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第40話 反撃の狼煙

いつもお読みくださりありがとうございます。


 


 僕は自分の無力さに泣きそうになっていた。



 ゴーレムを倒した後、僕は余りの疲労感に気絶してしまった。

 

 目覚めた時、そこにゴーレムの残骸は無く、代わりに仮面の男が居た。

 本の中で見た奴と特徴が一致している。


 カナリナと対峙していることからも敵だと推察できる。


 僕はカナリナの前に立ち男と一言二言、言葉を交わす。

 仰々しい喋り方は書庫の中で聞いた声と一致している。

 まさか、ハリソン本人なのだろうか?

 彼が今、尚生きているとは考えにくい。


 いや、最低の事態を予測して動くべきだ。

 彼は『魔法王』ハリソンだと仮定しておく。


 そのハリソンは杖を振り上げた。

 何かの攻撃が来るに違いない。

 僕は戦闘準備を整える。

 未だ、ゴーレムとの戦闘の疲れが取れていないけど、それはカナリナも同じはずだ。

 ここは僕が踏ん張らないと……


 どんな攻撃でも、対処してやる。


 そんな風に意気込んでいたのに、こんなことになるなんて……


 僕は今、カナリナに刃を向けている。

 どれだけ、意志で抗おうとしても、身体が言うことを聞かない。

 男に杖を振り下ろされたときから、急に身体の自由が利かなくなったのだ。


 全ての動きを掌握される寸前にカナリナに声を掛けたけど、カナリナが逃げる時間を稼ぐことも出来なかった。


 カナリナは咄嗟の機転で、僕の足元を掬った。

 転んだ拍子に身体を強く打ち、全身に痛みが広がる。

 それでも、このまま寝ていてくれれば……


 そんな願いを断ち切るように身体は起き上がる。


(くそっ!なんでこんな……)


 もし自分の手で仲間を傷つけてしまったら僕はどうすれば良いんだ。

 他のみんなにも顔向けが出来ない。


 その後、僕は土の中に閉じ込められた。

 外から聞こえた会話から、仮面男がハリソンだと再確認する。

 僕はまんまと敵の罠に引っかかってしまったのか。


 カナリナはハリソンの煽りに乗って魔法を解いてしまった。

 

 僕は覆っていた土が消えると同時にカナリナへ駆け出してしまう。

 敵に良いように使われていることが不甲斐なくて仕方ない。

 

 しかし、僕に刃を向けられたカナリナはゆっくりとこちらに歩いてきてきた。

 その足取りは落ち着いていて、表情は初めて見る優しい笑顔だった。


(なんでこっちに来るんだ!)


 僕は口まで動かなくなり、声を上げることも出来ない。


「アンタはほんとお人好しよね、()()()()


 カナリナから初めて名前を呼ばれた気がした。

 彼女も僕を仲間と認めてくれたのかもしれない。

 そんな大事な場面でこんなことになってしまうなんて……


 僕は握った短剣を振り上げる。

 どれだけ、足掻こうとしても止めることは出来ない。


 それをカナリナに突き立てようとした瞬間、土の障壁に阻まれた。


 そして、そのまま抱き留められる。

 ふわっと良い匂いが広がり、刺激は生きていることを再確認した。


 そこから蔦のようなものが全身を拘束してきて、僕はそれ以上動くことが出来なくなった。

 僕より背が低いカナリナから声が聞こえて来る。


「少しだけ、あたしの話を聞いてくれるかしら」


 その声色は真剣で、こんな状況ではあるけれど、しっかり話を聞こうと思った。

 幸いにも短剣を弾き落とされ、身体中を拘束されたことで、僕がカナリナを傷つける危険も無い。



「まずは謝らせて。今までのこと全て。キツイ態度も、あたしのせいで傷つけてしまったことも、都合の良い時だけ頼ったことも全て……ごめんなさい」


 確かに、カナリナにはキツイ態度を取られた記憶しかない。

 それでも、僕を助けてくれたこともある。

 ゴーレムの件もカナリナが居なければ、突破できていなかった。


「あたしね。アンタに嫉妬してたの。後から来たのに、力が無いのに、皆を助けていくアンタにね。なんか、力が無いことを言い訳にしてた自分が本当に惨めに思えて……だからアンタを遠ざけた」


 そんな理由があったとは……

 僕は単純に嫌われているのだと思っていた。


「あたしは自分の弱さを他人に見せるのが怖かった。必死にみんなの役に立とうとしたわ。それでもあたし一人の力では何も成し遂げられなかった。今こうして話せているのも、アンタを助ける機会が訪れたからだし、あたしが魔法を使えるようになったからだと思うの。本当にあたしは卑怯で、弱い女よ」


 弱さを見せることへの恐怖は誰しもが持っているものだ。

 みんな少しでも自分をよく見てもらおうと努力している。

 それをいったい誰が咎められるだろうか。


「でもね。あたしが一番嫌だったのは、アンタの頑張りを、アンタの勇気を、あたしが乏しめてしまったことよ。アンタがいつも目的を達成するために必死になっているのは分かってた。でも、あたしはそれすら受け入れられなかったの。本当に申し訳ないと思っているわ」


 ……


「それとね。分かったことがあるの。あたしはずっと一人でなんとかしようとしてきた。でも大切なのは一人で成し遂げることじゃない。誰かと協力してでも成し遂げることだって……」


「だからね。その……やり直したいと、いや違うわね。アンタの仲間にして欲しいと、そう思うの。あたし我儘だし、我が強いのは自覚しているわ。それでもね、あたしの出来る範囲で役に立つから、しっかり言うことも聞くからお願い」





「あたしを仲間にして欲しい」





「カナリナの気持ちはしっかり受け取った。カナリナが気にしているみたいだから今までのことも全て水に流そう」


 僕は自分の意志で喋ることができるようになっていた。

 カナリナは話しながら、ずっと僕に魔力を注ぎ込んでいた。

 そして、僕を支配していたハリソンの魔力を追い出したのだ。


 身体の自由は戻ってきたけど、蔦で拘束されているため、まだ密着しているのに変わりはない。


 僕はカナリナに返事をするべく、口を開く。



「でもね、僕は違うと思うんだ」


 僕が否定的な意見を言ったことでカナリナの身体がびくっとしたのが分かった。


「仲間って言うのはね、役に立つとか、言うことを聞くとか、そういうのじゃないと思うんだ……カナリナはカナリナらしく、自分で考えて行動すれば良い。その行動が仲間のためを思ってのモノだったなら、それは立派な行動だ。誰にも否定させやしない。でも、間違えることの一つや二つはある。僕も含めてね。その間違いをお互いに正していくのが仲間なんじゃないかな。だからね──」



「──カナリナは僕の間違いを正せる人になって欲しいんだ」



 僕とカナリナを拘束していた蔦が解かれていく。


 少し離れたカナリナは目に涙を浮かべていた。


「あら、良いの?あたしに言うこと聞かせる絶好のチャンスだったのに。こんなチャンスもう無いかもしれないわよ」


「うん。カナリナが必要になったらお願いしに行くよ。カナリナはなんだかんだ助けてくれそうだよね」


「ばっ!そ、それに間違いを正せって言われても、あたし口調悪いし、別にアンタを正す資格なんて……」


「大丈夫、確かに最初は口が悪いと思ってたけど、最近、その中に含まれてる優しさみたいなのに気付けるようになってきたから」


 これは本音だ。

 彼女とは不幸な行き違いがあったけど、今回の件で信頼関係を結べたと思う。

 今思えば、彼女はいつも他人を気にかけていた。

 そんな彼女だからこそ、多少口が悪くとも上手くやっていけると思う。


 彼女は口をあわあわさせている。

 僕はそんな彼女に手を差し伸べた。


「これからよろしくね、カナリナ」


 彼女は僕の手を見つめて深呼吸した後、握り返してきてくれた。


「ええ。アンタの間違いは正してあげるから覚悟しておきなさい」



 これで、カナリナとの関係は最善の方向に向かった。

 僕はさっきから何も喋らない仮面の男に向き直る。


「わざわざ待ってくれるなんて、随分と親切なんだね」


「いやぁ、良いモノを見せてもらったァ!これが友情、いや愛情というやつなのかな!?私には縁が無かったからねェ!」


 ハリソンは依然、楽しそうに声を出している。

 ハリソンの目的が掴み切れない。

 僕達を殺すのが目的で無いことは確かだろう。

 本当に殺す気ならチャンスは幾らでもあった。


「ライアスを操ったこと、後悔させてあげるわ」


 カナリナがハリソンに魔法で攻撃を仕掛ける。

 ハリソンはその場から動かない。


 魔弾はハリソンの近くまで行ったところで消え去ってしまった。

 やはりハリソンに魔法は効かなそうだ。


「ざぁんねんながらァ!私に魔法で傷をつけることは出来ないともォ!それより、そろそろこちらからも行かせてもらうよォ!早く私を満足させないと……」


 ハリソンの周りに光る球体が浮かび上がる。

 その数はどんどん増えていき、ゆうに百を超えた。


「死ぬよ」


 そして、その球体から、魔力を具現化させたモノが飛んでくる。


「カナリナ、下がれ!」


 僕とカナリナはすぐさま、後ろに下がる。

 魔弾は僕達の後を追うように次々と打ち込まれてきた。


 それを間一髪で避けていく。


(カナリナを狙っていた?)


 今の攻撃は僕というよりはカナリナを狙っていた。

 だけど、今ので僕は確信した。

 ハリソンは明らかに手加減をしている。

 今の一撃を僕たちが躱せたことが証明だ。

 普通に考えれば、あの数を無作為に打たれるだけで、躱しようがない。


 だけど、手加減されているのが分かったからと言って安心できるわけでは無い。

 あのまま留まっていたら死んでいたことは確実だ。


(何だ? ハリソンは何を求めている!?)


「良いのかい?逃げてばかりじゃ勝てないよォ!」


 ハリソンは左手の杖を横薙ぎする。

 その延長線上にはカナリナが居た。


(マズイ!)


 僕は第六感ともいえる直感に従ってカナリナの前に立った。

 拾っていた短剣を構え防御の姿勢を取る。


 次の瞬間、僕は強烈な衝撃とともに、後ろの壁まで飛ばされた。


「ライアス!」


 カナリナの悲痛な叫びが聞こえてきた。

 僕は全身に受けた衝撃に驚く。


(ぐっ!なんて衝撃だ!)


 今、ハリソンはゴーレムがやっていたような見えない斬撃を放ってきた。

 杖だったからか、切断力が無かったのが幸いだ。

 それでも、かかった衝撃はゴーレムの比ではない。

 見れば、短剣の一本が折れていた。


 長期戦は無理だ。

 あの攻撃を何回も受け止められるとは思えない。


 というかそもそも、アイツに勝てるのか?

 あんな反則級の魔法を連発してくるのだ。

 一撃を受け止めるだけでも命懸けだ。

 それに、ゴーレムが出て来る時の魔力時計には物凄い量の魔力が内包されていた。

 魔力切れの望みはほぼない。


 僕は考える。


 待て、そもそも今の僕の目的はなんだ?


 アイツに勝つことか?



 いや違う。

 ここから生還することだ。


 そのためには何が必要だ?


 その時、僕は書庫で見た一文を思い出した。


『私はね、常々思っていたのだよ。人に試練と報酬を与えたいと!』


 試練と報酬……

 僕としてはゴーレムが試練だと思っていたけど、ハリソンの様子を見るにまだ、試練は継続中なのだろう。

 これが試練だというならば、先ほどのハリソンの言葉が引っ掛かる。


『そこのあなた、そう男の子の君です。あなたは実に良い!合格です!その知恵深さ、それを実行する強さ、どちらをとっても優秀だァ!』


 ハリソンは確かに『合格』と言った。

 合格、つまりは僕個人は試練を乗り越えたと考えて良いはずだ。


 それでも、まだ試練が続行しているということは……


 カナリナか。


 まだ、ハリソンから見れば、カナリナは合格では無いのだろう。

 それならやることは一つだ。


 僕は折れた短剣に今までの感謝を告げてから捨てて、カナリナに声を掛ける。


「カナリナ!今から僕はカナリナの指揮に従う。どんな手を使っても良いから、アイツに一撃を入れるんだ!」


 ここで、僕が指揮を取ってもハリソンは合格を出さないだろう。

 ハリソンは僕の言葉を聞いて、笑みを深めたような気がした。


 カナリナも僕が言いたかったことを理解してくれたようだ。


「……分かったわ。ライアス、あたしを信じてくれるかしら?」


「うん、当然」


 僕がカナリナのところまで、戻ったところで作戦を伝えられる。


 ……


 なるほど、シンプルだけど良い案だ。


 カナリナは作戦を言い終わった後、僕に尋ねて来る。


「良いの?結構アンタを危険な目に合わせちゃうけど」


「それはカナリナ次第でしょ。頼んだよ」


 僕とカナリナは頷きあって、ハリソンを見据える。


「そろそろ、お話も終わったかなァ!?早く私を満足させてくれたまえェ!」


 ここで待ってくれる辺り、ハリソンはやはり試しているんだな。

 ハリソンは先ほどと同じように光の玉を周りに浮かせており、迎撃態勢を取っている。


「待たせたわね。さぁ、行くわよ」


 

 

 反撃開始だ。



今回の一件で信頼関係を結べたライアスとカナリナ。

カナリナも自分の弱さを人に伝えることで一皮むけたようです。


次回、決着

お楽しみに。

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[一言] さあ反撃開始!
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