追い立てられたことと、食料が無いことに苛立ちを感じ、顔を(しか)める。

 流石にここを移動しようと思った矢先、大きな魔力の波動を感じた。

 無意識に頬が吊り上がり、涎がこぼれて来るのを止められない。


 次の瞬間には荒い息を吐きながら獲物に向かって一直線に駆け出していた。


 走った先に現れたのはニンゲン……

 ニンゲンを食べたことは無いがとてもおいしいと聞いたことがある。

 久しぶりのご馳走に胸が高鳴り、駆ける足も速くなる。


 しかし、ニンゲンはこちらに気付くと目の前に大きな水の塊を作ってきた。

 この水球には脅威が無いと判断し、突き進んだが足を取られてしまった。

 そして、態勢を立て直した頃にはニンゲンの姿は消えていた。


 それでもなんら問題は無い。

 ホワイトベア自慢の鼻を鳴らすと、ニンゲンの位置が手に取るように分かった。

 そこは魔力が多い場所で自分より強い魔物が居ることもあり、あまり近づかないようにしていたが、この辺りにそもそも肉食の魔物が存在していない。

 ここで魔物の頂点になるのも悪くないと思いながらニンゲンを追う。


 先ほどからニンゲンの位置が変わらない。

 どうやら逃げることを諦めたようだ。


 着実に近づいているご馳走に興奮が収まらない。

 その勢いのまま、一つ雄たけびを上げたところで寒気を覚えた。


 ん?何かいるのか?


 今まで生きてきた中で一番の恐怖を感じた気がしたのだがそれはすぐに消え去った。

 こういう直感には従った方が良いとホワイトベアは経験で学んでいた。


 だが今回ばかりはその理性に従うことは出来ない。

 目の前にご馳走があるのにそれを逃がす奴がいるか。それに空腹で死にそうなのだ。

 ただの気のせいと言い聞かせ足を進める。


 洞穴の中を見るとニンゲンが倒れていた。

 死んでいないか心配したが息はあるようだ。

 死んだ奴より生きている奴の方がオイシイ。安心しながら洞穴に足を踏み入れたところで目の前から獲物が消えた。


 代わりに目に入ったのは自分と同種の魔物が首を切られている姿だった。

 どういうことだ……混乱する頭で身体を動かそうとしたとき、自分の身体が動かないことに気が付いた。


 ま、まさかやられたのか……

 この辺りに同族は居なかったはずだ、そうなれば目の前の顔のない身体は自分ということになる。


 し、死にたくない!やっとオイシイ食事にありつけると思ったのに!

 この世界で生き残るために自分を鍛えたし、危険察知も上手くなった。

 自分はこれからどんどん強くなっていづれは食物連鎖の頂点になるつもりだった。


 そんな思いを嘲笑うかのように段々と狭まってくる視界に、血を流し今にも倒れそうな自分の身体以外のものが見えた。


 あれはなんだ?

 棒のようなものの先に曲がった刃物のようなものが着いていて、そこから血らしきものがぽたぽたと落ちていた。

 ホワイトベアは知らなかったがこの時見たものは人間界で言う鎌のようなものだった。

 その黒さ、禍々しさは農民の使うそれでは無かったが……


 視界も無くなり、近づく死を感じていたとき、意味は分からなかったが音が聞こえ、ホワイトベアは絶命した。





「やっと……見つけました……絶対に……逃がしませんよ……」




プリエラを助けたライアスは気絶してしまいました。


ホワイトベアに追い詰められ絶体絶命と思われたライアスですが颯爽と現れた誰かに助けてもらいましたね。

まだまだ序盤ですが謎のある展開になってきました。

一先ずの謎は次回解決できると思われます。


次回 ライアス、療養します。

お楽しみに。

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