S2-4
ケーニッヒ邸応接室。
正面には卿が座り、膝の上には5歳くらいの少女がいた。金髪の巻き髪にふっくらとした面立ち、ピンクのドレスにはフリルがあしらってあり、無邪気とはこういうものだ!というお手本のような笑顔だ。卿も破顔しデレデレである。
「おぉ、まどか、よく来た。寛ぐが良い。」
これは、日をあらためた方が良いか?と思ったが、マイヤーが、
「こちらにおられる間は、ずっとこのご様子でございます。」
というので、簡単に今後の方針など報告した。
「うむ。あいわかった!そちらの二名も、しかとまどかに助力せよ!」
それからは孫の自慢話が延々続いた。名前はキャロル。それ以上の情報は、可愛い、目に入れても痛くない、とにかく可愛い……くらいしか無かったが……
しばらくすると、キャロルがまどかに質問をした。
「まどかは強いってお爺様から聞いたわ。ゴルメスより強いの?」
「ゴルメス?殿……でございますか?」
それにマイヤーが答える。
「ゴルメス殿は、当屋敷の近衛の隊長にございます。帝都到着の際、護衛に来ておりました者達の筆頭。お会いになられましたか?」
どうやら、あの鎧の偉そうなヤツらしい。ジョーカーの眼には、かなりの強者に見えたという。
「ジョーカーよ、お前はどう見る?」
卿の言葉に、ジョーカーは恭しく答える。
「恐れながらケーニッヒ卿、わたくしはまどかお嬢様の本気を 未だ見たことがございません。ゴルメス殿の纏われる闘気も、なかなかの強者にお見受け致します。わたくしには、測りかねますが……」
「ほう。お前でもわからぬか。どうじゃ、一度手合わせをせぬか?我も見てみたい!」
「お爺様、ゴルメスの方が強いに決まってますわ!キャロルはゴルメスより強い者など、見たことないもの。」
「キャロルはそう思うか!そうか!じゃが世界は広いぞ。強い者はたくさんおる。」
「ふーん……キャロルも見たい!」
こうして、まどかの模擬戦が決められた。屋敷の裏庭に、近衛兵の修練場がある。ゴルメスは兵達の指導をしていたが、卿の姿を見て、練兵を中断した。
「御用にございますか?」
「うむ。ゴルメス、調子はどうじゃ。」
「は!近衛たるもの、常に万全にございます!」
「そうか。では、この者と手合わせをせい。」
「かしこまりました。ご命令とあらば、このゴルメス、一手指南をいたします。」
「ほう。指南と申すか。だが、此奴も強いぞ。お前も本気でやるがよい。」
「恐れながら、私に敗北などごさいません!」
「キャロルもそう思います!ゴルメス、負けは許しませんよ!」
「姫、おまかせください!」
修練場は水を打ったように静かになる。
「なるほど。小娘と侮りはせぬ。かなりの力量と見た。だがご命令だ。本気でいかせてもらう。死んでも恨むなよ。」
「じゃあ私も。死なないでくださいね。」
「ナメた口を……格の違いを見せてやる!まいれ!」
まどかはリラックスした体勢で、修練場の中央へ出た。ゴルメスは剣を抜き、正眼に構える。近衛の兵士達は、久しぶりにゴルメスの本気が見れるとあって、固唾を飲み、瞬きもせず見つめている。
「小娘、腰の物を抜け。」
「私の武器は拳だ。このままでいい。」
ケーニッヒ卿が右手を上げた。