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第16話 銀狼とドラゴン

いつも読んでいただきありがとうございます。

 


(ま、また、同じミスをしてしまった!)


 本当に自分の不注意が嫌になる。

 銀狼の相手をするのに気を張っていて、周りへの注意にまで気が回らなかったなど、ただの言い訳に過ぎない。

 しかもその恐れていた、利用しようとしていた銀狼に助けられた。

 もし、あそこで銀狼が僕を突き飛ばさなければ、確実にドラゴンの突進に巻き込まれていた。


 ミーちゃんを助けた時に学んだ経験を活かせなかった。

 それに銀狼にも申し訳ないことをした。

 何故、魔物である銀狼が僕を恐れたり、助けたりするのかは分からない。

 でも、このまま助けられたままというのは、いくら魔物とはいえ不義理に当たる。


(後悔は後にして状況の判断を最優先にしろ)


 僕は身体を起こして洞窟の外に向かう。

 そういえば、突き飛ばされて硬い地面に身体を打ち付けたのに、あまりダメージが残っていない。

 プリエラが言っていた身体が丈夫になるというのはこういうことなのかもしれない。

 それなら、早速プリエラとの『血の契り』が功を奏したことになる。


 心の中でプリエラに感謝しながら外に飛び出すと、そこには先ほど死んでいたものより、一回り程大きいドラゴンが銀狼を木に押し付けていた。


 ドラゴンに傷は一つも無く、先ほどのドラゴンとは明らかに違う個体だと分かる。


(親子か、(つが)いか……)


 どちらにせよ、銀狼が危ない。

 押し付けられた木が限界を迎え、後ろに倒れだした時、ドラゴンが身体を回し、その尻尾で銀狼を横に吹き飛ばした。

 銀狼は地面を数回跳ね返った後、木に打ち付けられて止まる。


 ドラゴンは尚も追い打ちを掛けようとしている様だ。


(マズイ、今、銀狼が踏みつぶされたら恐らくもたない)


 僕は洞窟の入口に落ちていた手ごろな石を三つ拾い、その重さを確かめながら銀狼に向かって走っていく。

 自分の何倍もある銀狼とドラゴンの戦闘の中に身を投じるのは怖い。

 でも、銀狼に助けられたまま銀狼が死んでしまうのは許せなかった。


 腰からスリングショットを引き抜き、石を構える。


 狙いは目だ。

 硬いであろう皮膚に石を当てたところで効果は薄いだろう。

 怒りに打ち震えていることが容易に想像できるドラゴンの血走った赤い目は大きく見開かれており、普段よりは狙いやすそうだ。


 僕がスリングショットで石を放つと三発の内、一発が目を掠めた。

 自身の目が狙われたことが分かったドラゴンがこちらを振り向く。


 ほぼダメージは無かっただろうがドラゴンは死にかけの銀狼ではなく、僕に注意を向けてくれた。


 注意を引けたとはいえ、ここで僕が逃げ出せばドラゴンは恐らく銀狼を殺しに行くだろう。

 このドラゴンは恐らく同族を殺された恨みを銀狼に持っている。

 僕を狙うのも後で銀狼を落ち着いていたぶる為なのかもしれない。


 銀狼を助けたい僕に取れる選択肢は限られている。

 ドラゴンはその巨体故に、方向転換には少し時間が掛かる。

 僕の方を向いている間に僕は銀狼に近づく。


 銀狼は先ほどよりもさらに血を流し、気絶している様だ。

 息も薄く、危険な状態であることが分かる。


 僕は銀狼に近寄り力任せに揺さぶる。


「起きて!ほんとに危ないから!起きて!」


 後ろからはドラゴンの咆哮が聞こえる。

 もうすぐ近くまで来ているのが分かる。


「くそっ!どうすれば……」


 僕は焦る頭の中で考える。

 僕にドラゴンを倒したり、押しとどめる力はない。

 となれば銀狼に起きてもらうより他にない。


 僕は銀狼が一番興味を示したものを思い出す。

 鞄から団子を取り出し閉じられた牙を開けて口の中に放り込む。


「頼む、起きてくれ!」



 地面を揺るがすほどの振動が伝わってくる。


 もう、僕の逃げる時間も無くなった。


 真後ろにドラゴンの気配を感じた時、ついに銀狼の目が開かれた。


 僕は無意識に銀狼の綺麗な毛並みを掴んで指示を出す。


「走れ!!」


 ドラゴンが僕ごと銀狼を踏みつぶす直前、銀狼はその場から駆け出した。


 僕は銀狼のあまりの速さに振り落とされそうになりながらも必死にしがみつく。

 銀狼がいつもの速さで走っていたら到底無理だったが手負いの今では何とかなった。


 しばらく走ったところで銀狼が小さな崖のようなところからの跳躍で着地に失敗し倒れこむ。

 当然、掴まっていた僕も地面に叩きつけられたが大事には至らなかった。


 銀狼は目を閉じていて息をするのも苦しそうだった。

 恐らく当分は動けないだろう。


 ドラゴンが追って来る気配はない。

 だがあの怒りようからしてまた攻撃を仕掛けて来るのは間違いない。


 アイリスを助けに来たのになんて不始末だ。

 アイリスのことを考えるならあそこは銀狼を見捨てて手探りでも探しに行った方が良かった。


 それにドラゴンと銀狼に気を取られていたけど、普通に考えて水を汲みに行って居なくなったなら増水した川に流された可能性が一番高い。

 今からでも下流域を探しに行った方が良いのではないかという考えが芽生える。


 僕の目の前には僕を助け、怪我を負った銀狼。


 しかし、アイリスも助けに行かなければならない。


 僕は両者の間で板挟みになっていた。



 ◇◆◇



 僕は今、森の中を走っている。

 作戦は臨機応変に立てて行くしかない。


 プリエラを助けた時と違い、周りに注意しながら進んで行く。


 結局僕は悩んだ末に……






 銀狼と一緒にドラゴンを倒すことにした。

 さっきの件で僕は銀狼のことを信頼することにした。

 銀狼に言葉は通じていないだろうが、心が通じているような気もする。


 だからと言って、もちろんアイリスを諦めたわけではない。

 ドラゴンを倒した後に探しに行く。


 当然、先にアイリスを探すという手段もあったが、あの銀狼の様子では当分動けそうにないし、もし探している途中でドラゴンに会えば、いよいよ太刀打ちできなくなる。

 ドラゴンが銀狼の血を嗅ぎ分けることができるならそうなる確率は決して低くない。

 だから、先に倒す。


 もし、この決断で助けられたはずのアイリスが死んでしまったら、ミーちゃん達には合わせる顔が無くなる。

 それでも闇雲に探すより、目先の脅威を排除したうえで、銀狼に手伝ってもらう方が可能性が高いと判断した。


 今、銀狼には先ほど着地に失敗した小さな崖の下で休息を取ってもらっている。

 崖は五メートルほどの高さで上の方が空中にせり出ているので崖の上から見るとその内側に死角となる部分が存在する。

 そこに隠れてもらっている。


 大まかな作戦はこうだ。

 僕がドラゴンを引き付けて崖の上から下に誘導する。

 上から落ちてきた無防備なドラゴンを銀狼が後ろから襲うと言ったものだ。


 僕は森の中に少しでも今の状況に役立つものが無いかを探す。


(この匂いはまさか……こ、これは使えるぞ)


 走っているとき、地面に数輪の花が咲いていた。

 黄色いこの花はリーシェン草と言い、とてもにおいがきつく、普段は花の蜜を水で何倍にも薄め、トイレなどに置いておくものだ。

 すると他のにおいを消しつつ仄かに甘い香りを出す消臭剤のような役割を果たす。


 しかし、花の状態のこの花は匂いがきつすぎて近くを通るだけでその存在が分かるほどだ。


 なりふり構ってはいられない。

 僕は包帯を千切り、自身の鼻に詰め込むと、リーシェン草の花を毟り取り、雨でぬかるんだ土と練り混ぜ、泥団子を作る。

 三個の激臭を放つ泥団子を作った頃にはまともに鼻が機能しなくなっていた。


 さらに歩くとプラストの実を見つける。

 これは親指の先くらいの大きさの木の実で食べることはできない。

 当然のようにミーちゃんが拾ってきた木の実の中に入っていたこともある。


 一見、ただの木の実なのだが潰すと時間差で小さな爆発を起こす。

 爆発と言っても木の実の質量が小さいので目に入らなければ大事に至ることは無い。

 しかし、今はとても利用価値のある木の実だ。

 僕はプラストの実も三つ拾う。


 グォオオオオ!!


 先ほどからドラゴンの咆哮が聞こえており自分の現在位置をわざわざ晒してくれている。


 僕はその声のする方向に向かった。


 向かった先には半狂乱で木々をなぎ倒しているドラゴンが居た。

 長い尻尾が左右に激しく振られており、安易に近づくことは出来ない。


 ドラゴンはあてもなく暴れているようにも見えるが着実に銀狼に近づいていた。


(やっぱり匂いでバレてるか……)


 このままでは銀狼の位置を悟られ、銀狼に逃げ場のない状態で戦闘を強いることになる。


 このドラゴン討伐作戦の成功には銀狼の存在を隠す必要がある。

 しかし、あれだけの血を流している以上、銀狼の匂いを消すことはできない。


 それなら、逆にドラゴンの鼻を潰してしまえば良い。


 ドラゴンは僕が近づいたことで何か異変を感じ取ったようだ。

 僕もバレることは想定していた。

 なにせ、今の僕は激臭を放っているのだから。


 ドラゴンは動きを止め、顔を左右に振って、匂いの元を探っているようだ。

 僕は木の陰に隠れながらドラゴンの進行方向に回り込む。

 目の前から見るドラゴンは少し離れているとは言え、かなりの迫力だった。


 できるだけの準備はした。

 あとは成功させるだけ。


 僕はプラストの実を砕き、泥団子の中に詰め込み、そのままドラゴンの顔目掛けて投げた。


 空中を飛んで行った激臭泥団子は見事ドラゴンの顔付近で爆発した。

 固められていたリーシェン草の花がまき散らされドラゴンの鼻を襲う。


 ドラゴンの悲鳴にも似た叫び声が聞こえる。


(これで嗅覚は潰せたはずだ)


 そのタイミングで僕はドラゴンの前に姿を現す。

 僕を見たドラゴンは先ほどのように怒りに満ちた目で見て吠える。

 もしかしたら僕のことを覚えていたのかもしれない。


 グォオオオオ!!!!



 間近で受けた咆哮に耳を抑えたくなる。


 次の瞬間にはドラゴンが僕目掛けて突進してきた。



 ◇◆◇



 あれから僕の逃走劇は続いていた。

 息が上がり、足は絡まりそうになる。

 しかし止まってしまえば待っているのは死だ。


 ドラゴンの動きは銀狼と比べて遅いが身体が大きいのもあり一歩がでかい。

 僕が本気で走ってもギリギリ追い付かれてしまう。


 なので、ジグザグに進み、出来るだけドラゴンを直進に動かさないようにしている。


 それにドラゴンと僕の進行方向が合わさると危険なのだ。

 現に今も僕の横に木が倒れてきた。

 少しずれていたら潰されていただろう。


 ドラゴンの巨体は木など関係ないらしく、全て薙ぎ払って進軍してくる。


 どうしても危ないときは激臭泥団子を使いながら銀狼の元に向かう。



 数分走ったところで、先ほど銀狼と通った崖に辿り着く。

 やはり上からは見えないが、この下で銀狼が待機してくれているはずだ。

 止まっている時間は無い。


「行くぞ!!」


 僕は銀狼に一声かける。

 恐らく、僕が言わずとも後ろで吠えまくっているドラゴンでその存在は分かるであろうが……


 僕はあらかじめ用意していた、丈夫な蔦で作り、近くの木に結び付けたロープで崖の下に飛び降りる。

 崖の下には銀狼が鋭い目つきで態勢を低くしていた。


 蔦を握る手が擦れて痛いが、我慢しながら下まで降りる。


 少し足が痺れたが無事に着地し、上を見るとドラゴンがちょうど飛び出てくるところだった。

 恐らく止まろうとしたが止まれなかったのだろう。

 幸いにも崖が崩れることは無かった。


 ドラゴンが大きな音を立てて地面に激突する。

 もうこの衝撃だけでもかなりのダメージが入っている気がするが、今、僕の横を銀狼が走り抜けた。


 完全に後ろを取った銀狼は背中からよじ登り首に噛みつく。


 ドラゴンも首の痛みに身体や尻尾をのたうち回らせているが銀狼を剥がすことができない。


 そのまま幾らかの時間が過ぎた時、ドラゴンが動かなくなる。

 銀狼は尚も追撃を止めない。

 ドラゴンの首が半分くらい抉られたところで銀狼が吠える。

 それは勝利の雄たけびのようで威厳があった。



(なんとか倒せた……)


 ほとんど銀狼のお陰で倒せたようなものだけど勝てたなら問題はない。


 それにしてもやはりこの銀狼は強い。

 ドラゴンの皮膚は決して柔らかくない。

 それを噛みちぎる顎の力だけでも魔物随一だろう。


 口から血を滴らせて戻ってきた銀狼はどこか得意げで初めてそのふさふさの尻尾が揺れているのが見えた。


 しかし、急に僕から立ち退き、しきりに鼻を押さえている。


(あ、今、かなり臭いんだった)


 もう完全に鼻が利かなくなっているため忘れていたがリーシェンの花を直接触った僕はかなり臭い。

 ドラゴンも相当臭かったはずだが興奮状態で気付かなかったのだろうか?


 アイリスの捜索のお願いをしたいんだけどな……

 僕が探し始めてから既に数時間経っている。

 もしかしたら、もう孤児院に戻ってきているのかもしれないけど、ここまで来たのだから銀狼にお願いしよう。

 とりあえず、匂いを落とすために僕は川に移動することにした。



 ◇◆◇



 川で手を洗うと、ようやっと銀狼が近づいてきてくれた。

 怪我が心配された銀狼だが既に傷が塞がりつつある。


 治癒能力まで高いとは本当に相手にしたくない魔物だ。


 僕はもう銀狼を怖がることは無い。

 銀狼を労わるように足を撫でてやると顔を擦り付けてきた。


 こうして見てみるとなんか可愛いし、魔物と呼ぶのも嫌になってきた。


 折角だから名前を付けてあげよう。

 何が良いかな……




 ──ハク



 安直すぎるだろうか……

 銀狼は普通灰色から鈍い銀色のような色をしている。

 でもこの銀狼は色がほぼ白に近い。

 呼ぶときに、いちいち銀狼とか呼ぶのもあれだし、簡潔な名前で良いかもしれない。


 僕が銀狼にハクと名付けようとしたとき、銀狼が呻きだす。


「ど、どうしたの?大丈夫?」


 声を掛けても返事が返ってこず、かなり苦しいみたいだ。


(何かの毒か?)


 僕がどうすれば良いか分からず怪我の部分を避けながら撫でていると、銀狼の身体が熱くなってくる。



(あ、熱すぎる)


 もう触って居られなくなった時、銀狼は消えていた。




「え……?」




 それは僕から漏れた言葉なのか。










 それとも彼女から漏れた言葉なのか。






 銀狼が居た場所には一糸まとわぬアイリスの姿があった。





 雨はまだ降っていた。




ドラゴンを倒したライアスと銀狼ですが、協力したことで少し信頼関係のようなものが芽生えてきました。


そして、アイリスの捜索を銀狼にお願いしようとしたライアスですが、何故か銀狼がアイリスになっていました。


一体どういうことなのか?


次回、ライアス、アイリスと話します。

お楽しみに。

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[一言] p17 固められていたリーシェン草の花がまき散らされドラゴンの゛花゛を襲う。 ドラゴンの鼻
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