プロローグ3
「じいさん。まあ、起こってしまったことは仕方ない……じいさんのミスで俺は死んでしまった訳だが、まあ許してあげなくもないよ」
俺は出来るだけ下手に神様に切り出した。
目的は新しい人生を楽しむ為のチート能力を手に入れる事だ。
「不幸な事故だったし、きちんとお詫びをしてくれるなら……お詫び?ほら小説やアニメでよくあるじゃん?こう異世界転移や転生してしまった時に、神様から貰えるやつが」
俺は出来るだけオブラートに包みながら、チート能力を要求してみる。
すると、神様が手に持っていた杖を俺の頭へと一閃する。
「馬鹿者が!何がオブラートに包みながらじゃ!欲望が駄々漏れしとるわ!」
神様は俺を一喝すると、呆れたような表情を俺に向ける。
「それに、転移者にもチート能力なぞ授けたことなぞないわ!……全く最近は変な漫画に影響されてか図々しい奴が増えて困るわい……」
交渉失敗怒らせてしまった……俺は少し考えると、違う方向からのアプローチを試みる。
「……さては、出来ないんだな?」
ぴくり。楽しようとするでなく地道に新しい生を全うせいと言い、去って行こうとしていた神様が反応する。
「すみません。神様だから出来るのかと思っちゃって……人の子に加護を与えるなんて……出来ないんですね?ぷぷぷ」
俺は馬鹿にしたように神様を挑発する。
「そんな挑発に神が乗るか!やっすい挑発しよって!」
再び神様が杖を俺の頭へと一閃する。
頭を抑えて呻く俺を一瞥して、神様はふぅーと深くため息を吐く。
「召喚が良く行われるのは、異世界人がチート持ちが多いからじゃ……じゃが、召喚が頻繁に行われ、この世界に多大な影響を与えているのも事実……」
「……よし、お前さんにわしの加護をやろう……」
神様はそう言うと、俺の額へと手を翳した。
「……よし。これでオッケーじゃ」
……特に変化は感じない。
しかし、神様が言うのだ何かチート能力を与えられているのだろう。俺は気になって聞いてみることにした。
「いったいどんな能力をくれたんだ?」
神にタメ口聞くなと、再び杖で頭をコツンとされたが、神様は特に隠すこともなく答えてくれた。
「まずは魔力じゃな。この世界は魔法が使える。じゃから、莫大な魔力と全属性を与えた。」
全属性魔法とか、かなりのチート能力だ。
神様がこんな凄いチートをくれるなんて意外だ。
「後は、わしとの通信機能を付けといた。いつでもわしと会話をするとこが出来る」
その機能は要らんな。のんびりと新しい人生を過ごしたい。
「まあ、加護をやる代償にお主から色々情報を仕入れさせてもらうってことじゃな。嫌なら加護はやれん」
ぐぬぬ。足元を見られた。正直、監視されてるようで嫌だが、加護は欲しい。
しかし、24時間じいさんに監視されるとなると、俺のプライバシーはないに等しい。
もしも、1人であんな事をしてる時や、女の子とあんな事をしてるのを、このじじいに覗かれてるかと思うと……
俺は頭の中で想像して嫌気に駆られてしまった。
「アホが!誰がそんなもん覗くか!それにじじいじゃと?少しは神を敬らんか!」
俺の頭の中を覗いていたじいさんが、とうとえキレた。
仮にも神がじじいのデバ亀扱いにされたのだ。流石にじいさんも怒りを堪えることが出来なかったようだ。
神だけあってこのじいさん弄られなれていない気がする。それはそうか神を弄る人間などいなかったのだろう。
というか、じいさんの反応は実に弄り甲斐を感じるものだった。
まるで、あの伝説のリアクション芸人のようだ。
「誰が◯川哲◯じゃ!」
俺の心を読んだ見事な突っ込みだが、端から見ると1人で叫び続けるヤバい人になりつつあるじいさんに憐れみを覚えて、俺は今日はこのくらいにしといてやろうと、反省を覚える。
「止めて!憐れみは止めて。それから今日はって……反省してないよね?全く!」
弄られ始めて僅か数分だというのに、流れるような見事な連続突っ込みを見せるじいさんに、神様のポテンシャルの高さをまざまざと見せつけられた俺は、じいさんに逆らう事の愚かさを痛感したのだった。
「何のポテンシャルじゃ!てか、わしに逆らうの諦めるのそこ?」
じいさんはまだ突っ込んでいたが、このままでは話が進まないので、俺はじいさんのお笑い根性にはしばらく見て見ぬ振りをすることとした。
「何がお笑い根性じゃ!お主がさすんじゃろ!」
「まあ、そういう事で加護をもらうのはオッケーだが、私生活を覗かれんのは勘弁だ」
じいさんの叫びはスルーして話を続ける。
「ふん。仕方なく貰ってくれてやるみたいな言い方しおって……わしだってお主の私生活なんぞ覗きたないわい!わしからお主に用事があれば連絡でき、お主がわしに質問があればわしに連絡を取れるでいいわい」
渋々といった感で、じいさんは言うが、何か企みがあるような気はするが、プライバシーを保護された状態でチート能力を貰えるというのは、俺にとっておいしい話だろう。
「わかった。何か用事があったら連絡をくれ」
言うことを聞く気はないが!と心の中で思いつつ俺はじいさんの案を了承したのだった。
「心の声聞こえとる!」
じいさんの叫び声は、虚しく空間に響いたのだった。