第29話 プリエラの告白
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服を着た僕はみんなと一緒にプリエラの部屋まで行く。
プリエラはベットに腰掛けていた。
ファナとカナリナも既に来ていたみたいで、プリエラの近くに立っている。
僕が入ってきたことでプリエラと目が合う。
プリエラの目は不安そうに揺れ動いており、顔色も悪い。
かなり力を使っていたから、体調もあまり良くないのだろう。
僕も吸血鬼に遭ったことがある訳じゃ無いから分からないけど、あんなに強いものなのだろうか?
僕はプリエラの元に近づく。
みんなは少し離れたところに移動したみたいだ。
多分、気を遣ってくれているんだろう。
「プリエラ、調子はどう?」
「はい、あまり良く無いですけど……大丈夫です……」
やはり体調は良く無いのか。
でも、あれだけ派手に暴れたのだ。
休ませてあげたいけど、説明をしなければ他の子にも疑問が残ることになる。
僕は「どうする?」という意味を含ませてプリエラを見つめる。
プリエラは小さく頷いた。
僕達が目で語り合って居ると後ろから声がする。
「それで、説明はしてもらえるのかしら?」
ファナは目の前で見ていたのだから、一番疑問に思って居るはずだ。
恐らく血を吸われているところも見られているだろう。
「うん、説明させてもらうね」
僕はそう言ってプリエラを見る。
プリエラは僕の横に立って、服の裾を掴んでくる。
「あ、あの……私、実は……」
僕の服の裾を掴む手が震えているのが分かる。
吸血鬼はヒトの血を飲むため、あまり他の種族によく思われて居ないことが多い。
人間の間でも吸血鬼に襲われて死んだという事例も少なくは無い。
でも、それは人間も一緒だ。
良い人間もいれば、悪い人間もいる。
吸血鬼も全員が悪い奴なんてことはあり得ない。
少なくともプリエラは良い子だ。
プリエラ以外の子達も静かにプリエラの言葉を待っている。
「……吸血鬼なんです」
ついにその言葉が放たれた。
他の子達はそれぞれ驚いた反応をしている。
ファナは目の前で血を吸ったり、操ったりしているのを見ているので、予想できていたようだ。
あまり驚かず、プリエラを静かに見守っている。
それからプリエラがここに来るまでの経緯が説明された。
なるほど、プリエラは僕以外の血が飲めないのか。
そして、血が飲めないから吸血鬼の里を追い出されたという訳か。
吸血鬼にも色々あるみたいだ。
話し終わったプリエラは目を瞑って、みんなの反応を待っている。
バッ
プリエラにミーちゃんが飛びつく。
「うえぇええん。プリエラちゃん、かわいそうだよぉ~」
ミーちゃんは自分のことのように涙を流している。
プリエラは突然のことに驚いている様だ。
「吸血鬼だろうがなんだろうが、プリエラはプリエラよ。プリエラはあたし達の仲間であることに変わりはないわ」
カナリナも良い事を言ってくれる。
僕への当たりはキツイが根は良い子なのだろう。
「まさか、プリエラが吸血鬼だったなんてね。そもそも私もエルフだし、吸血鬼でも良いんじゃないかしら」
「う、うん。私も全然良いと思う」
ファナとアイリスも受け入れてくれた。
プリエラの顔は徐々に綻んでいき、その目には光るものがあった。
「みんな、ありがとう……」
「よかったな。受け入れてもらえて」
僕がプリエラの頭を撫でながら言うと、プリエラも嬉しそうに笑った。
プリエラの告白で緊迫していた空気は一度緩和される。
僕は先程から口数が少ないアイリスを見る。
プリエラが吸血鬼と告白したのだ。
アイリスも自分のことを言う良い機会ではある。
アイリスは口を開きかけては閉じると言った動作を繰り返している。
その表情から心の中の葛藤が容易に想像できる。
みんなはプリエラのことを見ているから気付いていない。
厳しいか……
一人目が成功すれば、気が楽になることもあるけど、逆にもし自分が失敗すればと考えると恐ろしくなることもある。
僕は助け舟を出すか迷って、やめた。
今、他のメンバーはプリエラの事実を受け止めるのに精一杯だ。
アイリスにも恐らくタイミングは訪れる。
僕は黙っておく選択をした。
◇◆◇
あれから数日が経った。
亡くなった賊はプリエラが地面に作った穴を使って埋葬した。
埋葬の際、入れる土の量が凄まじいのでプリエラに血を飲んでもらって力技でやってもらった。
その時に分かったのだが、どうやら吸血鬼の力を使うのは少しばかりプリエラの負担になっているらしい。
また、僕の血をずっと飲めば良いのでは無いか、ということも囁かれたのだけど、プリエラはこう言っていた。
「それは、本当に……素敵な案です……でも、一日、二回以上は……私の身体が持ちません……」
どうやら、沢山血を飲めば良いと言うわけでは無いらしい。
まぁ、何事もやりすぎは良く無いからな。
プリエラには毎朝、少しだけ血を飲んでもらっている。
その度に恍惚の表情を浮かべて、自分の血を飲まそうとしてくるプリエラに困惑するのだが、緊急時に対応できる人が欲しい。
最終的に僕はその誘惑に毎日耐える道を選んだ。
ちなみにクルッソスには懸賞金も掛かっているので、どうしようか迷ったけどサーベルだけ回収して埋葬することにした。
多分、これだけでは倒したと認められないけど、死体を元孤児院に置いておくのは嫌だから仕方ない。
結局、残っていたのは金属ではない宝石類と骨などの素材、酒、肉などだった。
元孤児院にお酒を飲む人は居ないけど、お酒は飲む以外にも使えるのでしっかり回収しておいた。
肉は置いていても腐ってしまうので、みんなで目一杯食べて残りは干し肉にした。
干し肉は調味料などをつけて、日の当たらない乾燥した場所に置いて作った。
本当はもう少し寒い時の方が良いんだけど、今はそこまで暑くもないので問題はないだろう。
骨などの素材は元孤児院に余りある使っていない部屋に順次入れていき保管している。
かなりの量があり、ここ数日はほぼこの作業で潰れてしまった。
その搬入作業も昨日で終わり、今日やっと一息つけている。
部屋で休んでいる僕の元へファナがやってくる。
ファナと普通に話せるようになったのも今回の事件で変わったことの一つだな。
「ライアス、今いいかしら?」
「うん、良いよ。どうしたの?」
ファナは身支度を整えており、服もいつもは見ない服だ。
緑基調に白い模様が入った長袖、長ズボンはファナの翠色の瞳と合っているし、スタイルの良さも際立っている。
それにしてもそんな服を持っているなら普段から着ておけば良いのにと思う。
「実は少し遠出をしようと思っているの。言っておくけどこういうことは初めてじゃないから心配する必要はないわ」
そう言えばアイリスが前にそんなことを言ってたな。
でもそれをわざわざ僕に言うのは何でだろう?
「今回はいつもより遠くに行くつもりなの。だから、彼女たちのことは任せたわ」
なるほど。
ミーちゃん達の心配をしているのだろう。
彼女たちのことを任せてもらえるくらい、ファナに認めて貰えているのは嬉しい。
任せられずとも、彼女たちのことは僕の出来る範囲で守るつもりだ。
「分かった。彼女たちのことは任せてくれ。ファナも気を付けて」
ファナが何をしに行くのかは分からないけど、心配いらないというのなら無理に聞き出すのは良くない。
頷いたファナはそのまま出て行った。
そして、ファナと入れ替わるようにミーちゃんが入って来た。
「あれ?お兄ちゃん、ファナちゃんとお話ししてたの?」
流れるような動作で僕の膝の上に座ってきたミーちゃんは僕の顔を下から見上げながら聞いてくる。
「うん。ファナが何処かに出かけるみたいだからその報告に来てたんだ」
「そっかー。ファナちゃん、心配だなぁ」
ミーちゃんが心配するのも分かる。
この辺に魔物は少ないけど、ここは魔物の森だ。
いつ肉食の魔物が出てもおかしくないのだ。
僕がミーちゃんの頭を撫でているとミーちゃんは気持ちよさそうに目を細めていたけど、何か思い出したように目を見開く。
「そうだ!お兄ちゃん!お散歩しに行こ!」
お散歩?
今日はゆっくりしたいんだけど……
目をキラキラと輝かせるミーちゃんが上目遣いで僕におねだりしてくる。
「ダメ……?」
ダメじゃないです……
◇◆◇
あれからミーちゃんにせがまれた僕は外に出ていた。
(ミーちゃんのおねだりを断れる人は居るのだろうか?)
僕は何度目になるか分からない自問自答をしつつ、森の中を歩く。
ちなみに僕はいつも通り、フル装備だ。
魔物の森で油断していれば足元を掬われてしまうことはもう学んでいる。
ミーちゃんは僕が大きい鞄を背負っていることに不思議そうな顔をしながら、僕の前を歩いている。
「ミーちゃん、どこまで行くの?」
「うーんと、もうちょっとだよ~」
こんな感じでさっきから結構歩いている。
あんまり元孤児院から離れたくは無いんだけど、目の前を上機嫌に歩くミーちゃんを見ると止められずにいた。
(もし、危険なことがあれば直ぐに対応できるようにしないと……)
僕が辺りに気を使いながら歩いていると、開けた場所に出る。
そこにはかなり大きな一本の木が立っていた。
「おお、凄い大きい木だね」
「凄いでしょ~。ミーが見つけたんだよ~」
ここに住んでからある程度経っているけど、こういうのを見るとまだまだ自分の知らないことはあると思い知らされる。
でも、こんなに大きな木なら外からも見えると思うんだけどな……
ゲーニッヒ森林に来たことは少ないけど、これだけ大きな木があるなら気付いているはずだ。
でも、僕はこの木を初めて見た。
僕が考えながら木の周りを周っていると、目の前に人が現れた。
「え?アイリス?」
「あ、ライアス君、来たんだね!もう遅いよぉ」
目の前に現れたアイリスは僕が来ることを始めから知っていたかのような口ぶりだ。
「ア、アイリスちゃん、遅れてごめんね……」
「あ、全然大丈夫だよ。私たちも来たところだし」
当然のようにアイリスもミーちゃんに甘い。
でもおかしい。
ミーちゃんもアイリスとここに来ることを示し合わせていたように喋っている。
ん?私たち?
僕がアイリスの言葉の意味を探っていると木の陰から誰かやってくる。
「ミーちゃん、来たんだね……」
「ミー、遅いわよ。ほら早くって……」
プリエラとカナリナだ。
プリエラは僕を見ても特に驚いていなかったけど、カナリナは露骨に顔を顰める。
どういうことだ?
僕は未だに状況が掴めずにいた。
固まっている僕を見てカナリナはまくし立てる。
「は?こいつが来るなんて聞いてないんだけど」
その言葉を聞いて他の三人が申し訳なさそうな顔をしている。
あー、そういうことか。
僕はここに来てようやっと理解した。
多分、アイリス、ミーちゃん、プリエラで考えて僕とカナリナの仲を取り持とうとしてくれているのだろう。
このピクニックのようなものもそういう意図があったなら、ミーちゃんが半ば無理やり連れてきたのにも納得できる。
でも、それなら事前に相談しておいて欲しかったな。
正直、今の僕とカナリナにはまだ一緒に遊ぶのはハードルが高い。
「悪いけど、あたしは帰るわ」
僕の予想通り、カナリナがそのまま踵を返して、去っていこうとする。
「カナリナちゃん……」
ミーちゃんが悲しそうな声を出していて、アイリスやプリエラも居心地が悪そうにしている。
よし、ここまでお膳立てされたんだ。
彼女たちの気持ちに応えるためにもカナリナとの関係を後回しにするのでは無く、ここで仲良くなる努力をしよう。
「ごめん、僕、ちょっとカナリナを追いかけて来るよ」
僕が彼女たちにそう告げると、彼女たちの顔が綻ぶ。
これ以上、プリエラ達に気を遣わせたくないしな。
僕はカナリナを追って走り出した。
しばらくして、森の中を歩いているカナリナを見つける。
「おーい、カナリナー。ちょっと待ってくれー」
僕が走りながら声を掛けると、僕に気付いたカナリナが走り出す。
(ちょ、そんなに逃げなくても……)
ここで離されてしまったら、またいつもの繰り返しだ。
僕は速度を上げる。
多分、通常時なら僕の方が早いんだろうけど、大荷物を抱えている僕はカナリナと同じくらいの速さしか出ない。
それでもスタミナがある分、僕の方が徐々に距離を詰めていく。
「ちょ、ほんとに、待って」
「なんで、付いて、くんのよ。来ないで」
僕もカナリナも息を荒げながら走る。
意外にもカナリナは粘っていた。
森の中は走りにくいのになかなかやるじゃないか。
それでもスタミナ切れしてきたカナリナの速度が落ちて来る。
(もう少しで追い付く!)
「え?」
僕の手がカナリナに触れようとしたとき、カナリナが目の前から消えた。
それと同時に浮遊感に襲われる。
急速に下がっていく視界の中、僕は下を見る。
僕の足元に地面は無く、暗い闇が先まで広がっている。
僕の少し下にカナリナが見えた。
そこは地面が割れて出来た崖だった。
(なんでこんなところに!)
「きゃあああああ!!」
カナリナの悲鳴が下から聞こえて来る。
やばい、やばいぞ。
落ちて行く速度がどんどん上がっている。
このまま落ちたら確実に死ぬ。
魔物に出会った恐怖でもない。
目の前に避けられない死というものが近づいているのが分かる。
今はカナリナの悲鳴すら聞こえない。
僕の目の前に白い羽のようなものが見えた気がしたのと同時に僕の意識は途絶えた。
プリエラは自分が吸血鬼であることを告白し、みんなに受け入れられて一安心です。
アイリスも良い機会ではあったのですが、一歩踏み出すことが出来ませんでした。
さて、ミーちゃん達の計らいでカナリナとピクニックをすることになったライアスですが、当然のようにカナリナは帰ってしまいました。
それを追いかけたまでは良かったのですが、断層なのかなんなのか崖からカナリナ諸共落ちてしまいました。
次回、奈落の底。
お楽しみに。