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第11話 みんなと話し合いました

いつも読んでいただきありがとうございます。

 


「銀狼ですか……?」


「うん、かなり大きい銀狼なんだけど見たことある?」


 あの後、元孤児院まで戻った僕は夜が明けるのを待ってプリエラに銀狼のことについて聞いていた。


「見たこと……無いです……。そもそも夜に外には出ないので……」


 プリエラは口に手を当て、一瞬悩んでから応えた。

 だが確かにそうだ。夜、それは凶暴な魔物の時間。わざわざそんな時に外に出ようとは思わないだろう。


 とは言っても建物の中だから安全、というわけでも無い。

 あのような大物を一度も見たことが無いというのは俄かには信じがたい話だ。


 それでも事実としてプリエラは見たことがないと言っている。

 つまり銀狼はこの孤児院を襲ったことがないということの証明になる。


 そうなると分からないのは何故ここを襲わないのかだ。

 人如きには興味が無いのかとも思ったがそれはおかしい。

 魔物にも好き嫌いはあれど人間を襲わない魔物はいない。

 何故なら魔物とはそういう存在として作られているからだ。


 別に昔から魔物がそこら中を跋扈していた訳ではない。

 ヒトが増え、魔法の技術が発達してくると同時にその居住区は拡張の一途を辿っていった。


 それを世界が赦さなかったのだろう。

 いつのまにか動物ではない「何か」が出没し始めるようになった。

 それは例外なく人を襲う。


 そして人々はその「何か」に対し、「魔物」という名前を与えたのだ。


 だからこそあの夜に僕が見逃された理由が分からない。

 本来なら慈悲もなくただ殺され喰われる運命だったはずだ。


 前を見ると僕が押し黙っているのが気がかりなのか、プリエラがその端整な眉を不安げに寄せている。

 そういえば返事をしていなかった。


「夜に外に出ないのは良い判断だね。実は昨日、かなり大きな銀狼を見つけたんだ。プリエラも気をつけておいてくれ」


「大丈夫……だったんですか?」


 どう見繕っても大丈夫では無かった。

 なんの気まぐれか、あの銀狼が見逃しただけでその生殺与奪の権利は間違いなく向こうにあった。

 だがそれをそのまま伝えるのは僕の望むところではない。

 プリエラを無駄に不安にさせる必要性はないからな。


 大事は無かったよ、と肩を竦めながら言うとプリエラも安心したのか、ほっ、と胸を撫でていた。


 しかし、僕の肩を見つめた後、直ぐに難しい顔をして何か思案しているようだった。

 もしかしたら昨日つけられた肩の傷がバレたのかもしれない。

 まぁ、何かあればプリエラなら僕に言ってくれるだろう。

 気づいたことがあれば言ってくれ、と言ってプリエラと別れる。


 その後、ミーちゃんにも聞いてみた。


「おっきい狼さん?ミーは見たことないよ〜」


「そっか、凄く早くて力が強いから出会ってもなるべく逃げるようにするんだよ」


「ミーも力は強いよ?」


 確かにミーちゃんの力の強さは知っている。

 あの狼にも力だけで言えば太刀打ちできるかもしれない。

 だがあの銀狼には速さもある。

 力だけでどうにかなる相手ではない。


「力が強いことは隠すんじゃなかったの?」


「お、お兄ちゃんにはもうバレちゃったからいいの!ほ、他の人には言わないでね?」


 どうやら僕にはもう知られているから良いらしい。

 それにしても、ミーちゃんに上目遣いでお願いされて断れる人はいるのだろうか。


「わかってるよ、ミーちゃんも夜はあまり、出歩かないようにして欲しい。あの銀狼は力だけではどうしようもない相手だからね」


 ミーちゃんが元気良く返事したのを見届けて別れる。


 ミーちゃんの一件で僅かな疑問を流してしまうことの危険さを嫌という程理解した。

 早い段階でバタフライサックが二羽いることに気づいていればもっと上手く立ち回れたはずだ。

 同じ過ちは繰り返さない。


 僕が銀狼の対策を考えながら廊下を歩いているとファナ、アイリス、カナリナの三人と遭遇した。

 どうやら三人とも僕が作った服を着てくれているようだ。

 僕は彼女らを無視しようとしたが思い留まる。


 この三人とは最悪の出会い方をし、その後、今まで不干渉条約を結び、接触を避けてきた。

 少し前までは誰とも話したくないと思っていたこともあり、こちらから話しかけるようなこともほとんどしなかった。


 だが、この孤児院に来てからプリエラやミーちゃんには大切なことを教えて、いや、思い出させてもらった。

 今の僕には誰とも関わりたくないという気持ちはない。


 この三人にも隣人程度の感覚はある。

 注意喚起くらいはしておいた方が良いだろう。


 三人が僕の視界から消える直前、僕は急いで声を掛ける。



「さ、最近、調子はどう?」


 しかし、なんと言っていいか分からず訳の分からない質問になってしまった。


「あら?急に誰かと思えば……不干渉なんじゃ無かったのかしら?」


 当然のようにファナが噛み付いてくる。

 だが無視されなかっただけマシだ。

 カナリナは無視して行こうとしていたが他二人が止まったため仕方なしという感じで留まっている。


「まぁ、僕にも最近思うところがあってね」


「そう、私も思うところはあるわ。随分プリエラやミーと仲良くしてるみたいじゃない」


 やはりそこを突かれるか。

 あちら側からしたら急にやって来た見知らぬ男に仲間二人が取られたように感じることだろう。

 それは決して心地の良いものでは無いはずだ。


「確かに仲良くして貰ってるね。でも今、話しかけたのはそのことじゃないんだ」



「……何かしら?」


 僕が真剣な表情をしたことで向こうも最低限話を聞く準備はしてくれたようだ。


「実は昨日の夜、かなり大きな銀狼に襲われた。その時は運良く助かったが次もそうなるとは限らない。プリエラやミーちゃんには伝えたけど君達も気をつけて、夜は出歩かないようにして欲しい」


 銀狼と聞いて三人はそれぞれの反応をする。

 多少の差はあれど三人とも少し動揺しているようだった。


 だが一早く、動揺から立ち直ったカナリナが肩くらいまで伸びた紅色の髪を揺らし、明後日の方向を向きながらも吐き捨てる。


「ふん、その情報が正しい保証はどこにあるのかしら?」


 保証か……確かに銀狼の存在を証明できるものはない。

 だが、銀狼の存在の証明は無理でも僕達にとって脅威となる魔物がいることの証明はできる。


 僕は上に来ていた服を脱ぐ。


「ちょっ!誰もあんたの裸なんて見たくないんだけど!」


 カナリナが(まく)し立てて来るが構わず僕は脱ぐ。

 そこには致命傷とは言えないまでも明らかに何かに襲われたであろうことが窺える両肩の傷がある。


 みんなの息を飲む音が聞こえるようだった。

 その鋭利な爪痕を見てみんな理解したようだ。

 つまらぬことで言い争いをしている場合ではないと。


「もう一度言う。これは昨夜付けられた傷だ。僕が弱いと言うこともあるけどあの銀狼の速さや力強さはかなりのものだった。みんなも気をつけてくれ」


 今度の忠告は先程よりは三人の心に響いたようだ。

 三人とも何か考え込んでいる。

 恐らくその脅威について考えているに違いない。


「忠告感謝するわ。あなたのことは信用していないけれど、だからと言って無視できる案件でもない。気には留めておくわ」


 最後にファナが締めくくってから三人はどこかへ行ってしまった。

 これからのことの作戦会議のようなものを開くのかもしれない。


 いつからかは分からないがまともな戦闘員が居ない中、この森で生きながらえているということはリーダーがしっかりとしているのだろう。

 話し合ってどうにかなる問題でも無い気はするが夜に出歩かない程度の判断はしてくれるはずだ。



 それにしても流石魔物の森と言ったところだろうか。

 ここに来てから立て続けに問題が起こっている気がする。

 別に休みたいという訳ではないがこういうときは街での暮らしとの違いを実感させられる。



 この状況が落ち着けばボロボロの元孤児院もなんとかしなければならない。

 今も横から隙間風が入り込んで来ており肌寒さを感じる。

 ある程度大きな穴も空いており、魔物に入ってくれと言っているようなものだ。

 今は持参していた布で覆ってはいるが効果は薄いだろう。



 頭を悩ませる事案は多いが、この厳しい状況を憂うのと同時に僕はやりがいのような充実感を感じていた。

 嫌なことがあったときに鍛錬や仕事に打ち込む人がいるという話を聞いたことがあるがこういうことなのかもしれない。

 パーティを追い出されたことなどどこか昔のことのように感じていた。



 しかし、僕も次の日にはさらに状況が悪化することになるとは思いもしていなかった。


みんなと話し合いましたがなんとプリエラとミーちゃんは銀狼を見たことが無いと言っています。

あんな大物を見たことが無いと言うのは信じられないライアスですが他の三人に話しかけるなど、心情にも変化が出てきたみたいです。


さて、ライアスはこの問題を解決できるのでしょうか。


次回、さらなる問題が発生します。

とある真実も明らかになる予感。

お楽しみに。

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