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第119話 帰宅

 



「アリエッタさん、それはマジですか……」


「ああ、本気だとも」


 夜が明けて僕達も家に帰るかという時にアリエッタさんから話を持ち掛けられた。

 内容はここに居るエルフで僕達の家の近くに引っ越すというものだった。

 なんでも半壊したこの里を建て直すのと、新しい場所に移住するのでそう違いは無いらしい。


「で、でもあそこ森だらけというか、人が住めるスペースは無いですよ」


「だからこそだ。私達は森で育った。当然、未開の森をヒトが住めるようにするのも可能だ」


 なるほど。

 確かにあそこを開拓してくれるというなら僕としてもお願いしたいところだ。

 いつかはあの森を切り拓くしか無いかと思っていたけど、この里を見る限りエルフは周りの木を利用しながら里を作ってくれそうだ。

 どんな外見になるかは分からないけど、家の近くがあの幻想的な空間になるのなら、ちょっとそれは見てみたいかもしれない。


「それに聞いたところではディオーネ様も、ライアスの近くにいらっしゃると言うではないか。少しでもお側に仕えるのはエルフとしての義務だからな」


(目的の半分以上はそれだな)


 どこか目をキラキラさせているアリエッタさんを見て、相変わらず精霊王の存在は大きいのだと実感する。

 まぁ、でもどの道色んな種族が暮らせる空間を作るには誰かの協力が不可欠だった。

 実際の国をどこに置くかというのは、かなりもめる部分かと思っていただけに、ひとまずエルフがこちらに来てくれるならこれ以上のことはない。

 ここはエルフのアリエッタさん達に任せるのが良いだろう。


 ◇◆◇


「へぇ~。ライアスさんの家、なんかすごくなったっすね~。王城より豪華なんじゃないっすか?」


 あれから一部のエルフと師匠、フィーリアさんを連れた僕達は家まで戻ってきていた。

 流石にエルフ全員を連れて来ても泊まれる場所が無い為、大多数のエルフはまだ今までの里で作業をしているらしい。

 来てくれたエルフに関しては僕の家の空き部屋を貸し出すつもりだ。


 そんな彼らはフィーリアさん含め、僕達の家を見て驚いているようだ。

 ちなみにバランは『竜の息吹』のメンバーを連れて途中でローランド国へ帰って行った。

 どこか晴れやかな表情を浮かべていたので、バランは大丈夫だろう。

 僕はバランに心の中で別れを告げると、驚いているみんなに振り返る。


「まぁ、色々ありまして結構豪華な感じになりました」


「これなら、壊れる心配も無さそうだねぇ」


 元々家を建て替えたのは師匠が危険を教えてくれたからだからな。

 どうやら師匠のお眼鏡にも適ったらしい。


「ひとまずは中に入りましょうか。空き部屋は沢山ありますので、自由に使ってください。ファナ、案内をお願いしても良いかな?」


「はい。お任せください」


 僕の言葉にファナが頷くとみんな、家の中へ入って行った。

 ファナなら問題なくアリエッタさん達を案内出来るだろう。

 僕は僕の仕事をしないとな。

 そこで僕は家に入ろうとしているフィーリアさんを呼び止める。


「フィーリアさん、少しお時間ありますか? あの件について話しておきたいのですが……」


「そうっすね。アンさんも交えてで良いっすよね?」


「はい。師匠もよろしければ是非」


「そうだね。それじゃあ、お邪魔しようかね」


 フィーリアさんと師匠を連れて、僕は会議室として用意した応接間に案内した。


 ◇◆◇


「それで、話ってローランド国の王様の件のことで良いんすよね?」


「はい」


 本当は数日くらい休んでもらってからの方が良いとは思うけど、しばらくすればローランド国から使いが来るらしい。

 そこでどんな話になるかは分からないけど、こちら側の意見を固めておかなければ話が進まないからな。

 ここでフィーリアさんの件については話し合っておきたかった。

 飲み物を二人に振舞った僕は席に着くと話し始める。


「えっと、僕の認識が間違っていなければフィーリアさんは王様になる気があるってことで良いんですよね?」


「そうっすね。まぁ、他にやりたい人が居るなら私の出る幕は無いと思うっすけど……」


「良いんですか?」


 これには色んな意味が含まれている。

 王様になれば今までのような自由は無いし、色んな責任も付きまとう。

 前の王が恨みを買っていたのもあるから、報復されるかもしれない。

 そんな状態の中で王様をやるというのは、言葉で表すよりも遥かに難しいことだろう。


「危険とか責任とかは分かってるつもりっす。ただ、王様になった方が色んな人を助けられると思ったんすよ。今日まで色んなところを回ってきたっすけど、ローランド国内だけでも、苦しんでいる街や村は数えきれないんすよね」


「……」


「でも、そんな街で私が出来たことなんてほとんど無いんすよ。全部アンさんがやってくれたので……別にそこを僻んでいる訳では無いんすけど、もっと私にも出来ることがあるんじゃないかって、そう思っていたんす。そこで今回の話じゃないっすか。ここで私が王様になれば色々と権限も増えると思うんすよね。だから、王様になって色々と変えたいんすよ」


 なるほど。そこまで考えていたのか。

 フィーリアさんは大災害の被害を受けた地域を回ったと言ったけど、恐らくそれ以外でも困った人や村を助けたりしていたのだろう。

 そして恐らくはその直接の原因を解決したのは師匠のはずだ。

 だが、色々出来る師匠でも解決できないものもある。

 その辺りをフィーリアさんが権力を持つことで、カバーしようとしているのだ。


 でも、困った人たちを助けたのが師匠だけだとは到底思えない。

 僕の考えを肯定するように師匠が言葉を挟んだ。


「一つ良いかい? 訂正させてもらうよ。確かに今まで会った奴らの困っている原因を解決したのはアタシが多いが、村人たちを笑顔にしていたのは間違いなくフィーリアさ。それはアタシには出来ないことだからねぇ。色々と勉強になったもんだよ」


 そう、フィーリアさんには人を笑顔にさせる力がある。

 それは間違いなくフィーリアさんの大きな魅力の一つだろう。


「そうですね。そこは師匠の言う通りだと思います。フィーリアさんが色んな人を笑顔にしているのが目に浮かびますよ」


「アンさん、ライアスさん……ま、まぁ、そういう訳っすから、誰も王様をやらないなら私がやって、いっちょ色々変えてあげますよ」



 少し涙ぐんだフィーリアさんはそこで話を区切った。

 僕としてもフィーリアさんがそこまで考えて王様になると言っているのなら何か言うことは無い。

 というよりも僕としてはフィーリアさんに王様をやってもらった方が都合が良いのだ。

 フィーリアさんなら僕達がここで、他種族が住める場所を作っても文句を言ってこないだろう。

 そのことで、またローランド国と揉めることは僕も避けたい。

 それにローランド国を回ったということはフィーリアさんの顔はある程度認知されてるはずだ。

 そんな彼女なら受け入れてくれる国民も多いだろう。


「それじゃあ、私はこの家の中を見させてもらうっすよ。カナリナ様とも話しておきたいっすから」


「はい、自由に使ってください」


 少し涙ぐんでいたフィーリアさんを見送った僕と師匠はどちらともなく席に着いた。

 思えば、師匠と二人で話すはかなり久しぶりな気がする。


「師匠、良い顔になりましたね」


 なんと切り出して良いか分からず、思っていることをそのまま口から出してしまった。


「おっと、まさかアンタに先を越されるとはね。ライアスこそ良い顔をするようになったじゃないか」


「ははは、でも師匠が元気になってくれたようで良かったです。フィーリアさんのお陰ですかね?」


「そうだね。あの子も色々と複雑だろうに、良くやってるんじゃないかねぇ。アタシもあの子を見てたら、半端なことは出来ないからね」


「それじゃあ、今後もフィーリアさんと一緒に行くんですか?」


「ああ、そのつもりさ。それにもしあの子が王様になれば、色々と危険なんだろ? アタシみたいなのが居る方が安心だと思うからねぇ。というよりアンタもそうしようと考えていたんだろ?」


「隠し事はできませんね。確かに師匠がフィーリアさんを守ってくれれば、これ以上ない程安心ですから」


 そう、恐らくアーノルド王が暗殺されなかったのはアーノルド王を守る影の部分が優秀だったからだ。

 その影が今どうなっているかは分からないけど、引き続き次の王を守ってくれるとも限らない。

 そうなればフィーリアさんは無防備な状態となってしまう。

 でも、もし師匠が護衛についてくれたらこれ以上ない程の安心を得られるだろう。


「まぁ、アタシもあの子のことは気に入ったからね。護衛の真似事くらいやってやるさ」


 そうやって師匠は柔らかに表情で笑う。

 本当に師匠は変わったな。

 前まではどこか近寄りがたく、来るもの全てを呑み込むようなオーラを放っていたのに、今はどこか温かさを感じる。

 それから師匠が僕のことについて聞いてきたので、答えているうちに時間は過ぎ去っていった。



 ◇◆◇


「え?」


 あれから一週間ほどが経った朝、僕は家を出てびっくりした。

 そこには今まで無造作に木々が散乱していたはずだったのに、今はその木々が無くなりどこか幻想的な道のようになっていた。

 そこかしこには木製で出来た簡素な家があり、エルフの里でも見た精霊と呼ばれる光の玉がふよふよと辺りを漂っていた。


「アリエッタさん、これは……?」


「ああ、昨日までで下準備は出来ていたからな。今日一気に進めさせてもらった」


 確か昨日までは森の中を散策したり、木を手で触ったりしていただけだった気がするのだが、いつのまにこんな準備をしていたのだろうか。


「す、すごいですね。それに精霊が辺りを漂っていますが、ここにも居たんですか?」


「ああ、居たとも。ただ基本的には精霊は眠っているからな。こうして私たちが起こせば光り出す」


 すげぇ……

 良く分からないけど、とにかくすごいことは分かった。

 恐らくこの家も精霊の力を借りて作ったものなのだろう。

 これなら瞬く間に里が完成するだろう。


「まぁ、そういう訳でここら一帯をエルフの里のようにするのは造作もないが、それをすれば今後住むかもしれない他の種族が嫌がるかもしれない。だから今はこの程度に留めておくつもりだ」


「確かに、暗がりを好む種族も居るかもしれませんから」


 というよりは吸血鬼はどちらかと言えば、そういう部類だろう。

 その辺りもアリエッタさんは考えてくれているらしい。

 誰がどこに住むかというようなものはまた、別途話し合う必要があるだろう。

 僕がアリエッタさんの話に頷いていると、アリエッタさんが「そうだ」と思い出したように遠くを見つめる。


「ディオーネ様の居場所も発見した」


「え? 見つけたんですか?」


「ああ、あそこに大きな木が見えるだろう。あの木そのものがディオーネ様の依り代になっている。恐らくディオーネ様が入ったからあそこまで成長しているのだろう」


 アリエッタさんが指を差す方を見れば、そこにはいつかの時にも見た大樹があった。

 確かあれは外からは一切見えなかったのに、森の中に入れば急に見えるようになったりするから不思議に思っていた奴だ。


「どうやらディオーネ様は何やら呪いをお受けになっているようだったからな。私達は近づけなかったが、呪いを少しずつ解除されているようだ。しばらくすればまた来てくださるだろう」


 呪いか……

 どんなものかは知らないけど、またカナリナ辺りに聞いてみるか。

 僕が精霊王なる存在について考えていると、アリエッタさんが真剣な瞳で僕を射抜く。


「なぁ、ライアス」


「はい? どうしました?」


「ずっと考えていたのだが、もし他種族が共存する話が実現した場合、それをまとめる長はライアスに頼みたい」


「え? 僕ですか?」


 そう言えばあまりそこを考えていなかった。

 なんていうか、あんまりそういうまとめ役みたいなものを作らない方が良いんじゃ無いかと思っていたからだ。

 仮にまとめ役を作るとしても、頼りになる人はアリエッタさんを筆頭に沢山居る。

 だからこそ、僕がまとめ役というのはあまり考えていなかったのだ。


「ああ、というよりライアスしか居ないだろう。私は確かに他種族と共存する未来を作りたいと考えていたが、それはほぼ不可能だと考えていたのだ。ライアスと会うまではな」


「アリエッタさん……」


「だが、その考えが変わったのもライアスと会ったからだ。他の種族と交渉しているのもライアス。こうなればまとめ役はライアス以外に居ないだろう」


 確かに自分のことだからよく考えていなかったけど、エルフも吸血鬼も巨人族も、みんな窓口は僕だ。

 そう考えれば確かに僕がそういう立ち位置に居た方が良い気がしてくる。


「でも、他の種族が納得するでしょうか?」


「私は巨人族とは話していないからな。そこは分からんが、吸血鬼の長を見る限り否定はしないはずだ」


 どうやらアリエッタさんは吸血鬼とも話をしたらしい。

 でも、確かにそうか。

 それぞれの長とも面識があるし、種族特有の考え方も何となく頭に入っている。

 責任は重大だが、ここまでみんなを巻き込んだのは僕だ。

 みんなが納得してくれるなら、それくらいはしないとな。


「分かりました。吸血鬼や巨人族のリーダーには聞く必要がありますが、その方向で考えておきます」


「ああ、私達エルフは何の問題も無い。なに、別にライアスに全てを押し付ける気など無い。当然サポートはさせてもらうからな。何でも言ってくれ」


 そうやって微笑みかけてくれるアリエッタさん。


(頼りになるなぁ……)


 エルフのみんながアリエッタさんに心酔するのも頷ける。

 この絶対的な安心感。

 これがあるからこそ、みなアリエッタさんについてくるのだ。

 そんなアリエッタさんに任せると言われたのだ。

 精一杯、やっていくしかないな。

 僕が決意を新たにしていると、どこからともなく声が聞こえて来る。


「お兄ちゃん~」


 どうやらミーちゃんが走ってきたようだ。


「ん? どうしたの?」


「なんか、お馬さんに乗った人が来たよ~。『ローランド国から来ました』って言ってた~」


「分かった。ありがとう。すぐに行くよ」


 ついに来たか。

 恐らく今現在のローランド国の状況を教えるための使いだろう。

 僕はその内容を聞くべく、応接間の方へと向かった。




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