プロローグ2
「また坊っちゃんこんな所で……」
半ば呆れたような声に、俺は目を覚ます。
原っぱで昼寝をしていた所を、羊飼いのおっさんに見つかったらしい。
あの不思議な光に包まれた俺が目を覚ますと、赤ん坊に転生してしまっていた。
始めあたふたとした俺だったが、自由に動かせない身体にすぐに諦めの境地に至ると、新しい人生を楽しむ事にしようと考え、5年が過ぎて今日に至るという訳だ。
生まれ変わった俺は、田舎領主の三男坊で『孔秀・リングスタッド』と言う。
ゲームのアカ名と全く同じ名前である事と、家族の中で、俺の名前だけが漢字であるという事、東方の国の偉い旅人の坊さんが名前を付けてくれたという、胡散臭さしか感じない設定には、何か仕組まれている感じがしたが、考えてみても結局何も分からないで終わってしまうので、無駄な事だと考える事を止めた。
勇者ですとか、転生者なので変な使命を与えられるなどという事を考えると、特に意味など無い方が新しい人生を満喫する事が出来ると考えたからだ。
そんな風に俺の中で転生者である事は秘匿事項としてなかった事とし、新しい人生を楽しむ事に決めたのである。
「しかし、晴れた日には飽きもせずに、よくも毎日こんな所で毎日ゴロゴロ出来ますね?」
羊飼いのおっさんとは、ほぼ毎日出会う顔馴染みだ。
新しい世界を満喫すると決めた俺だったが、テレビや冷蔵庫などの家電などほとんどなく、一部を除いた文明のレベルが日本と比べると、遥かに低いこの世界では、ゲームなども全くなく、せっかく子供になったというのに楽しむ娯楽がほとんどなかった。
せっかく時間が山程あるぞネットゲームし放題だなどとはならず、遊ぶとなると、兄弟や町の子供達と鬼ごっこやかくれんぼ等の遊びになる。
前の人生の子供の頃は、俺も鬼ごっこやかくれんぼをして遊んだのだが、改めて子供に戻りやってみると、鬼ごっこは超ハードなスポーツだ。
なにせ、鬼も逃げる側も休む事なくひたすらに走り続けるのだ……
孔として初めて鬼ごっこをした時は、何の拷問かと思ったものだ。
こうして外遊びに挫折した俺は、この草原を発見して一日中ゴロゴロするという究極の娯楽を発見したのであった。
「草のいい匂いを嗅ぎながら、ダラダラと過ごす。最高の気分だよ」
俺はこの生活の素晴らしさを羊飼いのおっさんに教えたつもりだったが、おっさんには伝わらなかったようだ。
俺の事をダメ人間でも見るような冷たい視線で一瞥すると、肩を竦めて首を振ると羊を連れて丘へと去って行ってしまった。
最近、町で領主の三男はダメだと噂が流れているらしいが、それは多分羊飼いのおっさんが流していると俺は疑っている。
おかげで、今までは外出しても何も言われなかったのに、最近は外出を禁止されたり、孔秀も6歳になるし、そろそろ、学問や剣術の訓練も始めようかなどと、父さんが言い出し始めた。
今日も家族や、メイドの目を掻い潜って抜け出して来たのだった。
「そろそろ魔法の訓練をしとくか……」
この世界には日本と違い娯楽が少ない。
さすがの俺でも四六時中ゴロゴロするだけでは、すぐに飽きてしまう。
そんな俺がこの世界で夢中になっている遊びが、魔法である。
これが結構万能で便利。
色々挑戦する事が最高の暇つぶしとなるのだ。
魔法の練習を始めると、時が経つのを忘れ気が付くと日が暮れているというのが、俺の毎日の日課となっている。
ダラダラとしているだけの1日を過ごしていると、父さんは、「暇なら剣の訓練及び、学習を前倒しにしてもいいんじゃないかな?」と、俺に苦行をすぐに課そうとするが、魔法の練習をすると魔力が上がっていく為、父さんには分かるらしく、ダラダラしているのではなく魔法の練習をしているのなら、しばらくは好きな事をさせてあげてもいいか。と、今はまだある程度自由に生活させてくれるのだから、魔法の練習は良いことづくめなのだ。
「今日も魔法の練習かい?」
魔法の特訓を始め、しばらくすると特訓に集中してしまい辺りの事が目に入らなくなっていたらしい。
声を掛けられて俺は、ハッと声のした方を見ると、そこには2番目の兄である『ヴェルサス・ランスロッド』兄さんが俺の事を覗き込むように眺めていた。
「練習に集中するのはいいけど、周囲を警戒出来ないくらいにのめり込むようだと危険だよ。この辺りは魔物も出るし、人拐いなんかも気を付けないと」
少しお小言を頂いたが、ヴェル兄さんはとても優しく弟思いで、俺達はとても仲が良い。
「剣術の訓練はもう終わったのですか?」
ランスロッド家では6歳になると、剣術、勉学、魔法の教育が始まる。
貴族の義務らしく、王都の幼年学校に入るまでにランスロッド家の子弟として恥ずかしくないようにみっちりと鍛えられるのだ。