第10話 新たな問題が発生しました
本日二話目の投稿です。
あれから何日か経って僕の生活にも変化があった。
プリエラとミーちゃんが頻繁に会いに来るようになったことだ。
プリエラとは元々よく話をしていたがそこにミーちゃんが加わった形だ。
プリエラはミーちゃんが僕に会いに来たら「やっぱり……」と呟いていたが特に拒絶はしていなかった。
喧嘩中と言うことだったから少し心配していたのだが、今も仲良くお喋りしているので大丈夫だろう。
「それで……ライアスさんのこと……どう思ってるの?」
「え?お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ?」
「うーん……まだ……大丈夫……」
うん、仲睦まじく女子トークというやつをやってるんだろう。
基本的に二人とも僕に何かを教わりに来ている感じだ。
プリエラには料理、ミーちゃんには食べられる植物などを教えている。
ミーちゃんの教育は難航しているがプリエラは大分上手くなってきた。
あと、ミーちゃんの怪力のことも気に掛かったが言わないで欲しいということだし、本人が話そうとしないなら無理に聞いてはいけないだろう。
僕はミーちゃんから話してくれるのを待つことにした。
それよりも他の三人とはうまく行っているのだろうか?
結構な頻度で会いに来てるから仲間内で分裂とかになると流石に良くない。
他の三人に関してはそこまでではないがプリエラとミーちゃんは守ってやりたいと思う。
それは身体面だけでなく、精神面でもだ。
他の三人に何かあった時にこの二人が悲しむならそれも阻止したい。
そのためにも僕自身が他の三人ともコミュニケーションを取らなければならないだろう。
「聞いて……ますか?」
「え?あぁ、ごめん。なんの話だったかな?」
どうやら考え事をしている間にプリエラに話しかけられていたらしい。
「この服の……ことです……ほんとに良いんですか?」
「ミー達だけじゃなくてファナちゃん達にもくれたけどいいの?」
あー、服のことか。
以前までこの子達は布切れみたいな服を着ていた。
それでは防御力が無いだけではなく、寒さをしのぐことも出来ない。
せめて風邪を引かないように寒さは無くしてあげたかった。
あと、何とは言わないが僕自身にも刺激が強かったこともあり、この前プリエラが倒した大きいホワイトベアの毛皮が残っていたので少し手を加えて服のようなものにした。
服と言っても見た感じただの毛布に首と手を通すための穴を開けただけなので本当に簡易的なものだ。
服と言うよりは毛布のようにして使って欲しくてあげたのだが、気に入ったのか二人は常に着ている。
「良いんだ。みんなの服はボロボロだったし、もし風邪を引いたりしたら、この閉鎖空間だ。一気に感染するだろう。そうなると僕にとっても良くないから僕のためでもあるんだ」
当然プリエラを直視できないということは言わなかった。
「そうは言っても……お兄ちゃん、なんでファナちゃん達にミーが作ったことにして渡せって言ったの?」
確かに僕は五人分用意した。
さっき言ったとおり風邪などを気にするならプリエラとミーちゃんの二人だけに渡して他の三人が風邪を引けば意味はない。
だから他の三人にも用意したが、はたして僕が作ったと言って何人が素直に受け取るだろうか。
ファナやアイリス辺りは使うかもしれないがカナリナは確実に使わないだろう。
それならミーちゃんが作ったことにしてしっかり使ってもらった方がいい。
感謝されたくないとは言わないが僕は目の前の二人の感謝で十分に満足している。
「ミーちゃんに嘘をつかせたことは申し訳ないと思ってるけど、僕が素直に渡しても受け取ってくれない人も居るだろ?」
僕の言い分にミーちゃんも思い当たる節があったのか俯いてしまう。
「あと、それ気に入らなかったら言ってくれ。違うのを何とか準備するよ」
元が良いからこんな服でも着こなせているが、正直、この毛布もどきの服はダサい。
僕に高度な裁縫スキルは無いのでお洒落な服にすることなど到底出来ない。
そもそも針が無いのだ。
短剣で切り揃えるくらいしか出来なかった。
このような人里離れた場所で文句は言えないとはいえ、彼女たちも女の子だ。
そういうところが気になってもおかしくはない。
「いえ……気に入ってます……大事にします……ライアスさんから貰った初めてのプレゼントですから……」
「ミーもこの服あったかくて、もこもこしてて好き〜」
だが、二人とも気に入っていると言ってくれる。
自分があげた物を気に入ってもらえるのがこんなに嬉しいとは知らなかった。
服も作ったことだし靴も用意しないといけない。
今は持ってきていた包帯を彼女たちの足に巻いてボロボロの靴でも辛うじて痛く無いようにはしている。
だが同じ包帯を何日も使うわけにもいかないし、包帯の数にも限界がある。
早々に靴を準備する必要があった。
(靴に関しては街に行った方が良いかもな……)
正直、街に戻りたくはないが背に腹は変えられない。
それにここを拠点にするにしても近いうちに色々と買い出しに行かなくてはならないだろう。
◇◆◇
それからひとしきりプリエラとミーちゃんと話して解散した後、夜になって外に出ていた。
何をしているのかと言うと、
「靴なら丈夫な草で編むことも出来たはずだ」
諦め悪く、街に行きたくない僕は自分で靴を作れないかと考えていた。
長い草をいくつか捩って縄のようにする事で靴のようなものを作れると言うことを聞いたことがある。
まだ諦める段階じゃない。
街に行かない方法は幾らだってある。
だが薄々分かっていた。
作り方まで聞いたわけではないので恐らく自分では作れないと言うことを。
その時、僕の勘が何かに気づいた。
今は夜で、ここは魔物の森だからいつもより警戒していたのもあるのだろう。
だが時すでに遅し。
「なっ!速すぎる!」
夜風で草が揺れる音ではない不自然な草の音。
その足音が一直線に僕の元に向かっていた。
しかもその速さは尋常ではない。
僕は何もすることが出来ないままその時を迎える。
ガァァァアア!!
茂みから物凄い勢いで飛び出して来たのは銀色の狼だった。
月明かりに反射して光る銀色の毛は神々しいまである。
しかもかなりデカイ。
ぱっと見だが五メートルほどはある。
普通は一メートルから二メートルくらいだから確実にボスだな。
そして、そんな銀狼に僕は押し倒された訳だ。
当然逃れるために抵抗はしてるし、腰の短剣を刺したりもしてるけどビクともしない。
押し倒された時に爪で抉られた両肩が痛む。
そもそも短剣では急所まで届かない。
こう言う大きい魔物を相手するには短剣は向いていないのだ。
グルルルル
銀狼の青色の目は興奮状態にあるのか血走っておりおおよそ普通の状態ではない。
こうなった魔物は自分の本能の赴くままに行動するのだ。
つまりこの場合は噛み殺されて終わりだ。
弱肉強食の世界、目の前に強者が現れれば弱者は喰われるしかない。
それでも最後の抵抗を止めるつもりは無かった。
相手が捕食しに来た時が最初にして最後のチャンスだ。
そう、思っていたのだが……
銀狼が僕を食い殺そうと大口を開けた時、その動きが止まる。
その目は冷静さを取り戻しており先ほどまでの興奮状態ではない。
暫くその青い瞳を見つめる。
(この目の色は恐怖?)
何故かは分からないがその目は何かに怯えているように見えた。
どう考えても向こうが圧倒的に優位な状態。
にもかかわらず、相手は動こうとはしない。
少しの間、膠着状態が続いていたがそれは銀狼が立ち去ることで解けた。
その速度は通常の銀狼よりも速く、たちまちに見えなくなってしまった。
森に組み倒された状態の僕に残ったのは疑問だった。
(何故だ、何故逃げた?)
考えられる理由とすれば他に脅威となる魔物が居ることだ。
魔物も本能的に勝てないと悟った相手からは逃げる。
だが僕の探知には引っかかるものは居ない。
僕に脅威を感じることは無いだろうし、どうも釈然としない。
助かったものの未だこの辺りにあの銀狼が居るという恐怖もある。
あの大きさ、力強さ、威厳からしてこの地域のボス的存在だろう。
浅瀬にあんな魔物がいるなんて考えたくもなかった。
だが前々からの疑問は解消された。
この辺は浅瀬とはいえ、肉食系の魔物が少なすぎる。
未だに遭遇したことがあるのはホワイトベアぐらいだ。
それにいつから住んでいるのか分からないがあの元孤児院がずっと無事なのも不思議だったんだ。
それを可能にしたのが今の銀狼の存在かもしれない。
あの銀狼がこの周辺の魔物を狩っているのだろう。
だからこの周辺には他の魔物が寄り付かない。
そう考えれば辻褄は合う。
それでも銀狼が孤児院を攻めない理由の説明は出来ない。
(またやらなければならないことが増えたな)
今、僕があの銀狼に立ち向かう力はない。
プリエラが本気を出してくれれば分からないがそれに頼るばかりではいけないし、プリエラだけを危険な目に合わせるのは僕としても許せない。
何か対策を考えなければ。
靴を作るために森に来たことなどとうに忘れた僕は難しい顔をしながら帰路に着いた。
彼女達に服を用意したライアスですが新たな問題が出て来てしまいました。
まさか、この近くにあのような魔物が居るとは思ってもみなかったライアス。
ライアスはこの銀狼にどう対処するのでしょうか?
また、銀狼が逃げていった理由も不明なままです。
銀狼はいったい何を感じたのでしょうか。
次回、ライアス、プリエラ、ミーちゃんの二人と話し合います。
他の三人も登場予定です。
お楽しみに。