第59話 カナリナのお願い
いつも誤字脱字報告してくださる方、本当にありがとうございます。
◆カナリナ視点
あぁ、どうしよう。
あたしは夜明け前の自室をうろうろと歩き回っている。
そんなあたしが手に持っているのはハリソンから貰ったアレだ。
小さな瓶に入ったピンク色の液体……『惚れ薬』、とハリソンは言った。
アイツはいけ好かない奴だったけど、嘘を吐くようなタイプではないと思う。
実際、巨人達の里でライアスの跳ね返しの指輪はしっかりと機能していた。
つまり、目の前のこれは本物の可能性が高い、ということになる。
これを相手に嗅がせるだけで自分の思いのまま……
いや、そんなことをするのは良くない……
でも、せっかく自分が貰ったモノを使わないというのももったいないような気がしてくる。
夜明けが近くなってきた。そろそろライアスが来てしまう。
勢いで呼んでしまったけど、どうしよう。
あたしは二つの思いの中で揺れ動いていた。
そうだ、とりあえず匂いを嗅いでみよう。
ハリソン曰く、自分は掛からないという話だったけど、それが本当かも試してなかったし、そもそも有効範囲も分からない。
魔法も試行錯誤で成功させていくものだ。
何の検証もしていないものを実戦で使うこと程恐ろしいことは無い。
それをしなければならないときは仕方がないが、身体に毒があったらダメだし、ひとまず確かめておいた方が良い。
もし魔力的な害が仕込まれていても、対応できると判断したあたしは思い切って瓶の蓋を開けることにした。
小瓶は特に抵抗も無く開き、そこから甘い香りが漏れ出す。
「へ、へぇ、なかなか良い匂いじゃない」
確かに良い匂いだけど、それだけだ。
何か魔力的なものを感じるとはいえ、身体に害がある気配はない。
そのことを確認したあたしはすぐに瓶に蓋をしようとする。
「カナリナ、もう起きてる?」
「ひゃっ!」
あたしが瓶に蓋をしようとした時、部屋の外からライアスの声が聞こえてきた。
張りつめた緊張感の中に居たあたしはライアスの存在に気付くのが遅れて、その声に驚いてしまった。
あたしの手の中から瓶が零れ落ちる。
マズイ!
あたしはすぐに瓶に手を伸ばした。
かなり焦っていたけど、なんとか瓶を掴むことに成功して一安心する。
(ふぅ、危なかったわ……)
あ……
そう、あたしは瓶を掴むことには成功した。
でも、瓶が逆さを向いていたのだ。
小さな瓶の中にあった色水が一気に零れ、その全てが床の染みとなった。
部屋はたちまち甘い香りに包まれ、服にも甘い匂いが染み込んだ。
こんなことになるなら掴まない方が良かった。
もし床に落ちるだけだったら、ある程度は中の液体が残ったはずだ。
でも変に掴んでしまったせいで、その中身を全てぶちまける形になってしまった……
いや、待って。
今、あたしの部屋にはハリソンから貰った『惚れ薬』の匂いが充満している。
ライアスは確認も無しに部屋に入ってくることは無いけど、さっき声も聞こえたし、部屋の外には間違いなく居るはずだ。
この部屋の扉は開けっ放しになっているので、もしかしたらライアスが嗅いでしまったかもしれない。
あたしは恐る恐るライアスに語り掛ける。
「ラ、ライアス? 少し待っててもらえるかしら?」
「うん、じゃあここで少し待ってるね」
あたしはライアスの返答がいつも通りであることに安心する。
良かった、外にまでは匂いが出て行かなかったのか……
あたしは直ぐに行動を開始した。
まず匂いの染み込んでしまった床の上にに土魔法で作った蓋を乗せ、これ以上匂いが漏れないようにする。
その後、風魔法を使い、部屋に充満した空気を全て割れた窓から外に追い出した。
(慎重、かつ迅速にやるのよ……)
あまりバタバタしてはライアスに不審がられてしまう。
次はあたし自身の身体だ。
今、あたしには例の匂いが付いてしまっている
このまま出て行ってはライアスに魅了が掛かってしまうかもしれない。
あたしは服を脱いで、自身を水魔法で軽く洗い風と火を使い瞬時に乾かす。
服は乾くのに時間が掛かるから、新しいものを用意する。
幸いにも他の服には匂いがついていなかったので、それを着てから身嗜みを整えた。
服の皺を伸ばして、まだ少し濡れている髪を整える。
幼少期は全て使用人がやってくれた身の回りの世話も、ある時からは自分でやるようになった。
身嗜みには特に気を遣わないといけないため、そういうスキルは自然と身に着いたのだ。
もうすっかりこっちの生活に染まってしまったけど、身嗜みなどを整える術はまだ健在のはずだ。
あたしは一通り満足の出来る仕上がりにしてから、廊下で待っているライアスの元に向かう。
「呼んでおいて待たせてしまって、ごめんなさい」
「うん、気にしないで」
この部屋に匂いが残っていたらまずいので、あたしは部屋を移すことにした。
ライアスを連れて、違う部屋に移動する。
ここはどの部屋もボロボロだけど、部屋の数だけは沢山ある。
あたしはその内の一つに入り、ライアスに向き直った。
ライアスは普段と変わらない表情をしているけど、何故か妙な違和感を感じた。
目が輝いていると言えば良いのだろうか……
別にいつも輝いていないと言っているわけじゃない。
ただ、今日はいつに無い程、嬉しそうだ。
……
あたしはハリソンの『惚れ薬』についての説明を思い出す。
『そぉれは、惚れ薬だねェ!その効果は絶大だァ!使われた人はその人に夢中になり、なんでも言うことを聞いてくれるだろうねェ!使い方は上の蓋を取って匂いを嗅がせるだけさァ!簡単だろう?』
そう、その人に夢中になるのだ。
もしかして……
「ねぇ、ライアス。あたしの掌を軽く殴ってくれないかしら?」
あたしは掌を突き出し、ライアスが普段ならしてこないようなお願いをする。
もしライアスが普通の状態で、ただ機嫌が良いだけなら断るまでしなくとも、理由を聞いてくるはずだ。
それに、もし惚れ薬の効果が表れているなら、夢中になっている人に攻撃するという、あまりしたくないであろうことをするのかということを確かめることにも繋がる。
「うん、じゃあ行くよ」
ライアスはあたしの掌目掛けて軽く拳を当ててくる。
本当に軽く当てるだけだったのは彼本来の優しさ故かもしれない。
でも、これでライアスが普通の状態ではないことが分かった。
それにライアスに触れて見れば、ハリソンの魔力の片鱗が僅かに感じられた。
これがハリソンの言う『惚れ薬』の効果なのだろうか……
あたしは間近に迫ったライアスの顔を見上げる。
「~~~」
でも、恥ずかしさで顔を逸らしてしまった。
正直、ハリソンの『惚れ薬』は凄い。
あたしが知っている『惚れ薬』は使われた人を半ば興奮状態、混乱状態にさせ、それを恋愛感情と錯覚させるというものだった。
でも、それ故にその人の行動は通常時と、かけ離れることが多い。
しかし、目の前のライアスはそのような興奮状態という訳ではない。
いつもと同じような優し気な雰囲気で、でもあたしに強い好感を持っている、というような状態だ。
もちろん、いつもと行動が違う部分はあるけど、その違和感が少ない。
ハリソン曰く、この状態だとなんでもお願いを聞いてくれるという。
さっきいつもならライアスがしないことをしたことを見ても、それは本当のことだと思う。
ライアス自身もお願いを聞いてくれると言っていたけど、多分普段だとあたしは恥ずかしがって言えないようなことがある。
でも、今なら間違いなく叶えてくれる。
その保証があるということはあたしに少し勇気を持たせるには十分だった。
あたしはいつもは言えないようなお願いを言ってみることにした。
「ね、ねぇ、ライアス、少しあたしのことを褒めてくれないかしら……」
あたしは自分が今まで言ってこなかった願いを打ち明けた。
別にあたしは褒められたいだけで頑張っているわけではない。
もちろん、少しでもみんなやライアスの役に立てるようにと思って努力している。
それでみんなもあたしを頼ってくれて、感謝してくれてすごく嬉しい。
でも、ライアスはあまり褒めてはくれない。
信頼されているのも分かるし、感謝もされる。
それでも、褒めてはくれないのだ。
幼い頃、魔力が多かったあたしは周囲から称賛されていたけど、それ以降は褒められた試しがない。
そのこともあってか、あたしは褒められることに少し、ほんの少し飢えていた。
普段のあたしならこんなことは言えないだろう。
だって、あたしはみんなに頼られるような強い女にならなくてはならない。
それこそ、昔、フィーリアが話してくれた物語の中の主人公フォルテのように……
フォルテなら人の評価なんて気にせず、自分のしなければならないことを他人に咎められようともこなすはずだ。
でも、あたしはそこまで強くない。
あたしは間近に迫るライアスを見上げる。
「カナリナは本当にかわいいと思うよ」
「っ!」
あたしはそのセリフに少し顔が赤くなると同時に自分がどこか冷めて行くのを感じた。
ライアスはこんなことを平然と言わない。
多分、あたしの褒めて欲しいというお願いを叶えたのだろうと思うけど、お願いが漠然としすぎていて、あたしが求めていたものと違ってしまったのだ。
「ごめんなさい、ライアス。もういいわ。戻りましょ」
そもそも自分のミスで魅了にかけておいて、それにかこつけてお願いして、一人で落ち込む。
あたしは何をやっているんだろう。
心の中で溜め息を一つ吐くとあたしは部屋を出ようとする。
ライアスが吸った量はそこまで多くないはずだから、みんなが起きてくる前にはいつも通りになっているはずだ。
「カナリナ、ちょっと待って」
ライアスがあたしに声を掛けてくる。
あれ? 魅了に掛かっているライアスはあたしの言うことを聞いてくれるはずだ。
だからあたしが戻ると言えば、それについてくると思ったのに……
あたしは少し不思議に思いながらも振り返る。
そこに居たライアスは優し気な表情で、いつも通りの瞳だった。
「ごめんね、気付けなくて。カナリナには本当に助けられてるし、陰で努力してるのも知ってるよ。大きな魔力を持つ人の中にはそれに甘えて努力を怠る人もいるけど、いつも一生懸命なカナリナはすごく素敵だと思う」
……
あたしは言葉を失った。
少し開いた口が塞がらず、目をライアスから離せない。
唇が震えて、その感情を抑え込むように噛んだ。
そう、それはあたしがずっと欲しかった言葉だ。
ずっと昔から努力してきた。
魔法が使えなくて、みんなから疎まれ、それでも使えるようになろうと必死に足掻いてきた。
その努力を誰も見てはくれなかったけど、それは仕方の無いことだ。
あたしの家は結果が求められたのだから……
あたしは魔法が使えるようになってからも自分を高める行為は怠らなかった。
少しでも自分の可能性を広げるために、日々色んなことを検証している。
みんなも頑張っているんだから、あたしも頑張らないと、そんな気持ちでやってきたけど、そのことに気付いて欲しい自分が居た。
ライアスはそんなあたしの努力を見てくれていた。認めてくれた……
あたしは今までの行動が本当の意味で報われた気がした。
嬉しいのか、なんなのか分からない感情が胸に溢れてきて、涙が込み上げてくる。
あたしはそれを見られるのが恥ずかしくて、でも抑えられなくて……
ライアスの胸に飛び込んだ。
多分、自分の今の顔を見られないためだと思う。
ライアスは驚いたように少し身を引いたけど、あたしをしっかり受け止めてくれた。
あたしは声にならない声を上げる。
「そ、そうなの……あたし、頑張ったのよ……」
「うん。頑張ったね」
今までのことがあたしの中で次々と思い返されて、あたしは涙を堪えられなくなった。
あたしはそれからライアスの胸の中で泣いた。
◇◆◇
「あ、あれは忘れなさいよ」
あれから少しして落ち着いたあたしは自分がしたことへの羞恥で顔が赤くなる。
あたしは頼られるような人になろうと思ってたのに、あんな姿を見せてしまうなんて……
しかもライアスに……
「ま、まぁ、善処するよ」
ライアスは善処すると言うけど、これは忘れない時の返事だ。
過去の自分を殴ってやりたい気分だ。
一通り悶絶したあたしは姿勢を正すとライアスに向き直る。
これだけは謝っておかないと……
「ライアス、ごめんなさい。実はハリソンの魔法屋敷の時にあたしは『惚れ薬』を貰って、さっき使ってしまったわ」
あたしは少し恐る恐るライアスの顔を見上げる。
「あぁ、あんまり気にしないで。それにあれくらいのお願いなら普通に言ってくれればよかったのに……」
あたしはライアスが怒っていないことに安堵して、自責する。
今回の件で分かった。
こんなことをしても嬉しくないし、罪悪感のようなもので押しつぶされそうになる。
今後はこういうことはしないようにしよう。
「ほんとにごめんなさい……」
「……あ、結構時間が経っちゃったな。それじゃあ、カナリナには罰として、朝食の準備を手伝って貰おうかな」
ライアスが窓の外を見ながら言う。
確かに外はもう明るくなっており、そろそろみんなも起きてくるころだろう。
あたしはライアスの意図に気付いて微笑む。
「ええ、なんでも任せて頂戴」
落ち込んでいるあたしを気遣ってくれたのだろう。
そんな彼の優しさに胸が鳴るのを感じた。
あぁ、あたしは彼が好きだ。
そんな気持ちがどうしようも抑えられなくなり、あたしは小走りして彼の隣に並んだ。
「ち、ちなみにだけど、カナリナがかわいいって言ったのも嘘じゃ無いから」
「バ、バッカじゃ無いの!」
今度こそあたしの顔は真っ赤になった。
◇◆◇
◆ライアス視点
僕は今、カナリナと台所に並んでいる。
今日、朝起きた僕はカナリナの部屋に行って、お願いを聞いた。
ハリソンの『惚れ薬』はなかなか凄い代物だった。
僕は魅了されている間のことを覚えている。
一言で言えば夢を見ているような感覚だった。
まぁ、そのお陰でカナリナの本心を聞きだすことも出来たし、結果的には良かったと言えるだろう。
確かに僕はあまりカナリナを褒めていなかったな。
内心では凄いと思っていたけど、それを口に出しては居なかった。
どこか当たり前だから言わなくても良いという思いがあったのかもしれない。
でも、今回の件で言わなければ伝わらないことがあることを学んだ。
今後は積極的に思ったことは言って行こう。
僕は隣で包丁を握るカナリナを見る。
「カナリナ、野菜を切るのは僕がやっておくよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。あと少し、あと少しなのよ」
そう言って切りきった野菜を見て見ると見事に端がくっついており、力任せな部分があったせいか、ところどころ潰れている。
包丁は真っすぐに刃を入れないと上手く切れないことも多い。
この包丁の切れ味がそこまで良くないのもあって、初心者のカナリナには少し荷が重かったのだろう。
「し、仕方ないでしょ。初めてなんだから……」
僕の視線から何か感じ取ったのかカナリナはそっぽを向いてしまう。
「誰しも最初は出来ないさ。また今度教えてあげるよ」
僕はそこからカナリナに指示を出しつつ朝食の準備を進めた。
◇◆◇
みんな起きてきて、朝食を食べ終わったところで僕はまだ起きてこないファナの元へ向かう。
ついでに今日作った朝食も一緒に持っていくことにした。
「ファナ、入ってもいい?」
元孤児院にはしっかりと閉まる扉はない。
正確には閉まって開かない部屋が幾つかあるから、閉まっている部屋もあるけど、開けられないので部屋としては使えないのだ。
多分、建物が歪んでいるせいだと思う。
とはいえ、いきなり女性の部屋に入るというのは失礼だ。
僕は壁越しにファナに尋ねる。
「ええ、良いわよ」
ファナの合意を得たので、僕は朝食を持って部屋に入る。
そこにはティナを看ているファナの姿があった。
僕は朝食を机の上に置く。
「ティナの様子はどう?」
「今はぐっすりと眠っているわ」
あれからティナは何度か目を覚ました。
でも、怯えていて、真面に話せる状態では無かったというのが現状だ。
ファナが寄り添って、最低限の食事だけ食べるとまた眠るというのを繰り返していた。
彼女の精神状態はとても良好とは言えない。
ファナが任せてくれというので、僕達はまだ彼女と話してはいない。
ファナはティナの頭を軽く撫でた。
その表情からは愛情のようなものが感じられた。
「悪いわね。私の勝手で迷惑を掛けて」
「迷惑だなんて思ってないよ。ティナとは話せた?」
「ええ。昔のことやティナと別れてからのこととか、色々とね」
そうか、とりあえず話せるなら良かった。
カナリナにも見て貰ったけど、特に呪いのようなものが掛かっている訳ではないらしい。
長年ストレスの掛かる生活をしていた反動での衰弱もあるだろう。
とはいえ、詳しいことはそこまで医療知識の無い僕には分からない。
医者に診てもらうのが一番確実だけど、一目でエルフと分かるティナを堂々と連れて行く訳にはいかないし、難しい所だ。
「ティナももちろん心配だけど、ファナは休んでるの?」
「ええ、十分な睡眠と食事は摂っているつもりよ」
ファナの言葉とは裏腹にその顔からは多少の疲労が見られる。
いつまでもこのままという訳にはいかない。
ティナを連れて行くわけにはいかない以上、僕が街に行って医者を連れてこないといけないな。
自分がよく知らない人はダメだ。
その辺も考えないと……
「それじゃあ、僕は戻るね」
「ええ、朝食まで運んでもらって悪いわね。ティナの分まで用意してくれて感謝してるわ」
「うん。ファナも落ち着いたらこっちに顔を出してね」
ファナとしてはティナの隣を離れたくないのだろう。
そう思うことは仕方がない。
僕としても早くティナが元気になって、いつも通りの生活に戻ることを祈るばかりだ。
僕が廊下に出るとアイリスが僕の元へ駆けてきた。
アイリスは困り顔をしている。
「あれ? どうしたの?」
「なんかね、ライアス君を呼んでる人がいるの」
僕を呼んでる人?
もし、元孤児院の誰かが僕を呼んでいるとすればこんな言い方はしないだろう。
つまり僕達じゃない誰かがここまで来たということだ。
「みんな、少し怯えちゃって……」
「その人は中に入って来たの?」
僕はアイリスと共に玄関に向かいながら尋ねる。
僕が来た時もそうだったけど、みんなあまり他の人と話した経験は無いから、初対面の人には消極的になりがちだ。
「ううん。その人は外で待ってるみたい」
そうか。それなら、とりあえず話は通じそうだ。
ただ、相手は僕の存在を知っている人物……
そんな人は結構限られてくるけど……
広間に出ると、僕にも声が聞こえてきた。
ミーちゃん、プリエラ、カナリナも少し警戒したように部屋の一か所に固まっている。
「おい、ライアス。ちょっと遅いんじゃないかい?」
あ、この声は……
僕はそこから急いで外に出る。
目に入って来たのは懐かしい顔。
紫がかった紺色の長い髪が背中の辺りで一つに纏められており、勝気な瞳は左右で色が違う。
深い青色と赤色の瞳を見つめるとそこに吸い込まれそうな雰囲気を持っており、持ち主の自信を表すかのように輝いていた。
他者を寄せ付けない圧倒的な存在感を放つ彼女こそ、僕を助けてくれた人物であり、育ての親。
──僕の師匠だ
「お久しぶりです。師匠」
「久しぶりだねぇ、ライアス」
次回はライアスの師匠と話します。
彼女の考え方も少し見えてくるかもしれません。
ここから大きくお話も動いていく予定です。