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第34話 『番人』との戦い

 


 ゴーレムがその大きな腕を長剣ごと振り下ろしてくる。

 僕達とゴーレムの間にはかなり距離があり、普通なら幾ら長剣と言えど届くはずもない。


 だけどこのゴーレムにそのような常識は通用しない。

 見えない斬撃がどこまでも伸びて来るので、その長剣の軌道上に居ればたちまち切り刻まれてしまうだろう。


 僕とカナリナは剣の軌道を避けながら壁に向かって走る。

 ゴーレムの斬撃が僕のすぐ後ろを掠め、地面を抉りとっていく。

 それでも自動修復機能のある床や壁は数瞬の間に元通りになった。


「はぁ、はぁ……」


 先ほどから隣を歩くカナリナの息がかなり乱れている。

 多分、さっき魔法を使ったことでかなり消耗しているのだろう。

 このままではあのゴーレムの斬撃に捕まってしまう。


 僕はカナリナに声を掛けてからゴーレムの方に向かう。


「カナリナ、僕はあいつを引き付けておくからその間に頼んだ」


「ちょっ、はぁ、そんな、丸腰で……」


 カナリナが何か言っているけど、僕はそれを無視してゴーレムを見据える。


 自分の三倍もありそうな大物に近づくのはそれだけで怖い。

 それでもこいつを倒すためには僕が囮になるのが一番良い。


(カナリナの準備が整うまでこの短剣で時間を稼ぐ!)


 僕は両手に短剣を握りしめゴーレムの剣の動きに注目しながら、その斬撃に捉えられないように近づいていく。

 見えない斬撃が僕の髪の毛を少し刈り取った。


(くっ、さっきより動きが速い!)


 ゴーレムの動きは大雑把ではあるが、その速さは確実に上がっている。

 見えない斬撃を完全に躱すことが出来ず、僕の身体には切り傷が増えていく。

 このまま距離を保たれたままだとジリ貧だ。

 

 僕は速度を上げ、相手の懐まで潜り込む。

 その時、コアに書かれている数字が「1」だけ減っているのが見えた。


「やっぱり、動くだけでも魔力を使うんだね。それなら数字を削り取った時が僕たちの勝ちという訳だ」


 僕は振り下ろされた剣の横に短剣を這わせて攻撃を逸らす。


 ゴーレムの右腕から伸びる長剣は身体と一体化しており、その強度は半端ではない。

 少し触れただけなのに僕の手は痺れ、短剣は少し刃こぼれする。

 やはり長く使用してきた短剣では長くもちそうにない。

 逆に今まで折れてこなかったのが不思議なくらいだ。


 ──ギィン、ィィン──


 辺りに金属と金属の擦れあう音が響き渡る。


 幸いにも距離が近いので見えない斬撃が飛んでくることは無いけど、ゴーレムの長剣を受け流す度、僕の短剣が悲鳴を上げているのが分かる。


 伸びる斬撃がカナリナに当たらないように立ちまわっているのも、押されている原因の一つだ。


(右、左、上)


 僕はゴーレムの肩口に着目し、その動きを予想して動く。

 幸いにもゴーレムの動きは単調かつ同じ拍子なので合わせやすい。


 リズムを刻むようにその致死の斬撃を躱す。


 しばらく経ってからゴーレムのコアを見るがそこの数字は「2980」となっていた。

 体感ではかなり時間が経ったけど、ゴーレムが魔法を使ってから「10」しか減っていない。

 これでは相手の魔力が尽きる前に僕の体力が尽きてしまう。


(やはりあの胸のコアを壊すしかないか……)


 そのためにも攻撃に転じたいが、残念ながらそんな余裕はない。

 僕が右から来る斬撃を逸らしたとき、今まで止まらなかったゴーレムの連撃が止まった。


(チャンス!?)

 

 僕は相手の足先を絡めとろうとして前に一歩踏み込む。

 その時、僕の第六感とも言える何かが警笛を鳴らした。


 少し右に視線をずらすと、ゴーレムの左腕からハンマーのようなものが飛び出ているのが見えた。

 今までは左腕が届く範囲に居なかったので注意していなかったけど、あの大槌が出てきたせいで十分僕に届くようになっている。


(ヤバい、武器を生成できたのか!?)


 僕はすぐさま両手に握った短剣を身体の横に滑り込ませる。


 ゴーレムの大槌は容赦なく僕の命を刈り取りに来る。

 今まで直撃を避けていたけど、この体勢では上手く流すことは出来そうにない。



(避けられない!)



 ガァン!!


 凄まじい衝撃音に僕の耳がおかしくなったような気がした。



 それでも僕の身体は無事だった。


(良かった。間に合ったようだな)


 僕の目の前でゴーレムが横に倒れて行く。

 その左肩には大きな斧が深々と刺さっており、浅くない傷であることが分かる。


 さらに倒れたゴーレムに向けて数十の槍が降り注ぐ。

 全てが当たったわけでは無いけどかなり効いているようだ。


 僕の元にカナリナが走ってくる。


「はぁ、遅くなったわね、はぁ」


「いや、カナリナのお陰で助かったよ。ありがとう」


 肩で息をするカナリナの周囲には様々な武器が浮いている。

 当然、僕やカナリナが持ってきたわけでは無い。



 ──これは絵画の中にあった武器だ。



 そう、ゴーレムは絵画に魔力が流れることで出現した。

 それなら他の絵画に描かれているモノも同じように魔力を流すことで顕現するのではないかと予想した。


 だからカナリナに壁にある武器の絵に魔力を流し込んでもらい、武器の生成を出来ないかお願いしたのだ。

 強そうな魔物を出して戦わせても良かったのだけど、僕たちに敵対すれば勝ち目が無くなるので止めておいた。

 出来れば武器を投げてくれると嬉しいと言ったけど、こんな形で扱うとは思っていなかった。



「でもかなり疲れてるみたいだけど大丈夫?」


 無理をさせているのは分かっているのにこんな聞き方をする僕は卑怯だ。

 それにこれまでの付き合いからどう返事が返って来るかも分かる。


「はぁ、この程度、なんてことはないわ。はぁ、それより、アンタこそ傷だらけじゃない」


 やっぱりカナリナは強い。

 魔法の技術もそうだけど、何より心が強いと思う。


「僕のはどれも浅い傷だから心配ないよ」


 これ以上カナリナに負担は掛けたくないけど、僕だけだと戦えない。

 カナリナに頼るしかないなら早く終わらせればいい。


「少し武器を見て良いかな?」


「はぁ、良いわよ……」


 カナリナは武器を下ろした後、その場にへたり込む。

 やはりかなり消耗しているようだ。


 僕はカナリナが持ってきた武器の中にどんなものがあるか見て行く。


 そこには両手剣や、斧といった武器から鎖の先に大きな鉄球が付いているような、あまり見かけない武器まであった。

 さらには盾や籠手などの防具や爆弾などの小物もあった。

 盾は大きいものから小さいものまで揃えてある。


 僕は短剣をしまい、カナリナが持ってきた片手剣を借り、重さを測る。

 よし、いい具合だ。

 それにこの片手剣はかなりの業物だ。

 斧がゴーレムに刺さった時点である程度予想していたけど、これならゴーレムにもダメージを通せそうだ。


 ちなみに僕はいつも短剣を使っているけど別に短剣使いという訳ではない。


 僕には突出して得意な武器が無いのだ。

 でも逆に言えば苦手な武器も無い。

 当然のように片手剣も使ったことがある。


 なぜ片手剣にしたかと言えば、もう片方の手に盾を持てるからだ。

 やはりゴーレムの攻撃を受け止めることは出来ないので避けるしかない。

 それなら丸くて半球のような形をしている盾は目的に適している。


 僕は爆弾を一つ盾の中に仕込んでおく。

 作戦の成功はこの爆弾の威力に掛かっていると言っても過言ではない。


 他には一応籠手も着けておいた。

 手を守る防具はそこまで動きを阻害しないし、手への痺れが少しでも軽減されれば儲けものだ。


 準備を整えた僕はカナリナに声を掛ける。


「幾らでも時間は稼ぐ。だから例の魔法をお願い」


「直ぐにやってやるから、安心しなさい」


 カナリナの顔色は先ほどより良くなっている。

 少しだけ回復したようだ。

 それでもこれからさらに負担を掛けなくてはいけない。


 僕は少し罪悪感を感じながらゴーレムに走っていく。

 恐らく胸のコアを壊せばゴーレムを倒せるはずだ。

 ゴーレム種は基本そのように出来ているからだ。


 それなら上半身だけを起こした状態の今は絶好のチャンスだ。


(ここで倒せばカナリナに負担を掛ける必要もない)


 僕がゴーレムの近くまで行ったとき、ゴーレムの左肩に刺さった斧が自然に落ちた。

 なんで落ちたのか疑問だったけど、その傷口を見て理解した。


(再生してる……)


 ゴーレムの左肩には淡い光が灯っており、恐らく回復魔法の類だと分かる。

 付けた傷が再生するのは辛いけど、これくらいは予想範囲内だ。


 でも、無限に再生できるわけでもなさそうだ。

 胸のコアに書いている数字が「2930」となっており、回復にはかなりの魔力を必要とすることが分かる。


 僕は槍が刺さっているゴーレムの足からよじ登り、コアに片手剣を振りかざす。

 しかし、振り切る寸前、危険な匂いを感じ取った。


 僕はすぐさま攻撃を止めて盾を構え、後ろに全力で飛ぶ。


 間一髪だった。

 僕がコアを離れた瞬間、僕に槍が差し込まれた。

 辛うじて盾で防げたけど、もしあのまま何もしていなかったら僕に刺さっていただろう。



 でもなんでだ?

 ゴーレムの手は長剣と大槌と一体化していたはず……


 僕はゴーレムの全体像を見て絶句した。


 僕の目の前のゴーレムは先ほどより大きく見える。

 それは身長が伸びたからではない。



 手が増えていたからだ。

 大きく広がる六本の手はそれだけで威圧感を与えて来る。


 その手に先ほどカナリナが貫いた槍を握りしめ、雄たけびを上げる。


 ──ォ、ォォオオオオオオ!!


 二本の腕は長剣や大槌と同化しているので使えていないけど、四本の腕は空いている。

 その四本を使って近くにある槍を力任せに投げ込んできた。


 狙いも何もない投擲(とうてき)だけど、その速さは尋常じゃない。

 それに手が一本ならまだしも四本となると、防ぐのは難しい。


 目の前から投げられる槍を身体を引いて避ける。

 僕の顔に向かってきた槍は盾で弾いた。

 しかし弾いた盾に伝わる衝撃が強くて身体がよろけてしまった。


(しまった!)


 体制を崩した僕に槍が放たれる

 これは避けられない。




 ガァァン!


 金属と金属の擦れあう音と共にカナリナの声が聞こえて来る。


「ちょっと、はぁ、アンタがやられたら、次はあたしなんだから、はぁ、しっかりしなさい!」


 どうやら他の盾を動かして僕を守ってくれたみたいだ。


「ごめん!ありがとう!」


 言葉少なにカナリナへ感謝を告げた僕はゴーレムに立ち向かう。

 槍が尽きたゴーレムは僕に攻撃を仕掛けに来る。

 六本の手には長剣が握られている。

 ハンマーも全て長剣にしたようだ。


(ビビるなよ……)


 僕は六本の手から繰り出される剣戟を受け止める。

 

 あらゆる場所から絶え間なく攻撃されることでどうしても下がってしまう。

 盾を選択したお陰でなんとか防げてはいるけど、長くはもたない。


 僕は必死にくらいついていく。


 攻撃に転じる隙など微塵もない。

 全ての神経を防御に回す。


 (くっ、これ以上は……)


「はぁ、待たせたわね!行くわよ!」


 カナリナの声が聞こえると同時に周りに冷気があふれ出す。

 ゴーレムも何かを感じ取ったようでその動きを止めた。

 僕は急いでその場を離れる。


 僕が離れたと同時に白い霧がゴーレムを覆った。


 ──凍結の霧


 僕がカナリナにお願いした魔法だ。

 ゴーレムに魔法攻撃は効かない。


 それでも足止めは出来るはずだ。

 予想通り、ゴーレムは身体の端から凍っていく。


 ゴーレムが半ばまで凍ったところで霧が晴れる。


「はぁ、後は、頼んだわよ……」


 カナリナが僕の後ろで倒れたのが分かった。

 今すぐに駆けつけたいけど、まずはこのゴーレムを倒すことが優先だ。


 僕はゴーレムに向かって駆け出す。

 足を固められたゴーレムは無理に身体を動かそうとしたせいか、後ろに倒れこむ。

 六本の腕も肩先から凍っており、動かすことは出来そうにない。


(今しかない!)


 ゴーレムの足に飛び乗り、片手剣をコアに向けて突き刺した。



 バリン!


 硬そうなコアもこの剣が業物のお陰かヒビが入る。

 続けざまにコアを切りつけることでコアが欠けた。


 どうやらコアは二重構造になっているようで、数字が書かれているのは内側のコアのようだ。

 その数字が凄いスピードで減って行っている。


 コアに書かれている数字は現在「1500」まで減っており、確実にダメージは与えられているけど、倒しきるにはまだ足りない。


 その時、コアの周辺に魔力が集まり出した。

 今までで一番の量の魔力が集まっていく。


 これ以上は危険と判断した僕は盾に仕込んだ爆弾を起動させ割れたコアの内側に入れる。


 ゴーレムはそんなことなどお構い無しに魔力を練っていく。

 その量は攻撃を行うにしても多すぎる。


(まさか自爆する気か?)


 こんな空間で自爆されれば僕だけでなく、カナリナも巻き込まれてしまう。

 倒れているなら尚更だ。


 僕は持っている武器を捨て倒れているカナリナの元に近づく。

 カナリナは気絶しており、鼻からは血が出ていた。

 やはり無理をさせ過ぎたようだ。


 しかし、自分の不甲斐なさに落ち込んでいる時間はない。

 僕はカナリナが持ってきていた武器の中で大楯があったのを思い出しながら探す。


 ゴーレムの魔力は膨れ上がっており、盾などで防げるかは分からない。

 それでも何もしないよりはマシだ。


(あった!)


 大楯を見つけた僕はすぐさまそれを拾い、カナリナの前に立つ。

 


(絶対にカナリナは守る)


 僕は強く意志を持って大楯を構える。

 ゴーレムの魔力が膨れ上がる。


 僕はなけなしの魔力を大楯に注ぎ込んで、その強度を少しでも上げる。


 ──ォォォォオオオオ!!!!


 雄たけびと共に全方向に凄まじい魔力の奔流が流れ出した。


「ぐっ……」


 僕が全体重で以て支える大楯に今までに感じたことが無いほどの衝撃を感じる。

 それでも僕がここで手を離せば僕だけでなく、後ろのカナリナも耐えられないだろう。


 この手だけは死んでも離さない。



 世界から音が消えたように感じる。




 ……


 攻撃が止んだ。


 魔力を使い切った僕は魔力不足で倒れこむ。

 高密度の魔力に晒された大楯はその役目を終えて、粉々に砕け散った。


 過度な負荷を受けた僕の身体もボロボロで当分は動きそうにない。



 僕は頭を上げてゴーレムを見る。


 そこには全身がバラバラになったゴーレムが居た。


(爆弾の威力が思ったより大きかったのか……)


 攻撃が止んだのもあの爆弾のお陰かもしれない。

 完全にコアも砕け散っており、あのゴーレムでもここからの回復は不可能だろう。


 後ろのカナリナの様子は見えないけど、息遣いが聞こえるから大丈夫なはずだ。




 僕の意識が落ちて行くのが分かる。


(ここで気絶するのはマズイ……)


 何が起こるか分からない状況で意識を失いたくは無いけど、身体は言うことを聞いてくれない。



 薄れゆく意識の中、男の甲高い声が響いてくる。



「まぁさか『番人』を倒すなんてねェ!これは久々に面白いお客人がいらっしゃたものだ。そんな彼らがどういった選択をしてくれるのか楽しみで仕方がないィ!是非とも私の満足のいくものを見せてもらいたいものだねェ!」








『番人』との戦いで死力を尽くし、勝利したライアスとカナリナ。

しかし二人とも気絶してしまい無防備な状態です。


そんな中で彼らに与えられる次の試練は何なのでしょうか?


次回、カナリナの過去

お楽しみに。

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