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第21話 元孤児院に戻りたい

いつもお読みくださりありがとうございます。

このお話で合計十万文字達成いたしました。

ここまでモチベーション高く続けられるとは思っておらず、応援してくださっている皆様には感謝しかありません!

これからもどうか、よろしくお願いします。

 


 洞窟で寝てしまった僕だけど、起きたら間近にアイリスの顔があってびっくりした。


 それにアイリスには犬のような耳と尻尾が生えているでは無いか。


 確かに獣人に人間のような顔と獣の耳や尻尾を持った種族は居るが、銀狼族はその限りでは無かったはずだ。


 いや、そんなことは些細なことだ。

 重要なのはそこじゃない。


 目の前で恥ずかしそうに髪を弄るアイリスは、すごく可愛かった。


 そのことを伝えるとアイリスは安心したように笑う。

 やっぱり元孤児院で見ていた笑顔よりも自然で綺麗だった。


 ただ問題もある。


 かわいい、それは間違いない。


 だが、ただでさえ際どい服なのに尻尾で少し捲れ上がって、かなり危ないことになっている。

 今も揺れる尻尾が服の裾を動かしていて視線が誘導されてしまう。


 果たして、上機嫌なアイリスに言うべきか言わないべきか……


 そんなことを考えながら、洞窟を出ると雨が上がったようで晴れている。


 久しぶりの日の光に目を細める。



「よし、雨は上がったな。これで元孤児院を探しに行ける」


「元孤児院?」


 僕の言葉にアイリスが尋ねてくる。

 ああ、あそこが元孤児院って知らないのか。


「僕たちが今、住んでるところって元々孤児院だったらしいんだ」


 まぁ、だから何だって言う話だけど、他に呼び方は無いしな……


 さっそく、元孤児院を探そうと思った僕だけど、ここがどこか全く分からない。

 下手に動けば、さらに森の奥に行ってしまいそうだ。


「困ったな。ここがどこか分からない」


 口に出してから、もしかしたらアイリスを不安にさせたかもしれないと思って見てみたけど、アイリスは、ずっと僕の横で耳をひくひくと動かしているだけで不安そうな表情はしていない。


「ライアス君、困ってるの?」


「うん、困ってる。一応アイリスも同じ状況だけどね」


 何というか、森で遭難しているのにアイリスには悲壮感が全く無い。

 このままでは元孤児院に一生戻れない可能性すらあるのだ。


 アイリスは何か迷っているようで「うーん、でもなぁ……」と言いながら難しい顔をしている。



 考え込んでいたアイリスは唐突に僕に振り向く。



「よし、ライアス君!私に良いアイデアがあるよ」


 アイリスが自信満々に言う。

 すごい、まさかこの短時間で解決案を考えついたのか。


 作戦を考えることなどは得意分野だと思っていたので若干凹む。

 僕は凹んでいることを悟られないように聞く。


「どんな方法?」


 僕が尋ねるとアイリスは得意げな顔で説明する。




「まずね、ライアス君が私を撫でるでしょ」



「ん?今なんて?」


 僕の質問など聞こえていないかのようにアイリスは続ける。


「それで、私が銀狼になるでしょ。それからライアス君が私を撫でるでしょ。それでそれで、私がその元孤児院?の場所の匂いを嗅ぎ分けて、ライアス君に撫でてもらいながら帰る!これでどう?」


 目の前には自信満々の顔のアイリスが居る。


 僕が撫でる意味はどこにあるんだ……


 僕が頭を押さえながらアイリスを見ても、その笑顔に曇りはない。

 仕方ないので直接聞くことにした。


「えーっと、僕が撫でる必要性は?」


「んーっと、栄養補給?」


 へぇ、僕の頭撫でにはそんな便利機能があったのか。

 それとも、銀狼族は頭を撫でられると栄養が補給できるよう、独自の進化を遂げていたのか。


 いや、そんな訳は無い。


 非常事態なのに呑気なことを言っているアイリスに呆れつつも、自分から銀狼になることを申し出てくれたのは嬉しい。

 過去に何があったか、僕は知らないけれど、そのトラウマも少しずつ、解消できているみたいだ。


 まぁ、でも撫でるだけで元孤児院に戻れるというなら、お願いしよう。


 アイリスが上目遣いで頭を差し出してくるので、僕はアイリスの頭に手を乗せる。


 アイリスは少し身じろぎをしたが、変わらずジッとしているので、そのまま撫でてやる。


(うぉお、すごい。ふわふわだ)


 アイリスの髪はふわふわで、撫でてるこっちも気持ちよくなる。


 アイリスも目を細めて気持ちよさそうに笑顔を浮かべている。

 耳がきゅっとなっているのも可愛らしい。


 少し好奇心に駆られた僕はアイリスの耳を触ってみる。


「ひゃうっ」


 アイリスは変な声を上げ、驚いたように目を見開いた。

 さっきまで揺れていた尻尾はぴんと伸びている。



 僕は耳を触るのはまずかったかと思いつつもその手を離せない。

 耳の感触が予想以上に気持ちいい。


 外は毛でふわふわしているのに中にしっかりと弾力があって、触っていて飽きない。


 身体を支えられなくなったアイリスが僕の方に倒れこんでくる。

 服一枚越しの感触にドキリとした僕はそこでようやく耳を離すことができた。


 アイリスの呼吸は荒く、こちらを見つめる顔は上気していた。


「ラ、ライアス君……」


 猫撫で声で僕の名前を呼んでくるアイリスに喉が鳴る。


 マズイ、変なスイッチを入れてしまった。

 尚もアイリスは僕にもたれ掛かってくる。


 僕はアイリスを軽く揺さぶり正気に戻ってもらおうとした。


「ごめん、アイリス。ちょっと調子乗っちゃった」


 アイリスは僕の言葉を受けてハッとした後、飛び退く。

 耳の先まで赤くしながらアイリスは言った。




「エッチ……」



 うん、ごめん。



 ◇◆◇


 それからアイリスは服を脱いで銀狼になった。

 ただでさえ少ない服を破くわけには行かないから仕方ない。


 当然、目は逸らした。


 銀狼になったアイリスは僕のことをジッと見つめて来る。


「どうしたのアイリス?」


「ハク……」


 そうだった。

 銀狼の時のアイリスはハクと呼ばなければならないのだ。


「ああ、ごめん。それで、どうしたのハク?」


 僕はアイリス改めハクに聞く。


 ハクはとてもかっこいい声で言った。


「次はライアス君が私を撫でるって約束……」


 やはりその声で女性口調なのは違和感が……

 ていうかあの作戦、ほんとにそのまま実行するの?

 それでも、アイリスを撫でるよりは断然やりやすいので言う通りにする。

 僕がハクの足を撫でてやるとハクは満足げに顔を上げて匂いを嗅ぎだした。


 本当に元孤児院の場所が分かるのだろうか?

 少し疑問に思っていた僕だけどハクはすぐに僕の方を向いて言う。


「見つけたよ。今から向かうから背中に乗って」


 ハクが身体を屈めて、僕に背中に乗るよう指示してくる。

 しかし、背中に乗ろうとしたところで、ハクの身体が熱くなっていることに気付く。


(この感じ、ま、まさか……)


 僕は目を瞑り、回収していた服を差し出す。


 その服が取られ、ごそごそという音がした後、声がした。


「目、開けていいよ」


 その声は可愛らしい女性の声で、アイリスのものだった。


 どうやらまた、変身したようだ。

 どうして、変身したのか分からなかったけど、流石に目の前で何度も変身されては僕の精神がもたない。

 僕はアイリスに懇願した。


「変身するなら事前に言ってください。お願いします」


 せめて事前に言ってくれれば対処はできる。

 今みたいにたまたま身体に触れていれば分かるかもしれないけど、いつもそうとは限らない。


 しかし、目の前のアイリスは取り乱したように否定してくる。


「ち、違うの!今回のは自分の意志じゃないっていうか……」


 自分の意志じゃない?

 確かに川のときとかは自分の意志で変身している感じでは無かった。

 自分の意志で出来るときと出来ないときがあるのか。


「多分なんだけど、私、今銀狼になれない」


「え……ほんと?」


 アイリスは申し訳なさそうに頷く。

 別に責めている訳じゃ無いけど少し困ったな。


「ああ、ごめんね。全然責めてる訳じゃないんだ。それで、元孤児院の方向は覚えてる?」


 これで分からないと言われたら、また別の方法を探さないといけない。

 元々、別の方法を探すつもりだったから、それでも良かったのだがアイリスは覚えていたようだ。


「あ、それは覚えてるよ!あっちだね」


 アイリスがある方向を指さしながら嬉しそうに言う。

 良かった。方向が分かっているならとりあえず動くことができる。


 もしかしたら、知っている道に出るかもしれない。


 僕はアイリスと歩き出した。



 ◇◆◇



「それで、銀狼になれないってどういうことなんだ?」


 僕は歩きながら問いかける。


「多分なんだけど、銀狼になるには、なんか力みたいなものを貯めないとダメで……うーん、分かんない!」


 どうやら、アイリスにも掴み切れていないようだ。

 まぁ、銀狼になることを避けてきたのだから仕方ない。


 今のアイリスはその銀狼になるための力を使い果たした状態のようだ。

 また、一定以上貯まるまで変身は出来ないらしい。


 道中、アイリスがしきりに頭を撫でられたがったが、僕は確固たる意志で断った。

 アイリスの頭を頻繁に撫でるのは危険だ。僕の精神が。



 しばらく歩いていると、アイリスが言っていたことが正しかったようで僕の知っている道まで来た。

 相変わらず、すごい嗅覚だ。


 しかし、結構離されていたみたいで、時間はもう夕方になっていた。

 元孤児院の前にはミーちゃんのとき同様、みんな待っていた。

 僕が行ってから結構時間が経ってるから心配させてしまったかもしれない。


 アイリスがみんなのところに向かう前に言う。


「これから覚悟してね、ライアス君」


 覚悟?

 僕は何を覚悟すれば良いのだろう?


 しかし、アイリスは僕が問い返す間もなく、みんなの元に向かってしまった。


 アイリスはみんなに声をかけられていて無事を喜ばれている。


 ミーちゃんが泣いていたのは想像出来ていたけど、カナリナまで泣いているのは驚いた。


 僕は再会を喜ぶ五人を邪魔しないよう、そっと脇を抜けようとしたけど横からの衝撃に耐えきれず、地面に倒れ込んだ。


 咄嗟に庇った人を見るとミーちゃんが泣きながら抱きついてきている。

 ミーちゃんの涙が僕の身体に溢れてくる。


「お兄ちゃん、ありがとぉ、ありがとぉ。無事で良かったよぉ。ミーのせいで帰ってこなくなったらって、うぇえええん」


 確かに僕はミーちゃんに言われて探しに行ったわけだから、僕に何かあれば責任を感じてしまうだろう。

 無事に帰れてよかった。

 ミーちゃんは僕が上半身裸なのも厭わずに強く抱きついてくるので、その頭を優しく撫でてあげる。



「心配かけてごめんね。でもお兄ちゃんだから大丈夫って言っただろ?」


 全然大丈夫じゃない場面も多かったけど、そう言ってわざわざ心配させる必要はない。


 ミーちゃんは尚も泣きながら強く抱きついてくる。



 ……


 僕の身体がメリメリと嫌な音をたてだした。

 忘れていたけどミーちゃんはかなりの怪力の持ち主だ。

 これでも手加減はしてくれてるんだろうけど、僕の身体はそろそろ限界だ。


「み、ミーちゃん、そろそろ……」


 僕がミーちゃんをタップして限界が来たことを伝える。


「あ、ご、ごめんなさい……」


 ミーちゃんはすぐに退いてくれた。

 少し力が強くはあったけど、この抱きしめる強さが心配の証だと思えばとても嬉しい。



 ミーちゃんが退いたところでプリエラが来た。


「プリエラもごめんね。心配かけて」


「はい、心配しました……でも、無事だと……信じていました……」


 プリエラは微笑みながら僕に近づいてくる。

 そこまで信頼されているのは嬉しいな。



 しかし、プリエラは何かに気付いたように顔を強張らせた。

 しばらく僕を見たあと、なぜか抱き着いてきた。

 ミーちゃんのように力強くは無かったので、今回はしっかり受け止めることができた。


「プ、プリエラ?どうしたの?」


 ミーちゃんは身長も小さいし、妹のようにも見れるがプリエラは違う。

 発育の良い身体に動揺してしまう。

 プリエラはかなり密着してきていて、僕の心臓の音が聞こえているんじゃないかとすら思う。


「いえ……その、心配でしたので……」


 そうか、そんなに心配してくれていたのか。

 こんなに心配をかけたことが申し訳なくなってくる。

 でも、プリエラとミーちゃんのお陰で、この場所に自分の居場所があることを感じることができた。


 プリエラが満足したのか離れたところでみんなで元孤児院の中に戻る。


「プリエラちゃん、ちょっと良いかな?」


 僕が元孤児院に入る寸前、アイリスがプリエラを呼んでいた。

 あまり人の会話を盗み聞くものでは無いから僕はそれを無視してそのまま建物の中に入った。



 ◇◆◇



 日が落ちる少し前、両者は向かい合っていた。

 静かな風が二人の間を吹き抜ける。


「急に呼び留めてごめんね。プリエラちゃん」


「うん、私も話があったから……大丈夫……」



 それからまた、沈黙が流れる。


 沈黙を破ったのはアイリスだった。


「プリエラちゃんが言ってたことは正しかったよ。ライアス君はすごく良い人だった」


 プリエラは「ライアス君……?」と呟いていたがアイリスは気にせず続ける。


「確かにプリエラちゃんが一番早く気付いたのは認める。でもね、私も譲る気は無いから」


 アイリスは悔しそうに顔を歪めたあと、真剣な表情で言った。

 その瞳は優しげなのに、なぜか狼のように鋭かった。

 プリエラはアイリスの言葉を受けて、落ち着いて言い返す。


「そっか……こうなることは分かってた。今さら誰が来ても驚かないし……」


 そこで一度、ためを作ったプリエラは笑いながら言った。


「誰が来ても、負けない……一番は私……」


 その表情は余裕に溢れていて、プリエラとライアスの間に何かがあるというのは傍目にも分かった。


(やっぱり少し出遅れている)


 アイリスはプリエラとの時間の差を感じてしまう。

 でも、アイリスにも今日で収穫はあった。

 ライアスは女慣れしていない。

 それは男慣れしていないアイリスでも分かるくらいの動揺ぶりだった。

 当然、アイリスもドキドキはしていたがライアスの反応はそれ以上だった。


 そう考えると、プリエラともそこまで関係は進んでいないはずだ。

 まだまだ、挽回の余地はある。


 言われたままは嫌だったのでアイリスは少し、仕返しをすることにした。



「余裕そうな表情をしてるけど、プリエラちゃん、さっきライアス君に抱き着いてたよね?あれって、私の匂いが付いてて焦ったんじゃないの?」



 図星だった。

 プリエラはライアスに近づいた際、ライアスからアイリスの匂いがして不安になった。

 プリエラとライアスには消えない鎖が結び付いてはいるがそれをライアスは知らない。

 先を越されてしまったのではないかと気が気でなくなり……上書きした。


 それにアイリスがライアスのシャツを着ているのも気にかかる。

 プリエラも欲しいくらいだった。


 両者は笑いながら睨みあう。


「これからよろしくね、プリエラちゃん」


「こちらこそ……」


 それは女たちの別の戦いの幕が切って下ろされた瞬間だった。



なんとか元孤児院まで戻ってくることができたライアスとアイリス。


アイリスとプリエラはお互いのことは好きですが、両者とも譲れないものができ、静かに戦いの火ぶたが切られました。

これからの彼女たちの言動も気になります。


さて、次回は今回の事件で変化した日常と忍び寄る影を書けたらと思います。


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― 新着の感想 ―
[良い点] さあ、戦いの始まりだ(女の) [一言] あっ…(本日二度目の察し)
[良い点] 撫でて撫でてのリクエスト発言で思わず笑い声が出てしまいましたよ 凄い面白いです!
[一言] せやかてハーレムタグがあるから問題ないやろ あごめんなさい石なげないでくでせぇ!! それとアイリス……理解者が出てきて、良かったな……
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