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第120話 カインさんからの使い

 



「お初にお目にかかります。カイン様の使いで来ました。ヘリスと申します」


 僕がミーちゃんに連れられて応接間に行くと、ローランド国、正確にはカインさんの使いが挨拶をしてくれた。

 こういう場に一人で遣わされるということは、カインさんからの信頼が厚いのは間違いない。


 僕も手短に挨拶を済ませると、お互いに席につく。

 すると、ヘリスさんの息が少し上がっているのが分かった。

 ここまで急いで来たのだろう。

 まだ、戦が終わってから1週間程しか経っていない。

 それなのにも関わらず、ここまで早く使いが来たということは、それだけ緊急の事態ということだ。


「それで、ローランド国の様子はどうですか?」


 こちらから切り出した方が話しやすいだろうと、僕は単刀直入に尋ねる。


「はい。戦の後、国王がお亡くなりになられたことが貴族間の間で広まりました。みな大なり小なり衝撃を受けておられました」


 その国王を討ったのが僕な訳だから、若干耳が痛い話だけど、ここまでは予想通りだ。

 問題はこの後、どうなったかだな。


「そこで、次の王様を決めるという話になったのですが、現王族の方々はみな、消極的になられているのです」


「やはりですか……」


「はい。みなアーノルド王が多くの恨みを買っていることを恐れております。実はここだけの話ではありますが、アーノルド王の時代に縁を切られた王族の方も居るのです」


 そこまでなのか……

 切って切れる縁なのかは分からないけど、つまり恨みを買いまくっているアーノルド王はそれだけ身内からは嫌煙される存在だったのかもしれない。


「もし王が亡くなったことが他国に知れ渡れば、今まで強気な態度をとっていただけにどうなるか想像もつきません。国民にも噂話程度ですが広まり始めている状況です。このまま王が不在となりますと、国を揺るがす事態になりかねません」


「なるほど。状況は分かりました。でも、よくそこまで話してくださいましたね」


「はい。私はカイン様の命を受けてここにおります。カイン様から全て包み隠さず伝えて欲しいという旨を承っております」


「カインさんが……」


「本当は自分で行きたいと仰られていたのですが、いかんせん事務処理や後処理などに追われておりまして……」


「そ、そうですか……やはり大変なのですね……」


 僕は妙な冷や汗を掻きながらヘリスさんの言葉に頷く。

 今カインさんが忙しいのは間違いなくほぼ僕のせいだ。

 国のトップ3である、アーノルド王とオーライン侯爵家当主のダリスを討ち取り、アムレート家当主のモロイドに関しても無関係とは言い難い。

 それによって引き起こされた混乱をカインさん一人に押し付けていると分かれば、流石に申し訳ない気持ちになってくる。


 僕は一つ咳ばらいをすると、隣で静かにしていたミーちゃんにフィーリアさんを連れて来てもらうように頼む。


「は~い。行って来るね~」


 ミーちゃんを送り出した僕はヘリスさんに向き直る。


「分かりました。今カインさんが大変な思いをされているのは、僕達の責任であるところが大きいです。僕達の方でも協力させてもらいます」


「あ、ありがとうございます! カイン様もお喜びになられるでしょう」


 僕が手伝う旨を伝えるとヘリスさんは顔を明るくした。

 それから僕がローランド国の近況を詳しく聞いていると、応接間の扉がノックされた。


「フィーリアです」


 客人が居るからだろうか。

 少し口調を硬くしたフィーリアさんが声を掛けてきた。

 僕が入室を促すと、洗練された所作で僕の隣まで来てヘリスさんに頭を下げる。


「はじめまして。フィーリアと申します」


「はじめまして。ヘリスと申します。ライアス様、この方は?」


(うーん、どう説明すれば良いのだろうか?)


 隠されたアーノルド王の子供ですと言っても信じてもらえるか分からない。

 僕がどう説明しようかと苦笑いでフィーリアさんを見ると、にこりとフィーリアさんが笑った。


「失礼いたしました。シレーネ・ローランドと言った方が伝わりやすいかもしれませんね。証拠になるかは分かりませんが、これを見れば分かるやもしれません」


「えっ、シレーネ・ローランド?」


 シレーネ、それはフィーリアさんが元々持っていた名前だ。

 ヘリスさんの反応を見る限り、シレーネという名前には聞き覚えがあるようだ。

 フィーリアさんは胸元からいつかのペンダントを取り出す。

 それは確かお母さんの形見と言っていたものだろうか。

 その青い宝石が埋め込まれた裏側には何かの模様のようなモノが刻まれていた。


「こ、これは王族の……し、失礼いたしました! まさか王族の方とは露知らず……」


「いえ、気にしないでください。今までは捨てたようなモノでしたから」


 ただ、ここに来てようやくヘリスさんにも話の展開が読めてきたようだ。


「で、ではまさか……」


「はい。私が王になりましょう。もちろん、大きな反対が出なければですが……」


「そ、それは願ってもない話でございます。早速カイン様に伝えなければ……」


 新しい情報の数々にすぐさまここを旅だとうとするヘリスさんだったが、僕はそれを呼び止める。


「少し待って貰えますか? 今日はお疲れでしょう。明日、私達の方で素早く王都に行きますので、そこで一緒に行きましょう。今日のところは休んだ方が良いでしょう」


「で、ですが……」


「恐らく今から馬を飛ばすよりも速いですよ」


「わ、分かりました。それではお世話になります……」


 ちなみに王都に行く手段は師匠の力を借りるつもりだ。

 アイリスの銀狼化も馬よりは早いが、まだアイリスの疲労も抜けきっていないだろう。

 フィーリアさんが王都に行くということは師匠も行くはずだから問題は無いはずだ。

 僕はヘリスさんを空き部屋に案内する。


「それにしても、この城は凄いですね」


「ありがとうございます。うち自慢の職人が手掛けてくれました」


 ぷーちゃん達デリモットの力はやはり貴族の目から見ても十分凄まじい技術に見えるのだろう。

 ぷーちゃんの仕事を褒められて少し嬉しくなった僕は自慢げに頷く。


「それでは今日はここでゆっくりお寛ぎ下さい。食事は後で持ってきますので、他にも何かありましたら是非お声掛けくださいね」


「いえ、何から何までありがとうございます」


「いえいえ。あ、あとこの城には私達人間以外にもエルフが居ますので、あまり驚きすぎないようにお願いしますね」


「え、エルフですか!? いえ、分かりました。カイン様からその辺りのことは聞き及んでおります。」


 注意事項も伝えた僕はもう一度礼をすると、ヘリスさんの部屋から出る。


(やっぱり、王都に行くことになったか……)


 アーノルド王に託された以上、このままローランド国を滅亡させる訳にはいかない。

 それに他の国が他種族国家を作ろうとしている僕達にどういう反応を示すか分からないのだ。

 ここはなんとしてもカインさんと協力していかないとな。

 明日に備えるために僕も準備を開始した。


 ◇◆◇


 今回の王都への遠征のメンバーは絞るつもりだ。

 元々長く滞在するつもりも無いので最小限のメンバーで行くのが良いだろう。

 師匠、フィーリアさん、ヘリスさん、僕は確定として後はカナリナとアイリスだな。

 貴族関連のことならカナリナは活躍できるだろうし、カインさんもカナリナに会いたいはずだ。

 今が大変な時だからこそ、カインさんにとって癒しとなるカナリナは居るだけで力になるだろう。

 アイリスは帰る際に僕達を乗せてもらうつもりだ。

 恐らく順調に行けばフィーリアさんはそのまま王都に残ることになるだろう。

 必然的に師匠も王都に残ることになる。

 帰り道に巨人族の里にも行きたいので、そこで師匠達とは別行動にするつもりだ。


 プリエラやファナ、ミーちゃんはお留守番ということになるが、吸血鬼のローゼンさんがいつやってくるか分からないからな。吸血姫のプリエラは出来れば居て欲しい。


 そのような旨をみんなに伝えると、プリエラ達も受け入れてくれた。

 プリエラ辺りは説得が必要かと思っていただけに、あっさり了承してくれて良かった。


 ひとまず明日からのことをみんなに伝えた僕はカナリナの元に向かっていた。

 色々バタバタしていて、聞けていなかったあの事を聞くためだ。

 僕はカナリナの部屋の前まで行くと軽く扉を叩く。


「カナリナ、少し良いかな?」


「ちょ、ちょっと待ってなさい!」


 カナリナの部屋からバタバタという音が聞こえて来る。

 程なくして、扉が開くとカナリナが顔を覗かせた。


「入って良いわよ」


「それじゃあ失礼するね」


 カナリナに続いて部屋に入るとまず部屋から漂う良い匂いに気づいた。

 今までの家はそこかしこに穴が空いていたため、匂いは外の匂いと大差無かったが、締めきられたことで匂いが籠るようになった。

 カナリナの部屋はなんとも言えない良い匂いを漂わせていた。

 そして、違うのは匂いだけではない。


「おぉ! 凄いな」


「ま、まぁこれくらいは当然よね」


 部屋の間取りは僕達と同じはずだけど、カナリナの部屋は落ち着きながらも高級感のある部屋になっていたのだ。

 僕なんかは元々の部屋の良さを活かしきれずに違和感のある部屋になっているのに、カナリナは見事部屋を改装していた。

 僕が部屋を見回していると、「あんまりジロジロ見るんじゃないわよ」と言われ、慌てて視線を戻す。


「そこに座りなさい」


 僕は促されるままに椅子に座った。


「あんたが来たのはあの件でしょ」


「うん。あれからディオーネはどうなったのかなって」


 ディオーネ、アリエッタさんの話では精霊王らしい。

 かなり超常の存在らしいが、色々あってカナリナに乗り移っていた存在だ。


「今も私の中に居るわよ。分身体らしいけどね」


「そっか。何か不都合とかは無さそう?」


 本人が聞いているかもしれない状況で言うことじゃないかもしれないけど、ずっとカナリナの中に居るのだから聞かざるを得ない。


「まぁね。というよりあたしの方からお願いして残ってもらってるのよ」


 そうだったのか。

 確かディオーネの話ではエルフを助ければカナリナを解放してくれるという約束だったはずだ。

 その辺りはどうなっているのかと思っていたけど、カナリナが納得しているなら言うことはない。


「そうなんだ。てっきり険悪な関係なのかと思ってたけど、そうじゃないみたいで良かったよ」


「まぁね。この前色々と話し合ったのよ。なんか本体が呪いを受けているらしいから、あたしが少しずつ呪いを解けるようにしてあげてるわ。当然、ただじゃないけどね」


 そうやって笑みを浮かべるカナリナ。

 なるほど。流石カナリナだな。

 自分の身体を乗っ取ってきた相手にまた取引を持ち掛けるとは。

 負けず嫌いなところは相変わらずらしい。


「そっか。仲良く出来てるようで良かったよ。ディオーネさんにもよろしく言っといてね」


「ええ、ディオーネもあんたに感謝してたわよ」


「それは光栄だね。それじゃあ、明日はよろしくね」


 カナリナが呪いを解こうとしているなら、いづれ呪いも解けるだろう。

 そうなればアリエッタさん達にもいい影響が行くはずだ。


 ディオーネの件を確認した僕は明日のためにも早めに休息をとった。


 ◇◆◇


「それじゃあ、王都まで行くが問題はないね」


「はい。お願いします師匠」


「え、だ、大丈夫なんですよね。これ……」


 夜が明けて不安がっているヘリスさんをよそに師匠は魔法の準備を始める。


「みんな、お留守番よろしくね」


「はい。ライアスさんも、お気をつけて……」


「留守のことはお任せください」


「お兄ちゃん、早く帰って来てね~」


 僕はみんなに手を振ると、アリエッタさんの方に向き直る。


「少しローランド国の方を見てきます。ここは任せました」


「ああ、そちらも大変だろうからな。少なくとも彼女達の安全は保障しよう。と言っても彼女達の方がエルフより強いのだがな」


 そう言って笑顔を浮かべるアリエッタさんに頷くと僕は師匠に向き直った。


「よし。それじゃあ、王都まで行くよ」


 その掛け声と共に、景色が急激に変化した。





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