第3話 襲撃者と話し合いました
ブクマ、評価ありがとうございます。
嬉しすぎて狂喜乱舞しております。
取り押さえるのは簡単だった。
最初奇襲を受けた時はどんな魔物かと思ったがその子は倒れ、他の子は戦闘については素人同然。
冒険者の中では強くない僕でも取り押さえるのに苦労はしなかった。
今は持っていたロープで縛っている。
言っておくがロープは何かと便利な代物だ、崖のような場所でも木に括り付ければ降りられるし、荷物を纏めるのにも使える。
決して女の子を縛るために持っていた訳では無い。
「これから私たちをどうするつもりなのかしら?」
僕が良く分からぬ弁明をしていると、気絶から回復した襲撃犯が声を掛けてくる。
確か名前はファナだったか?
「どうするも何も君たち次第だ。さっき襲われたんだ、こういう扱いになるのも仕方ないだろ?」
「何が仕方ないよ!勝手にあたしたちの居場所に入ってきてこんなことするとかありえないわ!」
「こらカナリナちゃん、今は大人しくしているのよ」
僕がファナと呼ばれる子に説明していると横から声が飛んでくる。
見ると紅い髪と眼を持ったカナリナと呼ばれた少女が強気に物申す。
その眼には強い意志が秘められており、少女の髪や眼の色と相まって炎を連想させる。
「何でよ!アイリス!今のあたしたちには時間が無いのよ!それをこんな根暗に邪魔されて平常心で居ろだなんて無理だわ!」
物凄い言われようだ。
まぁ、根暗なのは否定できないけど……
「一応言っとくとこの廃墟は僕のものなんだけどね」
「ハァ!?後から来た分際で何を偉そうに我が物顔してるのよ」
こ、こいつ……
ちょっと今の状況を理解できて無いんじゃないだろうか?
しかし、僕が近づくと途端に威勢が悪くなる。
「な、なによ。やろうっての?」
言葉の内容とは裏腹にその声には先ほどまでの覇気はない。
「カナリナは黙っていて頂戴、話が進まないわ。時間が無いのは私も分かってる。だからこそ、ここは私に任せて」
「わ、分かったわよ……」
ファナと呼ばれた子、もうめんどいからファナで良いか、ファナがカナリナを諭すとカナリナは大人しくなった。
「それであなたが話をしたいのはこの私でしょう?あなたを襲ったのもこの私なのだから。彼女たちは関係ないわ」
「まぁ、そうだな。いや、君が倒れた後、木の棒を振り回してきたか」
「まさか、木の棒を振り回したごときで怒るほど矮小な存在ではないでしょう?」
ん?今までそんな態度は見せていなかったのにファナの態度が急に悪くなったな。
あーなるほど。
最初は出来るだけ穏便に済まそうと思っていただろうが、カナリナの暴走により雲行きが怪しくなった。
だから自分にヘイトを集めさせて他の子を助けようって腹かな?
それに恐らく何らかの隠し球があるのだろう。
多分だけど今、ファナに近づけば手傷を負う可能性が高い。
割と嫌いではないタイプだ。
「そうだね、他の三人は正直どうでもいい」
なので僕はファナが求めている回答をしてやる。
「そう、なら良いわ。それで要件は何かしら?出来れば命だけは助けてもらえるとありがたいのだけど」
少しホッとした様子を見せたファナだが、命って……なかなか物騒なことを言うな……
だが別に僕はこの子たちをどうにかしたいと思っているわけでは無い。
いや、確かに皆揃いも揃って美少女だ。
ファナも長い金髪と翠色の瞳を持っている。
少し長い耳をしてるし、エルフだろうか?
まぁ、そんな訳で邪な感情が全くないとは言わないがそれを実行するつもりは無かった。
この世界には人間以外にもヒト属は割といる。
だが人間が増えすぎてしまったせいか、他のヒト属を亜人と呼び差別し始めた。
他にも原因は色々とあるけど、ここでは割愛しよう。
そんななかエルフがこんなに人間の生活圏の近くにいるなんて珍しい。
わざわざ好んでこんなところには居ないだろうから、ここに居るしかない理由でもあるのだろう。
「別に命をどうこうしようとは思ってないよ。ただ君たちを解放するうえで一つ条件がある」
「何かしら?」
条件、と聞いてみんなの顔が強張ったのが分かる。
「お互いに不干渉で行こうって言う簡単なものだ。僕は君たちに関わらないし、君たちも僕に関わらない。君たちがこの廃墟に居るしかないなら居ても良い、幸いにもこの建物は広いからね。ここは僕が買い取ったわけだから当然僕も居るがそこは我慢してくれ。この条件は君たちにとっても悪くないと思うんだけど……」
条件を聞いて少し唖然とした表情でファナが応える。
「そうね、内容に関して異論はないわ。でも良いの?腕の一本くらいは覚悟していたのだけど」
「あぁ、僕は人と関わることに疲れたんだ。お互い干渉しないように出来たらそれで良い」
「そう、気が合いそうね」
僕は不干渉の約束を取り付け、ロープの縄を解いてやる。
カナリナは縄を解くために近づくと今にも噛みつきそうな程威嚇してきたがファナともう一人、アイリスだったか、は小さく感謝を口にしていた。
先の襲撃の際おっとりした掛け声を出していたのはこの子みたいだ。銀髪に薄い青色の瞳を持っている。カナリナを宥めているところからもみんなのお姉さんみたいな印象を受ける。
そのアイリスが縛られてから一言も喋っていない子に声を掛ける。
「ミーちゃん大丈夫?」
「うん……」
ミーちゃんと言われた子は襲撃の際、僕に攻撃はして来ず、ファナに覆いかぶさるようにして守っていた子だ。
桃色の髪に紫色の瞳を持っていてこの中では一番小柄な子だ。
僕が四人の縄を解いてやると皆は一斉にどこかに行く。
暗殺されかけたのにこの対応は甘すぎるだろうか?
当然、同じところに住んでいれば多少接触の機会は出てしまうだろう。
その時にさっきのように攻撃されてもおかしくない。
もしかしたら寝込みを襲われるなんてこともあるだろう。
それは僕にとって良いことでは無いのだが彼女たちを追い出すことは憚られた。
理由は単純明快だ。
僕も追い出された身、追い出される辛さは分かるし、それに僕が追い出すという行為ををやるとあいつらと同類になってしまうような気がした。
それだけは嫌だ。
だから一人になりたいとは言え追い出すような真似はしたくなかった。
まぁ、向こうも僕に関わりたくないだろうし、寝る時は罠を仕掛けておけば良いだろう。
◇◆◇
この孤児院はかなり広い、適当な部屋に荷物を置いて夕飯の準備に取り掛かる。
台所はボロボロながらもなんとか原型を留めていた。
持参の火打石で拾ってきた薪に火をつけてさっき仕留めたウサギを火にかける。
少し香辛料を付けて焼くだけだが十分美味しく食べることが出来るのでお手頃な料理として僕は気に入っている。
料理と聞けば何故か一流の食堂で出てくるような絢爛な食事を想像する者が居るが冒険者の作る料理なんてこんなものだ。
焼き具合を見計らって食べようとしたとき視線を感じた。
振り返ると、視線の先には先ほど不干渉を誓った四人が居るではないか。
もしかして匂いにつられてやってきたのだろうか。
さっき関わらないと言ったばかりだし、無視しようかと思ったが、余りにその視線がしつこいので声を掛けることにした。
「どうかした?」
「いえ、別に──」
ぐううぅぅぅぅ……
ファナが口を開くと同時にファナのお腹が警笛を鳴らす。
少しの静寂の後、ファナは自分の腹を一殴りして続ける。
「別に何でもないわ、それより不干渉なんじゃなかったかしら?がっつり話しかけて来ているようだけど」
あ、無かったことにした。
他の三人も笑いを堪えている様だ。
「そんなに見ておいてよく言うよ」
……
仕方ない……か。
僕は人と関わりたくないと言ったが別に人の心を捨てたわけじゃない。
まだ道端で困っている老人を見つけたら助けるぐらいの人心は持ち合わせているつもりだ。
四人とも痩せ細っており満足な食事が取れていないのだろう。
こんな森の中で少女だけとなると当然だ。
僕は持っているウサギの丸焼きを持参した皿に乗せ、かつて机だったものの上に置いてやる。
「何?まさか施しのつもり?敵から渡されたものを食べるわけないでしょ。毒が入ってるに違いないわ」
おい、カナリナよ、そんなことを言いつつもめっちゃ凝視してるし、あと涎垂れてるぞ。
何故ここまで気を使っているのだろうか、前のパーティーではかなり色々なことに気を使っていたからな、その名残かも知れない。
明日からは自分の部屋で食べよう。
僕は先ほど食べ損ねたウサギに小さく齧り付いてから台所を出た。
今日は拾った果物で我慢するか……
◇◆◇
まぁそうですよね、足りるわけないですよね。
あれから少し時が経ち夜になったが端的に言うとお腹が空いた。
今日の食事はウサギの予定だったから果物は少ししか持っていない。
結果、空腹で寝れないという事態に陥った。
森で夜を明かすのは見張りのいない状況だとかなり危険なため、ろくに食事も取らずにここまで強行したのがまずかった。
眠たいはずなのに寝れない、どうやら僕は睡眠欲より食欲の方が強いみたいだ。
「何か探しに行くか……」
眼が冴えてしまったし、ついでに孤児院を一通り見ておこう。
「その場を知る」というのは冒険者稼業において重要な要素だ。
もし何も知らず、鎧を着て行ってそこが沼地だったら目も当てられない。
動けぬままに惨殺されるだろう。
そこまでとは言わないが自分の住む建物の構造くらいは把握しておいて損はない。
何故わざわざ夜に動くのかと思うかもしれないが昼間は彼女たちが居る。
変に気を使ってしまうから寝ている夜のうちに行動しようって算段だ。
まぁこの時点で既に気を使っているのだが……
「ぅぅ~」
僕が廊下を歩いているとどこからかうめき声が聞こえて来る。
普通に考えたら彼女たち四人の誰かだろうがアンデッド系の魔物の可能性も否定できない。
こういう廃墟めいたところにはアンデッドが住み着きやすいのだ。
うめき声のする方に行くとそこには四人以外の姿があった。
しかし危惧していたアンデッド系でも無かった。
これは……
見た目は女の子で、月の光に反射して漆のような艶のある長い黒髪が淡く光っている。
本来は白く綺麗であろう肌には大きく黄色い斑点がいくつか浮かび上がっていた。
今は寝ているがかなり苦しそうで、先ほどのうめき声もこの子からのもので間違いない。
頭に濡れた布のようなものが置かれていることからも誰かが看病していることが分かる。
ここで僕は先ほどの四人の言葉を思い出す。
(時間が無い……か)
確かに今の彼女の様態からすると長くは持たないだろう。
実際に見たことがあるわけでは無いがこの斑点についていくつかの仮説が立てられる。
僕はそれを確かめるためにも頭に敷かれている布の下を見る。
布の下のおでこには赤い石のようなものが見えている。
あー、これは良くないな。
とりあえず自然治癒で治ることは無い。
あの四人が治し方を知っていることもないだろう。
この子がここに居ることが何よりの証拠だ。
ギシギシ
僕が黒髪の子の布を戻してあげた時、廊下から足音が聞こえて来る。
この場面を見つかるのはまずい。
近くの物陰に隠れる。
足音は黒髪の子が寝ているところまで来て止まった。
「なんで、なんで良くならないの……ごめんねプリエラちゃん、ミーを庇ったばっかりに」
黒髪の子はプリエラって言うのか。
それに看病してる子はミーちゃんって子か?
確かファナに覆いかぶさっていた小柄で桃色の髪の子だ。
元気が無かったのはプリエラが原因かな。
って何を分析してるんだ。
僕には関係のないこと、さっきもそう言ったじゃないか。
パーティに所属してた時はみんなの体調も気遣ってたから、つい何時もの癖でやってしまった。
暫くして寝息が二つ聞こえてきたので部屋を出るため動こうとすると、近くに落ちていた木片を踏んでしまい「バキッ」という大きな音が鳴ってしまった。
「だ……誰……ですか?」
今が夜で周りが静かで無ければ聞こえてこないくらい小さな声が聞こえて来る。
その声色には明らかに怯えの色が含まれている。
声がミーちゃんでは無いので恐らくプリエラだろう。
起こしてしまったか、見つかってしまったなら隠れるほどのことでも無いので素直に名乗り出る。
「起こしてしまってごめん。僕はライアス、今日からここに住むことになったんだ」
「そう……ですか、はじめまして……プリエラ……です」
ここに来てから初めてまともに挨拶されたな。
プリエラは僕がここに住むと言っても特に否定はしないらしい。
だが、長居は無用だ、さっさと出て行こう。
僕が出て行こうとするとプリエラから独り言のような声が聞こえて来る。
「ミーちゃん……私ってなんでいつも皆の役に立たずに迷惑ばかり掛けるんだろう……」
……
「別にそんなことは無いと思うよ。僕は君のことを全然知らないけど少なくともそこに居る子は君に感謝していたよ」
……返事が無い。
らしくないことは言うもんじゃないな。
でも「役立たず」、このワードに僕は弱い。
プリエラに自分の影を見てしまったから声を掛けずには居られなかった。
「ありがとう……ございます……」
っ!
その声は大きくは無かった。
今にも消え入りそうな声で、か細かった。
なのにどうしてこんなに強く心に響くのだろうか。
誰かの本気の感謝を聞いたのは、いつ以来だろう。
店で買い物をした時にされる感謝や適当に言った感謝とは違う。
今紛れもなくプリエラは僕に本気で感謝している。
それは言葉を聞けば分かる。
言葉には表情があると僕は思っている。
だからきつい言葉でもそこに思いやりがあれば受け入れられるし、甘い言葉でもそこに悪意があれば響かない。
このプリエラの言葉には感謝の表情が色濃く見て取れた。
「どういたしまして」
僕は一言告げると部屋を出る。
さて、食べられるものを探しに行きますか。
僕は先ほどより随分と弱まった食欲を満たすため、食べ物と、あるものの存在を探しに森へ向かった。
襲撃者と話し合った結果、不干渉条約を結びました。
結構アバウトですけどね。
最初から雰囲気悪めですが襲われたのですから仕方ありませんね。
さて、ヒロインの一人、プリエラはどこか調子が悪いようです。
プリエラに自分を投影したライアス。
久しぶりの感謝もされて何か思うことがあったようです。
次回
ライアス、プリエラのために行動します。