見守る少女
学園最強決定戦は、午前中に参加者のほとんどに篩をかけて落とす。
といっても、8グループに分けて1人になるまで戦わせるだけのこと。
シンプルで最もわかりやすい決め方で、まずはそこを突破しなければならない。
8試合をそれぞれ終わると、午前中にトーナメントを作成して午後からトーナメント戦に入る。
トーナメントで3勝すれば晴れて学内1位という座に就くことができる。
この説明を聞いて、違和感を持つ人がいないかしら?
女学院であるにもかかわらず、女性に似つかない競技をするのかとかね?
この謎を紐解くにはこの学園の歴史を知らなければいけないわ。
白百合女学院が建てられたのはこの国がまだ戦争を続けていた300年ほど前と聞いているわ。
戦争といえば男性は徴兵制で借り出され、女性は産業において減った労働力の穴を埋めるために働かされるような日々だったそうよ。
男女で職業が完全に決められるような世界で、特別な人もいたと聞いているわ。
それは魔法による影響だと歴史書にも綴られているの。
魔法においては男女による差が現れることなく、魔法が得意なものは男と混ざって戦場に駆り出されていたと聞いているわ。
しかし、魔法が得意とはいえ、戦ったことがない女性が即戦力になるはずもなく、また、力で考えても男とは比べるものではなく、ほとんどの女性が使い物にならなかったそうよ。
だからこそ出来たのがこの女学院。
女性が即戦力として迎えるために、収監・調教して戦場で使い物にするために作られた育成機関。
この施設による効果は著しく高く、当時はこの施設から卒業した兵士は全てにおいて男性を上回っており、戦場には女性のいる割合が高かったと言い伝えられているわ。
この話を聞いて、このような歴史を辿ったのは乙女衣装によるものが大きいと私は考えているの。
魔法の訓練だけでなく、肉体強化の訓練も行われ、果てには自分だけの武器が手に入るのよ?
乙女衣装はそこらの武器と違い特別な力を有している分、訓練をしなくても徴兵制で集められた男程度なら簡単に処分できるもの。
乙女衣装とは武器というには似つかわしく、それ一つが戦車なのよ。
戦車を持たない国に戦車を持った国が勝てないように、乙女衣装を有していた国は簡単に戦勝国の一つとなったのよ。
しかし、私はある一点だけが分からなかったわ。
どうやってユグドラシルの根を出現させたのかという問題よ。
いえ、正しくはユグドラシルが出現していたから女学院を作ったのかしら?それとも女学院を立てた後にユグドラシルを出現させたのかしら?
この一点だけは私は知る術を持っていなかったけど、知る必要があったわ。
ともあれ、白百合女学院は兵士育成機関であった歴史背景が存在し、今もなおその面影が残っているの。
その面影の一つに学園最強決定戦が含まれているの。
これは、学園内で一番の兵士を目指すために生まれた競技で、当時はここで敗れた生徒はかなりひどい仕打ちを行われていたそうよ。
時代背景を考えれば、敗者は屍になるか生きた奴隷または家畜になりえた、勝者至上主義が根本にあったのだから仕方ないわよね。
と言っても、さすがに今の女学院にはそこまでのものはなくて、一部の娯楽程度になりえたのよね。
その中で、学園最強決定戦を娯楽としてみない生徒もいるわ。
今の白百合女学院に歴史背景を知って入学してくる人はほとんどいないし、兵士を育成する必要もないため表面上では少し特殊な女学院として知られているわ。
でもね、私のように兵士として訓練するよう親から命じられて、この女学院に入学する者は一定数いるわ。
公にしてはならないと言う暗黙のルールを守りながらも、後世に伝えられてきた家系が存在し、他国から白百合女学院に入学をするのは界隈では珍しくないの。
その生徒たちは学園最強決定戦での1位を目標にしているわ。
私はそこまで命じられていないから、参加する必要ではない。
けれど、学園最強決定戦での優勝は、生徒会長になると夢とリーナのためにも必要だと私は思っている。
だからこそ、今回はこの戦いに負けられないわ。
必ず勝者として立っていないといけないの。
「お姉さま、緊張しているのですか?」
「そんなことないわ。」
私がこんな事で緊張するはず無いわ。
だって、今までにいろんな大会に出てきたんですもの。
たかがこの学園程度の大会で私が負けるはずがない。
「ではどうして拳を握りしめているのですか?少し爪が食い込んでますよ?」
「え?……あぁ。」
気づかなかった。
私は爪が食い込むほど握り込んでいた。
「多分、あなたの前で戦うのが初めてだから、その事で緊張しているのかもね。」
「お姉さまは面白いですね。私の前で幾度も戦う姿を見せてくれただではありませんか。」
「それとこれとでは違うのよ。…なんだか気が抜けてきたわ。」
「それは、緊張がほぐれたと言う事ですか?なら、話しかけて正解でした!私、お姉さまのリラックス要員になれました!」
本当にこの子は面白いわね。
本当に、本当に……憎たらしいわ。
どうしてこんな子が…。
「お姉さま、呼ばれましたよ!」
「そう見たいね。行ってくるわ。」
この子に言われて、自分が呼ばれていたことに気がついた。
全く、つい考え込んでしまうと、周りの音が聞こえなくなるのは私の悪い癖ね。
「お姉さま!」
大きな声であの子が私を呼ぶ。
振り返ってみれば、私を心配そんな目で見てくる。
「気を抜きすぎて、負けないでくださいね!!」
私に向かって手を振っている。
本当にあの子は私をどこまで侮辱すれば良いのかしら。
この程度造作もないに決まっている。
だから私は、小さく手を振りかえした。
呼ばれた後、競技場の入場口に呼び出される。
そこには既に準備を終えた状態の参加生徒が集まっていた。
顔を伺うと、どの子も私同様に負ける気はないらしい。
『それでは、第3グループの試合を始めます。参加生徒は入場して下さい。その後、笛の合図と同時に勝負を始めてください。』
アナウンスが鳴ると、続々と生徒が入場していく。
私は、あえて1番最後に入場した。
だって、その方が強者の風格があるでしょう?
昔、あの子にそう言われたから、間違い無いわ。
みんなバラバラに散らばると、それを見越して笛が鳴る。
その時を待っていたかのように、散らばっていた生徒が一斉に魔法を放つ。
その標準の的にしていたのは、みんな私に向かってだった。
「やっぱり、先に集まって私を倒す算段を付けていたのね。でも、その程度でやられるほど弱くないわよ私わ。【空間干渉】、転送。」
私の言葉を合図に、私の周囲に飛んできた魔法が消える。
魔法だけでなく、地面、空気、風圧、ベクトル…全ての存在がまとめて消える。
「【死の薔薇】」
手をかざして、指を弾く。
その瞬間、生徒の首筋に薔薇が咲く。
薔薇は白くはかない百合のように咲き、赤く滲んでいく。
「忘れていたわ、やりすぎはダメなのよね。」
再度指を弾くと、薔薇の花は散っていく。
完全に散り終えると、生徒全員が倒れこんでいく。
「これで終わりね。救急班は後を任せるわね。」
私を踵を返して、退場していく。
そのすぐ横を救急班が走っていく。
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