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第32話 カナリナの相談

いつもお読みくださりありがとうございます。

 


 あれからカナリナにせがまれるまま教えていたことで、かなり時間が掛かってしまった。


 聞かれた本は全て魔法関連についてのものだった。

 もしかしたら、カナリナは本が好きなのではなく、魔法が好きなのかもしれない。

 一通り教えたところで満足したのか読書に戻ってしまい、僕は手持ち無沙汰になってしまった。


(早めにここを出た方が良いよな……)


 そう思いつつも、もう手遅れな気もしてくる。

 張り紙を読んだ限りだと、ハリソンは誰かがここに来るのを想定した上で、この建物を作ったのだと分かる。

 彼はこの屋敷に来る人に試練と報酬を与えることに楽しみを見出したと言っていた。

 死後にそんなことをする意味は分からないけど天才のすることだ。

 深く考えることはよそう。


 そして、ハリソンは試練をするとみんな死んでしまうと言っていた。

 それなら先に渡す報酬にも、この屋敷についてのことや、これから起こることへの対策のような記述もあるかもしれない。


 僕はここを早く出るより、ここで何かのヒントを探すことにした。

 僕は本棚の間を縫って見て回る。


 本には色分けがされており、色ごとに分野が分かれているようだ。

 紫色は魔法関連、深い緑色は植物や薬草関連、黒色は魔物関連といった感じだ。


 色は様々だけど、総じて深い色が使われている中で異彩を放っている本が一冊だけあった。

 白い本で、その本だけやたらと明るく目立っている。


 どう考えても怪しい……


 僕はその本を手に取り、中身を確認する。

 中身も表紙同様ほとんど白紙で紙の無駄遣いとしか言いようがない。

 しかし、最後のページには何かの絵と一言だけ書いてあった。


『知らないは罪、弱いも罪だ』


 その言葉の上に右手に本を、左手に杖を持った男の絵が描かれている。

 男の顔には白い仮面がつけられており、仮面の不気味な笑みが不安感を煽っている。

 左手の杖は老人が使うための物では無く、魔法使いが使うようなもので、かなり上等なものだと分かる。


 言葉は過激だけど、知識も力も生きていくためには必要なものだ。

 言っていることに納得はできる。

 

 次に僕は絵について考察してみる。

 仮面男の意味は不明だけど、右手と左手に持っているものの考察はできる。

 これはエントランスでの分かれ道を表しているんじゃないかと思う。


 僕達は右に来た。

 そして、書庫に辿り着いた。右手に本があることからも関連性があると言える。

 

 それなら左手はなんだろう?

 仮面男が持っているのは杖。

 右が知識を表す本だとすれば、左は力を表す何かかもしれない。

 これ以上は行ってみないと分からないな。


 僕は白い本を戻して、他の本に目を向ける。


 後は似たり寄ったりだけど、僕はなんとなく濃い黄色の本を手に取る。

 濃い黄色は大体ヒトのことについて書かれているものだ。

 その本はどうやら人間以外のヒト属について書かれている本だった。


 兎人族や、エルフといった僕でも知っているものから、刀人族なんていう聞いたことも無いものまで残っていた。

 興味本位で読んでみると、刀人族は見た目は普通の人だけど刀に変身できるらしい。

 確か刀は片刃で刀身が細く、切れ味が良い武器と聞いたことがある。

 僕の身近に刀を使う人は居なかったので実物は見たことが無い。


 それにしても、ここまで情報を揃えているのは凄い。

 正直、ずっとここに居て本に読みふけっていたいような気もしてしまうけど、地上のみんなも心配だ。

 まぁ、今は他の人の心配をしている場合では無いので、プリエラやアイリスの力を信じて、僕は地上への生還に注力しよう。


 僕が本を閉じようとしたとき、吸血鬼の項目が目に入ってきた。

 プリエラは自分のことを吸血鬼と言っていた。

 もしかしたらプリエラが知らないだけで、吸血鬼にとってまずいことがあるかもしれない。

 プリエラの様子を見るに太陽の光などは大丈夫なようだけど、ここで少し吸血鬼のことを学ぼう。


 僕は吸血鬼の項目のところを読んでいく。

 今回もあの変な声が聞こえ来るかと思ったけど杞憂に終わったので、自分のペースで読み進めることが出来そうだ。


『吸血鬼。ヒト属の中でも力の強い方だ。しかし、その強さを手に入れるには吸血鬼以外のヒト属の血が必要になる。どの血を飲めばより強い力を得られるかというのは吸血鬼それぞれだ。だからこそ吸血鬼にとって最適な血を得ることは生涯の課題ともなるわけだ』


 なるほど。

 吸血鬼同士では特に血で強化されるわけでは無いのか……


 あれ?プリエラが言うには『血の契り』をすることでお互いの耐久力が上がるというようなことを言っていたけど、これを読む限り、吸血鬼同士で血を飲んでも特に力が得られる訳ではないようだ。

 僕は人間だからプリエラが強化されるのは分かるけど、なんで僕まで丈夫になっているんだろう?


 少し疑問もあるけど僕は読み進めていく。


『吸血鬼が太陽に弱いなんて噂もあるがそれは全くの嘘だ。吸血鬼が太陽で弱体化することは無い。じゃあ吸血鬼はどうやって倒すのか?一番簡単なのは血を飲めなくさせることだ。血で強化していない状態の吸血鬼はさほど強くない。それに血の力を使う時、魔力と飲んで貯めた血をを使うことがほとんどだ。自分の血を使った方が強い攻撃は放てるがその分消耗も激しい。貯められる血の量には個体差があるが、そこまで多く貯められる吸血鬼は少ない。つまり、吸血鬼は持久戦に弱いのだ』


 僕の知らないことが当たり前のように書いている。

 ハリソンの知識の深さには感服するしかない。

 プリエラが鞭使いの男を攻撃するときに使っていたのは恐らく自分の血だ。

 プリエラがあの後、倒れたのは自分の血を使い過ぎたからかもしれない。


 僕は次のページをめくる。


『次は何について書こうか。そうだ、吸血鬼において最強と呼ばれた女が居る。その話をしようか。もうかなり昔の話なので私も実際に見たわけでは無いが、吸血鬼に伝わる伝説のようなものらしい』


 どうやら、吸血鬼の生態の話は終わってしまったようだ。

 ここからは伝説など、吸血鬼に伝わるおとぎ話のようなものだろう。

 読み飛ばそうかとも思ったけど、少し気になったので読むことにした。


『その名をカリエヴァと言う。曰く、カリエヴァは少女の頃、吸血鬼において最弱だった。なぜなら、カリエヴァは一滴の血も飲むことが出来なかったのだ。吸血鬼にはたまにそういった女性が現れるようだが、みんな排斥されていたようだ。例に漏れず血が飲めなくて非力だった彼女は次第に周りから疎まれていった。吸血鬼は実力至上主義なところがあるからな。結局、カリエヴァは吸血鬼の里から追い出されてしまったらしい』


 ん?なんか聞き覚えがある話だな。

 確かプリエラも血が飲めず、排斥されたとかなんとか……


『それから月日が経ち、みんなが彼女のことなど忘れ去った時、カリエヴァを名乗る女性が里に現れた。彼女の隣には人間の男が一人居たらしい。誰もが彼女のことを忘れていたが、里の一人が思い出したことで、みんな思い出したようだ。吸血鬼のみんなは彼女を嘲笑った。吸血鬼において里を追い出されることはとても不名誉なことなのだ。中には隣の男を餌と呼ぶ者も現れた。しかし、男を餌呼ばわりした男が次の瞬間には細切れになっていた。それを口火に悪口を言っていた奴は全員惨殺されてしまったのだ。実力至上主義の吸血鬼において、そのことはかなり効果的だった。それから彼女はその里の長となった。なぜ、彼女が里に戻ってきたかは定かでは無いが、そこは重要じゃない。重要なのは彼女が不死身だったことだ』


 な、なかなか過激なことが書かれているな。

 吸血鬼は基本的に強い一族だ。

 それを一人で圧倒するなど、正気の沙汰ではない。


『彼女は特別、圧政を敷いていた訳では無いが彼女のことを気に食わない者もいた。彼女は他の人と『血の契り』を行わなかったからだ。友好関係を結ぶための『血の契り』を行わないため、他の里などからも目を付けられた。そして、一度、彼女の心臓が貫かれたことがある。基本的にヒト属は心臓を貫かれたら死ぬ。それは吸血鬼とて例外ではない。それでもカリエヴァは死ななかった。さらに老いもしなかった。いわゆる不老不死というやつだ。お供をしていた男は人間だったようだがカリエヴァ同様、老いることは無かった。結果、絶大な力を持ったカリエヴァは攻めてきた他の吸血鬼の里を吸収していき、吸血鬼の王国を作り上げた。もし、彼女が征服心旺盛だったなら、今の世の中は吸血鬼が一強だったかもしれないほどの強さだったらしい。そんな最強の彼女を吸血鬼たちはこう呼んだ。『不死身の吸血姫(きゅうけつき)』と……』


 カリエヴァという女性はそこまで強かったのか。

 カリエヴァはあまり外に目を向けなかったから、僕たち人間界には伝わっていなかったんだな。

 昔の時代は人間は弱小種族だったはずだし、気にも留められて居なかったのだろう。

 それにしても不老不死で心臓を貫かれても死なないというのなら、どうして死んでしまったのだろう。

 もし、生きているなら絶対に話題になっているはずだ。



 僕はページを捲り、カリエヴァが死んだ原因を読んだ瞬間、衝撃のあまり、本を落としてしまった。

 本を取ろうとする手は震えている。


 もしプリエラが『吸血姫』だとして、僕と『血の契り』をしたということは……



 そこにはこう書かれていた。



『じゃあ、何故その不老不死の『吸血姫』カリエヴァが死んだのか?端的に言うとカリエヴァの伴侶が殺されたからだ。言っておくが伴侶が殺され自暴自棄になって自殺したのではない。伴侶が死ぬと同時にカリエヴァも呪いにでも掛かったように息を引き取ったのだ。カリエヴァと伴侶の男性は頻繁にお互いの血を飲んでいたことが記録されている。吸血鬼の間では男性はカリエヴァの血を飲むことで不老になっていて、カリエヴァは彼の血を飲むことで力を得ていた。そして、男性が死ぬとカリエヴァも死ぬような契約が為されていたということで納得したようだ。それからも……』


(待て、落ち着け)


 何もプリエラが『吸血姫』と決まった訳ではない。

 それに、カリエヴァが行った契約は『血の契り』ではない可能性も高い。


 でも、もしプリエラが『吸血姫』で、この契約が『血の契り』のことだとしたら……



 ──僕が死んでいればプリエラも死んでいた。


 例えばドラゴン事件の時だ。

 あの時、僕はアイリスの助けが無ければ死んでいた。

 賊の集団の『バンヴォール』と戦った時も危険な状態はいくつもあった。


 そして今も……


 この手に乗っている命が自分だけで無く、プリエラのものまであるとなると下手を打つことは出来ない。

 当然死ぬ気は無いけど、もしもということはある。


「ねぇ、アンタ、ちょっと……」


 プリエラはこのことを知っていたのか?

 そういえば、プリエラは僕のことを『運命の人』と言っていたよな。

 それってやっぱり──


「ねぇってば!聞いてるの!?」


 僕は耳元に響く大声に驚く。

 見るとカナリナが眉を寄せながら僕を睨んでいる。

 もしかして話しかけてきていたのだろうか?


 それを無視してしまっていたなら申し訳ない。

 いや、今までもさっきもカナリナには無視されてたけどね。

 僕は一旦プリエラのことを考えなようにしてカナリナに尋ねる。


「ごめん、ごめん。どうしたの?」


 僕が用件を聞くとカナリナは気まずそうに顔を逸らしている。

 カナリナが言い淀むなんてなかなか珍しい。

 基本的にはズバズバものを言うタイプだと思っていた。


 僕はどんな話が来るのかと身構える。


 ついにカナリナがその口を開いた。


「そ、そのさ、アンタ。魔法とかって得意だったりするわけ?」


 ん?魔法?

 そう言えばさっきも魔法の書物を多く読んでいたな。

 僕が魔法が得意かどうかと聞かれれば不得意と答えるだろう。

 なぜなら魔力が少なくて魔法を使う以前の問題だからだ。


「いや、あんまり得意じゃ無いけど……でも、魔力の扱いは割と得意だよ」


 ただ、今回のカナリナの質問の意図は僕が魔法を使えるかどうかより、僕が魔法に造詣が深いかどうかを聞いているのだろう。

 魔力が少ないので実践向けでは無いけど、ある程度の魔法は使える。

 僕は緻密な魔力制御は比較的得意なのだ。

 魔力が少ないからあんまり意味は無いんだけどね。


「そ、そう。その……良かったら魔法教えてくれない?」


 なるほど。

 カナリナは魔法が使いたいのか。

 確かにギルドでも魔法を使えない戦士が魔法を使いたいとボヤいていたのを見たことがある。

 カナリナもそういった気持ちがあるのかもしれない。


 でも、魔法を教えるのはなかなか難しい。

 何せ、僕は魔法を師匠から教わったのだが師匠は完全な感覚派だったのだ。

 僕も割と感覚的に覚えてしまった為、理論的に教えることは出来そうにない。


 僕が唸っているとカナリナが悲しそうに声を出す。


「そうよね。今まで無視しておいて、何を言ってんだって感じよね。今のは忘れて頂戴」


 別にそんなつもりは無かったのだけどカナリナに誤解を与えてしまったようだ。

 僕はすぐさま否定する。


「いや、そこは気にしてないんだ。ただ教えるって言ってもどう教えれば良いのか……」



 うーん、どうするか……


 ここに来てからのカナリナを見る限り、魔法の書物をかなり読んでいるはずだ。

 それなら魔力が無ければ使えないということも当然知っているはずだ。


 カナリナの魔力量は知らないけど、一先ず魔法を使ってもらおう。


「じゃあ、とりあえず何でも良いから魔法を使おうとしてくれないかな」


 実際に見てみれば何がダメなのか分かるかもしれない。

 僕がそういうと、カナリナは何かの魔法を使おうとしているみたいで右手を上に向けて広げていた。

 カナリナは真剣な表情で唸っているのだが、見た目に変化は訪れない。


(見てるだけじゃ分からないな)


 僕は人の中を流れる魔力までは分からない。

 そこで僕は師匠が魔力を測るとき、僕に触れていたのを思い出す。


「見てるだけじゃ分からないから触るね」


 カナリナには近づくなと言われているけど、見ているだけでは分からないので仕方がない。

 僕はカナリナの背中に触れる。

 カナリナの身体は硬直していたけど、どうやら受け入れてくれたようだ。


 僕はカナリナの中を流れる魔力を意識してみる。


(ん?魔力の量が……)


 他人の魔力を触って感じたことは無いけど、こんなに多いものなのだろうか?

 その魔力量は僕なんかとは比べ物にならないほど強大だった。


 でも、魔力の流れが途中で止まってしまっている。

 そういえば、カナリナが読んでいた本に回路がどうたらとか書いていた気がする。

 もしかしたらこのことなのかもしれない。


 でもそれが分かったからと言ってどうすれば良いかは分からない。


 その時、僕は師匠から魔法を習ったとき、初めに師匠が僕の中に魔力を流したのを思い出す。

 僕はそれから自分の魔力を制御することを覚えていったんだ。

 その応用で上手い感じにできないだろうか?


 割とアバウトだけど、魔法に関しては感覚派なので仕方がない。


 僕は自分の魔力をカナリナの中に流していく。

 人の中に魔力を流し込むのは思っていたよりも難しかった。


(これを平然とやっていた師匠は凄いな……)


 僕は自身の魔力でカナリナの魔力の流れをせき止めているものをほぐしていく。


「ん、ん……」


 カナリナにも負担を掛けているのか、声が漏れている。

 なんか艶めかしい声に聞こえるのは気のせいだろうか……



 カナリナの声を考えないようにしながら続けていると、ついに完全にほぐすことができた。


(よし!これで……)




 ゴォォォォォオオオオ!!



 その瞬間、カナリナの手から巨大な炎が沸き上がり、一瞬で天井まで届いてしまった。

 燃えやすい本が沢山ある空間での火はとどまる所を知らない。




「すごい!すごい!あたし、魔法が使えてるわ!やった!やった!」



 カナリナのとても嬉しそうで無邪気な声が聞こえてくる。

 

 しかし、それに返事をしている余裕は全く無い。



「これ、やばくね……」



 僕は手から火を吐き終えたカナリナを担いで出口へと駆け出した。





史実に書かれてある『吸血姫』カリエヴァとプリエラに重なる点が多いことを感じたライアス。

プリエラの今までのセリフからもプリエラが『吸血姫』であるという思いは確信に変わりつつあります。


さて、プリエラのことも気に掛かりますが、今現在、ライアス達は半分以上自爆でピンチを迎えてしまいました。


魔法が使えて喜んでいるカナリナを担いで、ライアスは出口に急ぎます。


次回、ハリソンの罠。

お楽しみに。


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[良い点] 図書室で火事とかヤバイです 更新ありがとうございます!
[一言] なるほど主人公 不老なんですね
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