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第57話 ラストエルフの力

 



(マズイ!)



 ずっと建物の中に居たから少し忘れていたけど、この建物は山の中に作られていたはずだ。

 もし地響きで山が崩れてしまったら生き埋めになってしまうことも十分に考えられる。

 早く外に出なければ……


「カナリナ! ティナの調子はどう!?」


 ティナを治療してくれているカナリナに尋ねる。

 今も揺れは収まらず、気を抜けば倒れてしまいそうだ。

 それにここが地下だからなのか、大声を出さなければ声が届かない程地鳴りがうるさい。


「よし! 呪いの解除に成功したわ!」


 カナリナが僕の方を向いて頷いてくる。

 流石カナリナだ。ティナはまだ眠っていて、衰弱もしているけど、表情は少し穏やかになっている気がする。

 ティナの治療も一段落したなら早く脱出しよう。


「みんな、ここが崩れる前に外に出るよ!」


 みんなも今の状況がマズイことは分かっているので、無言で了解してくれる。

 ただ僕とファナは途中でデリモットとかいうモグラに土の中を引っ張り回されたから、ここまでの道のりが分からない。

 でも、そうじゃないミーちゃん達は知っているはずだ。

 僕はミーちゃんに案内を頼む。


 僕が頼むとミーちゃんは元気よく返事して、みんなの前を歩きだした。

 僕とファナはこの部屋に来るのに扉を使ったけど、みんなはそうじゃない。

 大きな音を鳴らしながら来たことからも分かるけど、壁を突き破って来ている。

 僕達はその穴から地上を目指すことにした。

 部屋の外が地中だったらまた、面倒だったかもしれないけど、幸いにも他の部屋と繋がっているようだ。


 僕達はミーちゃんのあとをついていく。

 ちなみになんでミーちゃんを先頭にしているかというと……



「えいっ」


 可愛らしい声と共に、積みあがった瓦礫を吹き飛ばすミーちゃん。

 そう、部屋と部屋を突き破って移動してきたミーちゃん達の通り道には破壊された壁や装置の残骸が溜まっており道を塞いでいたのだ。

 しかし、彼女の力なら瓦礫など障害にはならない。

 なんなく瓦礫の山を破壊していっている。

 僕としてはとても手が痛そうに思えるのだけど、いつも通りの笑顔で「大丈夫だよ~」と言うので任せることにした。

 尚も揺れは収まらない。


(この中でティナを抱えながら危なげなく走っているファナは凄いな)


 途中で骨だけのドラゴンの残骸とか、とても気になるものがあった。

 多分、カナリナ達が戦った跡だろう。

 ここまでにどのような戦いがあったのか聞いてみたいけど、今はそれどころではない。

 僕はここを脱出することに集中する。


 しばらく走ると僕とファナがプリエラ達と分断された、あの部屋まで戻ってきた。

 僕はひとまず知っている場所に出たことに安堵した。

 でも、状況はまだ危ない。急いで地上に続く階段に向かう。


 その途中でふと視線を感じて振り向いた。

 視線の先にはここに来てからなんだかんだ関わりがあったデリモットが居た。

 相変わらず不安そうに眉を下げていて自信なさげに見える。

 いや、もともと眉がそういう形なのかもしれないから何を考えているかは分からないけど、僕達を眺めているのは確かだ。


 結局最後まで彼らの行動原理は理解できなかったし、連れ去られたりしたけど、助けられたのも事実だ。

 伝わることは無いと思うけど僕は軽く会釈だけして、階段を上り始める。

 地面の中を縦横無尽に駆けるデリモットならこの地響きでも生存できるだろう。


 相変わらず音が響く階段を上ると、目の前に大きな扉が現れた。

 僕達が入って来た扉だ。

 扉は入ったとき同様、閉まっているけど、ミーちゃんなら……


「お、お兄ちゃん、これ開かないよぉ」


 そう思っていたけど、ミーちゃんでもこの扉は開かないらしい。

 ミーちゃんはこちらを向いて目に涙を溜めている。

 僕は出来るだけ優しい声でミーちゃんに語り掛ける。


「そんな顔しないで。ミーちゃん、ありがとう。ここまで来れたのもミーちゃんのお陰だ」


 実際、ミーちゃんには何度も助けて貰っている。

 ここでミーちゃんを責めるような人は居ない。

 とりあえず、僕も扉を見てみよう。

 大きな扉はかっちりと閉まっており、動く気配はない。

 僕は扉に触れた時、あることに気付いた。


(あれ? これって……)


 その時、カナリナも僕の後ろから扉に触れた。


「これ、魔法で閉じられてるわね」


 カナリナも僕と同じような結論に至ったようだ。

 この扉は魔法的な施錠が掛けられている。


 その時、カナリナが扉に手を当てて魔力を流し始めた。


「ここをこうして……」


 カナリナは集中していて、その額には冷や汗が浮かんでおり、少し顔色が悪くなっている。


「はぁ、はぁ……」


 呼吸も乱れていて、疲労が溜まっているのが見て取れる。


「よし、これで開くは──」


「カナリナ!」


 カナリナがこちらを振り向いたと同時にその膝が崩れる。

 その後ろにいた僕は咄嗟に倒れてきたカナリナを受け止めた。


(いった!)


 ティナの魔弾を受けた腕が激痛を訴えるけど、そこは気合で耐える。

 カナリナはここまでかなり頑張ってくれていた。

 巨人との戦いの時も、さっきの研究者の男との戦いのときだってそうだ。

 僕達が分断された後もみんなを助けるために奮闘する姿が容易に想像できる。


「わ、悪いわね。少しふらついてしまったわ」


 そう言うけど、身体に力が入らないのだろう。

 僕から離れようとするけど、なかなか動けないようだ。


「カナリナ、ありがとう。今はゆっくり休んでくれ」


 カナリナは少し迷ったあと、自分が疲れていることを認めた。


「ええ。そうね。少し疲れたかもしれないわ」


 カナリナはそのまま気を失った。

 今は小さく寝息を立てている。

 カナリナはみんなの役に立とうとするあまり、無理してしまうきらいがある。

 他の子も同じようなことはあるけど、その中でもカナリナは顕著だ。

 とにかく今は休んでもらおう。



「ねぇ、ライアス君、これって……」


 眠ったカナリナを抱えた僕にアイリスが震えた声で尋ねてくる。

 その指の先を視線で追う。

 カナリナのお陰か、扉が開いていた。

 それはとても良いことだけど、問題が一つあった。


(動いてる……)


 外の景色が動いている。

 いや、動いているのは景色じゃない……僕達だ。


 これだけ揺れている時点で察するべきだったのかもしれない。



 ──この揺れの原因はこの施設が動いているからだ……


 動き自体は速く無いけど、僕達が居るのは山をくり抜いて作った施設の中だ……

 それを思えば、この状況がどれだけ非現実的か分かるだろう。


「と、とりあえず外に出ようか」


 何はともあれ、外に出なければ何が起こっているかも分からない。

 施設の動きは速くなかったので出ること自体は簡単だった。

 これで、ひとまず生き埋めの可能性は少なくなった。

 でも、安心など出来るはずはない。


 振り返った僕の目に入って来たものは、大きな二つの存在。


 片方はミーちゃんの父親のアルストリアさんだった。

 アルストリアさんとは色々あったけど、今はそんなに悪いヒトでは無いと思っている。

 そんなアルストリアさんと戦っているもう一つの存在。



 一言で表すなら超巨大な亀だろう。

 ここからでは全容は見えないけど、亀の頭のようなモノが見える。


 十メートル程あるアルストリアさんが見上げる程の大きさの亀のような何か。

 それが歩くたび周囲に土が落ち、木が倒れ、地面が揺れる。

 アルストリアさんはその進行を止めようと全身を使って立ちはだかっていたけど、相手が巨大すぎて効果は薄いようだ。


 身体の中に人工的な施設があることからも、この亀が自然に生まれたわけでは無いことは明らかだ。

 暫定的にはなるけど、エルフの研究者たちがティナの魔力を長年集めて作り上げた戦略兵器と考えられる。

 それに、アルストリアさんは「巨人族総出でも勝てなかった」というようなことを言っていた。

 もしかしたら、その原因が目の前の亀なのかもしれない……


「ライアスさん、これは……」


 プリエラが僕を庇うように前に出て、その大きな亀を見据える。

 しかし、プリエラは一日に一度しか力を使えなかったはずだ。

 彼女に無理をさせる訳にはいかない。


「多分、あいつらの最終兵器だと思う。プリエラもここは下がって」


 僕の指示で後ろに下がり始めたプリエラを追い越す形でミーちゃんが前に出た。


「ミーちゃん……?」


 ミーちゃんは「バゴン!」というヒトの拳が出せない音を響かせながら亀を殴りつける。

 しかし、ミーちゃんの力を以てしても亀は止まることを知らない。

 そもそも元が大きいからダメージが少ないのだ。

 アルストリアさんはミーちゃんの父親だ。

 ミーちゃんは里のルールによって追い出されてしまったけど、アルストリアさんにもミーちゃんを想う心はあった。

 ミーちゃんもアルストリアさんのことは悪く思っていないだろうから助けようとしているのだろう。


(どうする?)


 研究者の最後の言葉を思いだす。


『少し早いが後はアレが上手くやってくれるだろう』


『エルフを一番にする方法は単純だ。他の種族を根絶やしにすればいい』


 もしこの言葉が本当だったなら目の前の光景も理解できる。

 この大きな亀が研究者の言うアレということだろう。

 どういった構造をしているのか分からないけど、あの巨体ならその重量だけで街を破壊できるはずだ。


 その時、亀が唸り声をあげながら口を開いた。

 少し高い声は脳に嫌な響き方をする。

 そして、その口から光線のようなモノが放たれる。

 アルストリアさんは寸前で躱していたけど、光線は巨人族の集落、森を貫通して彼方に消えて行った。


(あれは僕達が巨人族との戦いのあとに打ち込まれた魔弾だ……)


 どこまで攻撃が届くか分からないけど、あんなものを撃ち込まれては並大抵の防壁では太刀打ちできない。

 あれが世に出回ると間違いなく混沌が訪れる。

 それは僕達の生活にまで影響してくるかもしれない。

 僕が考え込んでいるとティナを抱えているファナがアイリスに近づいていく。


「ねぇ、アイリス。少しティナを預かっておいてくれないかしら」


「そ、それはもちろん良いけど、ファナちゃんはどうするの?」


「私はアレを止めて来るわ」


 アイリスは少し不安そうな顔をするけど、ファナに言われるままにティナを預かった。

 研究者の男に封印されていた魔力が戻ったとファナが言っていたけど、それがどれだけの強さなのか僕には分からない。

 でも、あのファナが「魔力が戻れば大抵のことはなんとかする自信がある」と言ったのだ。

 ここは信じてもいいかもしれない。


「ファナ、任せても良いの?」


「ええ。私の本当の力、そこで見てて頂戴」


 そう言って、ファナは亀の方に振り向く。


(マジか……)


 僕は自分が目にしている現象に驚く。

 恐らくファナは身体強化をしているのだろう。

 そのファナの周りの空間が揺らめいて見える。

 まさか魔力が辺りに漏れだすほどの濃さだと言うのか……

 普通、身体強化で魔力を使う時には体内の魔力を各筋肉などに伝達して強化するため外に漏れることなく、体内で完結してしまう。

 だからこそ、このような光景は見たことが無い。


「ミー、ここは任せて」


「う、うん。ファナちゃんは大丈夫なの?」


「ええ。しっかり倒して見せるわ」


 次の瞬間にはジャンプして、亀の上に消えてしまった。

 ファナの脚力に耐えられなかったのか地面が少し陥没しており、脚力の強さが分かる。


「みんな、少しここを離れよう」


 ここに居たらファナの邪魔になってしまうかもしれない。

 僕達はその場から直ぐに離れることにした。



 少し離れたことで、アルストリアさんが対峙している巨大な亀のような何かの異常性が改めて分かった。

 甲羅部分は山のように盛り上がっており、身体のほとんどは自然と同化している。



 今もアルストリアさんが押し返そうとしているけど、亀の動きは止まらない。

 緩やかに、確実に前進していた。

 その進行方向には巨人族の里があり、そのまま進めば人間の街まで辿り着くだろう。


(ファナは大丈夫だろうか……)


 普段から冷静なファナがあれだけ言うのだから、根拠もあるのだろうけど、やっぱり心配なのは変わらない。


 でも、しばらくすると亀の様子がおかしくなってきた。

 今までは緩やかに前進を続けていたけど、その動きが止まり、悲鳴のような声を上げ始めたのだ。

 暴れているので地響きは強くなっているけど、明らかに苦しんでいるように見える。

 亀の甲羅の山部分のあちこちで、山崩れのようなモノが起こっており、大きな音を立てている。



 そして……




 崩れ去った。

 山を甲羅にしているかのような亀は内側から大きな音を立てて崩壊していった。

 その衝撃は僕達のところまで届いてきて、一瞬砂ぼこりに視界が遮られる。

 そんな僕に声が届いてくる。



「待たせたわね」


 目を開くとそこには舞い上がる砂塵を背に歩くファナの姿があった。

 レイピアを腰に仕舞い、長い髪を揺らす姿はどこかの騎士物語に出てきそうなくらい様になっていた。

 大立ち回りをしたファナに疲れた様子はない。

 これがラストエルフの力なのか……


「す、すごい……何をしたの?」


 僕の口から自然と言葉が漏れた。

 僕からはただ大きな亀が倒れたことしか分からない。


「どうやらアレはティナの魔力で動いていたみたいね。魔力の粗を突いていったら自壊したわ」


 な、なるほど……

 ファナが凄いことは分かった。


「とにかくファナが無事で良かったよ。アレはもう倒したってことで良いのかな?」


 見る限り亀に原型はなく、傍目には大規模な土砂崩れが起こったようにしか見れない。


「ええ。魔力の繋がりが切れたから、それを直せる人が居ない限りもう動かないと思うわ。それに、あれだけ壊せば直すにも莫大な魔力が居る上に、もうティナの魔力を使うことも出来ないわ。今後脅威にはならないというのが私の見解よ」


 ファナがここまで言うなら大丈夫だろう。

 戦いは終わったのか……


 僕はみんなの顔を見渡す。

 今、カナリナとティナは眠っているけど、みんなでここまで脱出できた。

 少し怪我もあるけど、当初の目標は達成できたんじゃないだろうか。


 みんなで無事を喜んでいると、先ほどより小さいけど地鳴りが起きた。

 見ればアルストリアさんが僕達のところに歩いてきているようだ。


「今のは……何だ……?」


 ファナを見るアルストリアさんの眼には驚愕の表情が浮かんでいた。

 いや、普通に考えれば今の力を見たらこの反応になるのも仕方がない。



 ──この力が自分に向けばタダでは済まないからだ。


 僕としてはファナの前に凄いものを何度か見てきたので、驚きは少ないけど感覚が鈍っているのかもしれない。

 アルストリアさんはこの里の長で、里を守る必要がある。

 だから当然、そこは聞かなければ──


「身体強化の類か? それとも元々の体質なのか?」


 あれ?

 よく見ればアルストリアさんの顔には驚き以外の感情が出てきた。

 それは興奮と表現するのが良いだろう。


 あ……

 そう言えば、巨人族は力を信奉しているんだった。

 だから多少強い力を見たところで、それを警戒するのと同時に好奇心の対象になるのか。


 問われたファナは少し困ったように僕を見てくる。

 ファナの顔の意味は分かる。

 このままいけば、「少し手合わせをしよう」などとなってしまいそうな勢いだ。

 目には見えないけど、ファナにも疲労が溜まっているはずだ。


「アルストリアさん。色々お話を聞かせて貰っても良いですか?」


 僕が話しかけるとアルストリアさんがこちらを見てくれる。


「ひとまずは里に戻ってから話しましょう。長い戦闘でみんな疲れています。良ければもう一泊休ませていただけると幸いです」


 僕がこちらの要望を伝えるとアルストリアさんの眼も変わった。

 少し落ち着いたようだ。


「そうだな。すまない。まずは休んでくれ。お互いの話はそこからしよう」


 そう言って、アルストリアさんが里の方へ歩き出す。

 僕達もそれに続いた。



 ◇◆◇


 日が傾き始め、辺りが暗くなってきた頃、僕は昨日も過ごした一室の寝台に横たわっていた。


(ここまで長かったな……)


 あれからアルストリアさんとも話をしたけど、纏めるとこうだ。


 ある日、アルストリアさん達の里にエルフの集団が訪れた。

 その頃にはエルフが既に強力な魔法を使えるようになっていたらしく、戦いは互角で決着がついた。

 エルフの力を認めた巨人族達はその時、エルフからある提案が出される。


 その内容を簡単に説明するとエルフは巨人族のために生活の手助けをする。

 見返りに、巨人族は山の中で研究するエルフたちを他者から守るというものだ。

 元々、巨人族は排他的で近寄る者は排除する傾向にある。

 エルフが巨人族の邪魔にならないところを拠点にすると言うので、それならばと話を受けたけど、それが良くなかった。

 初めは山をくり抜いて施設を作っていたエルフたちが、ある時何らかの魔法を使った。

 その瞬間から巨人族の首には何か呪いが付与されたらしく、同時期に巨人族全体を覆うように結界が張られたそうだ。

 当然、そのような行動を取ったエルフをアルストリアさん初め、巨人族は非難したがさっきの亀のような魔物が既に完成されており、為す術が無かったという。

 そこからは半分エルフに隷属する形となった巨人族は不本意ながらも番人紛いのことを行うようになったらしい。


 このことをアルストリアさんは少し罰が悪そうに話していた。

 多分、今回の件で責任を感じているのだろう。

 巨人族は排他的だから外交のような経験も薄いし、仕方の無い部分ではある。

 今回の一件で学ぶことも多かったようで、僕達に感謝してくれた。


 ひとまず、もうそういった呪いは解除されたみたいだから一安心だ。

 アルストリアさんの別れ際の言葉を思い出す。


 ◇◆◇



「ライアス、今回は本当に助けられた。今後、お主が何か困ることがあって、我らの力を欲したなら頼るがいい。出来る限りの力を以て助力しよう」


「こちらこそ、ありがとうございました。でも、良いんですか? 僕が巨人族に不利な要求をするかもしれませんよ」


「お主はそんなことはしないだろう。それに、お主の元にはミレストリアも居る。大抵のことは叶えよう」


「それだけ信頼されると嬉しいですね。また、遊びに来ますよ」


「決闘ならいつでも受け付けよう」


「い、いや、それは遠慮……」


 ◇◆◇


 思わぬところで繋がりが出来た。

 その時に本当に力を貸してもらえるかは分からないけど、それだけ信頼されたことが嬉しい。

 最初に会ったときはこんなことになるなんて思ってもみなかった。

 今回のことは僕にとっても良い経験になったな。


 それに、みんなも着実に成長している。

 僕も負けないように頑張らないと……


 ちなみに、カナリナはあれから寝込んでいる。

 何かの病気とかでは無いから、疲労が溜まった結果だろう。


 アイリスやファナのことの説明もみんなにしないといけないけど、それは後日ということになった。

 みんなも疲れてるし、カナリナも眠っているからだ。

 今は多分それぞれの部屋で休んでいるだろう。



 その時、僕の部屋の扉がノックされた。

 元孤児院に扉は無いので、久々の感覚に懐かしさを感じながらも返事をする。


「誰?」


「私よ。少し入っても良いかしら」


 その声はファナのものだった。

 僕もファナと少し話をしたかったし、断る理由は無い。


「うん。良いよ、入って」


 僕の了承を確認したファナが部屋に入って来た。

 僕は寝台に腰掛ける。


「とりあえず、座ってよ」


 僕が少しずれて場所を開けるとファナはそこに腰を下ろした。

 一泊置いた後、ファナが僕の方を向く。


「ライアス。今回の件、本当に感謝しているわ」


「そう言ってもらえたら僕も嬉しいよ。まぁ、他のみんなも頑張ってくれたからね」


「ええ、みんなにもこれから話をしに行くつもりよ。でもここに連れて来てくれたのも貴方よ。貴方が居なかったらこの結果はあり得なかったわ。ありがとう」


 ここまで真っすぐに褒められると少し照れ臭いものがあるな。

 僕は照れ隠しも含めてティナの様子を尋ねる。


「そ、それで、ティナの様子はどう?」


「まだ眠っているみたいね。でも顔色はそこまで悪くないから大丈夫だとは思うのだけれど……」


 今、ティナの面倒はファナが見ている。

 ずっと会いたかった妹と会えたのだ。

 まだしっかりとした話は出来て居ないだろうけど、隣に居るだけでも嬉しいはずだ。


「そっか、それは良かったね」


 もう日が沈んだのか、窓の外は完全に暗くなっており、さっき点けたランプの中の火が淡く光を運んでいる。

 そんな空間に干渉されたのかファナがぽつぽつと話し始めた。


「私はティナを助けることが出来れば、後はどうなっても良いと思っていたの。私の生きる意味はティナを助けることだけ、もしそれが失敗すれば自分の命を捨てようとさえ思っていたわ」


 ……


「でも、貴方たちとの生活は新鮮で楽しかった。その気持ちがティナに対する背徳のような気がしていて苦しかったけど、みんなのお陰でティナを助けることも出来た」


「だからこれからはティナを支えるのと同じようにみんなのことも支えていきたいと思っているの。これからもよろしくね。ライアス」


「うん。僕の方こそよろしくね。正直、みんなが強くなっていってるからそこに悩みもあったんだけど、ファナの話を聞けて良かったよ」


「私が言わなくても分かってはいるだろうけれど、一応言っておくわ。力が全てでは無いし、貴方は十分強いわ。みんなには貴方が必要よ……もちろん、私にもね」


 ファナは少し微笑んだあと、出て行こうとする。


「ありがとう」


 ファナの言葉に僕は少し泣きそうになった。

 誰かに必要とされることは大事なことだ。

 僕はそのことを元孤児院に来てから学んだ。

 自分に出来ることをやっていこうと改めて思う。



 だからこそこれだけは聞いておかないと……


「ファナ、魔力が戻ってから身体の調子はどう?」


「え、ああ、魔力ね。長く魔力を使ってなかったから、まだ戸惑うこともあるけれど、身体に力が漲って良い調子よ」


 ……


「そっか。それは良かった。おやすみ」


「ええ、おやすみなさい」


 ファナが部屋から出て行った。

 僕は眠るためにランプの光を消す。

 さっきまで仄かに明るかった部屋が一気に暗くなり、視界に入ってくる情報が少なくなった。

 周りの景色が曖昧になった分、より自分が鮮明に感じられるような気がする。


 僕は布団に転がって考える。


 思い返せば元孤児院を買ってから色々あったな。

 最初はファナに攻撃されて……その時はみんなとの仲は最悪だった。


 でも過ごしていく内に、みんなと仲良くなっていって、それぞれの悩みに触れることもあった。

 その全てを完全に解決できたかは分からないけど、彼女たちの顔を見る限り悪いようにはなっていないはずだ。

 元孤児院に来て、みんなと会えて、本当に良かった。


 今の僕には死にたいというような気持ちは無いし、生きている理由ややりたいことも明確に言葉に出来る。



 ──みんなを手助けしつつ、みんなと楽しく暮らしたい。


 そのためなら僕の出来る範囲でなんだってしよう。


 ひとまず今回の件で直近の課題は解決できたと言える。

 だから次はあの元孤児院をなんとか修理していかないとな……



 そこまで考えたところで急激な眠気が襲ってきた。


(流石に疲れが溜まってるか……)


 普通に暮らしていれば起こらないようなことが立て続けに起こっているから疲れも溜まっている。

 でも、その疲れは決して不快なものじゃない。


 自分がそう思えていることが妙に嬉しくて、僕はそのまま眠気に身を任せた。







 ◇◆◇


 ライアスが居た街であるカルーダのギルドの一角で、誰かが楽しそうに喋っている。


「いやぁ、長い休暇だったなぁ! お金があったからって、ちょっと休み過ぎたんじゃねぇか?」


「そう言って、一番遊んでたのゴイルでしょ!」


「まぁまぁ、そう言わずに。また稼ぎに行けば良いだけの話さ」


「そうね。あいつが居なくなったから報酬金も増えてさいこーって感じ」


 ライアスが抜けた穴をまだ理解できていないパーティー『竜の息吹』が活動を再開しようとしていた。

 しかし、ライアスの話題が出たのはここだけではない。



「さて、そろそろライアスは強くなってるかねぇ。ちと様子を見に行こうか」



 また別の場所でも……


「陛下、お耳に入れたいことが……」


「なんだ…………ほう。なるほどな……」



 ライアスの知らないところで様々なことが動き出そうとしていた。







読者の皆様、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。

これにて第一章『始まりの五人』編が完結しました。(章管理もしてみようかなと思います)


ここまで続けることが出来たのも、読んでくださっている皆様の存在あってのことです。

感想などにも非常に励まされております。(本当にありがとうございます)

遅筆な私ではありますが、今後も自分のペースで続けて行こうと思いますので、どうかよろしくお願いします。


さて、次章では今まで時折話に出てきたライアスの師匠や、お待たせしまくっている元パーティとのいざこざを書きつつ、一章で野放しにされているあれこれを掘り下げていく予定です。

細かなお話は考えているのですが、その順番や、大まかなプロットはまだ固まっておりませんので、そこを考えた上で投稿していきたいと思います。

ですので、少しお時間をいただくかもしれません。(なるべく早く投稿出来るようガンバります)


また、近日中に第一章で登場したキャラを纏めたものを投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 祝!第1章完結! ここで完結できるほどの密度ですね... 何章で完結するのか検討がつきませんがこれからも応援しています。
[一言] 第一章完結お疲れ様です。 今までひっそり読ませていただいてました。滅茶苦茶面白いです。 ヒロインたちが抱える難しい問題を、ライアスの機転を生かして協力しながら乗り越えていくのは読んでいてワク…
[良い点] なんとか初めての試練を乗り越えた ですねw プロローグまでには結構長そうだw
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