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第13話 プリエラの『うんめいのひと』

いつも読んでいただきありがとうございます。

ブクマ、評価等の応援に背中を支えてもらっている心持ちです。


 


「実は私、吸血鬼なんです……」



 この言葉を言っている私の顔はひどく緊張しているだろう。

 ただでさえ口下手な私がこのことを告白するのはとても勇気がいることだった。



 ◇◆◇



 私の名前はプリエラ。

 種族としては吸血鬼だ。


 私の詳しい出自は少し特殊なためここでは省略する。


 里から追い出され、行き場を失っていた私をファナちゃんは引き取ってくれた。

 その時、ファナちゃんはかなりこの「元孤児院とあの人が言う建物」から離れたところに居たけど結局、理由は教えてもらえなかった。


 そして、私は自分が吸血鬼であることを隠した。

 吸血鬼は血を飲むことで強化されるがその血はヒトのものでなければならない。

 だからこそ、吸血鬼は他種族から嫌われる傾向にある。


 ファナちゃんはエルフのような見た目をしていたため私を有無を言わさず排斥するようなことは無いだろうけど、もし追放されてしまったら私は行く場所がない。


 私が元孤児院に着いたときには私のほかに既に四人居た。

 私は人間を見たことがないけどファナちゃん以外は人間のようだった。

 知識として知っている人間の特徴と合致していたからだ。


 幸い、力のない私は人間と同じような身体能力しか持っていなかったのだろう。

 他の四人も私のことを吸血鬼だとは疑わなかった。


 私たちの生活は貧しかった。

 肉はたまにファナちゃんが狩ってくる動物だけ。木の実や雑草が主な食事だった。

 それに火を起こす方法も分からなかったため、肉は生で食べることになったけど特にそれでお腹を壊すということも無かった。

 ヒトの血を飲めない私でも動物の血で拒絶反応が出ることは無かった。

 だからと言って、美味しくは無いし、出来れば飲みたくは無いんだけど……


 そして、ミーちゃんと木の実採集をしているとき事件は起きた。

 ミーちゃんが足を滑らせて崖の下に落ちそうになったのだ。

 私は腐っても吸血鬼。崖から落ちたくらいでは死なない。


 だからミーちゃんを庇ったのだけど私は衝撃で気絶してしまった。

 そして、あの魔物に憑りつかれた。

 それからは地獄だった。

 ただでさえ少ない魔力がどんどん奪われ、その生命力まで奪われていく。

 ミーちゃん達は私のために一生懸命看病をしてくれた。


 誰かに心配される。


 お母さん以外では初めてのことで嬉しかった。


 行き場を失くし、ここに拾ってもらえただけでも私は幸運だった。

 最後に私のことを思ってくれる人が一人でも居たならこんなに嬉しいことはない。



 でも、一つだけ……


 一つだけ、心残りがあるとすれば……


 それはお母さんとの約束だろう。



 ◇◆◇


「ねぇ、お母さん。なんでプリエラは血が飲めないの?びょうきなの?」


「いいえ、プリエラ。それは違うわ。あなたは特別なのよ。もし、プリエラが飲める血の持ち主が現れればその人はあなたの運命の人ね」


「うんめいのひと?」


「そうよ。あなたを一生支える人、そしてあなたが一生支える人」


「じゃあ、お母さん!うんめいのひと、お母さん!」


「あらあら、嬉しいわ。でも、もし私以外の運命の人に出会ったらしっかり支えてあげるのよ」


「う~、お母さんを支えたいのに~……分かった!じゃあそのうんめいのひとに出会ったらお母さんに紹介するね!」


「まぁ、それは楽しみだわ。待ってるわね……いつまでも」


「約束ね!ふふふ」


 ◇◆◇


 私の幼いころの記憶。

 まだ、他の人と元気よく喋ることも出来たし、お母さんも近くに居た。貧しかったけど幸せだった私の大切な記憶。


 『運命の人』、そんなの出会えるわけ無かった。

 他の人の血を見るだけで嫌悪感が出て来るのだ。

 あれを飲むなんてできっこない。



 そう、思っていた。



 あの人に会うまでは。




「起こしてしまってごめん。僕はライアス、今日からここに住むことになったんだ」


 突然、私たちの中に現れた人。

 暗闇で顔が見えなかった私はいつもよりはまともに喋ることができた。


「そう……ですか、はじめまして……プリエラ……です」


 まさかここに新しい人が来るとは思わなかった。しかも男の人なんて。

 でも、この人がここに住んでも住まなくても私は直に死ぬ。

 そう思うとこの人のことはどうでも良くなった。


 でも、ちょっとだけ良いにおいがするような気もする。

 何がかは分からないけど。


 そこで自分の身体にもたれかかっている人の存在を知った。


 ミーちゃん……


 ここ最近、みんなには迷惑を掛けてばかりだ。

 今までも人並み以下のことしか出来なかったのに今ではただのお荷物。これなら居ない方がマシという気がしてくる。


「ミーちゃん……私ってなんでいつも皆の役に立たずに迷惑ばかり掛けるんだろう……」


 ふいに出た言葉だった。

 誰に語り掛けるわけでもなく、自分を自責するための言葉。

 だから返事が返ってくるなんて思いもしなかった。



「別にそんなことは無いと思うよ。僕は君のことを全然知らないけど少なくともそこに居る子は君に感謝していたよ」



 それは私が欲しかった言葉……

 会って間もない人だったけどその人の言葉には不思議と重みがあり心に響いた。



「ありがとう……ございます……」



 感謝の言葉は自然と出てきた。

 その人も「どういたしまして」と言って何処かへ行ってしまった。


 未だに何かを抜き取られている感覚があり、死が近づいてくるのが分かる。

 それでも先ほどよりも幾らか気分の良くなった私は眠りについた。



 そして、あの事件が起きたのがその次の日。

 私が生まれ変わった日と言っても過言ではない。


 ライアスと名乗った人は次の日も来た。

 やっぱり少し良いにおいがする。


 今日もお話かと思ったら私を「助ける」と言いだした。


 これが病気ではないことに私は気付いていたので伝えたけどその人はそれで良いのかと聞いてきた。


 このままで良いのか、と聞かれた私の脳裏に浮かんだのはお母さんとの約束。

 生きていれば運命の人と会う確率が僅かでもあるかもしれない。

 お母さんにはいつも苦労を掛けていた。

 お母さんは約束を破る人じゃ無い。


 今も待っているはずだ、絶対に。


 だから私が勝手に諦めて死ぬのは嫌だった。



 私は強い意志で「よくない」と言った。


 そうは思っても気持ちでどうにかなる問題でもない。

 だがその人は治す方法を知っていた。


「僕に命を預けてくれ」と言ってきた。

 会って間もない人。信じられるかと言われれば正直、否定してしまうだろう。


 私は迷った。

 けど、最終的にその手を取ることにした。

 このままでは直に死ぬのだ。

 今さら怖がることなんてない。



 結果として私は助かった。

 凄く苦しかったけどあの人が助けてくれたのだ。


 そして差し出された瓶に入った液体。

 その瓶には何かの香草でも入っているのか凄く良いにおいがした。


 私はそれを飲んだ。



 衝撃だった。

 本能が理解した。

 この液体の中には血が入っている。


 あれだけ何度飲もうとしても臭くて、苦くて、不味くて、舌に触れた瞬間痺れるほど痛かったはずの血が飲めた。


 しかも飲めただけではない。


 美味しい。

 私が今まで食べてきたものは決して多くない。

 それでもこの血より美味しいモノは無いと確信できるほど美味しかった。


 何かの薬草が混じっているのだろうか、というより、ほとんどが薬草だと思う、それが残念だった。

 生まれて初めて純粋な血が飲みたいと思った。


 そして、私の身体にも変化があった。

 今までは弱かった魔力も徐々に増えている気がするし、全身に力が(みなぎ)ってくるのが分かる。


 やっぱりお母さんが言ってたことは正しかったんだ。


 初めての感覚に戸惑っているとあの人が体調を尋ねてきた。

 体調は文句なく今までで一番良い。

 そこで初めてその人の顔を見る。


 優しそうな顔のおでこに赤い石が煌めいていた。

 それは私のおでこに何か付いているとミーちゃんが言っていたモノと同じ特徴をしていた。


 何が起こったのか分からない。

 でも、あの人は私の無事を確かめるとすぐに出て行ってしまった。


 残された私は手持ち無沙汰になり、立ち上がる。

 やはり、身体の調子が良い。

 ここ最近、食べ物が喉を通らずいつも以上に痩せ細っていた身体にもハリがあるように思える。


 何をすれば良いのか分からなかった私はとりあえずあの人にお礼を言うために追いかけることにした。


 あの人のにおいは間違わない。

 先ほどまでは少し良いにおい程度の感覚だったが今ではそのにおいがはっきりと分かる。


 いつもの倍以上の速さで森を進んでいると目の前に白い熊のような魔物が居た。

 いつもなら怖気づいて腰を抜かしてしまうような強敵なのに不思議と恐怖は感じなかった。


 それよりも私の行き先を邪魔していることに少し怒りを覚える。


(早くお礼を言いたいのに)


 すると白い熊がビクッとしていた、今何か私から魔力のようなものが漏れていたかもしれない。


 深呼吸して落ち着かせてからあの人のもとに近づく。

 あの人のところには白い熊も居り、今にも襲い掛かろうとしていた。

 ちらりと見えたあの人は眠っているようだ。


(もしかしてこの熊、あの人の眠りを邪魔するつもり?)


 そう思った瞬間、身体が勝手に動いていた。

 気付けば白い熊の頭は切り落とされており、私の手には見たこともない漆黒の鎌が握られていた。


 目の前には白い熊の血が広がっている。


 汚い、そう思うも私の最優先事項はあの人だ。

 こんな硬い地面にあの人を寝かせるわけにはいかない。

 あの人とこの熊を運ぶためその血を操る。

 血を操作するなんてやったことは無いけど不思議と出来た。


 それからの日々は本当に天国のようだった。


 あの人には食べて良いと言われたので寝ている隙に少しだけ血を吸わせてもらったりした。


 美味しい、純粋な血が美味しすぎてもう何もいらないと思ってしまう。

 止血はしっかりしたからあの人は気付いていないと思う。



 もし私が吸血鬼だとバレて嫌われたら……

 そう思うだけで身体は震え、身動きが取れなくなる。



 だからこそ、このことを言うのは躊躇った。

 でも言わなければならない事情ができてしまった。


 ある日、ライアスさんは肩に傷を負って帰ってきた。

 血のにおいは、特にライアスさんの血のにおいはすぐに分かる。

 どうして傷ができたのかは分からないけどライアスさんに、もしものことがあったら嫌だ。


 そして、今日、ドラゴンと銀狼がいる森に単身で乗り込むらしい。

 ライアスさんのことだ、大丈夫だとは思う。

 それでも不安なことには変わりない。


 だから『血の契り』をすることにした。


 ◇◆◇


 そして、今に至る。


 ライアスさんは私の言葉を聞いて驚いた表情をしている。

 私は受け止めて欲しいとお願いしたが、本当は受け止めるだけじゃなく、受け入れて欲しいとお願いするつもりだった。

 優しいライアスさんのことだ、「お願い」として言ったら聞き入れてくれるだろう。


 でも、それは少しズルい気がした。

 お願いとしてではなくライアスさん自身の意志で受け入れて欲しいと願ってしまう。

 今も私の鼓動は早く、不安な気持ちが止まらない。

 言わなければ良かった、そんな気持ちが強くなってくる。


 もし、拒絶されてしまったら……


 そう考えると返事を早く聞きたいような、聞きたくないような複雑な気持ちになる。


 永遠にも感じられた静寂の後、ライアスさんは言った。




「へぇ、プリエラって吸血鬼だったんだ。どうりで視線が誘導されると思ってたよ。やっぱり誘惑の魔眼的なモノ持ってたりするの?」


 それはいつもと変わらない調子で放たれた言葉。

 でも、それが本当に安心できた。

 私は安堵感に身を委ねながら言葉を続ける。


「え……魅了の魔眼とかは……持ってないですけど……」


 言葉は困惑していたが私の心は凄く浮かれている。

 今なら空も飛べそうな勢いだ。


 しかし、そんなことなど知る(よし)もないライアスさんとの間に微妙な沈黙が訪れる。


「そ、そっか、いやなんでも無いんだ。忘れてくれ。そ、それでプリエラが吸血鬼なのは分かったけど、今の状況と何か関係していたりするのかな?」


 そうだった、浮かれて忘れていたけど今はアイリスちゃんが危ない。

 私の一番はライアスさんだから本当はライアスさんにはここに居て欲しい。


 でも、優しいライアスさんはそれを許さないだろう。


 だからライアスさんを守るためにも私のためにも誓約をすることにした。


「あの……『血の契り』って知ってますか……?吸血鬼に伝わる……儀式なんですけど……」


「『血の契り』?いや、今初めて聞いたよ」


「実は……これをすると……身体が丈夫になるんです……私、ライアスさんが心配で……」


 私は嘘をついた。

 言っていることは全て真実だけど重要なことを敢えて伏せて説明した。


『血の契り』は確かに吸血鬼に伝わる儀式だ。

 お互いの血を飲んで友好を深めたり、同盟を結んだりするときに使われる。


 でも、それはただの儀式的なもので、身体能力の向上などの効果は無い。

 相手の血が美味しいかどうかが分かる程度のことだ。


 それでも私とライアスさんの間で行われる『血の契り』は他とは違い特別な意味を持つ。

 お母さんに『運命の人』と会ったときにしなさいと教わった私だけができる特別な『血の契り』。

 もし、この『血の契り』の良い点と悪い点を言うと優しいライアスさんは拒絶するだろう。


 でもそんなことは許さない。

 ライアスさんは私の『運命の人』。

 死ぬまで一緒に居たい。


 ごめんなさい、ライアスさん。

 真実を使った嘘をついてしまって……


 でも、これはライアスさんの為だから許してほしい。


「へぇ、そんな儀式があるんだ。それってどうやるの?」


 私のことを微塵も疑っていないライアスさんに少し罪悪感を覚えながらも私は儀式の方法を説明する。


「お互いの血を……飲むだけです……」


 ライアスさんは何か考えているようだった。


「でも良いの?吸血鬼の『血の契り』がどういう意味を持つのか僕は知らないけど、もし重要なものなんだったら僕なんかに使っちゃって」


 こんなときまで私のことを想ってくれるライアスさんが愛おしい。

「自分なんか」なんて言って欲しくない。

 そもそも、私が飲める血はライアスさんのだけ、他の人と『血の契り』が出来ようはずもない。


「ライアスさんが……良いんです……」


 そんな意味を込めてライアスさんを見つめる。

 ライアスさんにも気持ちは伝わったようだ。


「分かった、ありがとう。それならお願いしようかな……それで、えっと、僕はどうすればいいのかな?」


『血の契り』は別にどこの血を使っても問題ない。

 普通なら手の先などを少し切って血を数滴グラスに注いで交換したりする。

 儀式的な意味合いの強い『血の契り』はたくさんの血を飲む必要はない。

 少し唇に触れさせるだけでも十分なのだ。


 でも今、手元にグラスなどは無い。

 そのことを良いことに私は少し欲張ることにした。


「そのまま……ジッとしていてください……」


 今までライアスさんの血を飲むときは腕から飲んでいた。

 そこが飲まれる人にとって一番刺激が少ない。

 ライアスさんを起こさないためにもそうしていた。


 でも本当は首から飲みたい。

 脳と心臓を繋ぐ首から飲む血が一番美味しいらしい。


 私の視線がライアスさんの首元にくぎ付けにされ無意識に喉が鳴る。


 目の前でジッとしているライアスさんに近づく。

 やっぱり良いにおいがする。


「ちょ、ちょっと近くないかな?」


 ライアスさんは困惑するように一歩下がるがもう私は止まれない。

 そのままライアスさんを壁際まで追い詰める。


「プ、プリエラ?聞こえてる?」


 聞こえてはいる。

 ライアスさんの声だ、聞き逃すはずがない。


 でも、血が飲みたい気持ちで頭がいっぱいの私には返事をする余裕はない。

 何かのスイッチが入ってしまったみたいだ。


 私は欲望のままにライアスさんの首に噛みつく。

 ライアスさんはその感覚に少し身動きをしていたが壁際まで追い込んでいるので構わず私は血を吸った。



 ッ!!



 な、何?この感覚!?


 私は今まで感じたことの無い快感に戸惑う。

 美味しいなんてものじゃない。


 全身に快感が稲妻のように走っていく。

 許容量を超えた快感に身体が火照ってきて押さえられない。


 熱に浮かされたまま私は自身の身体をライアスさんに絡める。

 尚も血を飲むことを止められない。


 バッ!!


 しかし、その至高の時間はライアスさんから強引に押し返されたことで終わりを迎えた。

「あっ」と情けない声を出している私の口からは涎が垂れている。

 私が口に残った後味を楽しんでいると息を荒げたライアスさんが慌てるように言った。


「ちょ、ちょっと飲み過ぎじゃない?『血の契り』がどんなのか分からないんだけど、これは流石に心臓に悪いかも……」


 自身の胸を押さえながら言うライアスさんを見て私も正気に戻る。


(え?わ、私何してたの?)


 自分がとっていた行動を思い出し、赤面する。


(な、なんであんな破廉恥な行動をしてしまったの!)


「ご、ごめんなさい……」


 私は急いで謝る。

 まさか、こんなことになるなんて思ってなかった。

 ほんとは少し吸うだけで十分だった。

 でも、一度吸ってしまったら我慢が利かなかった。

 ライアスさんに不調を来すほどは飲んでないけど予定より多く飲んでしまった。


「いや、良いんだ。僕もちょっとびっくりしただけだから……そ、それで今度は僕の番かな。僕は首から吸ったりは出来ないんだけど」


 良かった、許してもらえたみたいだ。

 ライアスさんが血の飲み方を知らないのは想定できていた。


 私はライアスさんの血を飲んだことで生まれたあり余る力を使って自身の首に傷を入れる。

 ライアスさんに飲ませる血だ。

 当然、私の血の中でも一番品質が良い所を飲んでもらう。


 溢れて来る血をある程度貯めて、その血を操りライアスさんのもとに届ける。


「そ、それを飲んでください……」


 ライアスさんがあの血を飲んだら『血の契り』は成立する。

 そう思うと、緊張と期待に胸が張り裂けそうだった。


「す、すごい……血が浮いてる……」


 私が血を操っているのが不思議なのかライアスさんは宙に浮いている血を眺めている。


 私は慎重に焦らず血をライアスさんの口元に持っていく。


(急がずに……焦らずに……)


 早くライアスさんの口へ私の血を届けたい衝動を抑えながら口まで持っていく。


 ライアスさんが口を開けたのでそこにそっと血の塊を入れてから血の操作をやめる。

 恐らく今、ライアスさんの口の中に私の血が流れ込んでいるはずだ。



 ゾクッ!



 今、私の血がライアスさんの身体の中にある。

 そう思うだけで、得も言われぬ快感のようなものが(かかと)からせりあがってくる。


 ライアスさんが急に流れ込んできた血に驚きながらもそれを飲み込んだことで『血の契り』は成立した。

 特に身体に変化は無かったが感覚的には私とライアスさんが鎖で繋がれた気がした。


「お、思ったよりも甘いんだね……」


 多分初めて飲むであろう人の血が思ったよりも美味しかったらしい。


 でもそれは、私の血だからだ。


 私がライアスさんの血を美味しいと感じるのと共に、ライアスさんも私の血を美味しいと感じているはずだ。

 お母さんから聞いていたことと重なり、やはりライアスさんが『運命の人』であることを確信する。


「いつでも……言ってくれれば……飲ませてあげます……」


 そんなことを言いつつも飲みたいと言われなくても飲ませてあげたいくらいには血を飲んでもらうことも気持ちよかった。


「とりあえず……『血の契り』は成立しました……これで少し、身体が丈夫になったはずです……」


「あんまり実感は無いけど、それなら良かった。それじゃあ僕は行って来るよ。留守は任せたよ」


「はい……気を付けて……行ってきてくださいね……」


 ライアスさんが部屋から出て行くのを見届けて私はその場にへたり込む。


 今日で色々なことが進んだ。

 それに、まさかライアスさんの首の血があんなに美味しいなんて……

 あと、私自身の血を飲んでもらうことに快感を覚えることも発見だった。


 そして、何より……




『血の契り』を結べた。『運命の人』と……


 私は先ほどの情景を思い出して微笑む。










「死ぬまで一緒ですよ、ライアスさん……」







※プリエラが言っている「ライアスさんが食べて良いと言っていた」は「第6話 元孤児院初のお友達」をご参照ください。


プリエラ視点で物語を振り返ったことで新たに見えてきたこともありましたね。

ライアスの首の血の美味しさに理性が飛びかけたプリエラですがライアスに隠した『血の契り』のメリット、デメリットはなんなのでしょうか?

プリエラの最後のセリフも気になります。


さて、プリエラとの儀式を終えたライアスはアイリスの捜索に向かいます。


次回、ライアス、再び出会います。

お楽しみに。

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