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プロローグ

「孔秀さん知ってる?このゲームのトップランカーが失踪してるらしいよ」



 いつものようにゲームをしていると、チャットが入った。

 相手はゲーム内でチームを組んでいるカインさんからだ。



「失踪?」



 物騒な話にすぐに返信を送る。

 カインさんはチーム内きっての情報通で、ゲームの攻略から他のサーバーのランキングまで精通していて、俺の登録しているサーバー内では情報屋のような存在となっている。

 困った時のカインとは、俺がカインさんの知識の有益さを表現して着けた異名だ。



「そうなんだよ。別鯖で聞いたんだけど、トップランカーだったこおりって奴のリアルの知り合いだって奴が、こおりが失踪したって大騒ぎでね。そしたら、別の奴も失踪してるって話が出て来て……」



 別鯖というのは、別のサーバーの事だ。ゲーム中毒者のカインさんのチャットはゲーマー用語も多い。



「気になって全鯖で聞いてきたんだ」



 俺は思わず飲んでいたコーヒーを口から吹き出しかけた。

 全鯖って……

 俺のやっているゲーム、サンヴィディー戦記は、多数の参加型戦争ゲームで、各プレーヤーが自身のロボットを育て、そのロボットで戦争に参戦するというアクションゲームだ。

 そのリアルなグラフィックと動きで大人気で、5万人以上がプレーしていて、サーバーの数は50を超える。



(各サーバーにアカウント持ってるんだ……)



 ゲーム廃人の恐ろしさを感じ、俺は身震いをした。

 いつ仕事してるんだろ?暇潰しで始めたゲームだが、コアなプレーヤーのゲームに費やす時間を見るにつけ、自分には無理だと引いてしまう。



「おーい?寝落ちか?」



 返信のない俺に寝てしまったのかとチャットが届く。



「ごめん。全鯖にアカがあるんかと驚いてた」



「あー。情報仕入れる為に一応作るんだ。常にやってる訳じゃない」



 流石に全てのサーバーでゲームをこなしている訳ではないらしいが、イベント情報や、トップランカーの情報など仕入れるにはあちこちにアカウントを作った状態でチェックするのが便利なんだとカインさんは言った。



「話戻すぞ」



「あ、うん。どうぞ」



 話が逸れたので、引き戻して話を続けようとする。カインさんは有益な情報を人に話したい癖がある。相手が自分の情報に興味がないことが許せないタイプだ。



「各鯖の知り合いに聞いて回ったんだが……各鯖のトップランカーが原因不明の引退をしているな」



 カインさんの話では、各鯖のトップランカーが原因不明の引退をしていっている。全員の確認が取れた訳ではないが、引退したトップランカーのリアルの友人が何名かいて、トップランカーが失踪したと騒いでいたらしい。



「引退したトップランカーの中には、赤い魔女とか白い龍王なんかも含まれてるらしい……」



 カインさんの言う赤い魔女、白い龍王はサンヴィディー戦記で最も有名なユーザーの異名だ。

 どのイベントでもクロスサーバー(全てのサーバー)でトップクラスに入り、7鯖の赤い魔女、3鯖の白い龍王はこのゲームをしていて知らない者はいない程である。

 特に赤い魔女は撃墜イベントで圧倒的なポイントを挙げ、このゲーム最強のユーザーと言われる程だ。



「そんな大物まで引退してるのか……」



「その二人は失踪と決まった訳じゃないがな」



 トップランカーの失踪騒ぎが事件性のあるものかは分からないが、思った以上多数のトップランカーが原因不明の引退をしてしまっている事実に俺は唖然としてしまう。



「事件なのかは分からないが気を付けないとな」



「いや、トップランカーでしょ?俺なんて縁のない話ですよ(笑)」



 カインさんの言葉に笑って答える。

 自慢じゃないが、ランキングトップなど俺には縁のない世界でしかない。



「まあ、そう自分を卑下にするなよ。トップランカーなんてどっかしらおかしいもんなんだから」



 カインさんはお前も良いとこ行ってると思うぜと慰めの言葉を吐いたが、精々がランキング100に入るかどうかの俺など、いい線等とは程遠い存在だ。



「まあ、孔秀さんでも今日のクイズイベントなら、まぐれでトップ取れるかもよ?」



 しれっと、まぐれを付けやがった……

 カインさんの言うクイズイベントとは、何故か月一で行われるゲームの事をクイズにしたイベントである。

 プレーヤーの能力は一切関係なく単純なクイズのみでポイントを競うので、カインさんの言うように上位に入る可能性はあるのだが、順位景品はショボい。



「俺、明日も早いんで、イベントして寝ますね」



 時計を見ると、すでに深夜1時を回っている。ブラックな零細企業勤めの朝は早いのだ……

 俺はカインさんに断りを入れると、チャットを切り、クイズイベントに取りかかった。



「ピコン」



 単調な機械音と共に83点と得点が表示される。

 いつも通り高くもなく、低くもない中途半端な点数だ。

 この点数だと80位くらいだろう。トップは満点を取る事もある。



「コングラッチレーション!rank1」



 大きな音楽が鳴り出し、画面に文字が表示される。



「rank1って、ランキング1位って事か!」



 この点数で1位はあり得ない。

 確認の為、ランキング表を見る。



 rank1孔秀 83点

 rank2大成 98点



 2位より1位の方が点数が低い……



「うわっ。これ多分バグだよ……」



 新イベント等、新しい機能を加えた時などに、このゲームではしばしばバグが起こる。

 取ったアイテムが消えたり、新マシーンが古いマシーンに戻ったり、こういったゲーム内のエラーをバグというのだが、これだけのバグは珍しい。



「これはメンテ入るな……」



 あまりに大きなバグが起こった時などはゲームが強制停止され、メンテナンス作業が行われる。

 などど思っていると、ゲーム画面にロゴが現れ、ゲームがスリープされ動かなくなる。



「やっぱり緊急メンテか」



 予想通りだと画面を消そうとすると、突然画面が強く光だす。



「……ナンだこれ」



 光は瞬く間に広がり、全身が光に包まれる。

 そして、俺の意識は遠のいていった……

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