見守る少女5
今日の私はおかしいです。
お姉さまに会えばドキドキしてしまい、お姉さまと離れれば疑心暗鬼になってしまいます。
周りの人には特に変わっているように見えないらしいのですが、私は違和感を覚えてしまうのです。
確かに、私はお姉さまにメロメロですし、離れていれば不安になってしまいます。
しかし、決定的に違うのです!私自身だからこそ、その違和感に過剰に反応してしまうのです!!
「会長に頼まれはしましたが、やはり気が乗りません。お姉さまと会う口実が出来ているというのに、今日の私は……」
お姉さまが使用した魔法。
あれが原因なのは分かっています。
あの魔法と私の間に、何かあったのだと思いますが、それを探ろうとすれば不安に駆られてしまい思考がそこで止まってします。
きっと、何かの因果があるとは思うのですが……
「……ぁっ。」
そうこうしていると、お姉さまの後姿を捉えました。
都合良くと言いますか、お姉さまは私に気付いていないどころか、無防備にも一人ベンチで横になっています。
昨日の夜は遅くにトレーニングをしていて、早朝から動いていたと考えると睡眠が足りていなかったのでしょう。
「こんなところで、無防備になんて……誰かに襲われるかもしれませんよ?」
無防備なお姉さまの頬を優しくなでる。
暖かい体温としっとりとしたお肌を感じます。
「………誰も、いませんね?」
あたりを見渡し、誰かいないか確認します。
人影が見当たらず、物が動く気配もありません。
「そ~っと、そ~っと…」
音を立てずにお姉さまの寝ているベンチの前まで移動します。
一度、お姉さまのお口元まで頭を下げて、耳を傾けます。
「ーーーーーーーーー」
「ひゃんっ////」
生の吐息が耳にあたり、自分でも信じられない声が出てしまいました。
「……ごほんっ。確認も取れましたし…少しだけ我慢してくださいね。」
お姉さまの頭を持ち上げ、ベンチとお姉さまの間に膝を入れ込みます。
これで、膝枕の完成です!!
「気持ちよさそうですね。」
膝枕をすると、体温を感じて気持ちよく眠れると聞いたことがありましたが、間違っていなかったようです。
先ほどよりも顔つきが良くなっています。
「……ちょっと、ちょっとだけなら////」
そっと、お姉さまの髪を撫でます。
さらさらと手を滑り、とても丁寧にしている事が分かります。
一度目、二度目、三度目と撫でてしまいたくなる欲が溢れてきます。
そして、ついつい、お姉さまの顔に指先が触れてしまい、心臓がバクバクです!
ばれてしまうかもしれないと思いつつも、やめられません!
また、撫でる事でお姉さまの体が少し反応したように思えます。
特に、顔に指先が当たると、お姉さまが動いてしまいます。
この反応が起きる前兆なのか、単に反応しているからなのか私には分かりませんが、その反応が私の欲望を増幅させていることには変わりません。
止めなければ、手で触れないようにしなければと、心の中でお持っちいても言う事を聞いてくれません。
既に、私の体は私の精神の制御下にはないようです。
「………みゆ。」
「……????」
それは突然でした。
お姉さまの頭を撫でる事に歯止めが利かなくなっていた頃、お姉さまが言葉を発しました。
最初はお姉さまが起きてしまったのかと思っていましたが、そうではないようです。
寝息がまた聞こえてきたので、先ほどの寝言でしょう。
そう、そこまではいいのです。
ですが、お姉さまが発した二言に、私の思考は停止します。
先ほど動いていた手は止まり、完全に全身が硬直してしまいました。
「……誰かの……名前??ですか?」
『みゆ』と言う言葉に、私は心当たりがありません。
しかも、名前とするなら、その方は女の子でしょう。
男の子に『みゆ』と名付けるのは私の両親ぐらいでしょう。
私の名前ならまだ分かりますが、他者の名前でしかも私の知らない人間。
これは浮気でしょうか?
浮気ですよね??
いえ、何かの手違いかもしれません。
もしかしたら、言い間違えだったり、何か他の言葉の言い途中だったりするかもしれません。
お姉さまの事ですから、その可能性もあります。
だって、お姉さまが寝言で私以外の女性の名前を言うはずがないです!
そう、そうです!きっと言い間違いです!
私の思考が早とちりしただけに決まっています。
ですよね?お姉さま??
「…ん~。……ん~~?」
お姉さまの体が大きく揺れます。
寝息が止まり、眠気の残った言葉にならない声が聞こえてきます。
「おはようございます。」
「~~?」
寝起きで頭の回転がしっかりしていないようで、私をはっきりと認識できていないようです。
何度も顔を覗き込んで、眉間にしわを寄せています。
「お姉さま、まだ寝ていてもいいのですよ?休憩時間はまだ残っていますよ?」
「そう…なの。…なら………………???…リーナ?…どうして??」
頭が回るようになり、私がいる事に気が付いたようです。
寝起きのお姉さまは、うっとりとした目を浮かべていて可愛らしいです。
「意識がはっきりしてきましたか?」
「多少ははっきりしてきたけれど、どうしてあなたが?それにここはどこかしら?」
「ここは学園ですよ?それをお忘れですか?」
「どうして私は学園に……?」
「まだ寝ぼけているようですね。今日は学園最強決定戦の日ではありませんか。」
「……え…あ、そうだったわね。」
意識がはっきりしないのか、お姉さまは曖昧な返事をしています。
「私がお昼ご飯を渡してあげようと探していたら、お姉さまがここで睡眠をとられていたのですが、それもお忘れになったのですか?」
「私が?……記憶がはっきりしないわ。そうだった気もするし、違う気もするわ。」
「昨日は夜遅くまでトレーニングをして、朝は早朝から準備をしていらしたようですし、睡眠不足で意識が混濁しているのでしょう。」
「そう…かもしれないわ。…いえ、きっとそうなのでしょうね。」
本当に大丈夫でしょうか?
午前中では考えれない言動に、不信を感じてしまいます。
「本当に大丈夫ですか?トーナメント戦にはまだ時間もありますし、もう少し寝ておきますか?」
「それはいいわ。……??それよりも、どうしてあなたがそこにいるのかしら?」
「そことは?」
「言い方を変えましょう。どうしてあなたが膝枕をしているのかしら?私は一人で睡眠をとっていたのでしょう?なら、あなたが膝枕をしているのはおかしいと思うのよ。」
「全くもっておかしくありませんよ?ベンチで横になるよりも、私の太ももの方が気持ちよく寝れると思いまして、行動に移したまでです。証拠に、とても気持ちよさそうな顔をしていましたよ?」
私は、ほんの一部の事実だけを言いました。
怒られはしないでしょうが、全部話すと良い事はないと思いましたので。
「そこで行動に移すのはどうかと思うけれど、貴方がそう言うのであれば、気持ち良かったのでしょうね。……それで、他に何かしてないでしょうね?」
「し、してませんよ?」
「そろそろ嘘をつくのが下手なのを自覚した方がいいわよ。」
「ほ、本当ですよ!決していかがわしい事をしていません!ただ…」
「ただ??」
「少しだけ、頭を撫でただけです。」
「なんでそこで顔を赤く染めるのよ。」
仕方ないではないですか!?
頭をなでる行為は、いかがわしくはありませんが、他人に知られるのは羞恥心をそそられるのです!!
「……それ以外はしてないでしょうね?」
「それ以外は、していません。本当ですよ!!」
「……はぁ。分かったわ。」
お姉さまからの問い詰めは終わりました。
今回に限っては本当にいかがわしい事はしていないので信じてほしいです!
「…お昼ご飯を届けに来てくれたのよね?あなたの分もあるのかしら?」
「お姉さまが良ければ、お昼をご一緒できればと思いまして持ってきています。」
「なら、一緒に食べましょう。」
「いいのですか!?」
「なんでそんなに驚くのよ?」
「今日のお姉さまは一人でいたいようでしたので……」
「………。気分が変わったのよ。……それに、あなたといる方が普段通りにできそうだからね。」
お姉さまの言葉に、心臓が膨れ上がります!
鼓動の高鳴りが大きくなり、体温が上がっているのが感じます!
「私の楽園はここにあったのですね!!私の人生にもう悔いはありません!!はぁ~~////」
「ちょっと、リーナ、リーナ!?」
10分ほど、私は楽園を彷徨いました。
その後、お姉さまに意識を取れ戻され、昼食をともにしました。
その時には、午前中に抱いていたお姉さまへの不信は消えていました。
まるでいつも通りに戻ってしまわれたみたいでした。
そして、私の抱いていた気持ちも、いつも通りに戻ったように思えました。
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