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第15話 ライアスと銀狼

皆様、新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

 



(どうする!?考えろ!考えろ!)


 僕は銀狼を前にして急速に頭を回していた。

 冒険者をやっていると危険なことは多々ある。


 それでもここまでの危機は味わったことがない。

 後ろは壁で行き止まり、仲間もおらず、手元には短剣二本とスリングショット、あとは腰に下げた小さな鞄一つ。

 目の前では先日の銀狼がその青色の眼を光らせていた。



 グルルルル


 目の前の銀狼は尚もこちらを威嚇しながら体勢を低くしている。


 この前のことから考えて銀狼がこちらに飛びかかって来たら反応することも出来ず押し倒されるだろう。


 しばらく膠着状態が続いていた。

 僕は銀狼に睨まれて身動き一つ取れない。

 引き攣った頬を冷や汗が流れる。


 銀狼も威嚇はやめないが飛びかかってくることもしなかった。


(何故だ、何故動かない?)


 明らかに相手有利の状況、銀狼はひとっ飛びするだけで僕の息の根を狩れる。


 僕と銀狼はさらに見つめ、いや睨み合う。

 それでも銀狼は動こうとはしなかった。



(待てよ、もしかして怯えているのか?)


 今までは冷静で無かったため気づかなかったがよく見るとあの低い姿勢で唸るのは犬型の魔物が怯える時にとる行動と酷似していた。

 目の前の銀狼をその辺の犬型の魔物に当て嵌めて考えて良いのか疑問ではある。

 それでも、この膠着状態を説明するにはそう考えるしか無い。



 僕は意を決し、一歩踏み出す。




 ガァァァァアア!!


 ビクッ!?

 な、なんだ?急に吠えるからびっくりした。

 しかし、目の前の銀狼は目にも留まらぬ速さで僕が踏み出した一歩の十倍くらいの距離を離した。

 無理に身体を動かしたことでその腹部の傷が開いたのか、血が流れ出ている。


 でも、これで確信した。

 目の前の銀狼は確実に僕に恐怖心を抱いている。

 それが何故かは分からない。


 だが今はその理由など些細なことだ。

 僕に恐怖心を抱いているなら何とかなるかもしれない。


 そこで僕は考える。

 この状況での最善の策を……



 目の前には手負いの銀狼、僕の最大の目的はアイリスの保護だ。

 ここに居なかったということは、アイリスの捜索はまた振り出しに戻ったことになる。



 僕は腰の鞄に手をかける。


 僕の動きにまた銀狼が吠えるが構わず続ける。


 そして、道中で拾った薬草をふんだんに練り混ぜた団子を一つ取り出す。

 銀狼はその団子に目を取られているようだ。


 僕はその団子を半分に割り、その片割れを目の前の地面に置き、ゆっくりと後ろに下がる。


 これ以上、後ろまで行けないという場所まで下がると銀狼と僕の距離は先程の二倍程になっていた。


 落ちてくる葉をも切り裂くような静寂の中、僕が声を出す。



「はじめまして、僕はライアスと申す者です。人間の言葉は理解できますか?」


 返事は返ってこない。

 だが先ほどのように何かすれば吠えるということは無くなった。


「どうやら傷が酷いようですね。そちらに薬草を練り混ぜた団子を用意しています。宜しければ食べてみて下さい」


 出来るだけ穏やかに語りかける。

 人間の言葉を魔物が理解することはあり得ないだろう。

 言葉は通じなくとも気持ちが通じてくれれば……

 そう思って僕は対話を続ける。


「もちろん毒などは入っておりません。こちらはその団子を半分に割ったものです」


 そう言って半分になった団子を見せ、口に入れる。


 銀狼は何も言わず、ただジッと僕のことを見ていた。



 僕が何をしているのか。

 恐らくこれを聞けば十人に十人が馬鹿だと笑うだろう。

 それでもアイリスを助けるためにはこれが一番可能性が高いのだ。




 ──銀狼を手懐ける


 目の前の銀狼は速さ、力強さ、荘厳さ、どれをとっても一級の魔物だろう。

 それでも僕に敵対心以外の心があるなら可能性はあると考えた。


 僕の鞄にはアイリスの服の破片が入っている。

 犬型の魔物の嗅覚は他の魔物より優れていることが多い。


 銀狼を手懐け、アイリス捜索の手伝いをさせる。


 これが僕の出した答えだった。


 もしかしたら目の前の銀狼がアイリスを食べてしまった可能性もあるにはある。

 しかし、アイリスが生きていると仮定している以上、その妄想に意味はない。


 僕が口に含んだ団子を咀嚼し終え、呑み込むと口を開き、呑み込んだことを強調する。


(さぁ、どう出る?)


 もし、目の前の銀狼が理性も何もなく、ただの獣だったならこのようなことに意味はないのだろう。 

 しかし、銀狼の目には確かに理性の光が宿っていた。


 銀狼にとっても僕と協力する方が得という状況を作れば手を取り合うこともできるかもしれない。


 銀狼は先ほどと同じく、低く唸っている。


 しかし次の瞬間、銀狼は一歩、前に踏み出した。

 その動きは今までの銀狼の動きと比べるとあまりに緩慢で忍び足という感じだった。

 それでも、鼻を鳴らしながらゆっくりと半分に割れた団子に近づいていく。


 僕と銀狼の距離が先ほどと同じくらいになり、銀狼は僕が置いた団子の目の前まできた。


 団子に鼻を近づけ、匂いを嗅いでいるようだ。

 僕は特に行動は起こさず、その様子を見守る。


 銀狼はすごく迷っているようで今まで、僕から目を離すことは無かったのに視線は今、団子に釘付けになっている。



 そして、団子をひと舐めした後、食べた。



 銀狼に比べ、団子の大きさは小さいのになかなか呑み込む動作は無い。


(味わっているのか?)


 正直、最初の状態の団子ならまだしも色んな薬草を練り混ぜた今の団子はお世辞にも美味しいとは言えない。


 明らかに肉食であろう銀狼にはさらに不味く感じるはずだ。

 だがそれを味わっている。


 ようやく満足したのか、銀狼は顔を上げ呑み込んだ後、遠吠えをした。


 その声は何故かとても悲しげで心にチクリと刺さった。


 団子を食べ終わった銀狼は僕に視線を移す。


 その目は先程のように恐怖一色で染まっているということは無かった。


(落ち着け、落ち着け)


 巨大な銀狼に見られているだけでもかなり精神がすり減る状態だ。

 自分を最大限落ち着かせながら僕は歩みを進める。


 銀狼は僕から目を離さずに、しかしその場から動かず僕を見ている。


 銀狼が目と鼻の先に迫った時、僕はゆっくりと腰の鞄に手を入れ、もう一つの団子を取り出す。


 それをひと齧りした後、銀狼に差し出す。

 銀狼は鼻を鳴らした後、僕の手から団子を食べた。


 やはり小さい団子を味わっているようだ。

 それを邪魔しないようにしながら銀狼に触れる。


 銀狼は少しビクリとしながらも受け入れてくれた。


 僕は溜め込んでいた息を吐き出し、その場に座り込む。

 銀狼は僕が動いても動じることはなく、団子を呑み込んでいた。


(な、なんとかなったか……)


 かなり危ない賭けだったがなんとか第一段階はクリアしたと言えるだろう。

 この先、銀狼がアイリスの捜索を手伝ってくれるかは分からないが団子を餌になんとかしてみるつもりだ。


 銀狼は座り込んだ僕の側でジッとしている。

 そのお腹からはやはり血が流れていた。


「お腹、怪我していますよね?少し治療させていただいてもよろしいでしょうか?」


 僕は鞄から包帯を取り出し、銀狼に話しかける。

 銀狼は返事をせず、静かに僕を見ている。


 何も言わないので治療をしようとしたところで銀狼が大きすぎて包帯が足りないことに気づく。


「少し待っていてください」


 僕は銀狼に断ってから洞窟の外に出る。

 ゆっくり出るつもりだったが少し早足になってしまった。

 銀狼が僕を追ってくることは無かった。



(逃げれた)


 そんな気持ちが強くなる。

 このままアイリスを探しに行った方が良いかもしれない。


 僕は未だ雨が降る森を見つめる。


 雨が降る森は足場も視界も悪くなっており、人を探すには向いていないことは明らかだ。


 僕は近くに生えている大きめの薬草を取り、雨で軽く洗い、銀狼の元へ戻った。



(やっぱり銀狼の力を借りるしかない)



 洞窟の中に戻ると銀狼が先ほどと変わらず待っていた。

 僕は銀狼に近づき、付いてくるように言う。


 当然、僕の言葉は理解していないので動かなかったが、僕が手招きをして外に出ると付いてきてくれた。


 外に出たところで近づくと自分から横たわってくれた。

 やはりこの銀狼の毛は少し汚れているが綺麗だと思った。


(結構酷いな……)


 今までは見えていなかったが改めて見る傷は身が覗いており痛々しかった。

 銀狼の巨体からすればこの傷でも致命傷では無いのだろうが、ここで休憩するくらいには消耗しているみたいだ。


 傷口が汚れていたため雨水で洗い流し、傷薬を塗った薬草で抑える。


 銀狼は刺激に唸っていたが為されるがままになっている。

 しばらく同じ動作を繰り返し、応急処置が終わったところで洞窟に戻るように指示を出す。


(ふぅ、終わったか……銀狼に人間の回復薬が効くかは分からないけどやらないよりはマシだろう。それにしても疲れる……)


 自分より圧倒的上位の存在の近くにあるのはやはり疲労が溜まる。

 なんの気まぐれでその牙が向くか分からないからだ。


 今は大人しくしてくれているようなのでこの調子でアイリスの服の欠片を取り出して探してもらえるようお願いするつもりだ。


 しかし、僕が洞窟に向けて一歩踏み出すと銀狼が唸り出す。

 その声は先ほど、お腹の傷を触った時と違い、敵意に溢れている。



 グルルルル!!


 僕が冷や汗を流しながら振り返るのと同時に銀狼が僕のことを突き飛ばす。

 巨大な銀狼に追突された僕は勢いよく洞窟の中まで転がっていく。



(い、痛い……急にどうしたんだ?)


 僕は何が起こったのか分からなかったが前を見て驚愕した。



 グォオオオオオ!!!!



 そこには前を向き、無防備な体勢で大きなドラゴンに体当たりされる銀狼の姿が見えた。



 銀狼とドラゴンはすぐに洞窟から見える範囲から消え去る。



 聞こえるのは銀狼の甲高い悲鳴と、ドラゴンの咆哮だった。





相変わらず銀狼に恐れられるライアスですが銀狼を手懐けようとしました。


しかし、上手くいくかと思われた矢先、ドラゴンに襲われます。

銀狼に助けられた形になるライアスはどういった行動するのでしょうか?



次回、ライアス、決断します。

お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 銀狼との邂逅に緊迫感があり、真剣に読めるのが良いですよ 更新ありがとうございます!
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