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第30話 奈落の底

いつもお読みくださりありがとうございます。

 



 僕は背中に痛みを感じながら目覚める。

 僕が使ってるベットってこんなに硬かったっけ……


「ハッ!」


 そうだ、僕はカナリナを追い駆けてそのまま……


 僕は急いで辺りを見回す。

 カナリナは僕の直ぐ横で倒れていた。


 一瞬、嫌な予感がしたけど寝息が聞こえている。

 どうやら、寝てるだけみたいだ。


 カナリナの無事を確認した僕は改めて辺りを観察する。

 周りは硬い地面が敷き詰められており、日の光が届いていないにも関わらず、ぼんやりと明るい。

 僕が居る場所はかなり広いみたいで、先は見渡す限り影になっていて壁などは見えない。


 上を見上げると真っ暗で僅かな光すら見えない。

 かなり下まで落ちてしまったみたいだ。



(それにしても何で無事だったんだ?)


 一番の疑問点はそこだ。

 どう考えてもあの高さから落ちて、生存できるわけがない。

 こんな硬い地面なら尚更だ。


 僕は意識が飛ぶ前に見た白い羽を思い出す。

 やはりあのことが関係しているのだろうか。


 僕の意識が途絶えてしまっていたので、これ以上考えても分からないだろう。


 今は生き残ることが出来た幸運に感謝して、これからの対策を立てなければ……


 僕は背中に背負っていた鞄の様子を確かめる。

 どうやら荷物はあらかた無事なようだ。


 遭難した時にまず重要になってくるのは体温、食料、水の確保だろう。

 ここはどうやら地上より寒い。

 僕はまだしもカナリナの装備は僕が作った毛布もどきの服だ。

 これでは体温は維持できそうにない。


 食料はこの前大量に作った干し肉が割と入っている。

 これを食いつないでいけば当分は何とかなりそうだ。


 そして、今回、一番ヤバいのが水だ。

 一応、携帯の水筒に水を入れて来ては居るが二人が何日も過ごせるほど多い訳じゃ無い。


 僕は現状を確認して、最優先事項を決める。


 ──ここを動いて、水を探す。


 ここにジッとしているという選択肢は無い。

 かなり落ちてきたのだ。

 ここに居ても救助が来るはずも無いし、上に上がる方法も見つからない。


 まずは生き残るため、水を探す必要があった。



 僕は寝ているカナリナを覗き込む。

 白い肌は透き通っていて、長いまつ毛に整った顔立ちをしている。


(黙っていれば美人なんだけどな)


 元孤児院にいる彼女たちはみんなレベルが高いと改めて感じる。

 そんな彼女たちと一つ屋根の下で暮らせているのだ。


 追い出された身ではあるけど、かなりの幸運の持ち主かもしれない。


 僕は上着を脱いでカナリナに着せて、背負う。

 リュックは前に掛けている。


 カナリナを手で抱えても良いのだが、両手を開けておきたいのと、さっきも言ったが体温の確保のため出来るだけ密着していた方が良い。

 恐らくカナリナが起きたら、怒られるだろうが生きるためだ。

 しかし、身体が密着したことで、どうしても考えてしまうことがある。


(プリエラやアイリス程は無いけど……)


 おい!さっき自分で生きるためとか言ってただろ!

 考えてはいけないことを考えようとした自分に喝を入れる。


 しかし、僕は下着一枚のため、カナリナの感触が割と鮮明に感じれてしまうのだ。


 僕の体温は上がっており、これで本来の目的は達成できているなと現実逃避気味に考えながら辺りを観察する。


 やはりこの辺りには何も無く、ただただ広い空間が広がっているだけだ。


(このまま何もないとやばいぞ……)


 ゲーニッヒ森林の地下にこんな空間があるなんて聞いたことが無い。

 こういう地下の情報が無いということは未だ完全な未発見地帯か──


 その時、鞄のせいで見えなかったが何か踏んでしまったようだ。


 それは人の頭蓋骨の欠片だった。


 ──ここに来た人が誰も生還出来なかった場合だ。


 僕はゲーニッヒ森林の別名を思い出す。


『帰らずの森』


 この名前は一度奥まで入れば方向感覚が鈍ってしまい、迷うことを意味すると思っていたし、事実ゲーニッヒ森林は方向感覚が狂いやすい。

 それでも、少し違和感はあった。

 方向感覚が狂うとはいえ、かなりの数の冒険者がこのゲーニッヒ森林で失踪している。

 ある程度、冒険に慣れている者なら魔力で跡をつけたりすることも出来る。


 つまり、ゲーニッヒ森林を『帰らずの森』たらしめているのは方向感覚の狂いだけではなく、この地下空間なのかもしれないということだ。

 この崖はかなり見えにくい場所にあった。

 事実、僕の前を走っていたカナリナが消えたように錯覚するほどだ。


(いや、あまり悪い方向に考えるな)


 こういう遭難をしたときは心を強く持つということも大切なのだ。

 精神論ではあるが、これが馬鹿にできない。


 後は幸か不幸か、他に人がいるのも救いだ。

 独りで遭難するのに比べると、誰かいるというだけで心が救われることもある。


 僕が今の状況で前向きな点を述べて自分を鼓舞していると、目の前に何か見えて来る。


(あれは建物?)


 目の前にはどこかのお城のような建物がそびえ立っていた。

 城と言っても城壁などがあるわけでは無く、陸続きに大きな扉がある。


 何故こんなところに建物があるのか、など疑問は絶えないけど、何の変化もない景色に違うものを見つけただけで嬉しさが込み上げて来る。


 無意識に僕の歩くペースが上がる。


 しかし、ペースを上げたことで足元が疎かになり、躓いてしまった。


(おっと、危なかった……)



 その時、背中でもぞもぞと動きがあった。



 あ、ヤバイ。


 カナリナ起きちゃった。


 背中に密着していたカナリナの感覚が無くなったということは、カナリナは起き上がっているということだ。

 僕の頬に冷や汗が流れる。


 カナリナはまだ寝ぼけているのか、特に拒絶などはされていない。



「パパ……?」


 パパ?

 僕のことを父親と勘違いしているのか?

 まさかカナリナの口から「パパ」なんて言葉が出て来るとは思わなかった。


 僕は考える。

 今、ここでカナリナと争っている暇はない。

 このまま父親のふりをして背負っていたら、もしかしたら僕がライアスだと気付かれない可能性もある。


 でも、ここからは何が起きるか分からない。

 出来ればカナリナ自ら歩いて欲しかった。


「カナリナ、自分で歩けるかい?」


 父親のふりをするか迷ったせいで、少し口調を寄せてしまった。

 いや、カナリナのお父さんの口調は知らないんだけどね。


「うん……」


 カナリナは自分から降りてくれた。

 僕はリュックを背中に担ぎなおし、城に向かって歩き出す。




「え?ここどこ?それに何でアンタと居るわけ?」


 まぁ、誤魔化せないよね。


 カナリナのいつものきつい口調を聞いて吐きそうになった溜息を呑みこみ、カナリナに振り向く。


「覚えてない?僕がカナリナを追ってたら、カナリナ諸共崖の下に落ちたんだよ」


 僕の言葉を聞いて思い当たる節があったようだ。

 カナリナは顔を青ざめさせた後、まくし立ててくる。


「大体、あれはあんたが追いかけてきたから……いや、私の不注意でもあったわね。巻き込んでしまったのならごめんなさい」


 お、おお。

 まさかカナリナが素直に謝罪するとは思わなかった。

 僕は少し面食らってしまう。


「いや、僕も無理に追いかけてごめん。でも、カナリナが僕に謝罪するなんて……」


 驚きすぎて、つい要らないことまで言ってしまった。

 僕が謝ろうと思っているとカナリナが腕を組みながら言う。


「アンタ、あたしのこと何だと思ってるわけ?あたしが悪いなら謝るし、助けられたら感謝もするに決まってるでしょ。だから今回の件で助けられたことにも感謝しておくわ」


 いや、今までの僕に対する態度を見てると仕方ないと思う。

 少し感謝の仕方が上からだけど、カナリナにとっても何かしらの美学があるらしい。

 プリエラの件などで良い子だとは思ってたけど、なかなか筋が通っている。

 もっと僕では話にすらならない子だと思っていた。


 これならこの状況をしっかり話し合えるかもしれない。


 僕は少し離れたところに立つカナリナに近づきながら声を掛ける。


「野暮なこと聞いてごめんね。それでなんだけど、この状況をなんとかするには協力するしかないと思うんだ」


 カナリナは僕が詰めた距離を離していく。


「……そうね。不本意だけどそうするしか無いでしょうね。あと、これ以上あたしに近づかないで」


 うーん。やっぱり嫌われてるよな……

 近づくなと言われてしまってはどうしようもない。


 僕は距離を詰めるのを諦めて、今の状況とこれからのことについて話す。


「今、僕たちは崖から落ちた。地上に戻る手段も生き残る手段も未だ見つかっていない。つまり奈落の底で遭難したって訳だ。目下の課題は水の確保」


「食料はどうするの?」


 うん、しっかり話し合いが出来ている。

 状況に絶望して取り乱すかとも思ったけど、これなら戦力になりそうだ。


「食料は僕の荷物の中に干し肉が沢山入っている。それを食いつないでいけば、しばらくは大丈夫だと思う」


 僕の言葉を聞いたカナリナは何か考え込んでいるようだ。


「そう。今、耳をすませてみたけど、この辺りに水辺は無いみたいね」


 まさか、この短時間でそこまで考えられるとは……

 カナリナはかなり頭の回転が速いようだ。


 カナリナは僕に向き直って頭を下げる。


「ごめんなさい。今、あたしは何も持ってない無力な女よ。今までの態度を含めて、おいて行かれても文句は言えないわ」


 ここに落ちてきてしまったのは幸福とは言えないけど、カナリナとしっかり話すきっかけが出来たのは良かったかもしれない。


「そこはお互い様だよ。僕に出来ることは限られてる。この先、カナリナに頼ることもあると思う。二人で協力して地上に戻れるように頑張ろう」


 僕が手を差し出しながらそう言うと、カナリナも頷く。



「でも、近づくのは無しよ」



 僕とカナリナの歪な協力関係が結ばれた瞬間だった。



「それで、あの目の前の建物はなんなの?」


 カナリナが目の前の城のような建物を指さす。


「僕も分からないんだ。ただここに来るまで他の建造物とかは無かったからここに入るしかないと思う」


 ここ以外に何か手がかりになりそうなものは無い。

 結局、入るという選択肢しか無いのだ。


 僕は五メートルほどの高さのある扉に手を当てる。

 これを開けるのは大変だと思っていたけど独りでに開いてしまった。


 ギギギという錆びた音は扉の重厚感を増幅させている。


「なんかいかにも誘い込まれてるって感じね」


 カナリナの言う通りだ。

 地下深くにある城、勝手に開く扉。

 もう怪しさしかない。


「それでも行くしかない……」


 僕は短剣に手を掛け、いつでも迎撃出来る準備を整えて城の中に入る。

 カナリナもその後に続いてきた。



 バタン!!


 扉は閉ざされた。



 その音はこれから起きる様々なことの幕開けのようにも感じられた。




カナリナと地下深くに迷い込んだライアスですが目の前に巨大な城が現れました。

明らかに不自然な様子は罠の可能性も高そうです。


カナリナとも一先ず協力関係を結べましたが前途は多難そうですね。


さて、次回は城の中でカナリナの欲するものが見つかる予感。

ライアスの意外な特技も明らかになるかも……

お楽しみに。

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[気になる点] 最初の街からゲーニッヒまで二週間(かなり遠い感じ?) 近くに街や村ないのかな?あれば盗賊から回収した宝石売って 皆の服や日用品買えそうですね エルフ 吸血鬼 犬娘 怪力娘(鬼人と予…
[良い点] おもしろい
[良い点] 地下にお城と言う斜め上の展開が面白いですよ 更新まってます!
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