S3-2
屋敷の一室でまどか達は、ジョーカーが用意したお茶を飲みながら、今後の潜伏先や移動経路、連絡手段など話し合った。話が纏まった頃、マイヤーが部屋に来た。
「まどか様、ジョーカーどの、よろしいですか?」
二人を連れマイヤーは、屋敷の厨房へ案内する。
「お二人に、料理人の指導を頂きたいのですが、よろしいですか?」
そう言った後、マイヤーはまどかの手を取った。
「まどか様、あなたは罪な方です!わたくし、あれから毎晩、モツ煮込みの夢を見ます。ご主人様にお出し出来ない故、お屋敷で作ることもございません。せめて、せめて使用人の賄い用に、あの料理をお教えください!」
懇願である。それからまどかは、羽釜を取り出し、米の炊き方からおにぎりの握り方、具に適した食材や、焼きおにぎりから茶漬けまでの流れ、味噌に似た調味料の応用の仕方など説明した。
ついでと言っては何だが、マヨネーズの作り方も。一度、余った魚で作ったツナマヨ風の評判が良かったのだ。料理人からの質問責めにあいながらも、まどかは手を休めず、答えるところは答え、他は、
「説明が難しいので、見て覚えてください。」
と言った。料理人達は自分の感じたコツなど、意見を出し合い、それにまどかが補足をしながら、指導は終了した。すぐさま羽釜と米の発注がかけられ、料理人達はまどかが作ったご飯とミソスープを口にし、頷きながらメモをとった。
「あ、あの、まどか様、モツ煮込みを……」
マイヤーの潤んだ目の訴えを見て、ミソスープの応用ということでモツ煮込みのレシピも指導した。内臓の下処理や、香味野菜の使い方など、一通り説明した。
あまり長時間、お屋敷に滞在する訳にもいかないので(それでもかなり居たけど……)ゴーン所有の倉庫へ向かうことにした。
数カ所の倉庫や別邸の中から、まどかが目を付けたのは一つの倉庫。交通の便がよく、裏には、今は使われていない小さな教会がある。
まどかは、倉庫の地下にある、縄や荷札などが置かれた物置部屋に下りる。壁を触っているまどかに、
「ここでは狭すぎやしませんか?」
とゴーンが尋ねるが、
「少し広くします。」
と土魔術を発動した。ゴゴゴゴゴ……という音を立て、物置部屋の壁に、人が通れるほどの穴が開く。荷札を整理された棚で、ちょうど隠せるほどの穴だ。
ゴーンが中を覗く。そこはただ穴を掘っただけではない、もはや一軒家と呼ぶべき内装だった。
「よし。帝都の地下秘密基地、完成!」
まどかがそう告げると、メグミやハンスは、自分の部屋へと入って行く。ジョーカーはキッチンの棚に、収納から食器を取り出し並べていく。まどかはそれぞれの部屋で、ウォーターベッドを作った。
「なんてこった……」
ゴーンはもう、驚くのはやめよう……と、半ば諦めた。まどかが入口の反対側から通路を掘ると、教会の祭壇に出た。
「うん。まあまあ計算通りかな。(憧れだったんだよねー地下の秘密基地って!ちょっとワクワクするよね。)」
通常の出入りは倉庫から、追っ手がかかった場合は教会から逃げる。一人でこっそりニヤニヤしながら、基地に戻った。
一応の拠点を得たまどか達は、ゴーンとビーンも含め、明日からの公爵の調査について話し合うのだった。