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第118話 戦いの後の話し合い

 


「それで、師匠はこれからどうされるんですか?」


 みんなに少し休んでおくように言った僕は改めて師匠に尋ねていた。


「そうだねぇ。まぁ、それはこの子次第かね」


 そう言って師匠はフィーリアさんの方を見る。

 どうやら師匠はフィーリアさんのことを気に入ったらしい。

 師匠がこれだけ気にかけているのが良い証拠だ。


「私っすか? そうっすねぇ……」


「何か引っかかることでもあるんですか?」


 確か今までは各地を転々としながら大災害の被害を受けた地域を回っていたはずだ。

 それを今後も続けるのかと思っていたけど、何かあるらしい。


「うーん……いや、これから大変になりそうだなぁと思ったんすよ」


「大変、ですか?」


「いや、ライアスさんはあんまり貴族のこととか分からないかもしれないんすけど、王様が死んだって結構なことなんすよね。しかもあの王様、結構やり手だったのでこれから先、王様になる人は大変っすよ」


「あ……」


 僕はそこで、後任の王様のことを全く考えていなかったことに気付いた。

 いや、考えてはいた。

 王様を倒した後は繋がりを持っている貴族の人と連携しようと。

 でも、その繋がりを持っていたダリスには裏切られ、そもそも居なくなってしまったことを考えれば確かに状況は芳しくない。

 というより──

 そこで思い至った僕の考えを肯定するようにフィーリアさんから言葉が漏れる。


「多分、誰も王様をやりたがらないと思うっすよ。だって、あの王様めちゃめちゃ恨まれてるっすからね~。その後ってなると、自分に矛先が向くかもしれないじゃないっすか。しかも今回は傍から見れば他種族に戦争を仕掛けておいて負けた訳っすからね」


 そう、誰もやりたがらないのだ。

 僕は勝手に王族の誰かが引き継ぐ形だと思っていたけど、アーノルド王の後っていうのは想像以上に重労働になるのかもしれない。

 僕が難しい顔をしていると、フィーリアさんはうんうんと頷いてから僕に向き直る。


「少しだけライアスさんのとこに泊めてもらっても良いっすか?」


「え? それはもちろん良いですけど……」


「助かるっす。まぁ、まだ状況が分からないっすからね。出方によっては私が良いカードになるかもしれないっすよ」


「良いカード?」


「はい。ライアスさんにはお世話になったっすからね。まぁ、その時が来れば分かると思うっす」


「も、もしかして……」


「まぁ、その時にならないと分からないっすけどね」


 間違いなくフィーリアさんは自分が王様になっても良いと言うつもりだろう。

 残っている王族がどのような考え方をするかは分からないけど、場合によってはフィーリアさんに大きな迷惑というか、責任が付きまとうことになる。

 それをフィーリアさんに背負わせるのは、どうにも申し訳ない気がした。

 話は終わりとばかりに師匠の元へ向かうフィーリアさんの背を見て、後でしっかり話をしようと心に決めた。


 僕がフィーリアさんとの会話を終えると、タイミングを見計らったように声が掛けられた。


「ライアス君、無事だったんだね」


 声の主はカインさんだった。


「カインさんもご無事で何よりです」


「ごめんね。僕の気が利かなくて危険な目に合わせてしまって……」


 カインさんはモロイドを倒しに行ったからな。

 あの大爆発はやはりモロイドが引き起こしたものなのだろう。

 だが、当然それを責めるつもりはない。


「いえ、カインさんが止めてくれなければ、被害はさらに大きくなっていたはずです。ありがとうございました」


「あっ、そうだね。そう言ってくれると助かるよ」


 僕がお礼を言うと、カインさんは少しバツが悪そうな顔をした。


「どうかしましたか?」


 特に変なことは言ってないと思うけど、何か気に障る言葉があったのだろうか?

 僕が自分の言ったセリフを反芻していると、深呼吸したカインさんは真剣な表情で僕と目を合わせる。


「先に言われちゃったけど、実はずっとライアス君にお礼が言いたかったんだ」


「お礼、ですか?」


「うん。ライアス君も多分気づいていると思うけど、僕の名前はカイン・アムレート。カナリナの兄なんだ」


 それは僕も先ほど知った情報だった。

 こうやって近くで見れば、確かにカナリナの面影は存在する。


「僕の未熟さ故にカナリナには辛い思いをさせてしまった。今さら僕が言えることでも無いけど、ありがとう。カナリナを救ってくれて」


 そうやってカインさんは僕に深くお辞儀をした。

 当時、どういう状況だったのかは分からないけど、カインさんがカナリナのことを想っているのは良く理解できた。


「顔をあげてください、カインさん。僕がカナリナを助けたというよりは僕が助けられてばかりですけどね。でも、こうやってカナリナのことを考えてくれている家族が居てくれて良かったです」


 僕は頭を下げているカインさんに僕はゆっくりと続ける。


「それに僕より先に話した方が良い人が居るんじゃないですか?」


 その言葉と共にカインさんはゆっくりと後ろを振り返った。

 そこには少し居心地が悪そうにそっぽを向くカナリナの姿があった。


「カ、カナリナ……」


「……」


「……」


 お互いが何を言って良いか分からないような沈黙。

 それでも口元が何度も動いているカインさんの表情を見れば、その感情は色濃く伝わってきた。

 そして、カインさんは身体を震わせながら声を絞り出す。


「本当にすまなかった……」


 カインさんは涙ながらに謝罪した。

 それを受けて、カナリナの目にも光るものが見えた。


「べ、別に良いわよ。それにお兄様がやってくれたことだって知ってるし……」


 カナリナは照れ隠しのようにぶっきらぼうな返事をするけど、カインさんにはそれで十分だったようだ。


「本当に生きていてくれて、ありがとう……」


 カナリナの前に膝をつき、俯くカインさん。

 それはカインさんの本心からの言葉だった。

 その言葉がカナリナに届かないはずがない。

 カナリナもついに我慢できなくなったのか、嗚咽を漏らし始めた。


 カナリナは僕と遭った時から常に気を張っているような感じだった。

 家を飛び出てからは心が休まる暇はほとんど無かったに違いない。


(これ以上、僕が近くに居るとやりにくいだろうな)


 そう判断した僕はカナリナ達の元から離れる。

 貴族であるカインさんとは後で話し合う必要があるけど、今はそっとしておいた方が良いだろう。

 僕はカナリナ達から離れると、先ほどから機をうかがっていた吸血鬼を呼ぶ。


「ローゼンさん、お疲れ様です」


「おお、何やら取り込み中のようだったからな。ライアスも無事なようで何よりじゃ」


「ローゼンさんも変わりないみたいで良かったです……それで、その脇に挟んでいるのは……」


「うむ。馬鹿兄じゃ」


 空から飛び降りてきたローゼンさんの脇には本当にボロボロになったロムスさんが力なく項垂れていた。

 傍から見ればもうそれは瀕死と言って過言では無いだろう。


「だ、大丈夫なんですか?」


「それはどっちの意味じゃ?」


「二つとも、ですかね」


 そう、僕の「大丈夫なんですか?」の中には「ロムスさんを連れていて大丈夫なのか」、という意味と「ロムスさんは大丈夫なのか」という意味が含まれていた。


「吸血鬼は数が少ないからのぉ。貴重な労働力を失うわけにはいかんと言うことじゃな。それと、この馬鹿兄は頑丈じゃから問題ない。これでもまだ足りんくらいじゃな」


「そ、そうなんですか……」


「あ、あれじゃぞ! 我だって、したくてしたわけでは無いからな! 別にそういう趣味とかでは無く、吸血鬼では──」


 僕の言葉の中にひいている感情が見えたのか、慌ててローゼンさんが訂正してきた。


「──はは、大丈夫ですよ。でも、殺さずに済むのならそれに越したことは無いですね」


 僕は敵対する人を生かしながら、協力させることは出来なかった。

 それをやってのけようとしているローゼンさんは素直に凄いと思う。

 それに吸血鬼のことだ。僕が口出し出来るものでも無いだろう。


「うむ。まぁ、このことはよい。ライアスも些か疲れているようじゃしな。今は早く休んだ方がええじゃろ。また後日ライアスの家に行かせてもらおうかの。それでは、我らは先に帰らせてもらうぞ」


「はい。お気遣いありがとうございます。待っていますね」


 ローゼンさんとも色々と話し合わないといけないけど、確かに僕も連戦の疲れが出ている。

 正直、今にでも布団に潜りこんで寝たかった。

 ローゼンさんはそれを察してくれたのだろう。

 ローゼンさんはそのまま吸血鬼を引き連れて里の方へと帰っていく。

 元々人望はあるし、機転も利く彼女のことだ。

 血も得たことだし、彼女なら上手く吸血鬼を纏めることが出来るだろう。


 僕はそこから少し歩いてアルストリアさんが居る方へと向かった。


「アルストリアさん、ありがとうございました」


「ライアスか。礼には及ばん。それに我は何かした訳では無いからな」


 アルストリアさんは戦えなかったことを少し悔やんでいるようだ。

 でもアルストリアさんが戦えなかったのは仕方が無い。

 人間に囲まれた状態で身動きが取れなかったし、もし大災害の魔物と戦おうとしても魔物の近くに居た魔法隊を巻き込むことは避けられない。

 アルストリアさんは僕が言った「犠牲を最小限にしたい」という言葉を忠実に守ってくれたのだ。


「本当にありがとうございました。アルストリアさんが居なければ僕達の勝利はあり得ませんでした」


「……そうか。ライアスの望み通りになったのであれば良かろう。とにかくライアスに一言言いたかっただけだ。我らは先に戻らせてもらおう」


「ミーちゃんは良いんですか?」


「ああ。ミレストリアは仲間たちと談笑しているようだからな。せっかく仲間との勝利を分かち合っているのだ。それを邪魔するつもりはない」


 まぁ、アルストリアさんが納得しているなら良いか。

 アルストリアさんは僕に一言告げると里に戻っていく。

 恐らくアルストリアさんも気を遣ってくれたのだろう。

 また、後日改めてお礼をしに行こう。


 ◇◆◇


 そんなこんなで諸々の挨拶を終えた僕はみんなや師匠達とずっと寝たままの『竜の息吹』のメンバーを連れてエルフの里まで戻ってきていた。


「やっぱり、あの攻撃で村は半壊してしまったんですね」


 僕はボロボロになったエルフの里を見て、思わず言葉を零す。

 幻想的な雰囲気でどこか浮世離れしていた光景も、今は痛々しい戦闘の爪痕がそれを覆いつくしていた。

 そんな村を僕の隣で見ていたアリエッタさんは首を横に振る。


「いや、半壊してしまったのではない。半壊で済んだのだ。これもライアス達と、みんなのお陰だ」


 半壊で済んだ。

 アリエッタさんはこの結果を肯定的に受け止めている様だ。

 いや、村の長であるアリエッタさんだからこそ、ここで沈んだ顔は出来ないのだろう。

 実際、村が半壊したにしてはエルフみんなの顔は明るい。

 その辺りもアリエッタさんが上手くやっているようだ。


「それに村は半壊してしまったが、エルフ自体に被害はほとんどない。村はまた作れば良い話だ」


「そうですね」


 僕がアリエッタさんの言葉に頷くと、少し言葉が途切れた。

 森の間を吹く心地いい風に少し眠気を感じ始めた僕にアリエッタさんの声が届く。


「ライアス」


「はい、どうかしましたか?」


「今回の件、本当に感謝している」


「いえいえ。お互い様ですよ。僕にも目的がありましたから」


「いや、戦いもそうなのだが、私は一度戦闘を放棄しようとした。あれは村の長としてあるまじき行為だった。それをライアスが引っ張ってくれたから、この結果がある」


 確かにアリエッタさんは一度戦うことを諦めるような発言をしていたな。

 確かエルフの精霊王だったか。

 その魔力を使った攻撃を浴びて、戦意を喪失していたのだ。


「その、精霊王ってエルフにとってどんな存在なんですか?」


「そうだな。私達にとって絶対的な存在、まぁ神と言えば分かりやすいだろうか。私達エルフは精霊王に逆らうことは出来ないし、そもそも逆らおうとすら思わない」


 なるほど。僕の想像以上に精霊王は大切な存在なようだ。

 僕はそこで以前、カナリナの身体が乗っ取られたことを思い出した。

 確か名前はディオーネと言っていたか。

 彼女が出した条件が、エルフを助けることだったはずだ。

 これだけ条件が揃えば分かる。

 その精霊王がディオーネなのだろう。

 僕はそのことをアリエッタさんに伝えようとする。


「もしかして、その精霊王って……」


「ああ。カナリナの中にいらっしゃる存在で間違いない。と言ってもカナリナの中にいらっしゃるのは分身だと思うのだが……」


 そこで僕は会って直ぐ信頼されたことを思い出した。

 あれは恐らくアリエッタさんがカナリナの中に眠るディオーネの存在に気付いたからなのだろう。

 幾らなんでも信用するのが早いと思っていた。


「でも、ディオーネ様から話をされないということはそれなりの理由があるはずなのだ。ちなみに先ほどカナリナを助けたのも恐らくディオーネ様だろう」


 そう言えばカナリナは砲撃を受け止めて一度倒れていたはずだ。

 あれだけ早く復活したのにはディオーネの存在があったのか。


「なるほど。分かりました。正直、精霊王については分からない点だらけなのですが、何かあれば伝えますね」


「ああ。それは本当に助かる。ディオーネ様が話しかけてこない以上、私から話しかけることは出来ないからな」


「長々と話をして悪かった。ライアス達が泊まっていた場所は健在のはずだ。今日はゆっくり休んで欲しい」


 他のエルフのみんなはひとまず村を機能させられるように頑張っているので、ここで僕だけが休むのは気が引ける部分もあるけど、正直そろそろ限界だ。

 ここは休ませてもらおう。


「お言葉に甘えます」


 ◇◆◇


 あれから僕達に割り当てられた部屋に戻った僕達は一部屋に布団を沢山敷き、向かい合っていた。

 ここまで色んな人と話していたせいで、みんなと話すのが遅れてしまった。

 僕は改めてみんなにお礼を言う。


「みんな、ここまでありがとう。今回のことだけじゃなくて、これまでの全部ね」


 そう、別に今回のことだけではない。

 僕は今までのことも含めてみんなに感謝を伝えた。


「いえ、私の方こそ、ライアスさんに感謝しています……」


「そうだよ~。みんなお兄ちゃんが助けてくれたんだよ~」


「そうね。今のあたし達が居るのはライアスのお陰よ」


「ライアス様が居なければ、私もティナもどうなっていたか……」


「ライアス君は私達に色々教えてくれたもんね」


「みんな……」


 色々あったけど、本当に良いヒト達に恵まれていると思う。

 みんなとなら、どんなことも乗り越えて行けるだろう。


「うん。そうだね。これからもよろしくね」


 みんなが元気よく返事してくれる中、僕はついに眠気に抗えなくなってきた。


「それじゃあ、僕は寝るね。おやすみ」


 目を閉じれば、すぐに睡魔は僕を呑み込んで行った。

 若干、みんなが言い争うような声が聞こえたけど、意識を保っていられず僕は眠りに落ちた。


 ◇◆◇



「んん……」


 僕は妙な息苦しさを感じて目を覚ます。

 嫌に身体が重い。

 それだけ疲労が溜まっているのかと思ったけど、どうやらそうでは無いらしい。


「みんな……」


 いつかのテントの中のように、何故かみんな僕の布団に潜りこんできていたのだ。

 身体中に熱と柔らかさを感じ、どこかお風呂に入っているような心地よさを覚える。

 このままもうひと眠りといきたい気持ちもあるけど、僕の布団はそこまで大きく無い為、当然のようにみんなの身体は入り切っていない。

 これでは風邪を引いてしまうだろう。

 僕はこっそりと間から抜け出すと、みんなに布団をかけ直した。


(ちょっと外を見に行くか……)


 眠気もある程度無くなったので、里の様子を見てみるか。

 外に出ると、どうやらエルフのみんなも一度作業を終えているようだった。

 そこには誰もおらず、みんな今日は休憩しているのだろう。


(まぁ、あれだけの戦いの後だからな。里も半壊したし、精神的にも肉体的にもしんどいはずだ)


 何か手伝えることがあればという気持ちもあったため、誰も作業していないのは残念だったけど、夜の静謐な空気は心地よかった。

 そうやってしばらく里の中を歩いていると、暗闇の中に人影を見つけた。

 その誰かは小岩に腰をかけているようだ。

 僕はその人物に近づいていく。



「バラン、体調はもう良いの?」


 そこに居たのは『竜の息吹』のリーダーだったバランだった。

 彼は僕の因縁の相手でもあるけど、この暗闇のお陰か少し話やすい空気になっていた。


「ライアスか……ああ、身体はもう大丈夫だ。いや、ダルさは残っているが……」


「そっか。それは良かった」


 簡易的なものだけど、アリエッタさんがみんなに精霊薬を飲ませてくれた。

 完全回復は無理だが、回復力を高める効果があるらしい。

 どうやらそれが効いたようだな。


 僕は断りも無く、バランの隣に腰掛けた。

 何か言われるかと思ったけど、バランは虚空を見つめるだけで何も言ってこなかった。

 しばらく、その静寂を享受するように二人とも押し黙っていたが、バランがぽつぽつと言葉を零し始めた。


「なんで、助けたんだ?」


 バランは相変わらず虚空を見つめ続けている。

 それでも意識は僕の方に向いていることが分かった。


(なんで助けた、か……)


 僕は頭の中で理由を探しながら話し始める。


「そうだね。僕だってバラン達に思う所が無いわけじゃない。それでも、あの時は助ける時間があった。だから……いや、違うか」


 助ける時間があったから助けた。こんなのは理由にならない。

 バランもこんな言葉を聞いて納得は出来ないだろう。


「僕のためだね。僕はここで助けられる人を見捨てるような奴になりたくなかった。それだけだよ」


 そう、結局のところ人のためと言いつつも僕は僕のために助けた。

 これは嘘偽りの無い本心だ。

 バランはこの言葉を受けて何を思っただろうか。

 今彼が何を考えているのか、僕には分からない。


「そうか。やっぱりライアスはライアスだな……ライアスは会った時からそういう奴だった」


「困っている人が居ればメリットとか度外視で助けにいくし、結果も出す。俺はそんなお前が憎かった。いや、嫉妬してたんだ」


「……」


「でも、なんて言うか、色々あってようやく理解した気がするよ。ライアスも簡単にやってきた訳じゃ無い。色々な無理を通してやってきたんだって」


「だから、まぁ、今までありがとな。今回の件も。俺は地下の労働施設からやり直すことにする」


「良いの?」


 恐らくバラン達はあの作戦に組み込まれた段階で死ぬ前提だったはずだ。

 今ならば地下労働から逃げることは可能だろう。


「ああ、そもそもどこだって一緒だと分かったからな。冒険者をしてようが、地下で強制労働をしてようが、そこで何をするかだってな。もし、ライアスが地下の強制労働施設に送られれば、そこで自分の出来ることをしただろう。ちょうどあれくらいの環境が今の俺にはあっていると思うんだ」


「そっか」


 確かにバランの言う通りだ。

 もちろん、どの職業か、どの地位かによって出来ることは変わってくる。

 それでも本質は、根本のところは変わらない。


「やる奴はどこでもやるし、やらない奴はどこまで行ってもやらない。俺は間違いなくやらない奴だった。いやそれ以上だ。やる奴の足を引っ張る最低の野郎だ」


「……」


「今までのこと、謝らせてくれ。これも俺の自己満足だと分かって言っているが、それでも言わせて欲しい。すみませんでした」


 バランは立ち会がり、僕に向き直って頭を下げた。

 僕もそれを受けて立ち上がる。



「うん。僕に関することは全部許すよ。でも、みんなを危険に晒したことは、そう簡単には割り切れないからね」


「ああ、分かっている」


「それでもバランが前を向いてくれて良かった。今のバランとなら仲良く出来るかもしれないね」


「はは、その資格は俺には無いさ。ひとまずやり直して来るよ」


 僕は頭を上げたバランに右手を差し出した。

 バランはそれを少し驚いたように見つめていたが、しっかりと握り返してきた。



『俺、バランって言うんだ。お前、冒険者歴長いんだろ? よろしく頼むぜ』


 僕はいつの日か、初めて握手した時のことを思い出す。


(僕も気付けなかったのかな)


 当時はまだ、師匠以外の人との付き合い方が分かっていなかった。

 僕はただ、良いことをすればみんなが喜んでくれるものだと勝手に思い込んでいた。

 そして、その結果一番近くに居た仲間の変化に気付けなかったのだ。


 僕はバランの手を握っている右手に目をやる。

 その手からは力強い、いつかのような感覚が返って来ていた。





戦争に勝利したライアス達には、また新たな課題が見えてきました。

過去の因縁の相手であるバランとも決着を付けたライアス達は次回、家に戻ります。

次回、開拓。お楽しみに。

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