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第12話 消えた人

いつも読んでいただきありがとうございます。

なんとジャンル別週間ランキングにもランクインしておりました。

これからもライアスと彼女達の物語を楽しんでいただければ幸いです。

 



「流石に漏れすぎだろ」


 今日は雨が降っていた。

 部屋のあちこちに水が滴っておりジメジメとした部屋に気分も下がってしまう。


 ここに来てから初めて体験する雨。

 正直、元孤児院のボロさに驚きを隠せない。

 確かに木製の床のあちこちが傷んでいたので雨が漏れてくることも想定はしていたが予想以上に漏れている。

 住んでおいてなんだがこの建物、いつ壊れてもおかしくないと改めて思う。


 そんな壊れかけの元孤児院にギシギシと床が軋む音が聞こえる。

 誰かが近づいてきているみたいだ。

 どうやら走っているみたいでギシギシという大きい音がこの建物の悲鳴のようにも聞こえて来る。


(ほんとに大丈夫か?)


 僕が床の心配をしながら出口の方に目を向けると慌てた様子でミーちゃんが駆け込んできた。


 え?扉?この元孤児院にちゃんと閉まる扉はございません。



「お兄ちゃん大変!ドラゴンさんが出た!」



 どうやら本当に緊急事態のようだ。



 ◇◆◇



「ミーちゃん、その情報は確かなのか?」


 あれから僕とミーちゃんはプリエラと合流して話し合いをしていた。

 もし本当にドラゴンならその種類にもよるがかなりマズイ状況だろう。


 正直、銀狼だけでも手一杯なのにそこにドラゴンとなればいよいよ手が付けられなくなる。

 まさか、縄張り争いでも起こっているのだろうか。



「うん、朝起きたら誰かの鳴き声が聞こえたから見に行ったらドラゴンさんが「うぉおおお!」って言ってたんだ〜」


「え?ミーちゃん見に行ったの?」


「う、うん、だ、だって夜じゃ無いし、もしかしたらどこか痛めてるのかなぁって……」


 僕の声に非難の色が含まれていることに気付いたのか、ミーちゃんは少し言い訳するように捲し立ててくる。

 プリエラといい、この二人は常識に疎すぎる気がする。

 プリエラは僕が洞穴で寝てたとかいうくだりね。


 ミーちゃんは怒られることを察知したのか既に泣きそうな顔だ。

 はぁ、と息を吐いてから僕は続ける。


「いいかい、ミーちゃん。外の魔物は危険だ。ドラゴンなんて大きな魔物にあったらミーちゃんなんて一口で食べられちゃうぞ」


 僕が「がおー」と大きな口を全身で表現しながら忠告するとミーちゃんは怯えた表情で首を素早く縦に振っていた。

 少し教え方が子供っぽいがミーちゃんにはこの方が伝わりやすい。


 子供に教える人の感覚はこんな感じなのだろうか。


 それを見たプリエラが小さく微笑んでいる。


「ふふ……ライアスさん……教えるの、上手なんですね……私の料理の腕も上がってきています……ありがとうございます……」


「ミーちゃんの食べられる植物の見分け方はなかなか改善されないけどね」


 僕もプリエラに合わせて笑うとミーちゃんが頬を膨らませて抗議してくる。

 ひとしきり笑った後、僕は避けられない話題を口にする。


「さて、ミーちゃんの話が本当だったということは、今、この周辺に銀狼とドラゴンという二つの脅威がある。残念ながら僕たちにこれらと戦う術は無いから様子見をするしかない」


 僕の言葉にプリエラが頷く。

 ミーちゃんはよく分かっていないみたいで少し退屈そうにした後、僕の膝の上に乗ってきた。

 ミーちゃんには後で分かりやすく教えよう。


「同じことの繰り返しになって申し訳ないけどプリエラも一層気を付けておいてくれ。もし、これらの魔物に見つかったら逃げることを最優先にして欲しい」


 プリエラの正確な戦闘能力は分からないがホワイトベアを仕留めたことからもかなりの高さだと分かる。

 ドラゴンも銀狼もホワイトベアより強いのは間違いないが逃げることくらいはできるかもしれない。


 そんな期待を込めてプリエラを見るがプリエラからの返事が返ってこない。

 僕が訝しんでいるとプリエラが声を出す。



「ミーちゃん……それは流石にダメ……」


 どうやら僕の膝の上に座るミーちゃんを見ていたようだ。

 その黒い目が細められ声のトーンは低い。


 急に機嫌が悪くなったプリエラにミーちゃんも困惑している。


「え?何がダメなの?……あー!分かったぁ!プリエラちゃんもお兄ちゃんの膝の上に乗りたいんだね」


 凄い笑顔で何てことを言っているんだこの子は。

 ミーちゃんは僕のことをお兄ちゃん感覚で扱っているかもしれないけどプリエラは友達だ。

 別にそんなことはしたくないだろう。


 と思ってプリエラを見てみると誰でも分かるくらい動揺していた。


「え、えっ……あの……ご、ごめんなさい……ま、まだ心の──」


 ほら言わんこっちゃない。

「ごめんなさい」と断られたことに少しショックを受けつつも僕は変な空気になる前に話を締めくくることにした。


「まぁ、そういう訳だから、みんな注意してね。あと、ミーちゃんは不用意に外に出ないように」


「はーい」


 ミーちゃんは元気な声で返事をしているが本当に守ってくれるのか不安になってしまう。

 プリエラも口をもごもごさせてもじもじしていたが返事はしてくれた。




「ライアスさんの……バカ……」



 ◇◆◇



 あれから数日が経った。

 雨はまだ止まない。


 あの日に僕もドラゴンの咆哮を聞いた。

 僕はドラゴン専門家でもないので咆哮から種類の特定などは出来ないが重い響きのある声は大物の魔物のものであることは間違いないだろう。

 そして、今日もその咆哮は時折聞こえて来る。


 どうやらまだ近くにドラゴンが居るらしい。


 ここ最近、プリエラとミーちゃん以外の三人が妙にピリピリしているとミーちゃんが言っていた。


 なんでもカナリナは何かに怒鳴っていることもあるらしい……いや、普通じゃないだろうか?

 僕の中ではカナリナが一番口も気性も悪い。

 というか僕と話しているときはいつも怒鳴っているんだけど……

 でも、何に怒鳴っているのか分からないのは確かに怖いな。


 ファナも一人で考え込んでいることが多くなったらしい。

 いつもの様子を知らないので何とも言えないがいつもはみんなで相談でもしているのかもしれない。


 アイリスはいつも笑顔だったのに最近は笑っていないことが多いらしい。

 まぁ、近くに危ない魔物が二匹も居たら笑っても居られないよな。



 僕としては少しプリエラの様子が変な気がする。

 何か迷っているみたいで、僕のことを少し避けているような気もする。

 特に何かしたわけじゃないんだけど……


 も、もしかして僕の視線に気づいたとか?

 出来るだけ見ないようにと思っていても目の前で話していれば視界に入ることもある。

 あ、謝って許してもらえるだろうか。


 そんなことを考えているとまたいつかのように建物からギシギシという大きい音が聞こえてきた。

 流石に僕もこれまでの経験でこの走るときの軋み方はミーちゃんだと分かっている。


 予想通り僕の前に現れたミーちゃんの顔は今までで一番焦っていて、プリエラがパラセートに憑りつかれていたときに似ている。



「お兄ちゃん、大変!アイリスちゃんが居ない!」



 ◇◆◇



「それで、いつから居ないんだ?」


 僕は出かける準備を整えながらミーちゃんに尋ねる。


「わ、分かんないけど、今日、朝起きたらもう居なくて……た、多分、水を汲みに行ったんだと思う……ね、ねぇ、お兄ちゃん、アイリスちゃん大丈夫だよね?」


 少なくとも朝からか……今はまだギリギリ朝と呼べる時間だがもっと前から居なくなっていたことを考えると時間に余裕はない。

 ミーちゃんは今にも泣きだしそうな顔で(すが)るように問いかけてくる。

 正直、銀狼とドラゴンがいる魔物の森に行って無事かどうかは分からない。

 最悪のケースも十分に考えられる。


「うん、大丈夫。僕が今から連れて帰ってくるから心配せずに待ってて」


 出来るだけ平静を装って応える。

 僕は今から魔物の森に行く。

 しかも銀狼とドラゴンが居る場所にだ。

 正直、すごく不安だし、僕に何ができるか分からない。


 でもミーちゃんの笑顔のためだ。

 僕は自分ができる最善を尽くしてアイリスを探しに行く。

 最悪の結果になった時のことはそのときに考えれば良い。

 今は最悪の結果を考えるのではなく、自分に何ができるかを考えるべきだ。


「お、お兄ちゃんは大丈夫なの?」


 ミーちゃんは僕の心配もしてくれているようで不安そうに眉を下げている。


「僕は大丈夫さ、お兄ちゃんだからね」


 出来る限りの笑顔で応えた後、元孤児院を出て行こうとする。



 そのとき後ろから声が掛かった。





「ま、待ってください!お願いです……少し、時間を、ください……」


 振り返るとプリエラが息を荒げながら僕の目の前まで来ていた。


「どうしたの?アイリスが居なくなって危ないらしいから迎えに行くところなんだけど」


「わ、分かっています……それでも、少しだけ、時間をください……」


 どうしたのだろうか、その表情は真剣で有無を言わせない迫力があった。

 今、時間を掛けたくは無いんだけどな……


「分かった、出来るだけ早くお願いね」


 僕はプリエラの表情を見て話を聞くことにした。


 ここでは話しにくいということなので場所を移して話すことになった。

 まぁ、場所は移せても扉は閉められないんだけどね。


 一先ず誰も居ない所まで来たけどプリエラは何も喋ろうとしない。

 言葉を言いかけては詰まっているようだ。


 いつもなら、何も言わずに待っているところだけど今は時間が無い。

 少し申し訳ないが催促させてもらおう。


「どんな話でもしっかり聞くから遠慮なく言って欲しい、話って何かな?」


 まさかこの状況で胸やふとももを見ていたことを咎めるわけじゃないだろうが、その可能性も捨てきれない。

 どんな話でも受け止める覚悟をしているとプリエラが口を開いた。



「あ、あの!お願い……覚えてますか?」


 お願い?いったいなんのことだろう……




 あ!あれか!

 魔力暴走で動けなくなった僕を看病してくれた時に「僕にできることならなんでも言ってくれ」と言ったんだった。

 思い出すのに時間が掛かった僕は取り繕うように返事する。


「う、うん。覚えてるよ。プリエラが看病してくれたときに言ったやつでしょ?」


 僕が応えるとほっとしたように表情を緩めた後、今度は引き締まった表情で言う。



「お願い……使わせてもらいます……」


 まさか、このタイミングで「お願い」を使ってくるとは……

 内容によっては帰ってきてからにしようと思って続きを促す。



「今から私が言う話を……受け止めて……欲しい……です……」



 そう思っていたのだが予想外の「お願い」が出てきた。

 話を聞いて欲しいだけとは……

 だが、それだけ重要な話なのだろう。

 プリエラの表情を見れば分かる。


 僕も真剣な表情をし、話を聞く態勢を整える。


「分かった、しっかり受け止めよう」


 お互いが喋らない数瞬の後、プリエラが言った。









「実は私、吸血鬼なんです……」




※「お願い」は「第7話 食料調達しました」をご参照ください


さて、銀狼に引き続き、ドラゴンまで現れてより一層状況が悪化しました。

アイリスも居なくなってしまい、ミーちゃんのためにもライアスはアイリスの捜索に向かうことに。


しかし、そこでプリエラから衝撃の真実が知らされます。

この状況で自分の秘密を明かしたプリエラの意図はなんなのでしょうか?


次回はプリエラ目線のお話になります。

今までの物語もプリエラ視線で見ていくので新たな発見があるでしょう。


次回、ライアス、プリエラととある儀式をします。

お楽しみに。

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