見守る少女8
「どいつもこいつも使えない!なぜあんな人間に勝つことが出来ないの!!」
「私が強かった。それだけの話よ。」
「ちっ。戻ってきたのですか。」
私が更衣室に戻ると、生徒会長の盲目信者が物に当たりながら嘆いていた。
声をかける必要はないと思っていたけれど、見るに堪えなかった。
こんなにも人間は愚かになれるのかと呆れてしまうほどに。
「物に当たるのはいいけれど、思い通りにならないと子供のように騒ぐ姿は生徒会長の器に到底届かないわね。」
「言ってくれますね。ですが、器がどうだろうと私が生徒会長になると言う結果は変わりません。所詮あなた程度であれば私を倒す事は出来ません。なぜなら、私と私の乙女衣装はとても相性がいいのですから!!」
「あっそ。たかが相性如きで語れるわね。」
私は彼女の言葉に耳を傾けない。
あんな事を言われて、聞く必要性が無くなった。
所詮その程度の人間なのだと理解した。
その後何かを話しかけていたような気がしたけれど、私の耳に言葉は入ってこなかった。
準決勝を終えた後、直ぐに決勝戦は始まらない。
決勝戦では一番荒れる事を想定して競技場内を清掃し、バリアを張り替えるようにしている。
競技者が心置きなく戦えるように学園からのちょっとしたサービスに当たる。
その間は競技者は自由にして良いので、リーナ達の元へ赴こうとも思った。
朝方の記憶もあいまいだし、何か粗相をしてしまっていたらいけないし。
けど、行かない事にした。
今行って心配させてしまいかねないので、決勝が終わるまでしない事にした。
「ついにこの時ですね!あなたを倒して、私が次期生徒会長にふさわしい事を証明しましょう。」
「…………」
舞台に立ってもなお私に話しかけてくる。
正直、これ以上粘着されたくない。
男から毎日のように婚姻の手紙が来るのに嫌気がさしてここに来たのに、次は女から粘着されるなんて。
リーナ以外からなんて、吐き気を催すわ。
……先ほどから胸の内側でぐつぐつと煮ているものがある。
怒りに似た何かが私を支配しようとしている。
今日はこんな気持ちになるためにここへ来たわけでもないのに。
この気持ちは…………いつになったら私は解放されるのかしら?
いつになったら、私はあの子に会えるのかしら?
………あの子?
あの子って誰の事?
分からない………けど、大切だったような……。
考えても考えても、胸の中で煮えかえる感情のせいで思考がまとまらない。
このむしゃくしゃするような気持ちをすっきりさせたい。
……この戦いで、目の前の女を倒せば気持ちよくなるかな?
『これより、サナ・ラインハルトさんVSメリル・ドリードさんの決勝戦を始めます!』
試合開始の合図が始まる。
試合が始まるまでの間、思考が鈍っていた気がする。
今朝と言い、今と言い、私に何が起こっているのかしら。
あの人には手紙を託していたはずだけど、今日は部下の方が来ていないようだし、万が一が起こればどうなるのかしら?
その時は、会長やリーナを信じるしかないわね。
「始めましょうか。解核。」
「その気になったようですね!では、直ぐに膝をつかしてあげましょう!解核!」
私はペンダントを握りしめる。
乙女衣装は光り輝き、愛剣であるレイピアが出現する。
対して相手は拳銃が出現した。
「それがあなたの解核かしら?」
「もちろん!これがあなたを倒す武器ですよ!あなたはこの弾丸を弾けるかしら?」
トリガーが引かれる。
拳銃のバレルから黄金に輝く弾丸が放たれる。
射撃の腕はそれなりのようで、私の眉間に当たる軌道を描いている。
けれど、準々決勝の先輩に比べれば拳銃から発射される弾丸のスピードなんて遅いわ。
私はその弾丸を剣先で弾く。
「ふひっ!」
その直後、生徒会長の盲目信者は不敵な笑みをした。
それと同時に、弾いたはずの弾丸は軌道を変え、再度私に襲い掛かる。
「っ!?」
再度弾こうとレイピアを振ると、剣先に触れた途端爆破した。
爆発の威力は、その小さな弾丸には似つかないほど大きく、爆風波競技場全域にわたる。
「いとも簡単に、命中しましたね!もうこれで終わりでしょうか!!やはり、貴方は生徒か……」
「この程度で倒れたと思われるなんて心外ね。この程度の攻撃なんて、致命傷にならないわ。」
とっさに引きを手放して受け身を取ったので、傷一つない。
レイピアは砕けてしまったけど、再度呼び出せば問題ない。
だけど、少々相性が悪いわね。
「貴方のレイピアは砕けてしまったみたいですが、まだ続けますか?それとも、神装して再度私に挑みますか?」
「なぜか、一度あなたに負けたような言い方されるのは気に入らないわね。」
「今の一撃で、私とあなたの相性が悪い事が分からなかったのですか?私の放つ弾丸は弾いても、貴方を追尾し続けるわ。そして、2度振れれば即座に爆発してしまう。貴方のレイピアで何が出来ると言うのかしら?」
間違ってはいないわね。
確かに、私のレイピアで弾くだけなら相性が悪い。
けれど、それは、一方的に打たれ続けたらの話。
「貴方がトリガーを引いたとして、私は貴方の弾丸より早く動けるわよ。私にあたる前にあなたの首が飛ぶと思うわ。」
「それはどうかしら?やってみたら?」
「そうさせてもらうわ。」
重心を下げ、走り始める。
相手がトリガーを引いたのを見ると、想定していたように左に飛び、弾丸の軌道からそれる。
弾丸が追尾してくるよりも早く、相手の背後を取りレイピアを突き刺す。
「神装!!」
私のレイピアが触れる瞬間、声が響く。
生徒会長の盲目信者は光に包まれ、私は即座に後ろへ飛び距離を取った。
「危機察知能力は高いようですね。」
「……」
姿に変化はなく、先ほど持っていた拳銃は四角いキューブに変化していた。
「実はですね、私は拳銃の扱いは得意ではないのですよ。」
「そうみたいね。かなり粗い撃ち方だったわ。」
「私は拳銃が得意と言うわけではないのです。私はまだ魔法の方が得意でして、得意とする魔法は【造形】!そして、この神装はそれを補助してくれるのです。このようにね!【造形】!」
すると、彼女が先ほどまで持っていた拳銃が空中に現れる。
しかも、一つではなく十数個。
「このキューブは私の【造形】によって作り出せる物の幅を広げてくれるのです!ですので、貴方の神装の甲冑も作り出せるのです!【造形】!!」
キューブが光を放ち、生徒会長の盲目信者を覆い隠す。
そして、私の甲冑と瓜二つの物を着飾っていた。
「どうです!?私の神装であれば、誰の神装でさえも模造できるのです!」
「………」
久々に厄介だと思ったわ。
さすがに、このレイピアによる近接攻撃は相性が悪いわね。
本当は見せたくはないけれど、鉄扇に切り替えて魔法による遠距離攻撃をすべきね。
「貴方とは確かに相性が悪いわね。」
「やっと認めましたか?では、敗北宣言をしてください。」
「するわけないでしょう?たかが武器一つの相性が悪いだけで敗北するなんて相当頭が弱いのね。相性が悪いのであれば、別のものに変えるまでよ。」
「何を言ってるのですか?貴方の武器はレイピア一つでしょう?それに、乙女衣装の武器は一人一つのはず!!」
「あら、それには例外があるのを知らないのね。」
私はレイピアを乙女衣装に戻す。
「これが私のもう一つ…っ!」
『もっといい物があるじゃない。そっちを使いなさいよ。』
視界が揺らぎ、謎の声が響く。
甘い香りに包まれるような声に、私は支配されそうになる。
「あ、なたは……」
『ほらほら、早く使ってあげなさいよ。今もすくすく育ってるのだから……』
そう、ね。
あの子もみんなの前に出たいわよね。
ずっと閉じ込められたままだと可哀そうだわ。
「神装。」
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