見守る少女7
競技場の中に入る。
対戦相手は3年生で、それなりに強いと言われているらしい。
「君ってさ、同級生からよく嫌われてるらしいね。」
「自分より上の人間と言うものは、どうやら嫉妬の対象になるらしいので仕方い事だとは思いますよ?」
「それはどうだろうか?さっきの会話を聞いてたけど、君の性格による影響じゃないかな?」
「どうでしょう?私としては大人な対応をしたまでなのですが。」
「その大人な対応がまずかったんじゃないかな。私には見下して会話をしているようにしか聞こえなかったよ。」
対戦が始まってからお互いに動く事は無く、会話だけをする。
先輩が会話を始めたので、なんとなく付き合ってみてはいるけれど正直退屈で仕方ない。
「見下している……ですか。あの程度でそう感じられるのは、そもそも弱い人間だったと言う事ではないですか?いたって普通の会話なのに、それを煽りと捉えてしまうあたり……」
「おっと、それはつまり私もって思った方がいいのかな?」
「さあ、どう受け取られようと結局の所、私に決定権はありませんので。先輩がご自身で思ったことが全てだと思いますよ。人間と言う生き物は悲しい事に主観でしか物事を図れません。」
「それは違うんじゃないかな?客観的にとらえる事が出来るとは思うけどね。」
私は知っている。
リーナの近くにいたからそれを一番よく分かってる。
人間は常に主観的にとらえて、主観的な思考をする。
私は知ってる。
人間はリーナを除いて、家族だろうが例外なく、悲しい生き物だと。
「これ以上の会話は不必要ですね。観客も交わることの無い会話を見に来ているわけではないでしょう。」
「そうだね。下級生相手にずるいとは思うけど、手加減無しで行かせてもらうよ。」
「その方がいいですよ。私は、会長のように優しくありません。」
「「神装」」
お互いにその言葉を叫ぶ。
その声に反応して、ペンダントが光り輝き全身を包む。
輝きは、私を着飾り力を与える。
「何度か見たことがあるけど、君のその甲冑はいかついね。まるで君の心を現しているようだ。」
先輩の神装は片手剣をフルに生かせるようにした身軽さ特化の衣装。
足や腕は特に露出が多いのを引き換えに、体を自由に動かせるようになってる。
そこから推測するなら、先輩の動きは大抵絞ることができる。
「間違っていないでしょうね。乙女衣装は所有者に最適な物を体現すると言われています。それはすなわち、心象の具現化とも言えますから。」
「ふ~ん。……となるとその甲冑は君の傲慢で誰の言葉にも耳を傾けない揺らぎない一途さって所かな。簡単に言うと独裁者かな?」
「どう思うも勝手ですよ。」
「なら、そうさせてもらうよ。さ、始めようか!」
先輩が動く。
一歩足を踏み出し、私の視界から消える。
それと同時に私はレイピアを水平行に一振りする。
「一撃で負けないでね。」
「攻撃時に声をかけるなんてよっぽどお人好しなんですね。」
レイピアと片手剣がぶつかる音が響く。
お互いの力が均衡して、微動だにしない。
「あれ、読まれちゃってた?」
「スピード型とはいえ、真正面から攻めてくる人はいません。故に前方の攻撃はありません。そして、先輩は過去のデータから右から攻める傾向があるため簡単に読むことが出来ました。」
「でも、後方と左方があると思うけど。」
「後方は論外ですね。私が後ろを取らせるとでも?そして、左方から攻めていれば左手で受け止めるだけです。」
「動きも見えてたんだね。これは作戦を変えないとねっ。」
先輩が距離を取る。
だから私は、神装を解いた。
「あれ?なんで解いちゃったのかな?」
「先輩のスピードは把握しました。スピード勝負であれば私の方が早いようですから、不必要な重さを省いただけです。」
「今のでスピードを把握したって、本当に言ってるのかな?私は全力を出したつもりは無いんだけどね。」
「そうだと思っていますよ。それを考えた上で、私は言ってるのです。」
「そっか………なら、もう言葉は不必要だね。」
次の攻撃で決着がつく。
私は、体の力を抜いて、とても静かに流れる風のように先輩の背後を取った。
そして、先輩目掛けてレイピアを突き刺した。
「な、……私が見えないなんて……。」
「見えませんでしたか。先輩であればとも思いましたが、やはり私が抱えているモノに比べれば先輩の物はちっぽけだったようですね。」
貫いたレイピアを引き抜く。
神装をしていたとは言え、素肌を曝している部分を狙えば致命傷になる。
だから、これ以上手を加えた所で、過剰に攻撃するだけ。
先輩が倒れ込むと、終了の合図が響いた。
直ぐに救護班が駆けつけて先輩を運んでいく。
「ありがとうございました。」
その場で挨拶をして更衣室に戻った。
次の試合に向けて、心を落ち着かせる。
先ほどの戦いで、私は少しだけ心を乱した。
あれは私の悪い癖。
リーナの事を思うとやけに憎悪に支配されそうになる。
まるで自分でない何かに置き換わってしまうようで怖い。
そんな事を考えていると次の番はすぐにやってきた。
更衣室に生徒会長の盲目信者が戻って来て、もし次も勝ち上がれば決勝戦で戦う事になると知った。
「今回はうまく残ったようですが、次は無いでしょうね!」
彼女とのすれ違い際に、言葉をかけられた。
彼女は本当にナルシストなのだと再認識させられる。
こういうタイプは好きに言わせておけばそのうち黙るので私は無視を決め込んだ。
次の試合の相手は偶然勝ち上がった生徒だ。
8グループが皆共倒れをしたので、彼女は対戦する相手がいなかったため、何もせずに勝ち上がることになった。
だからこそ、勝つことは容易だった。
神装する必要もなく、ただ真っすぐと彼女の前に歩いて行ってレイピアを突き刺す。
その簡単な動作だけで終わってしまった。
同じ2年生で、勝ち上がってこれたのは運が良かったようだけど、そこまでだった。
私と対戦することになったのが、運の尽きだった。
試合が終わり、一度10分間のインターバルが設けられる。
その後、私は彼女と文字通り最後の試合をすることになる。
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