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第4話 プリエラを助けたい

本日二話目の投稿です。

 


 あるものの存在を確認した僕は次の朝には準備を始めていた。


「ほんとは直接連れて行くのが一番良いんだけどあの状態ならそれも難しいからな」


 プリエラの症状は病の類ではない。

 昨日、プリエラのおでこを見て確信したがあれは魔物の仕業だ。


 プリエラのおでこには雫型の小さくて赤い宝石のようなものが付いていた。いや憑いていたという方が正しいか。

 あれは魔物の一種でヒトや他の動物に寄生し、その生命力と魔力を吸って生きる。

 当然寄生された方はみるみる内に衰弱していき、肌に黄色い斑点が出来るのが特徴だ。

 蜘蛛のような見た目をしており、名前は「パラセート」という。


 じゃあ対処法は何なのか?

 パラセートを殺せば良いのか?


 残念ながら答えは否だ。

 寄生される前なら当然殺して対処するのがもっとも効果的だが、一度寄生されてしまってはその方法は一番の悪手となる。

 パラセートは寄生する際、一番初めに脳に接触する。

 それで脳にダメージが行くことは無いが、殺してしまったときはその限りに非ず。寄生されたものも一緒に死んでしまう。

 だから特徴として脳のあるおでこ部分にその体の一部分が見えるのだ。

 パラセートも殺されないために進化したのだろうが寄生されたものはたまったものじゃない。


 ここまで言えばどうしようも無いと思うかもしれないが対処法は割と簡単なのだ。


 パラセートは魔力を食べて生きている、魔物だからな。

 生命力を食べるのはついでみたいなものだ、いわゆる嗜好品扱いなのだ。

 より大きな肉食の魔物となれば魔力だけでは生きてはいけないがパラセートなどの小型の魔物は魔力だけで十分生きていける。


 だからこそより良い魔力供給の場があれば勝手に出て行く。

 そりゃ今いる場所よりも良い所があったらそこに行くだろう。


 つまりパラセートに寄生されたものは魔力が満ち満ちている場所に行けばパラセート自ら出て行ってくれるのだ。

 ちなみにそういう場所は得てして魔物の住む森に多い。

 魔物は魔力を食べて生きるのだから当然と言えば当然のことなのだが。


 そして幸か不幸か、ここゲーニッヒ森林は魔物の住む森だ。

 もしかしたらと思ったが昨日の夜、そこまで遠くない場所にスポットの存在を確認した。

 スポットとは周囲の魔力値が異常に高い所だ。



 長くなったが結論を言うとそこにプリエラを連れ込めば万事解決ということになるわけだ。


 しかし、スポットには当然魔物が出る確率も高い。

 プリエラ以外の四人の戦闘スキルはファナを除き僕以下、そして僕とファナたちとで連携が取れることはまず無い。

 そうなるとプリエラを守りながら行くのは至難の業となる。



 だから次善の策を用意した。

 まぁ、プリエラを助けるだけならこの方が手っ取り早い。

 今はその準備をしているところだ。



 それにしても、僕も相当ちょろいな。

 まさか感謝の言葉一つで助けたいと思ってしまうとは……

 多分、僕は人から感謝されることに飢えていたのだろう。

 それにあの四人とは不干渉を約束したがプリエラとはしていない。

 ちょっと屁理屈だが他にやることも無いし良いだろう。


「よし、出かけるか」


 恐らく今あるものでもパラセートは取り除ける。

 だがパラセートを取り出すだけではプリエラを完全に助けることは出来ない。

 万全を期すためにも可能な限りの準備はするつもりだ。


 僕が荷物を纏めて部屋を出ると横から走ってきた誰かとぶつかる。


「イテテ、って大丈夫か?」


 どうやらぶつかってきたのはミーちゃんのようだ。

 その紫色の眼には涙がいっぱい溜まっていた。


「どうして、どうしてプリエラちゃんは良くならないの?」


 そう言えば昨日「自分のせいで」とか言ってたな。

 僕もどうしてプリエラがあのような状態になったのかには興味がある。

 パラセートは危険な魔物だが、通常、寄生するまでにある程度時間はかかる。

 それまで誰も気づかないなんてことはそうそうないだろう。


「そのプリエラって子はどこか悪いのか?」


 話をややこしくしない為にも昨日会ったことは伏せておこう。


「うん、私を助けて崖から落ちてね、それで、なんか頭のとこに変な赤い石みたいなのがあってね、それでね、熱が出て、黄色くなってね、それでね、取り出そうとしたら物凄く痛がってね、それでね……それで……うぇええええん!!」


 崖から落ちた、か。

 それにしては外傷が少ない気がするが……

 ていうか、ここでそんな大声で泣かれたら……


「ミー!どうしたの!?ってあんた、やっぱりね!あんたは危険だと思ってたのよ!覚悟しなさい!」


 カナリナか……一番めんどくさい奴が出てきたな。

 他の二人ならまだ交渉の余地があったものを……


 僕は髪を怒らせながら近づいてくるカナリナから逃げるように孤児院から出て行った。



 ◇◆◇



 あれから必要なものを揃えるために結構時間が掛かった。


 既に日は沈んでしまっている。

 だがギリギリ間に合った。

 正直プリエラの容態はかなり良くない、あと数日で生命力を吸い切られるだろう。


 だから作戦実行は四人が動いていない今夜に行うつもりだった。

 これからやることに失敗は許されない。


 僕は二本の薬瓶を手にして、辺りに気を使いながらプリエラの居る部屋へと行く。

 昨日はミーちゃんが居たが今日は居ないみたいだ。


 足音を聞いてかプリエラが声を出す。


「誰……ですか?」


「ライアスだよ、昨日話したんだけど覚えてるかな?」


「覚えて……ます。今日も……お話ですか?」


 プリエラのトーンが少し上がった気がした。


「いや、今日はちょっと違うかな、勝手ながらプリエラを助けようと思ってね」


「ありがとう……ございます……でも……大丈夫……これは病気じゃ……ないですから……」


「それは他の四人には言ったの?」


 プリエラは首を横に振る。


「言っても……どうにか出来る物じゃないですし……それに……多分そんなに長くはもたないので……」


 自分のことは分かってるのか……

 四人に相談しないということはもしかしたら助かることを諦めているのかもしれない。


「プリエラはそれで良いのか?」


 僕はプリエラに問いかける。

 このままでも問題ないというのなら僕は何もしない。 

 必ずしも命があることがその者にとって救いとなるかは分からないからだ。

 だが願わくば、助けを求めて欲しいと思ってしまう。



 一瞬の間の後、プリエラが答える。



「……よくない」


 その声は今までで一番大きく、意思のこもった言葉だった。


「……でもどうしようもない……」


 だが直ぐに弱気な声が聞こえて来る。

 プリエラはこんな状況でも生きたいと思っている。

 何のために生きているか分からない僕よりよっぽど凄い。

 だからこそ、この選択に迷いはない。


「実はそうでも無いんだ。僕はプリエラの症状を知ってるし治す方法も知ってる。ただ成功するかは分からないから治療する前に確認しようと思ったんだ」


 プリエラが暗闇の中、僕の言葉を待っているのが分かる。



「僕に命を預けてくれるかな?」



 自分でもおかしいことを言っているのは分かっている。

 会って二日目の人に命を預けろと言われて「はい、じゃあ預けます」とはならないだろう。

 だがプリエラが藁にもすがる思いで助かりたくて、僕がその藁になれるなら僕の全力をもって助けよう。



「……お願いします」


 プリエラは迷いながらも僕を信じてくれた。

 それならば僕も応えなければならないだろう。


 僕はもともと持ってきていた一本の薬を飲み干してから、プリエラのおでこのタオルを除ける。

 そこには昨日と同じように赤色の石のようなものが煌めいていた。

 この煌めきが魔力や生命力を吸っている証なのだから綺麗という感想は出てこない。

 

 プリエラのおでこにそっと手を当てる。

 今飲んだ薬は劇薬で過度な使用は禁止されている。

 適正量は数滴なのだが僕は一本分飲んだ。


 この薬には魔力を回復させる作用がある。

 しかし、使い過ぎると自身の中で魔力が抑えきれなくなる、つまり魔力暴走が起こってしまう。

 魔力暴走は魔力量の大きい者ほど激しくなり、最悪の場合自身が耐え切れなくなり爆発してしまうという恐ろしい現象だ。

 しかし、魔力量の低い僕ならこの状態でもある程度の制御が可能だ。

 当然この技術を取得するのもかなり苦労したわけだが……


 弱い僕ではあるが、だからと言って強い者になんの抵抗も出来ずに負けるわけにはいかない。

 冒険者たるもの勝つための奥の手はいくつか用意している。

 これはそのうちの一つだ。


 だが制御できるとは言え当然のことながらデメリットも大きい。

 魔力暴走は自身の魔力を回復する器官を無理に活性化させているため、魔力暴走が終わると数日は使い物にならなくなる。

 それに加え、僕は溢れんばかりの魔力を制御しているからなのか脳へのダメージも大きい。


 つまり数日は動けなくなるということだ。

 この技術を身に着けた時は師匠がそばに居てくれたため死ぬことは無かったが、他に頼れる仲間が居ないときは使うなと言われてしまった。


 こんな場所で数日動けなくなったらかなり危ないが、この選択に迷いは無かった。



 『僕は今、生きている』



 今、この瞬間もそう感じることが出来るのだ。

 誰かのために何かをするというのは気持ちいい。

 久しく感じていなかった生きているという実感を僕は感じていた。


 こうしている間にも僕の魔力はどんどん大きくなっていく。

 パラセートも僕の魔力に反応してか赤く光っている。

 だがそれでもプリエラから離れようとはしなかった。


「うぅ…苦しい……」


 パラセートの抵抗のためかプリエラもうめき声をあげる。

 くっ!これでもダメなのか?

 僕の今の魔力はかなり大きいんだけどな……

 この後のこともあるのに……


 僕が放出する魔力の量をさらに大きくするとパラセートが少し出てくる。

 よし、良い調子だぞ。


「プリエラ、こいつを剥がすために全力で抵抗するんだ!」


「はぁ、はぁ、抵抗って……?」


「強く拒絶すればいい!」


「わ、分かり……ました……」


 説明が雑になってしまったが僕自身にも余裕が無い。


 くっ!そろそろ限界……


 最後に一際大きく魔力を流すとプリエラから蜘蛛のような小さな赤い魔物が出てきた、パラセートだ。

 そして、プリエラのおでこには魔物が居たことなど微塵も感じさせない綺麗な肌があった。

 これは魔物学の謎なのだがパラセートは宿主から出て行くときに皮膚などを修復してから出て行くのだ。


 なんとか間に合ったか……


「はぁ、よく頑張ったな、プリエラ、はぁ、大丈夫か?」


「まだ、だるい……ですが、何かが抜けていく感じは……なくなりました」


「はぁ、それは、はぁ、良かった、後は、これを飲んでくれ」


 僕は今日調合したばかりのもう一つの薬瓶を渡す。

 プリエラは長い間パラセートに魔力、生命力を吸われていたため、パラセートを取り除いただけでは完全に回復しない。


 そのために精がつく強壮薬をさっき調合してきた。

 森の薬草などで作った回復薬に僕の血を混ぜたものだ。

 これはあまり知られていないのだが人間の血を混ぜることで薬が身体に素早く行きわたり、その効果も上がるのだ。

 これを飲めばプリエラの疲労も回復するだろう。


 プリエラは身体を起こし、渡した強壮薬を飲む。


「え?……これは……でも……」


 プリエラが何かに驚いたように髪と同じ黒色の目を瞬かせているが恐らく薬が効いているのだろう。

 これでプリエラに関しては安心だ。

 だが、僕の限界は近い。


「はぁ、プリエラ、はぁ、体調はどうだ?」


「今までで……一番良い……です。ありがとう……ございます」


 今まで下を向いていたプリエラはそこで初めて僕の方を見る。

 その顔は初めて見る笑顔だったのだが、それは直ぐに驚愕の表情へと変わる。


「え?……どうして……」


「はぁ、元気になったなら、はぁ、良かった」


 プリエラの無事を確認した僕は直ぐに部屋を飛び出る。


 さぁ、ここからが僕の正念場だ。



プリエラを助けることに成功しました。

プリエラは何かに違和感を持ったようですが体調は良くなったみたいです。


さて、ライアスはどこに向かうのでしょうか?

次回、走れライアス

あと、ちょっとした新事実も明らかになる予感


今日中に投稿します(決意

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