見守る少女10
静寂、静寂、静寂。
この暗い空間に私以外の音がしない。
ここは一体…?
「ここは、私とあなたの空間よ。」
目の前の一人の少女が現れる。
ローブを纏っていて、身なりはお世辞にも綺麗とは言えない。
眼には光が無く、まるで死人のよう。
「貴方は誰なの?」
「私?私は…」
にやりと笑みを浮かべた。
「あなた、とでも答えておきましょうか。」
「それはどう言う事かしら?」
「あなたは、並行世界またはパラレルワールドと言うものを知っているかしら?」
「聞いたことがあるわ。」
リーナから聞いた事があるわ。
あの子が言うには、並行世界とは、1つの樹の事を言うらしい。
リーナの扱う魔法は次元を用いられている。
その次元を超える過程において、リーナは隣の世界を感じる事が出来るらしい。
それは、私達と似ているような世界であったり、全く別の世界もあるらしい。
また、私たちが人間でない姿の世界も存在するらしい。
しかし、それらの世界は私達とほとんど同じ歴史を辿っているらしい。
では、なぜ似た歴史を辿っているのに、大きな変化が生じるのか。
それは、とある人物のたった一つの選択。
目の前の水を飲むか飲まないかの2択だけで世界は枝分かれする。
その選択の積み重ねが大きな影響を及ぼすらしい。
そして、それらの世界は一つの根からの派生であり、世界を飲み込んだ大樹のようなものらしい。
「あなたの思っているものは違うわ。」
彼女は、私の心の声を否定する。
タイミングから考えるに、心を読まれているのかしら?
「あなたが好きな彼女のそれは、あくまでも可能性の世界。本当の並行世界ではないわ。」
「どういう事かしら?」
「彼女のそれは、もしかしたらをその身で感じられるだけで、本当の並行世界を知っていないのよ。並行世界っていうのは、1つの樹で繋がれた9つの世界を指すのよ。」
「9つの世界?」
「あなたがいる世界。私の世界。そして、残り7つ。並行世界はそれらを指すのよ。そして、その世界には同一存在と呼ばれる同じ魂を共有した存在が9つの世界にそれぞれいるの。そして、あなたの同一存在は…」
「貴方ね。」
「そう。同じ魂を共有した存在だからこうしてあなたと対話をしてるの。」
私は、違う世界の私に話しかけられているらしい。
ここは、私と私がつながった空間って事になるのかしら。
「一つ聞きたいのだけれど、貴方の目的は何なのかしら?」
「対話をしたいだけよ。他意はないわ。」
「嘘ね。」
彼女から感じるものは、黒く見えた。
なので私は否定した。
すると、彼女の顔から笑みは消えた。
「やっぱり、同じ存在の前では嘘は付けないみたいね。」
「それで、本当の目的を聞かしてもらえないかしら?」
「それじゃあストレートに聞くけど、貴方の体を渡してくれない?」
何を言っているのかしら?
それに、どこかで同じような事を言われた気がする。
「ねえ、その体を私に頂戴よ。」
「渡すわけないでしょ?」
「なんで?同じ魂を共有してるんだよ?赤の他人に体を渡すわけじゃないんだから。」
「だとしてもよ。私の体は私の物。あなたに渡すわけないじゃない。」
「そう。……本当はこんな事はしたくないけど、力ずくで奪うよ。」
「な、何これ!?」
重力がのしかかって来たみたいに、全身に重圧がかかる。
立っていられないような苦しみの中、私はすんでの所を彷徨う。
「やっぱりこっちの私は強いね。……けど、温いんだよね。」
「な、に、を言って…」
「私はさ、あなたみたいなのが本当に嫌いなんだよね。富も名誉も地位も権力もある人間が本当に嫌いなの。あなたみたいな人を見るたび、なぜ私だけがこんなに苦しまないといけないんだって。…だからさ、渡してよ。あなたの体。」
彼女の目には私は映っていなかった。
彼女が見ていたのは、小さくて儚い華だった。
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「思い出したわ。」
目覚めの悪い朝を迎える。
それはきっと、あの子のせいだ。
「昨日の午前中……乗っ取られていたのね。」
一昨日の夜、私は夢の中で同一存在の少女と出会っていた。
そして、その少女に何かをされて、体を乗っ取られていた。
だから昨日の午前中に意識が無かった。
「……それに、私の体を乗っ取ろうとしたのは、昨日が初めてじゃないわね。乗っ取られた後、記憶を消されていたから今まで忘れていたのね。」
今までに、リーナの話と私の記憶が違う事があったけれど、すべて私の勘違いだと思ってた。
でも今回の事で、私の考えが間違えていたことに気づいた。
記憶と違う場面で私は乗っ取られていたんだわ。
「それにしても、今回は完全に消されなかったみたいだけど、これは罠かしら?それとも、偶々?」
分からない。
少女の目的を知らないから、私の体を乗っ取られたときの対処が難しい。
けれど、何かしないといけないわ。
「おじ様に連絡をしておいた方がいいわね。それに、例のアレの完成を急いでもらいましょう。きっと、役に立つはずだわ。」
机の中から便箋を取り出し、筆にインクをのせる。
一日にでも早くこれを届けてもらわないといけないわ。
便箋には、必要な情報だけをのせる。
おじ様なら、それだけで動いてくれるはず。
「……こんな所ね。…?」
『お姉さま、居ますか?』
便箋を書き終えた頃、ドアのノックオンが響く。
そして、リーナの声が聞こえてきた。
「居るわよ。入ってきていわ。」
「失礼しますお姉さま。」
そっと便箋を隠して、彼女の顔を伺う。
「お姉さまのパーティーの準備が出来ましたので、お迎えに来ました!」
「そういえば、そうだったわね。」
「忘れていたのですか?」
「ちょっとだけ考え事を…ね。でも、それもちょうど片付いたわ。せっかくパーティーの準備をしてもらったのだから、行かないとね。」
「それでは、私がお姉さまを案内しますね。」
「よろしく頼むわ、リーナ姫。」
「/////////が、頑張り、ましゅ。」
リーナにエスコートをしてもらい、パーティー会場に案内してもらう。
未来絵への不安は募るばかりだけれど、まずは目の前の事に目を向けないとね。
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